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Mission148
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アリスが大暴れして前世に書いた筋書きから大幅に変わってしまった小説の世界は、少々マリカが嫉妬に燃える令嬢に絡まれはしたが平和なものである。
今日も今日とて、ギルソンたちは平和に学園生活を送っており、毎日がとても充実しているようでである。
お昼時ともなれば、一年先輩となるイスヴァンもやってきて一層賑やかになっていた。
ファルーダン王国、マスカード帝国、それにソルティエ公国の三国のトップの子どもたちが一堂に会するという、実に奇跡的な光景が毎日のように展開されているのである。
ただ、その中には騎士爵というほぼ平民ともいえる立場にあるマリカが混ざっており、その事に対して悪態をつく者が少なからず存在していた。だが、マリカを邪険に扱った令嬢たちがギルソンから睨まれたという話が広まっており、遠巻きに文句を言うくらいしかできずにいた。
ちなみに、ファルーダンをここまで押し上げた原因の一つは、間違いなくマリカ・オリハーン騎士爵令嬢である。彼女の作るオートマタが原因なのだ。
我が子にいくらマリカの排除をお願いされても、マリカの功績を知っている大人たちは苦言を呈して黙らせるのが精一杯だったのである。
とまあ、本当にこんな感じで平和な日々が過ぎていく。
本来であれば、この入学時点から性格のすさんだギルソンがあれこれ問題を起こしているはずなのだが、しっかりと真っすぐ育ったギルソンに問題を起こすような気配はまったく感じられないのである。
一応念のため、学園の近くではマリカのオートマタであるジャスミンが控えている。
ジャスミンはアリスの娘である茉莉花の影響を受けている。そのために、母が書いた小説の内容はそれとなく覚えているのだ。
(お姉様がだいぶ物語を矯正していますので、それほど心配はないとは思いますが……。やはり気になってしまいますね)
小説の中では学園在学中のマリカが孤児院を手伝っていたという描写はないし、オートマタがいたような形跡はない。そのために、ジャスミンはほどほど孤児院を手伝いながら、多くはこうやって学園の内情を探っているのである。原作描写に無いのだから、自分が居なくても孤児院は回ると判断したのだ。
(それにしても、まだまだマスターの周りの空気はすっきりとはしませんね。ギルソン殿下からあれだけ脅しをかけられたというのに、まだ手を出そうとするのですか)
学園内の空気に警戒を強めるジャスミン。
小説では騎士爵令嬢ごときということでいじめにも近い劣悪な環境だったのだが、この改変された平和な状況下においても、マリカの境遇はそんなにいいものではなかった。
(女の嫉妬って怖いですね)
思わずため息をついてしまうジャスミンだった。
学園の中では、今日もギルソンたちは学業に励んでいた。
マリカは極力ギルソン、もしくはマリンと一緒に行動している。
なんといっても、令嬢たちからの視線が相変わらず厳しいのである。本当に嫉妬は怖いものだ。
マスカード帝国の皇帝とも顔を合わせたマリカですら、その嫉妬の視線には恐怖を感じるのである。
しかし、ギルソンの側にいると、不思議とその恐怖は和らぐものである。
長く一緒に行動しているせいか、まるで家族のような安心感があるのである。
(何でしょうか。マリン様の側も安心はしますが、ギルソン殿下の側だととても安心できてしまいますね)
ついギルソンをじっと見てしまうマリカ。
その視線に気が付いたギルソンが、ふとマリカに笑顔を向ける。
「どうしたんですか、マリカ。ボクの顔に何かついていますか?」
急に言葉をかけられて、マリカは慌てて顔を背けてしまう。
「あ、いえ。な、何でもありません。申し訳ございませんでした」
悪い事をしたわけではないのに、つい謝ってしまうマリカである。
「なぜ謝るのでしょうか。とにかく、学園の中では極力ボクから離れないで下さいね」
「は、はい……」
ギルソンの言葉に、顔を真っ赤にしながら返事をするマリカだった。
その様子を遠巻きに見つめている令嬢たちがいる。
先日、ギルソンから咎められた令嬢たちだった。どうやらまだマリカをギルソンから引き離そうと躍起になっているようである。
「きいい……。何なのよ、あの平民同然の小娘……」
かなり不機嫌な様子で叫んでいる。そのくらいにギルソンとマリカが一緒に居る姿を見ていられないようである。
「まったくです。騎士爵なんていうのは平民。殿下の隣はおろか、学園にいることすらも不釣り合いですわ」
「そうでございます。平民ごときが思い上がり過ぎなのですわ」
取り巻きの令嬢たちも便乗したようにマリカの悪口を話している。それにしても声がかなり大きい。
「しかし、あの小娘、殿下の側をこれでもかというくらい離れませんね。まったく、どうしたものでしょうか」
直接的に攻撃しようにも、あれ以来すっかりギルソンかマリンと行動するようになっており、なかなかその機会が訪れないのである。
「それでしたら、こうしてはいかがでしょうか」
取り巻きの一人が、なにやら耳打ちで令嬢たちに話し掛けてる。
「それはいいですわね」
その案に思わずニヤリと笑ってしまう令嬢である。
彼女たちは一体何をするつもりだというのだろうか。
マリカの周囲に不穏な空気が漂い始めた瞬間なのであった。
今日も今日とて、ギルソンたちは平和に学園生活を送っており、毎日がとても充実しているようでである。
お昼時ともなれば、一年先輩となるイスヴァンもやってきて一層賑やかになっていた。
ファルーダン王国、マスカード帝国、それにソルティエ公国の三国のトップの子どもたちが一堂に会するという、実に奇跡的な光景が毎日のように展開されているのである。
ただ、その中には騎士爵というほぼ平民ともいえる立場にあるマリカが混ざっており、その事に対して悪態をつく者が少なからず存在していた。だが、マリカを邪険に扱った令嬢たちがギルソンから睨まれたという話が広まっており、遠巻きに文句を言うくらいしかできずにいた。
ちなみに、ファルーダンをここまで押し上げた原因の一つは、間違いなくマリカ・オリハーン騎士爵令嬢である。彼女の作るオートマタが原因なのだ。
我が子にいくらマリカの排除をお願いされても、マリカの功績を知っている大人たちは苦言を呈して黙らせるのが精一杯だったのである。
とまあ、本当にこんな感じで平和な日々が過ぎていく。
本来であれば、この入学時点から性格のすさんだギルソンがあれこれ問題を起こしているはずなのだが、しっかりと真っすぐ育ったギルソンに問題を起こすような気配はまったく感じられないのである。
一応念のため、学園の近くではマリカのオートマタであるジャスミンが控えている。
ジャスミンはアリスの娘である茉莉花の影響を受けている。そのために、母が書いた小説の内容はそれとなく覚えているのだ。
(お姉様がだいぶ物語を矯正していますので、それほど心配はないとは思いますが……。やはり気になってしまいますね)
小説の中では学園在学中のマリカが孤児院を手伝っていたという描写はないし、オートマタがいたような形跡はない。そのために、ジャスミンはほどほど孤児院を手伝いながら、多くはこうやって学園の内情を探っているのである。原作描写に無いのだから、自分が居なくても孤児院は回ると判断したのだ。
(それにしても、まだまだマスターの周りの空気はすっきりとはしませんね。ギルソン殿下からあれだけ脅しをかけられたというのに、まだ手を出そうとするのですか)
学園内の空気に警戒を強めるジャスミン。
小説では騎士爵令嬢ごときということでいじめにも近い劣悪な環境だったのだが、この改変された平和な状況下においても、マリカの境遇はそんなにいいものではなかった。
(女の嫉妬って怖いですね)
思わずため息をついてしまうジャスミンだった。
学園の中では、今日もギルソンたちは学業に励んでいた。
マリカは極力ギルソン、もしくはマリンと一緒に行動している。
なんといっても、令嬢たちからの視線が相変わらず厳しいのである。本当に嫉妬は怖いものだ。
マスカード帝国の皇帝とも顔を合わせたマリカですら、その嫉妬の視線には恐怖を感じるのである。
しかし、ギルソンの側にいると、不思議とその恐怖は和らぐものである。
長く一緒に行動しているせいか、まるで家族のような安心感があるのである。
(何でしょうか。マリン様の側も安心はしますが、ギルソン殿下の側だととても安心できてしまいますね)
ついギルソンをじっと見てしまうマリカ。
その視線に気が付いたギルソンが、ふとマリカに笑顔を向ける。
「どうしたんですか、マリカ。ボクの顔に何かついていますか?」
急に言葉をかけられて、マリカは慌てて顔を背けてしまう。
「あ、いえ。な、何でもありません。申し訳ございませんでした」
悪い事をしたわけではないのに、つい謝ってしまうマリカである。
「なぜ謝るのでしょうか。とにかく、学園の中では極力ボクから離れないで下さいね」
「は、はい……」
ギルソンの言葉に、顔を真っ赤にしながら返事をするマリカだった。
その様子を遠巻きに見つめている令嬢たちがいる。
先日、ギルソンから咎められた令嬢たちだった。どうやらまだマリカをギルソンから引き離そうと躍起になっているようである。
「きいい……。何なのよ、あの平民同然の小娘……」
かなり不機嫌な様子で叫んでいる。そのくらいにギルソンとマリカが一緒に居る姿を見ていられないようである。
「まったくです。騎士爵なんていうのは平民。殿下の隣はおろか、学園にいることすらも不釣り合いですわ」
「そうでございます。平民ごときが思い上がり過ぎなのですわ」
取り巻きの令嬢たちも便乗したようにマリカの悪口を話している。それにしても声がかなり大きい。
「しかし、あの小娘、殿下の側をこれでもかというくらい離れませんね。まったく、どうしたものでしょうか」
直接的に攻撃しようにも、あれ以来すっかりギルソンかマリンと行動するようになっており、なかなかその機会が訪れないのである。
「それでしたら、こうしてはいかがでしょうか」
取り巻きの一人が、なにやら耳打ちで令嬢たちに話し掛けてる。
「それはいいですわね」
その案に思わずニヤリと笑ってしまう令嬢である。
彼女たちは一体何をするつもりだというのだろうか。
マリカの周囲に不穏な空気が漂い始めた瞬間なのであった。
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