転生オートマタ

未羊

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Mission145

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 アリスが作った人工ダイヤモンドによる実験は、ギルソンとアワードの部屋、それと王都と鉱山の街ツェンの間の駅でまずは実験を行うことになった。
 ダイヤモンド1個でどれだけの魔法を込める事ができるのか。込めた魔力はどれだけもつのか。そして、ダイヤモンドは再利用できるのか。この3点を調べることになる。
 夜間の照明を見越してだが、とりあえず常時点灯にして持続時間を調べる。
 だが、常に部屋にいるわけではないので、知らない間に照明が消える可能性があるかも知れない。いろいろと調査方法に問題点はあるかも知れないが、実験開始である。
 実験はアリスたちに任せて、ギルソンたちは今日も学園生活を送っている。
 本来の小説の中であれば周りに対してものすごい殺気を放って人を寄せ付けないギルソンなのだが、アリスの介入で状況が変化した現在はかなりの人数が自然と集まってくるような状況になっていた。
 将来有望株な王子に媚びようとする人間が大半ではあるものの、彼らに対してギルソンは的確に対応していた。
「まったくもう、払っても払ってもどんどんと近付いてきますね。何もしていないのに疲れてしまいます」
「殿下は本当に人気者ですね。幼い頃からの協力者という立場がなければ、今頃私はどうなっていたでしょうかね」
 飲み物を用意しているマリカが、苦笑いを浮かべながら困ったように悩みを漏らしている。
「まったくですね。アリスが急に思いついた鉄道事業も、マリカが頑張ってくれたおかげで軌道に乗っていますからね。オートマタ職人としての適性があるのは、意外でしたね」
「私もそう思います」
 本当に二人の間には、和やかな空気が流れている。その姿を見ている周りの評価は、大体ほぼ真っ二つである。お似合いだという評価と、なんだあの女という評価である。
 あの女という評価もまあ理解できなくはない。学園に通う子女のほとんどは貴族である。
 そんな中、マリカの家は騎士爵というほぼ平民に近い立場の貴族なのだ。つまり、平民ごときがどうして王子とイチャイチャしているんだとひがんでいるというわけである。
 ちなみにだが、お似合いだと評価している面々は、マリカの実績をそれなりとなく聞かされている子女たちである。国家事業にあれほどの貢献をしているのなら、それは認めざるを得ないという話なのだ。
 つまり、貴族子女たちの反応の差は、彼らの有する情報の差がそのまま現れているのである。
「……マリカ、この状況ではあまり離れない方がいいですよ。ボクの側を離れるのであれば、マリンと一緒に居るようにしていて下さい。マリンに何かあれば国際問題ですから」
「お気遣いありがとうございます。そうさせて頂きます」
 ギルソンの気遣いに、照れ顔になるマリカであった。

 その後、マリカはほとんどギルソンかマリンと一緒に居たのだが、午後のある時、つい一人になってしまう。
 それは、お手洗いに向かった時だった。つい何気なしに一人になってしまったのである。
 教室へと戻る最中のこと、マリカは数人の女子に囲まれてしまった。
「ちょっとあなた、お話いいかしら」
 偉そうな女子がマリカに絡んでくる。その周りには取り巻きと思しき女子が四人ほど立っていた。
「私にはお話することはございません。急いでいるので失礼します」
 きっぱりと断って進もうとするマリカだったが、取り巻きの女子たちが回り込んできて逃げられない。
 この状況には、さすがのマリカも険しい表情をしている。
「まったく、ギルソン殿下をどうやって手籠めにしたのやら。その魔性の皮を引っぺがしてやりますわ。やっておしまいなさい」
 名乗りもしない女子の言葉で、取り巻きたちが一気にマリカに襲い掛かる。
 ところが、マリカに掴みかかろうとした女子たちは、見えない何かに阻まれて弾き飛ばされてしまっていた。
「な、なんなのですか!」
 不可思議な現象に、つい叫んでしまう女子。
 そこへコツコツという足音が近付いてきていた。
 何とも言い切れない恐怖に、くるりと女子が振り返る。そこには、メイド姿の女性が立っていた。
「いけませんね。寄ってたかって一人をいじめようとするなんて……」
「ジャスミン、どうしてここに?」
 ぎろりと睨むメイドに対して、マリカが叫ぶ。
 そう、そこに立っていたのはマリカのオートマタであるジャスミンだった。
「メイドということは、あなた、オートマタですのね。オートマタが人間に危害を加えてたら、どうなるか分かっていますの?」
「ええ、もちろんでございますよ」
 女子の言葉にすんなりと答えるジャスミン。
「だったら……」
 女子が言葉を続けようとした時、ジャスミンはさらに睨みを利かせる。
「ですが、自分の主に危険が及んでいる場合は、それが及ぶところではございません。それから、後ろをご覧になるとよろしいですよ」
「後ろ……?」
 女子がおそるおそる振り返ると、そこに待ち受けていた光景に震え上がってしまう。
「ぎ、ギルソン殿下?」
 そう、ギルソンが凄まじい形相で立っていたのだ。
「帰りが遅いと思ったら、これは一体どういう事なのかな?」
「あ、いえ……」
 口ごもる女子。ギルソンの前では強く出られないようだ。
「マリカはボクの大事なパートナーなんだ。彼女に何かしてみろ、ただでは済まされなくなるよ」
「うう……。も、申し訳ございませんでしたわ」
 ギルソンから脅しをかけられて、女子たちは大慌てでその場を立ち去ったのだった。
「大丈夫かい、マリカ」
「は、はい。ジャスミンも駆けつけてくれましたし、平気です」
 ギルソンの問い掛けに答えるマリカの顔は、目も合わせられないくらい真っ赤に染まっていた。
 そんなマリカの様子を不思議に思いながらも、ギルソンたちはジャスミンと別れて教室へと戻っていったのだった。
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