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Mission140
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アリスが作りだしたダイヤモンドは、すぐに国王と王妃に献上された。そのあまりの美しさに、献上の場に同席した者たちからはため息が漏れ出ていた。
「ほう……、実に素晴らしいな。ここまで見事な輝きを持つ宝石を作り出すとは」
国王はダイヤモンドを見て酔いしれていた。
「燃え尽きて役にも立たない炭がこのようになるとは思ってもみませんでしたな、陛下」
「まったくだな。しかし、オートマタの魔力をたくさん消耗するらしいからな。量産というわけにはいかんようだ」
「と、申されますと?」
顔を曇らせる国王に、家臣が問い掛ける。
「このダイヤモンドを作っているのは、ギルソンのオートマタなのだがな。あんな大工事をやってのける彼女をもってしても、1個作るだけで疲れ果ててしまうのだ。並大抵のオートマタなら、1個を作ることすら叶うまい」
「なんと……」
質問をした過信は信じられないというような表情をしている。
だが、これは紛れもない事実なのである。
魔法石の代わりにするための宝石を作るのに、オートマタが魔力を使い果たしてしまっては意味がない。
魔法石は放っておけば、大気中からマナを吸収して魔力を回復させる。だが、それは魔法石中に魔力が残っている場合だ。
実は、魔法石の中の魔力を使い切ってしまうと、二度とその魔法石は魔力を取り戻す事はない。
つまりだ。ダイヤモンドを量産化しようとすると、それと引き換えに貴重な魔法石を犠牲にせねばならないというわけだ。これは到底許容できる事ではなかった。
「魔法石はいつまで掘り出せるか分からぬ状況だ。それに我が国の根本を支えるものゆえに、目先の事に囚われては本末転倒な事になりかねん。この件は、アリスに任せるしかあるないな……」
「御意にございます」
国王が決断を下すと、家臣はそれに従った。
宰相を含めた家臣が全員いなくなると、国王はがっくりと項垂れる。
「まったく、なんて事だ。これでは本当に魔法石の代替品ではないか……」
ダイヤモンドを要求したことを、今さらながら事の重大さに気が付いて後悔する国王である。
「作らせてしまったのは仕方ありません。この大きさであるのならどうにか作れるのですから、無理させぬようにしながら作らせればいいのです」
王妃の方はそのように考えているようだ。
「確かにそうではあるが、アリスに倒れられては、ギルソンの護衛はどうなる。あの年齢にして他国の者に対してあれだけ交渉を行えるのだ。オートマタは一人につき1体が原則だ。王族のわがままでそれを変えるわけにはいくまい」
国王は主張する内容は確かにそうだ。あまり力を持ち過ぎないようにするために、オートマタは人間一人に対して1体と定められている。
ところがだ、王妃はこの抜け穴に気が付いていたのだ。
「何を仰います。鉄道に従事するオートマタは、ギルソンのオートマタであるアリスの配下にあるのです。つまり、オートマタの配下ということにすれば、その制限にはかかりませんのよ?」
「……確かにそうではあるが、その理論が他者に通じると思うてか?」
王妃の理論に、真っ向から反論する国王だ。
確かに、鉄道の列車の運転士や車掌、それと駅員のオートマタたちは、オートマタのアリスの配下にある。
だが、王妃の提案する内容では、新たなオートマタはギルソンに付き従うことになるのだ。離れて過ごす鉄道関連のオートマタとは事情が違うのだ。
「それにだ。あのオートマタたちはアリスの支配下にある。もしダイヤモンドの件で無茶をさせてアリスに何かあった場合、配下にあるオートマタたちを制御できるかどうかという問題がある。となれば、これ以上は無理にオートマタを作らせるのは得策ではないだろう」
国王は懸念についてつらつらと語っていた。
いろいろと指摘を受けたことで、王妃もいよいよ考え直しに入ったようである。
「むぅ……。それは思いもしなかったですね。確かに、制御ができなくなっては厄介です。この件は諦めましょうか」
国王の指摘を受け入れ、王妃はダイヤモンドの量産計画を諦めたのだった。
「いやはや、早く受け入れてもらえて助かるというものだ。我々は王族だ。私欲よりも民のために動かねばならんのだよ」
「承知致しましたわ、陛下」
王妃を説得した事で、この話はお開きとなった。
実はこの話にはまだ問題点があった。
それは作り上げたダイヤモンドに、どのくらいの魔法を込められるかということである。
魔法石であるのなら、石自体が大気中のマナを吸い込んで半永久的に魔法を使用していられる。
ところが人工ダイヤモンドであると、他の宝石同様にそのマナを取り込んで魔力を持つという機能が存在しない可能性がある。つまり、込めた魔力が尽きれば、その時点で使い物にならなくなってしまうのだ。再び使うには、改めて魔法を使用して魔力を込めるしかないのだ。
とはいえ、作ったばかりの人工ダイヤモンドである。その機能はこれからの研究で明らかになっていくだろう。
まったく、アリスときたらいろいろとやらかしてくれるものである。
「ほう……、実に素晴らしいな。ここまで見事な輝きを持つ宝石を作り出すとは」
国王はダイヤモンドを見て酔いしれていた。
「燃え尽きて役にも立たない炭がこのようになるとは思ってもみませんでしたな、陛下」
「まったくだな。しかし、オートマタの魔力をたくさん消耗するらしいからな。量産というわけにはいかんようだ」
「と、申されますと?」
顔を曇らせる国王に、家臣が問い掛ける。
「このダイヤモンドを作っているのは、ギルソンのオートマタなのだがな。あんな大工事をやってのける彼女をもってしても、1個作るだけで疲れ果ててしまうのだ。並大抵のオートマタなら、1個を作ることすら叶うまい」
「なんと……」
質問をした過信は信じられないというような表情をしている。
だが、これは紛れもない事実なのである。
魔法石の代わりにするための宝石を作るのに、オートマタが魔力を使い果たしてしまっては意味がない。
魔法石は放っておけば、大気中からマナを吸収して魔力を回復させる。だが、それは魔法石中に魔力が残っている場合だ。
実は、魔法石の中の魔力を使い切ってしまうと、二度とその魔法石は魔力を取り戻す事はない。
つまりだ。ダイヤモンドを量産化しようとすると、それと引き換えに貴重な魔法石を犠牲にせねばならないというわけだ。これは到底許容できる事ではなかった。
「魔法石はいつまで掘り出せるか分からぬ状況だ。それに我が国の根本を支えるものゆえに、目先の事に囚われては本末転倒な事になりかねん。この件は、アリスに任せるしかあるないな……」
「御意にございます」
国王が決断を下すと、家臣はそれに従った。
宰相を含めた家臣が全員いなくなると、国王はがっくりと項垂れる。
「まったく、なんて事だ。これでは本当に魔法石の代替品ではないか……」
ダイヤモンドを要求したことを、今さらながら事の重大さに気が付いて後悔する国王である。
「作らせてしまったのは仕方ありません。この大きさであるのならどうにか作れるのですから、無理させぬようにしながら作らせればいいのです」
王妃の方はそのように考えているようだ。
「確かにそうではあるが、アリスに倒れられては、ギルソンの護衛はどうなる。あの年齢にして他国の者に対してあれだけ交渉を行えるのだ。オートマタは一人につき1体が原則だ。王族のわがままでそれを変えるわけにはいくまい」
国王は主張する内容は確かにそうだ。あまり力を持ち過ぎないようにするために、オートマタは人間一人に対して1体と定められている。
ところがだ、王妃はこの抜け穴に気が付いていたのだ。
「何を仰います。鉄道に従事するオートマタは、ギルソンのオートマタであるアリスの配下にあるのです。つまり、オートマタの配下ということにすれば、その制限にはかかりませんのよ?」
「……確かにそうではあるが、その理論が他者に通じると思うてか?」
王妃の理論に、真っ向から反論する国王だ。
確かに、鉄道の列車の運転士や車掌、それと駅員のオートマタたちは、オートマタのアリスの配下にある。
だが、王妃の提案する内容では、新たなオートマタはギルソンに付き従うことになるのだ。離れて過ごす鉄道関連のオートマタとは事情が違うのだ。
「それにだ。あのオートマタたちはアリスの支配下にある。もしダイヤモンドの件で無茶をさせてアリスに何かあった場合、配下にあるオートマタたちを制御できるかどうかという問題がある。となれば、これ以上は無理にオートマタを作らせるのは得策ではないだろう」
国王は懸念についてつらつらと語っていた。
いろいろと指摘を受けたことで、王妃もいよいよ考え直しに入ったようである。
「むぅ……。それは思いもしなかったですね。確かに、制御ができなくなっては厄介です。この件は諦めましょうか」
国王の指摘を受け入れ、王妃はダイヤモンドの量産計画を諦めたのだった。
「いやはや、早く受け入れてもらえて助かるというものだ。我々は王族だ。私欲よりも民のために動かねばならんのだよ」
「承知致しましたわ、陛下」
王妃を説得した事で、この話はお開きとなった。
実はこの話にはまだ問題点があった。
それは作り上げたダイヤモンドに、どのくらいの魔法を込められるかということである。
魔法石であるのなら、石自体が大気中のマナを吸い込んで半永久的に魔法を使用していられる。
ところが人工ダイヤモンドであると、他の宝石同様にそのマナを取り込んで魔力を持つという機能が存在しない可能性がある。つまり、込めた魔力が尽きれば、その時点で使い物にならなくなってしまうのだ。再び使うには、改めて魔法を使用して魔力を込めるしかないのだ。
とはいえ、作ったばかりの人工ダイヤモンドである。その機能はこれからの研究で明らかになっていくだろう。
まったく、アリスときたらいろいろとやらかしてくれるものである。
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