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Mission143
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一方のアリスの方は、淡々と仕事を終わらせた後にダイヤモンドの合成に勤しんでいた。
魔法石を使わない道具の開発の上で必要不可欠だからだ。
たとえ小指の爪ほどの大きさでもかなりの量の炭を必要とはするけれど、話を聞いた人たちから炭の寄進が続いているので、材料自体はとりあえず困らないようだった。
今まで炭といったら砕いて地面に埋めるくらいの処理しかなかったからだ。
厄介者と思われた炭がまさかのものに変わると聞けば、そりゃまあ喜んで寄進してくれるというものなのだった。
(大きさがあまり大きくできませんから、魔法を込めたとしてどのくらい連続で稼働できるのか、いい加減に実験を始めないといけませんね。ジャスミンかフェールにでも手伝ってもらいましょうかね)
部屋の片隅に保管されたダイヤモンドの山。
いくら魔法によって作られた人工ダイヤモンドとはいえ、アクセサリー用の宝石として十分である。そのために、アリスは厳重に保管をしていた。
(金庫に入れて何重にも結界魔法をかけてあるので大丈夫だとは思いますが、狙われませんよね?)
ちょっと不安になるアリス。
だが、この世界で魔法を使えるのはオートマタのみ。そして、オートマタは倫理観がしっかりしているので、盗みのような犯罪に手を貸す事はごくごくまれである。
とはいえ、絶対大丈夫とは言えないのが実情だ。安心はできない。
(早めに魔法石の代用ができるのか実験しませんとね)
アリスはダイヤモンドの入った金庫をしまうと、ギルソンの部屋へと戻っていった。
お昼を回って今までと大きさを合わせたダイヤモンドを完成させたアリスは、ギルソンが学園から帰ってくるまでの間、アワードのオートマタであるフェールのもとを訪れていた。
その理由はダイヤモンドにこめられる魔法の実験をするためだった。
どんな魔法を込められて、どれだけの時間継続できるのか。それを確かめるためである。
「フェールさん、ちょっとよろしいでしょうか」
「どうしたんですか、アリス」
アワードの帰りを待ちながら部屋で掃除をしていたフェールが、突然のアリスの来訪に驚いている。
「ええ、ちょっとこのダイヤモンドで実験したい事があるのです」
「まあ、最近噂になっている宝石ですね」
「ああ、やっぱり噂になっていますか……」
フェールの反応に、つい困った顔をしながらため息をついてしまうアリスである。
「国王陛下と王妃殿下に献上された事が広まっていますからね。アリスが炭から魔力を込めて作り上げた事も、どうやら広まってしまっているようですよ」
状況をすべて説明してくれるフェール。
口止めもした覚えがないので、文句の言えないアリスなのである。
「炭が大量に城に持ち込まれるのはそのせいなんですね。助かるには助かりますけれど、必要とされている方には申し訳ございませんね」
「炭はあまり利用されていないから、きっと大丈夫だと思いますよ」
頭を抱えるアリスに対して、真面目に話をしてくるフェール。よくも悪くもオートマタという反応だった。
「それよりも、実験とは一体何をなさるおつもりなのですか」
フェールが話を切り替えて、先程のアリスの発言内容に質問をしてきた。
「このダイヤモンドに魔法を込めて、一体どのくらいその魔法を発動していられるかというものです」
「アリスが自分でやるのではないのですか?」
アリスの説明に、もっともな言葉を返すフェールである。
「ダイヤモンドを作るのに魔力を消耗し過ぎてます。ですので、私がやれば最悪私の魔力が尽きてしまう可能性があるのですよ」
「日を改めて……というわけにはいかないようですね」
「ええ、たくさん炭が集められてきてますから、保存場所にも困るので作ってしまうしかないのですよ……」
現状を思い出したありすとフェールは、そろって長い溜息をついている。
なんといっても、木箱がいくつも満杯になるほどの炭が運ばれてきているのだ。使わないことにはこのままでは城の一室が炭に埋め尽くされてしまうのである。
「マイマスターたちが戻られたら、止めるように国王陛下に求めるしかありませんね」
「それがよろしいかと思いますよ。物事には限度というものが必ず存在しておりますからね」
話をしながら、同じ認識を持つアリスたちだった。
こうして、魔法石の代わりを見つけるという課題は、いよいよ次の段階へと進むことになりそうだった。
アリスは溜め込んだ人工ダイヤモンドを、炭の集められた部屋からギルソンの私室へと移動させる。なんといっても話の主役なのだから、ないことには話が始められない。
それにしても、ダイヤモンドの入った箱はずしっとして重い。相当数を作ったということがよく分かる。
(さて、どのような実験を致しましょうかね。とりあえずは冷蔵、冷凍を行うための魔法からといったところでしょうかね)
どういった内容の話をするのか考えながら、アリスはギルソンたちが学園から帰ってくるのをフェールとともにじっと待つのであった。
魔法石を使わない道具の開発の上で必要不可欠だからだ。
たとえ小指の爪ほどの大きさでもかなりの量の炭を必要とはするけれど、話を聞いた人たちから炭の寄進が続いているので、材料自体はとりあえず困らないようだった。
今まで炭といったら砕いて地面に埋めるくらいの処理しかなかったからだ。
厄介者と思われた炭がまさかのものに変わると聞けば、そりゃまあ喜んで寄進してくれるというものなのだった。
(大きさがあまり大きくできませんから、魔法を込めたとしてどのくらい連続で稼働できるのか、いい加減に実験を始めないといけませんね。ジャスミンかフェールにでも手伝ってもらいましょうかね)
部屋の片隅に保管されたダイヤモンドの山。
いくら魔法によって作られた人工ダイヤモンドとはいえ、アクセサリー用の宝石として十分である。そのために、アリスは厳重に保管をしていた。
(金庫に入れて何重にも結界魔法をかけてあるので大丈夫だとは思いますが、狙われませんよね?)
ちょっと不安になるアリス。
だが、この世界で魔法を使えるのはオートマタのみ。そして、オートマタは倫理観がしっかりしているので、盗みのような犯罪に手を貸す事はごくごくまれである。
とはいえ、絶対大丈夫とは言えないのが実情だ。安心はできない。
(早めに魔法石の代用ができるのか実験しませんとね)
アリスはダイヤモンドの入った金庫をしまうと、ギルソンの部屋へと戻っていった。
お昼を回って今までと大きさを合わせたダイヤモンドを完成させたアリスは、ギルソンが学園から帰ってくるまでの間、アワードのオートマタであるフェールのもとを訪れていた。
その理由はダイヤモンドにこめられる魔法の実験をするためだった。
どんな魔法を込められて、どれだけの時間継続できるのか。それを確かめるためである。
「フェールさん、ちょっとよろしいでしょうか」
「どうしたんですか、アリス」
アワードの帰りを待ちながら部屋で掃除をしていたフェールが、突然のアリスの来訪に驚いている。
「ええ、ちょっとこのダイヤモンドで実験したい事があるのです」
「まあ、最近噂になっている宝石ですね」
「ああ、やっぱり噂になっていますか……」
フェールの反応に、つい困った顔をしながらため息をついてしまうアリスである。
「国王陛下と王妃殿下に献上された事が広まっていますからね。アリスが炭から魔力を込めて作り上げた事も、どうやら広まってしまっているようですよ」
状況をすべて説明してくれるフェール。
口止めもした覚えがないので、文句の言えないアリスなのである。
「炭が大量に城に持ち込まれるのはそのせいなんですね。助かるには助かりますけれど、必要とされている方には申し訳ございませんね」
「炭はあまり利用されていないから、きっと大丈夫だと思いますよ」
頭を抱えるアリスに対して、真面目に話をしてくるフェール。よくも悪くもオートマタという反応だった。
「それよりも、実験とは一体何をなさるおつもりなのですか」
フェールが話を切り替えて、先程のアリスの発言内容に質問をしてきた。
「このダイヤモンドに魔法を込めて、一体どのくらいその魔法を発動していられるかというものです」
「アリスが自分でやるのではないのですか?」
アリスの説明に、もっともな言葉を返すフェールである。
「ダイヤモンドを作るのに魔力を消耗し過ぎてます。ですので、私がやれば最悪私の魔力が尽きてしまう可能性があるのですよ」
「日を改めて……というわけにはいかないようですね」
「ええ、たくさん炭が集められてきてますから、保存場所にも困るので作ってしまうしかないのですよ……」
現状を思い出したありすとフェールは、そろって長い溜息をついている。
なんといっても、木箱がいくつも満杯になるほどの炭が運ばれてきているのだ。使わないことにはこのままでは城の一室が炭に埋め尽くされてしまうのである。
「マイマスターたちが戻られたら、止めるように国王陛下に求めるしかありませんね」
「それがよろしいかと思いますよ。物事には限度というものが必ず存在しておりますからね」
話をしながら、同じ認識を持つアリスたちだった。
こうして、魔法石の代わりを見つけるという課題は、いよいよ次の段階へと進むことになりそうだった。
アリスは溜め込んだ人工ダイヤモンドを、炭の集められた部屋からギルソンの私室へと移動させる。なんといっても話の主役なのだから、ないことには話が始められない。
それにしても、ダイヤモンドの入った箱はずしっとして重い。相当数を作ったということがよく分かる。
(さて、どのような実験を致しましょうかね。とりあえずは冷蔵、冷凍を行うための魔法からといったところでしょうかね)
どういった内容の話をするのか考えながら、アリスはギルソンたちが学園から帰ってくるのをフェールとともにじっと待つのであった。
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