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Mission142
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ギルソンたちは、学年の違うイスヴァンとアワードと一緒にまずは校舎入口横の貼り紙を見ることになる。
この貼り紙には何が書かれているかというと、クラス分けである。
ファルーダン王国の学園は、貴族であるなら誰でも入る事ができる。それはマリカの騎士爵でも例外ではない。ちなみに、平民であっても貴族や騎士たちの推薦があれば入る事ができるようになっており、その門戸は意外と広かった。
学園内では身分による差がなくなるが、ほぼ貴族である事から、平民に対する風当たりは厳しい。
アリスが前世で書いていた小説の中では身分差というのはかなり大きく影を落としていて、ギルソンの反乱が起きるまでは劇中の不穏な描写としてちょくちょく書かれていたくらいである。
もちろん、騎士爵の娘であるマリカもそういった行為の対象であり、初登場シーンも高位の貴族子女から詰め寄られている場面だった。その時はギルソンに助けられたのだが、お礼を言おうとして蔑みの目で見られて終わりという酷い登場シーンだった。
ちなみにこれが、後のギルソンの反乱で止める側に回った要因のひとつともいえるシーンである。
こんな事がまかり通るひとつの理由が、入学にあたって試験がないということだろう。勉強ができなくても入れるために、家の権力を笠に着て幅を利かせる子女は一定数出てくるのだ。
「あっ、ギルソン殿下と同じクラスですね」
クラス分けを見ていたマリカが思わず声を出してしまう。
「くぅ、私たちは別のクラスのようだな」
それとほぼ同時に、ソルティエ公国のポルトが悔しそうに漏らしていた。
「そうですね。しかし、兄妹で同じクラスなんてことはあるんですかね」
「ないとは言えないですね。特に1年生なら一緒にされる事はあると思いますよ」
マリンの質問に、ギルソンは淡々と答えていた。
学園に入ったばかりであれば、あまり今までと環境を変化させるべきではないだろうと、1年生に限ってはよくこうやって双子などは同じクラスに配置される事があるのである。
もちろん2年生に進級すれば、学園の環境に慣れただろうということでほぼ確実に別々にされてしまう。1年間限定の処置というものである。
「クラスの確認は終えましたね」
「この後は講堂で入学式だからな。場所くらい確認してるんだろ? 俺だってしたくらいなんだから、お前らならやってないわけがないよな」
アワードとイスヴァンの言葉に、こくりと頷くギルソンとマリカ。ただ、ソルティエ公国の二人は引きつった顔をしながら目を背けていた。この二人はどうやらしていないようである。
「そんなんじゃ困るぜ。がさつで乱暴な俺ですらしたくらいなんだからな。ギルソン、後の事は頼んだぜ」
「分かりました。もちろん任せて下さい」
トンと胸を叩いて返事をするギルソンである。
入学式にあたって講堂へとやって来ギルソンたち。そこには、たくさんの貴族子女たちが集まっていた。ほとんどはパーティーなどでしか面識のない相手ではあるものの、ギルソンはその名前を挙げて反応をしていた。
「さすがギルソン殿下。あの方たちの名前をしっかり覚えてらっしゃるのですね」
「まあね。人の顔と名前を憶えられてないと失礼に当たりますからね。ボクは外交を担っていますから、特に求められるスキルですね」
にこやかに話してはいるが、かなり大変な作業である。だというのに、ギルソンはにこやかに次々と学生たちの名前を喋っている。なんとハイスペックな王子なのだろうか。
「あっ、ギルソン殿下」
「本当だわ。ギルソン殿下ですわよ」
ギルソンたちに気が付いた子女たちが騒ぎ始める。そして、近付いてきて次々と挨拶をしてくる。
それに対して冷静に対処するギルソン。しかも、名前と親の爵位まで正確に言い当てている。これには子女たちも感動しているようだった。
「殿下ってば、本当にすごいですね。この方々の名前と顔をしっかり覚えていらっしゃるのですね」
「人付き合いが重要な立場ですからね。失礼を働かないのは最低限の心構えですよ」
マリカの反応に、にこやかに答えるギルソンだった。
「さすがギルソン殿下。感服致します」
これに対して、子女たちはみんなしてメロメロだった。なんというか、取る行動のすべてがかっこいいと感じているのである。
しかし、ギルソンはそんな行動には引っ張られなかった。
「どうやら立ち話をしている状況ではないようですね。ささっ、中に入って入学式に臨みましょうか」
ちらりと講堂の中に目をやったギルソンは、雰囲気を感じ取ってみんなに移動を提案する。すると、子女たちはおとなしくそれに従った。
さすがは数々の外交をこなしてきたギルソンと言えよう。冷静に状況を判断して、最善をこなせるのである。
ギルソンの呼び掛けに、マリカたちも行動の中へと入っていった。
こうして、アリスが前世で描いた物語の時間軸がようやく幕を開ける。
すでにかなり様相が変わってしまった世界だが、一体どのような物語が紡がれていくのか。それには誰にも分からなかった。
この貼り紙には何が書かれているかというと、クラス分けである。
ファルーダン王国の学園は、貴族であるなら誰でも入る事ができる。それはマリカの騎士爵でも例外ではない。ちなみに、平民であっても貴族や騎士たちの推薦があれば入る事ができるようになっており、その門戸は意外と広かった。
学園内では身分による差がなくなるが、ほぼ貴族である事から、平民に対する風当たりは厳しい。
アリスが前世で書いていた小説の中では身分差というのはかなり大きく影を落としていて、ギルソンの反乱が起きるまでは劇中の不穏な描写としてちょくちょく書かれていたくらいである。
もちろん、騎士爵の娘であるマリカもそういった行為の対象であり、初登場シーンも高位の貴族子女から詰め寄られている場面だった。その時はギルソンに助けられたのだが、お礼を言おうとして蔑みの目で見られて終わりという酷い登場シーンだった。
ちなみにこれが、後のギルソンの反乱で止める側に回った要因のひとつともいえるシーンである。
こんな事がまかり通るひとつの理由が、入学にあたって試験がないということだろう。勉強ができなくても入れるために、家の権力を笠に着て幅を利かせる子女は一定数出てくるのだ。
「あっ、ギルソン殿下と同じクラスですね」
クラス分けを見ていたマリカが思わず声を出してしまう。
「くぅ、私たちは別のクラスのようだな」
それとほぼ同時に、ソルティエ公国のポルトが悔しそうに漏らしていた。
「そうですね。しかし、兄妹で同じクラスなんてことはあるんですかね」
「ないとは言えないですね。特に1年生なら一緒にされる事はあると思いますよ」
マリンの質問に、ギルソンは淡々と答えていた。
学園に入ったばかりであれば、あまり今までと環境を変化させるべきではないだろうと、1年生に限ってはよくこうやって双子などは同じクラスに配置される事があるのである。
もちろん2年生に進級すれば、学園の環境に慣れただろうということでほぼ確実に別々にされてしまう。1年間限定の処置というものである。
「クラスの確認は終えましたね」
「この後は講堂で入学式だからな。場所くらい確認してるんだろ? 俺だってしたくらいなんだから、お前らならやってないわけがないよな」
アワードとイスヴァンの言葉に、こくりと頷くギルソンとマリカ。ただ、ソルティエ公国の二人は引きつった顔をしながら目を背けていた。この二人はどうやらしていないようである。
「そんなんじゃ困るぜ。がさつで乱暴な俺ですらしたくらいなんだからな。ギルソン、後の事は頼んだぜ」
「分かりました。もちろん任せて下さい」
トンと胸を叩いて返事をするギルソンである。
入学式にあたって講堂へとやって来ギルソンたち。そこには、たくさんの貴族子女たちが集まっていた。ほとんどはパーティーなどでしか面識のない相手ではあるものの、ギルソンはその名前を挙げて反応をしていた。
「さすがギルソン殿下。あの方たちの名前をしっかり覚えてらっしゃるのですね」
「まあね。人の顔と名前を憶えられてないと失礼に当たりますからね。ボクは外交を担っていますから、特に求められるスキルですね」
にこやかに話してはいるが、かなり大変な作業である。だというのに、ギルソンはにこやかに次々と学生たちの名前を喋っている。なんとハイスペックな王子なのだろうか。
「あっ、ギルソン殿下」
「本当だわ。ギルソン殿下ですわよ」
ギルソンたちに気が付いた子女たちが騒ぎ始める。そして、近付いてきて次々と挨拶をしてくる。
それに対して冷静に対処するギルソン。しかも、名前と親の爵位まで正確に言い当てている。これには子女たちも感動しているようだった。
「殿下ってば、本当にすごいですね。この方々の名前と顔をしっかり覚えていらっしゃるのですね」
「人付き合いが重要な立場ですからね。失礼を働かないのは最低限の心構えですよ」
マリカの反応に、にこやかに答えるギルソンだった。
「さすがギルソン殿下。感服致します」
これに対して、子女たちはみんなしてメロメロだった。なんというか、取る行動のすべてがかっこいいと感じているのである。
しかし、ギルソンはそんな行動には引っ張られなかった。
「どうやら立ち話をしている状況ではないようですね。ささっ、中に入って入学式に臨みましょうか」
ちらりと講堂の中に目をやったギルソンは、雰囲気を感じ取ってみんなに移動を提案する。すると、子女たちはおとなしくそれに従った。
さすがは数々の外交をこなしてきたギルソンと言えよう。冷静に状況を判断して、最善をこなせるのである。
ギルソンの呼び掛けに、マリカたちも行動の中へと入っていった。
こうして、アリスが前世で描いた物語の時間軸がようやく幕を開ける。
すでにかなり様相が変わってしまった世界だが、一体どのような物語が紡がれていくのか。それには誰にも分からなかった。
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