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Mission149
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数日後、マリカが学園から家に戻ると母親が出迎えた。
「マリカ、手紙が届いているわよ」
「えっ、誰からですか?」
手紙が届く心当たりがないマリカは、思わず声を出してしまう。
高級そうな紙の封筒に封蝋。それは間違いなく貴族から届いた手紙だった。
「手紙を届けてくれたのは近所の方だったけれど、その方も執事風の男性から受け取ったとしか言ってなかったのよね」
困ったように頬に手を当てる母親。そして、手を離すと手紙をマリカに手渡す。
「一応、マリカ宛だから渡しておくわね。これだけ立派な封筒ですから、高位の貴族からでしょう。騎士爵である私たちではおそれ多いわ」
どうやら母親は開けることを躊躇したようだった。基本的に宛名本人が開けるのがマナーなのだから、この反応は仕方がないだろう。
「分かりました。ありがとう、お母さん」
マリカは困惑した表情で手紙を受け取ると、自分の部屋へと向かっていった。
それからしばらくすると、外回りの仕事をしていたジャスミンが家に戻ってくる。
「ただいま戻りました。マスターは戻ってらっしゃいますかね」
「あら、ジャスミン。ええ、もう戻ってきているわよ。自分の部屋にいるはずだわ」
「ありがとうございます、母上様」
ジャスミンはぺこりと頭を下げると、マリカの部屋へと向かう。
「マスター、ジャスミンです。ただいま戻りました」
扉をノックして声を掛けるジャスミン。しかし、返事がないために、心配になったジャスミンは返事を待たずに中へと入っていく。
「失礼致します、マスター」
扉を開けたジャスミンが見たのは、手紙を手に震えるマリカの姿だった。
「じゃ、じゃ、ジャスミン……」
ジャスミンの声に震えながら振り向くマリカ。その表情は困惑しているのがよく分かるものだった。
「どうなされたのですか、マスター。しっかりして下さい」
慌てて駆け寄ったジャスミンは、マリカを抱きかかえる。それと同時に、マリカが持つ手紙が目に入る。
「これは……?」
手紙が気になったジャスミンは、マリカの手から手紙を取り上げるとじっくりと目を通す。
そこに書かれていたのは、マリカに対するお茶会への誘いだった。
「この名前は、交友関係にはない名前でいらっしますね」
自分の中にある情報と照らし合わせるジャスミン。手紙に書かれていた名前はその情報の中にはあるものの、マリカとは一度も接点を持った事のない令嬢の名前だった。
それが分かったジャスミンは、すぐさま一つの可能性にいきついた。
「マスター、この誘いは受ける必要はございません。嫌がらせを受けるのが関の山でございます」
「で、でも、ジャスミン……」
マリカはいまだに震えている。
それも無理がないというもの。騎士爵という家柄がために、形だけの貴族ということでお茶会といったものに縁がなかったからだ。
そんな自分に対して、突然送られてきたお茶会の誘い。急な事で困惑するというものである。
ところがだ。今まで散々ギルソンに付き添い、隣国マスカード帝国にまで出向いたマリカである。今さら何を言っているのだろうかというものだ。
その理由は、手紙の内容にあったのだ。
”マリカ・オリハーン一人でお越し下さいませ”
そう、手紙にはマリカだけで来いという指定がされていたからだ。文面通りに受け取れば、ジャスミンすらも連れていけないことになる。そのために、マリカは震えているというわけだった。
「マスター、何も怖がることはございません。私はオートマタでございます。つまりは従者である以上、マスターに何があっても付き添わねばなりません。明確に禁止されている学園ならまだしも、お茶会の場合は禁止事項ではございません」
「えっ、そうなの……?」
ジャスミンの言葉に思わず驚いてしまうマリカである。
「そうでございます。オートマタの情報が間違っている事がございますか?」
「それは……」
ジャスミンに強く言われて、マリカは考え込んでしまう。
「もし私を追い出すようであれば、先方がマナー違反でございます。断れないと仰るのでしたら、私が進んで矢面に立ちましょう」
ジャスミンの訴えに、ようやくマリカの体から震えが消えた。
「ありがとう、ジャスミン。初めての経験ですし、騎士爵令嬢である私が断れるわけもないでしょう。……望むところです」
すっかり吹っ切れた表情を見せるマリカである。
その表情を見て、ジャスミンもようやく落ち着きを取り戻したようだった。
「おそらくは、マスターがギルソン殿下たちと仲が良いことに嫉妬しての事だと思われます。いい機会です。誰を敵に回したかを、この者たちに存分に思い知らせてあげようではございませんか」
ジャスミンの言葉に、マリカは黙って大きく頷いた。そこには、さっきまで震えていた気弱なマリカの姿はもう存在していなかった。
お茶会の日程は次の学園のお休みの日。準備をするには十分な期間があった。
ジャスミンはけんかを売ってきた令嬢を返り討ちにするために、密かに策を練ることにしたのだった。
「マリカ、手紙が届いているわよ」
「えっ、誰からですか?」
手紙が届く心当たりがないマリカは、思わず声を出してしまう。
高級そうな紙の封筒に封蝋。それは間違いなく貴族から届いた手紙だった。
「手紙を届けてくれたのは近所の方だったけれど、その方も執事風の男性から受け取ったとしか言ってなかったのよね」
困ったように頬に手を当てる母親。そして、手を離すと手紙をマリカに手渡す。
「一応、マリカ宛だから渡しておくわね。これだけ立派な封筒ですから、高位の貴族からでしょう。騎士爵である私たちではおそれ多いわ」
どうやら母親は開けることを躊躇したようだった。基本的に宛名本人が開けるのがマナーなのだから、この反応は仕方がないだろう。
「分かりました。ありがとう、お母さん」
マリカは困惑した表情で手紙を受け取ると、自分の部屋へと向かっていった。
それからしばらくすると、外回りの仕事をしていたジャスミンが家に戻ってくる。
「ただいま戻りました。マスターは戻ってらっしゃいますかね」
「あら、ジャスミン。ええ、もう戻ってきているわよ。自分の部屋にいるはずだわ」
「ありがとうございます、母上様」
ジャスミンはぺこりと頭を下げると、マリカの部屋へと向かう。
「マスター、ジャスミンです。ただいま戻りました」
扉をノックして声を掛けるジャスミン。しかし、返事がないために、心配になったジャスミンは返事を待たずに中へと入っていく。
「失礼致します、マスター」
扉を開けたジャスミンが見たのは、手紙を手に震えるマリカの姿だった。
「じゃ、じゃ、ジャスミン……」
ジャスミンの声に震えながら振り向くマリカ。その表情は困惑しているのがよく分かるものだった。
「どうなされたのですか、マスター。しっかりして下さい」
慌てて駆け寄ったジャスミンは、マリカを抱きかかえる。それと同時に、マリカが持つ手紙が目に入る。
「これは……?」
手紙が気になったジャスミンは、マリカの手から手紙を取り上げるとじっくりと目を通す。
そこに書かれていたのは、マリカに対するお茶会への誘いだった。
「この名前は、交友関係にはない名前でいらっしますね」
自分の中にある情報と照らし合わせるジャスミン。手紙に書かれていた名前はその情報の中にはあるものの、マリカとは一度も接点を持った事のない令嬢の名前だった。
それが分かったジャスミンは、すぐさま一つの可能性にいきついた。
「マスター、この誘いは受ける必要はございません。嫌がらせを受けるのが関の山でございます」
「で、でも、ジャスミン……」
マリカはいまだに震えている。
それも無理がないというもの。騎士爵という家柄がために、形だけの貴族ということでお茶会といったものに縁がなかったからだ。
そんな自分に対して、突然送られてきたお茶会の誘い。急な事で困惑するというものである。
ところがだ。今まで散々ギルソンに付き添い、隣国マスカード帝国にまで出向いたマリカである。今さら何を言っているのだろうかというものだ。
その理由は、手紙の内容にあったのだ。
”マリカ・オリハーン一人でお越し下さいませ”
そう、手紙にはマリカだけで来いという指定がされていたからだ。文面通りに受け取れば、ジャスミンすらも連れていけないことになる。そのために、マリカは震えているというわけだった。
「マスター、何も怖がることはございません。私はオートマタでございます。つまりは従者である以上、マスターに何があっても付き添わねばなりません。明確に禁止されている学園ならまだしも、お茶会の場合は禁止事項ではございません」
「えっ、そうなの……?」
ジャスミンの言葉に思わず驚いてしまうマリカである。
「そうでございます。オートマタの情報が間違っている事がございますか?」
「それは……」
ジャスミンに強く言われて、マリカは考え込んでしまう。
「もし私を追い出すようであれば、先方がマナー違反でございます。断れないと仰るのでしたら、私が進んで矢面に立ちましょう」
ジャスミンの訴えに、ようやくマリカの体から震えが消えた。
「ありがとう、ジャスミン。初めての経験ですし、騎士爵令嬢である私が断れるわけもないでしょう。……望むところです」
すっかり吹っ切れた表情を見せるマリカである。
その表情を見て、ジャスミンもようやく落ち着きを取り戻したようだった。
「おそらくは、マスターがギルソン殿下たちと仲が良いことに嫉妬しての事だと思われます。いい機会です。誰を敵に回したかを、この者たちに存分に思い知らせてあげようではございませんか」
ジャスミンの言葉に、マリカは黙って大きく頷いた。そこには、さっきまで震えていた気弱なマリカの姿はもう存在していなかった。
お茶会の日程は次の学園のお休みの日。準備をするには十分な期間があった。
ジャスミンはけんかを売ってきた令嬢を返り討ちにするために、密かに策を練ることにしたのだった。
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