転生オートマタ

未羊

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Mission144

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 ようやくギルソンたちが帰ってきたので、人工ダイヤモンドを使った魔法の実験を行うことにする。
 とはいっても、この世界で魔法が使えるのはオートマタたちだけだ。ギルソンたちと行う相談は、もちろんどのようなものが必要かという、実験の方向性を問うものなのである。
 なんでも魔法で解決が図れるオートマタと違って、人間たちは自分たちの能力だけで事を成さねばならない。それゆえにどんな悩みがあるかというのは、実験を行う上で重要なのである。
「ただいま戻りました。なんでしょうか話というのは」
 ギルソンはにこやかな表情を浮かべながら、アリスへと質問を投げかける。それに対して、アリスは正直に答える。
「なるほど……。ボクが与えられた課題への答えとして、次の段階に進みたいというわけですね」
 さすがは頭の観点の良いギルソンだ。少し話をしただけで完璧に理解してくれる。これが元の小説では中ボス設定だったのだから、恐ろしい話だ。
 ギルソンは部屋の中に置かれたダイヤモンドの入った木箱を見る。その中身を見て、思わず顔をしかめてしまうギルソンだ。
「ちょっと、これは多すぎませんかね……。アリス、頑張り過ぎなのでは?」
「マイマスターのためでしたら、このくらい惜しくありません」
 ギルソンの言葉に淡々と返すアリスである。
 アリスの言葉に苦笑いを浮かべたギルソンは、再び大量のダイヤモンドへと目を移す。これらを使ってどうするのか、ギルソンは必死に考え始めたのだ。
 これらのダイヤモンドを使うのはいいが、その目的は魔法石の代替。魔法石を使うということは、魔法が必要である。つまりは、オートマタが存在しているというのが前提となる。
 ダイヤモンドを魔法石の代替としても、オートマタがいない環境では役に立たないというのが、最大の問題点なのだ。
「魔法石代わりといっても、やはりオートマタが居ないといけないですからね。となると、オートマタが常に存在している場所で使うのが一番でしょうね」
 ダイヤモンドを手に取りながら、ギルソンはそのように話している。するするとアイディアが出てくるあたり、やはりギルソンはただ者ではないのである。
「となると、どのような場所での利用となりましょうか」
「一つはそうだね。仕える主の個室でしょうかね。寝るまではそばにいることが多いのですから、照明の管理はオートマタの仕事になっていますから」
 アリスが問い掛けると、すぐに答えが返ってくる。これにはアワードとフェールも驚いていた。
「それと、オートマタが常駐している場所といえば、駅でしょうかね」
「なるほど、それは思いつきませんでしたね」
 ギルソンから次々アイディアが出てくるものだから、アリスは正直驚いていた。本当に頭の回転がいいのである。
 こんな人物を殺される展開にした担当に、今さらながらにふつふつとした感情が湧いてくるアリスである。
「……アリス?」
 その感情を読み取られたのか、ギルソンに顔を覗き込まれるアリス。それに気が付いて、はっと我に返っていた。
「失礼致しました、マイマスター。あまりにマイマスターが聡明ゆえに、感服してしまいました」
 正直に話すアリスに、ついおかしくて笑ってしまうギルソンだった。
「まったく、アリスは面白いことを言いますね」
「いえ、私は正直に申し上げた次第でございます」
 まるで漫才のようなやり取りである。これがお互いの信頼が厚い者同士の会話なのだろう。
「ひとまず、ダイヤモンドによる魔法の実験は、部屋の明かり取りで行うという話でいいのかな」
「今の流れだとそういう感じございますね」
 アワードとフェールが顔を見合わせている。
「ええ、それで間違いありませんよ」
 ギルソンはにこりと微笑んでいる。そして、アリスへと再び視線を向ける。
「ダイヤモンドを各駅に分配して下さい。一度魔法を込めればどのくらいの時間使えるのか。そして、魔力が尽きても再利用できるのか。その2点をチェックするように伝えて下さい」
「承知致しました。では、早速行ってまいりましょうか?」
「ええ、こういう事は少しでも早い方がいいですからね」
「畏まりました」
 アリスは返事をすると、ダイヤモンドの木箱を抱えて出ていこうとする。だが、ギルソンが思い出したかのようにアリスを止める。
「ああ、そうだ。僕とアワード兄様の照明用に10個ほど置いていって下さいませんか」
 ギルソンが呼び止めると、アリスは言われた通りの数のダイヤモンドを手渡していく。
「それでは行ってまいります」
 それが終わると、改めて駅にダイヤモンドを配置するために出かけていったのだった。
 ギルソンは笑顔でアリスを見送ると、アワードたちへと視線を向ける。
「さて、ここからが本番ですね。これで魔法石の消費が抑えられれば、一歩前進といったところですよ」
 この時の笑顔に、アワードとフェールはちょっとした恐怖を感じてしまった。
 はてさて、いよいよダイヤモンドを使った実用化実験が始まったのだが、思うような結果が得られるのだろうか。緊張の日々が始まったのである。
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