転生オートマタ

未羊

文字の大きさ
上 下
144 / 189

Mission143

しおりを挟む
 一方のアリスの方は、淡々と仕事を終わらせた後にダイヤモンドの合成に勤しんでいた。
 魔法石を使わない道具の開発の上で必要不可欠だからだ。
 たとえ小指の爪ほどの大きさでもかなりの量の炭を必要とはするけれど、話を聞いた人たちから炭の寄進が続いているので、材料自体はとりあえず困らないようだった。
 今まで炭といったら砕いて地面に埋めるくらいの処理しかなかったからだ。
 厄介者と思われた炭がまさかのものに変わると聞けば、そりゃまあ喜んで寄進してくれるというものなのだった。
(大きさがあまり大きくできませんから、魔法を込めたとしてどのくらい連続で稼働できるのか、いい加減に実験を始めないといけませんね。ジャスミンかフェールにでも手伝ってもらいましょうかね)
 部屋の片隅に保管されたダイヤモンドの山。
 いくら魔法によって作られた人工ダイヤモンドとはいえ、アクセサリー用の宝石として十分である。そのために、アリスは厳重に保管をしていた。
(金庫に入れて何重にも結界魔法をかけてあるので大丈夫だとは思いますが、狙われませんよね?)
 ちょっと不安になるアリス。
 だが、この世界で魔法を使えるのはオートマタのみ。そして、オートマタは倫理観がしっかりしているので、盗みのような犯罪に手を貸す事はごくごくまれである。
 とはいえ、絶対大丈夫とは言えないのが実情だ。安心はできない。
(早めに魔法石の代用ができるのか実験しませんとね)
 アリスはダイヤモンドの入った金庫をしまうと、ギルソンの部屋へと戻っていった。

 お昼を回って今までと大きさを合わせたダイヤモンドを完成させたアリスは、ギルソンが学園から帰ってくるまでの間、アワードのオートマタであるフェールのもとを訪れていた。
 その理由はダイヤモンドにこめられる魔法の実験をするためだった。
 どんな魔法を込められて、どれだけの時間継続できるのか。それを確かめるためである。
「フェールさん、ちょっとよろしいでしょうか」
「どうしたんですか、アリス」
 アワードの帰りを待ちながら部屋で掃除をしていたフェールが、突然のアリスの来訪に驚いている。
「ええ、ちょっとこのダイヤモンドで実験したい事があるのです」
「まあ、最近噂になっている宝石ですね」
「ああ、やっぱり噂になっていますか……」
 フェールの反応に、つい困った顔をしながらため息をついてしまうアリスである。
「国王陛下と王妃殿下に献上された事が広まっていますからね。アリスが炭から魔力を込めて作り上げた事も、どうやら広まってしまっているようですよ」
 状況をすべて説明してくれるフェール。
 口止めもした覚えがないので、文句の言えないアリスなのである。
「炭が大量に城に持ち込まれるのはそのせいなんですね。助かるには助かりますけれど、必要とされている方には申し訳ございませんね」
「炭はあまり利用されていないから、きっと大丈夫だと思いますよ」
 頭を抱えるアリスに対して、真面目に話をしてくるフェール。よくも悪くもオートマタという反応だった。
「それよりも、実験とは一体何をなさるおつもりなのですか」
 フェールが話を切り替えて、先程のアリスの発言内容に質問をしてきた。
「このダイヤモンドに魔法を込めて、一体どのくらいその魔法を発動していられるかというものです」
「アリスが自分でやるのではないのですか?」
 アリスの説明に、もっともな言葉を返すフェールである。
「ダイヤモンドを作るのに魔力を消耗し過ぎてます。ですので、私がやれば最悪私の魔力が尽きてしまう可能性があるのですよ」
「日を改めて……というわけにはいかないようですね」
「ええ、たくさん炭が集められてきてますから、保存場所にも困るので作ってしまうしかないのですよ……」
 現状を思い出したありすとフェールは、そろって長い溜息をついている。
 なんといっても、木箱がいくつも満杯になるほどの炭が運ばれてきているのだ。使わないことにはこのままでは城の一室が炭に埋め尽くされてしまうのである。
「マイマスターたちが戻られたら、止めるように国王陛下に求めるしかありませんね」
「それがよろしいかと思いますよ。物事には限度というものが必ず存在しておりますからね」
 話をしながら、同じ認識を持つアリスたちだった。

 こうして、魔法石の代わりを見つけるという課題は、いよいよ次の段階へと進むことになりそうだった。
 アリスは溜め込んだ人工ダイヤモンドを、炭の集められた部屋からギルソンの私室へと移動させる。なんといっても話の主役なのだから、ないことには話が始められない。
 それにしても、ダイヤモンドの入った箱はずしっとして重い。相当数を作ったということがよく分かる。
(さて、どのような実験を致しましょうかね。とりあえずは冷蔵、冷凍を行うための魔法からといったところでしょうかね)
 どういった内容の話をするのか考えながら、アリスはギルソンたちが学園から帰ってくるのをフェールとともにじっと待つのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

親切なミザリー

みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。 ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。 ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。 こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。 ‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。 ※不定期更新です。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

王太子妃が我慢しなさい ~姉妹差別を受けていた姉がもっとひどい兄弟差別を受けていた王太子に嫁ぎました~

玄未マオ
ファンタジー
メディア王家に伝わる古い呪いで第一王子は家族からも畏怖されていた。 その王子の元に姉妹差別を受けていたメルが嫁ぐことになるが、その事情とは? ヒロインは姉妹差別され育っていますが、言いたいことはきっちりいう子です。

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

処理中です...