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Mission141
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時は経ち、年が明ける。
ギルソンが13歳を迎える年となったのだ。つまり、ようやくアリスの小説本編の開幕である。
小説の中では兄弟から疎まれて精神がすさんでいたギルソンが、学園内でいろいろと問題を起こすことになっている。
ところが、今のギルソンはどうだろうか。
パートナーたるオートマタであるアリスが暴走したおかげで、今のギルソンはファルーダン王国内では重要な人物となっていた。むしろ国家兵器レベルの人材である。
なにせ、本編が始まるまでに、マスカード帝国、ソルティエ公国だけにとどまらず、海向こうまでとも交渉して話を取り付けてしまったのだから。ギルソンの隠された能力はすさまじかった。
この事は、作者たるアリス本人が一番驚いている。頭のいい描写は確かに行ってきたが、現実としてここまでとは思ってもみなかったのだ。半ば自分のせいなところはあるものの、これは思わぬ収穫である。
しかしだ。別な意味でギルソンを危険な人物にしてしまったという考えには至らないアリスである。これは、アリスがギルソンの可能性を信じていることが原因である。そのくらい、作者だというのにギルソンに強い思い入れのあるアリスなのだ。
さて、学園に通うとなると、ギルソンにもあるものが用意される。
「さすがはマイマスター。よくお似合いでございます」
「アリスの腕がいいからだよ」
照れくさそうにするギルソンが着ている服、それは学園の制服だった。これはイスヴァンやアワードも着ていたので、結構見慣れた服である。しかし、やはり違う人物が着ると少々新鮮に感じるものだった。
イスヴァンは1つ上、アワードは2つ上なので、他国の皇子が混ざっているものの、王族系そのものが三人が同時に学園に通うのは何気に初めてだったりする。
「ほう、これが学園の制服というものか。なかなかに凝ったものだな」
バーンと扉を開けて乱入してきたのは、ソルティエ公国のポルト公子だった。
「お兄様、もう少し落ち着いて扉を開けて下さい」
「やはは、それはすまなかったな」
「私に謝ってどうするんですか……」
遅れてマリン公女も登場する。そういえば彼らも今年から学園に通うのだった。
これだけの高貴な血筋の者が通うということはまずあるまい。
「まったく、落ち着きがないものだな。ポルトは俺と同い年だが、学年は1個下になる。俺の事は先輩と呼ぶんだな」
イスヴァンは苦言を呈しながらも、ちゃっかり何かを要求している。
「それは嫌だな。イスヴァンの事はイスヴァンと呼ぶ。飾り物は要らないと思うぞ」
しかし、それはちゃっかり却下されてしまった。
「ちっ、少しくらい優越感に浸らしてくれてもいいじゃないか」
愚痴をこぼすイスヴァン。その姿にギルソンたちはついおかしくて笑ってしまっていた。
「お、おい。笑うなよ」
怒るイスヴァンだったが、顔をよく見ると笑っている。
まったく、こういう学生同士の交流は見ていて楽しいものだ。その様子を見ていたアリスは、分からない程度に笑顔を見せながらそう思ったのだった。
「まったく、いつまでも遊んでいるわけにはいきませんよ。そろそろ馬車に乗りましょう。学園が始まる時間です」
一人落ち着いていたアワードの言葉で、ギルソンたちは城を出て学園まで馬車で移動する。
ファルーダンの学園は、王都を囲む外壁に張り付くように建てられている。そのために、王都のほぼど真ん中に建つ城からはそれなりに距離があるのだ。だからこそ、馬車で移動するというわけである。
本来、学園の中へはオートマタは入れないのであるが、この時のアリスは無理やり学園までの往路の世話をするべくついて来ていたのだった。
学園に到着すると、見慣れた顔の少女が歩いているのが見えた。
「マリカ」
馬車から顔を覗かせて声を掛けるギルソン。その声に驚いたマリカは、思わず辺りをきょろきょろと見回してしまう。
「ぎ、ギルソン殿下?!」
王家の馬車を見つけたマリカは、声の主の姿を見つけて驚いている。
(マリカも似合っていますね、学園の制服)
その姿を見たアリスは、その可愛らしさに小さく数度頷いていた。
「何をにやけていますか、お姉様は」
どこからともなく聞こえてくるジャスミンの声。
「あら、ジャスミンってばついて来ていましたのね」
「お姉様と同じです。マスターであるマリカ様は有名人ですから、何かあってはいけませんからね」
実は、許可があれば送り迎えの際にオートマタを護衛として付き添わせる事ができるのだ。マリカは騎士爵家とはいえ、オートマタ職人としてすっかり知名度出てきたので、こうやってジャスミンが護衛についているというわけである。
「確かに、マリカさんはすっかりオートマタ職人として有名になりましたものね」
「そういうわけでございます」
しれっとした表情のジャスミンである。
そうこうしているうちに、馬車は学園に到着する。馬車は門を入ったところで降りなければならない規則になっている。つまり、アリスたちが付き添えるのはそこまでなのだ。
「それではいってらっしゃいませ、マイマスター」
「うん、アリスも見送りご苦労様」
アリスと挨拶を交わして、ギルソンたちは学園の中へと入っていく。アリスとジャスミンは、その後ろ姿をしばらく黙ったまま見送り続けたのだった。
ギルソンが13歳を迎える年となったのだ。つまり、ようやくアリスの小説本編の開幕である。
小説の中では兄弟から疎まれて精神がすさんでいたギルソンが、学園内でいろいろと問題を起こすことになっている。
ところが、今のギルソンはどうだろうか。
パートナーたるオートマタであるアリスが暴走したおかげで、今のギルソンはファルーダン王国内では重要な人物となっていた。むしろ国家兵器レベルの人材である。
なにせ、本編が始まるまでに、マスカード帝国、ソルティエ公国だけにとどまらず、海向こうまでとも交渉して話を取り付けてしまったのだから。ギルソンの隠された能力はすさまじかった。
この事は、作者たるアリス本人が一番驚いている。頭のいい描写は確かに行ってきたが、現実としてここまでとは思ってもみなかったのだ。半ば自分のせいなところはあるものの、これは思わぬ収穫である。
しかしだ。別な意味でギルソンを危険な人物にしてしまったという考えには至らないアリスである。これは、アリスがギルソンの可能性を信じていることが原因である。そのくらい、作者だというのにギルソンに強い思い入れのあるアリスなのだ。
さて、学園に通うとなると、ギルソンにもあるものが用意される。
「さすがはマイマスター。よくお似合いでございます」
「アリスの腕がいいからだよ」
照れくさそうにするギルソンが着ている服、それは学園の制服だった。これはイスヴァンやアワードも着ていたので、結構見慣れた服である。しかし、やはり違う人物が着ると少々新鮮に感じるものだった。
イスヴァンは1つ上、アワードは2つ上なので、他国の皇子が混ざっているものの、王族系そのものが三人が同時に学園に通うのは何気に初めてだったりする。
「ほう、これが学園の制服というものか。なかなかに凝ったものだな」
バーンと扉を開けて乱入してきたのは、ソルティエ公国のポルト公子だった。
「お兄様、もう少し落ち着いて扉を開けて下さい」
「やはは、それはすまなかったな」
「私に謝ってどうするんですか……」
遅れてマリン公女も登場する。そういえば彼らも今年から学園に通うのだった。
これだけの高貴な血筋の者が通うということはまずあるまい。
「まったく、落ち着きがないものだな。ポルトは俺と同い年だが、学年は1個下になる。俺の事は先輩と呼ぶんだな」
イスヴァンは苦言を呈しながらも、ちゃっかり何かを要求している。
「それは嫌だな。イスヴァンの事はイスヴァンと呼ぶ。飾り物は要らないと思うぞ」
しかし、それはちゃっかり却下されてしまった。
「ちっ、少しくらい優越感に浸らしてくれてもいいじゃないか」
愚痴をこぼすイスヴァン。その姿にギルソンたちはついおかしくて笑ってしまっていた。
「お、おい。笑うなよ」
怒るイスヴァンだったが、顔をよく見ると笑っている。
まったく、こういう学生同士の交流は見ていて楽しいものだ。その様子を見ていたアリスは、分からない程度に笑顔を見せながらそう思ったのだった。
「まったく、いつまでも遊んでいるわけにはいきませんよ。そろそろ馬車に乗りましょう。学園が始まる時間です」
一人落ち着いていたアワードの言葉で、ギルソンたちは城を出て学園まで馬車で移動する。
ファルーダンの学園は、王都を囲む外壁に張り付くように建てられている。そのために、王都のほぼど真ん中に建つ城からはそれなりに距離があるのだ。だからこそ、馬車で移動するというわけである。
本来、学園の中へはオートマタは入れないのであるが、この時のアリスは無理やり学園までの往路の世話をするべくついて来ていたのだった。
学園に到着すると、見慣れた顔の少女が歩いているのが見えた。
「マリカ」
馬車から顔を覗かせて声を掛けるギルソン。その声に驚いたマリカは、思わず辺りをきょろきょろと見回してしまう。
「ぎ、ギルソン殿下?!」
王家の馬車を見つけたマリカは、声の主の姿を見つけて驚いている。
(マリカも似合っていますね、学園の制服)
その姿を見たアリスは、その可愛らしさに小さく数度頷いていた。
「何をにやけていますか、お姉様は」
どこからともなく聞こえてくるジャスミンの声。
「あら、ジャスミンってばついて来ていましたのね」
「お姉様と同じです。マスターであるマリカ様は有名人ですから、何かあってはいけませんからね」
実は、許可があれば送り迎えの際にオートマタを護衛として付き添わせる事ができるのだ。マリカは騎士爵家とはいえ、オートマタ職人としてすっかり知名度出てきたので、こうやってジャスミンが護衛についているというわけである。
「確かに、マリカさんはすっかりオートマタ職人として有名になりましたものね」
「そういうわけでございます」
しれっとした表情のジャスミンである。
そうこうしているうちに、馬車は学園に到着する。馬車は門を入ったところで降りなければならない規則になっている。つまり、アリスたちが付き添えるのはそこまでなのだ。
「それではいってらっしゃいませ、マイマスター」
「うん、アリスも見送りご苦労様」
アリスと挨拶を交わして、ギルソンたちは学園の中へと入っていく。アリスとジャスミンは、その後ろ姿をしばらく黙ったまま見送り続けたのだった。
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