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Mission146
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ギルソンが学園から戻って部屋で着替えていると、部屋にどたどたと足音を立てて近付いてくる人物がいた。
ギルソンの知り合いでそんな風に音を立てる人物など一人しか居なかった。
「イスヴァン殿下、どうなさったのですか」
そう、マスカード帝国の皇子であるイスヴァンだった。
そのイスヴァンではあるが、どういうわけかかなり血相を変えているようである。一体何がどうしたのだろうか。
「ギルソン、聞いたぞ。マリカに乱暴を働こうとしたやつがいるらしいな」
意外にも、マリカの事を聞いて走ってきたようだ。
「ええ、いたみたいですよ。ボクが姿を見せた時にはジャスミンが間に入って防いでいたみたいですけれど」
「なんて事だ。何をしでかしたのか分からせてやろうではないか」
イスヴァンはギルソンの姉であるリリアンと婚約者の関係にあるのだが、そういうことにお構いなしに怒りを露わにしている。
それというのも、ファルーダン王国とマスカード帝国内の関係強化に関して、マリカがかなり重要な役割を果たしているからだ。
だというのに、そんな功労者に対する一方的な感情による嫌がらせというのは、イスヴァンとしてとても許せるものではなかったのだ。だからこそ、これだけ怒っているというわけなのである。
もっと言ってしまえば、マリカへの嫌がらせはマスカード帝国をも敵に回す可能性があるというわけなのである。立派な国際問題なのだ。
「ギルソン、顔は覚えているか? そいつらに俺が直々に説教してくれる」
どうやらイスヴァンは本気のようだ。
「分かりました。ですが、ひとまず明日、マリカやジャスミンと会ってから結論を出しましょう。当人たちの気持ちを無視しては拗れる可能性もありますからね」
「むぅ……。ギルソンがそういうのなら、まあそうしようか」
意外と簡単にギルソンの提案に乗ってくれたために、この時はすんなりと引っ込むイスヴァンだった。
ただ、その時感じた怒りは本物なだけに、この問題は早期に解決しないといけないと感じたギルソンである。
翌日、学園の校門前でマリカとばったり出くわすギルソンたちである。申し合わせたわけではないのだが、どういうわけか登校時間がかち合うのである。
「お、おはようございます、ギルソン殿下」
学園まで徒歩でやってきたマリカは、ギルソンにしっかりと挨拶をする。騎士爵の娘とはいってもギルソンとそれなりに付き合いがあるために、しっかりとした所作が身に付いていた。
「おはよう、マリカ。今日の調子はどうだい?」
「はい。おかげさまで今日も元気です」
ギルソンの問い掛けににこりと笑うマリカではあるが、ギルソンはその表情に違和感を感じ取っていた。
「やあ、マリカ」
その後ろから、イスヴァンが姿を見せる。すると、慌てたようにマリカは再びカーテシーを行う。
「ギルソンから聞いたよ。昨日は大変だったようだな」
「い、いえ。そんな事は……」
イスヴァンに言われて、どういうわけか視線を外すマリカである。
「マスター、はっきり言われたらどうなのですか。昨日の事はショックだったと」
「ちょっと、ジャスミン!」
はっきり言われてジャスミンをぽかぽかと叩くマリカである。可愛い反応ではあるものの、状況的には笑えるものではなかった。
「ギルソンが出てきたらあっさり引いたらしいな。その分だとギルソンと仲がいいことへの嫉妬といったところだろうな」
なかなかに鋭いイスヴァンである。
これでも小説だと暴君として君臨するイスヴァンだし、この世界でもかなり俺様主義なところがあったはずなのだか……。
ギルソンたちとの付き合いの中で、ずいぶんと変わったものである。
「マリカ、遠慮はしなくてもよい。そやつらのしている事は国際問題なのだ。俺のマスカード帝国といい、ソルティエ公国とも友好関係を結ぶに至った功労者であるマリカへの暴挙、許せるわけがないであろう? なあ、ギルソン」
ギルソンへと振り返るイスヴァン。その目は恐ろしいまでに据わっている。その姿に思わず恐怖を感じるアリスとジャスミンである。
「というわけなんだ。マリカ、このままではイスヴァンが暴れかねないから、彼の気が済むようにしてやってくれないだろうかな」
さすがのギルソンも困惑した表情である。
結局はマリカも押し切られる形で、ギルソンとイスヴァンを教室へと案内する。
マリカとギルソンが昨日の子女を見つけて、イスヴァンを案内する。その姿を見た子女は、思わず表情を引きつらせてしまう。イスヴァンがあまりにも怖かったからだ。
「やあ、昨日はマリカに因縁をつけてくれたそうだな」
「な、何の事でしょうか?」
イスヴァンの言葉にとぼける子女。この状態にイスヴァンにそんな態度は逆効果である。
「マリカに対する嫌がらせは、国際問題になる。マスカード帝国を敵に回す気があるなら、今後も続けるといい。はたしてお前らにそんな度胸はあるかな?」
「ひぃっ!!」
マリカに因縁を吹っかけた子女たちが震え上がるのを見て、イスヴァンは少し気が晴れたようである。
「そういうわけだ。マスカード帝国との縁があるのも、そこの二人のおかげだということをしっかり覚えておくんだな」
そう言い残して、笑いながら教室を出ていくイスヴァンであった。
イスヴァンが出ていった教室の中は、実に嵐が去った後のように静まり返っていたのである。
ギルソンの知り合いでそんな風に音を立てる人物など一人しか居なかった。
「イスヴァン殿下、どうなさったのですか」
そう、マスカード帝国の皇子であるイスヴァンだった。
そのイスヴァンではあるが、どういうわけかかなり血相を変えているようである。一体何がどうしたのだろうか。
「ギルソン、聞いたぞ。マリカに乱暴を働こうとしたやつがいるらしいな」
意外にも、マリカの事を聞いて走ってきたようだ。
「ええ、いたみたいですよ。ボクが姿を見せた時にはジャスミンが間に入って防いでいたみたいですけれど」
「なんて事だ。何をしでかしたのか分からせてやろうではないか」
イスヴァンはギルソンの姉であるリリアンと婚約者の関係にあるのだが、そういうことにお構いなしに怒りを露わにしている。
それというのも、ファルーダン王国とマスカード帝国内の関係強化に関して、マリカがかなり重要な役割を果たしているからだ。
だというのに、そんな功労者に対する一方的な感情による嫌がらせというのは、イスヴァンとしてとても許せるものではなかったのだ。だからこそ、これだけ怒っているというわけなのである。
もっと言ってしまえば、マリカへの嫌がらせはマスカード帝国をも敵に回す可能性があるというわけなのである。立派な国際問題なのだ。
「ギルソン、顔は覚えているか? そいつらに俺が直々に説教してくれる」
どうやらイスヴァンは本気のようだ。
「分かりました。ですが、ひとまず明日、マリカやジャスミンと会ってから結論を出しましょう。当人たちの気持ちを無視しては拗れる可能性もありますからね」
「むぅ……。ギルソンがそういうのなら、まあそうしようか」
意外と簡単にギルソンの提案に乗ってくれたために、この時はすんなりと引っ込むイスヴァンだった。
ただ、その時感じた怒りは本物なだけに、この問題は早期に解決しないといけないと感じたギルソンである。
翌日、学園の校門前でマリカとばったり出くわすギルソンたちである。申し合わせたわけではないのだが、どういうわけか登校時間がかち合うのである。
「お、おはようございます、ギルソン殿下」
学園まで徒歩でやってきたマリカは、ギルソンにしっかりと挨拶をする。騎士爵の娘とはいってもギルソンとそれなりに付き合いがあるために、しっかりとした所作が身に付いていた。
「おはよう、マリカ。今日の調子はどうだい?」
「はい。おかげさまで今日も元気です」
ギルソンの問い掛けににこりと笑うマリカではあるが、ギルソンはその表情に違和感を感じ取っていた。
「やあ、マリカ」
その後ろから、イスヴァンが姿を見せる。すると、慌てたようにマリカは再びカーテシーを行う。
「ギルソンから聞いたよ。昨日は大変だったようだな」
「い、いえ。そんな事は……」
イスヴァンに言われて、どういうわけか視線を外すマリカである。
「マスター、はっきり言われたらどうなのですか。昨日の事はショックだったと」
「ちょっと、ジャスミン!」
はっきり言われてジャスミンをぽかぽかと叩くマリカである。可愛い反応ではあるものの、状況的には笑えるものではなかった。
「ギルソンが出てきたらあっさり引いたらしいな。その分だとギルソンと仲がいいことへの嫉妬といったところだろうな」
なかなかに鋭いイスヴァンである。
これでも小説だと暴君として君臨するイスヴァンだし、この世界でもかなり俺様主義なところがあったはずなのだか……。
ギルソンたちとの付き合いの中で、ずいぶんと変わったものである。
「マリカ、遠慮はしなくてもよい。そやつらのしている事は国際問題なのだ。俺のマスカード帝国といい、ソルティエ公国とも友好関係を結ぶに至った功労者であるマリカへの暴挙、許せるわけがないであろう? なあ、ギルソン」
ギルソンへと振り返るイスヴァン。その目は恐ろしいまでに据わっている。その姿に思わず恐怖を感じるアリスとジャスミンである。
「というわけなんだ。マリカ、このままではイスヴァンが暴れかねないから、彼の気が済むようにしてやってくれないだろうかな」
さすがのギルソンも困惑した表情である。
結局はマリカも押し切られる形で、ギルソンとイスヴァンを教室へと案内する。
マリカとギルソンが昨日の子女を見つけて、イスヴァンを案内する。その姿を見た子女は、思わず表情を引きつらせてしまう。イスヴァンがあまりにも怖かったからだ。
「やあ、昨日はマリカに因縁をつけてくれたそうだな」
「な、何の事でしょうか?」
イスヴァンの言葉にとぼける子女。この状態にイスヴァンにそんな態度は逆効果である。
「マリカに対する嫌がらせは、国際問題になる。マスカード帝国を敵に回す気があるなら、今後も続けるといい。はたしてお前らにそんな度胸はあるかな?」
「ひぃっ!!」
マリカに因縁を吹っかけた子女たちが震え上がるのを見て、イスヴァンは少し気が晴れたようである。
「そういうわけだ。マスカード帝国との縁があるのも、そこの二人のおかげだということをしっかり覚えておくんだな」
そう言い残して、笑いながら教室を出ていくイスヴァンであった。
イスヴァンが出ていった教室の中は、実に嵐が去った後のように静まり返っていたのである。
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