転生オートマタ

未羊

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Mission139

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 アリスは適当な量に積み上げた炭に対して魔法を使う。
 すると、炭は魔法で宙に浮きあがり、なにやら膜のようなものに閉じ込められている。
「それでは、始めます。くれぐれもあの膜に近付かないようにお願い致します」
「どうしてかな、アリス」
 アリスの注意にギルソンが疑問を呈する。
「あの膜の中にはとんでもない圧力をかけることになるからです。膜で覆って外に影響が出ないようにはしていますが、高圧がかかる近くでは何があるか分かりません。ましてや、あの中に体を入れようものなら、その部分は一瞬でひしゃげてしまいます。見せられたものではございませんから、絶対に近寄らないで下さい」
「分かりました。では、この位置から見守るとしましょう」
 さすがにぺっちゃんこは勘弁願いたいので、ギルソンはアリスの隣に立ってその様子を見守る。
 アリスが魔力を込めていくと、空中に浮かんだ膜が少しずつ小さくなっていく。そのことによって、内部の圧力が高くなっていく。
 圧力を加えるということは、それなりに熱と光も発生するはずなのだが、アリスはそれを魔法でうまく中和させている。
 しばらく眺めていると、人の頭より多かった膜が、気が付けば拳大ぐらいまで圧縮されてしまっていた。
 コツは掴んだと言っていたアリスは、オートマタであるにもかかわらず額に汗が浮かび、頬を汗が伝っていっていた。その様子はさながら人間のようだった。
 拳ほどに圧縮された膜が弾けると、中からはキラキラとした石が現れる。これが人工ダイヤモンドだ。
 圧縮しただけなら、石ころのようにごつごつとした感じになるところなのだが、そこはさすがアリスの魔法といったところで、しっかりとカッティングされた状態になっていた。
 今回国王からあった注文では、アクセサリーにしたいという要望だったので、よくある五角形の形ではなかった。ペンダントなどに使えるように楕円型に整えてある。こういうところの気遣いができるあたりがアリスなのである。
「マイマスター、このような感じでいかがでしょうか」
 アリスはでき上がったダイヤモンドを見せながら、ギルソンに確認を求めている。
「きれいですね。多分大丈夫だと思いますよ」
 しかし、ギルソンはまだ子どもであるがために、宝石にはまったく詳しくなかった。なんとも曖昧な返答しかできなかったのだった。
「ありがとうございます。では、2つ目に取り掛かりますね」
 ギルソンからの評価を聞いたアリスが、2つ目を作ろうとして手を伸ばす。
 しかし、それをギルソンが止める。
「アリス、少し休みましょうか。汗が流れているというのは、オートマタではありえない現象ですからね。おそらくはかなり無茶をしているということでしょう」
 ギルソンに腕を掴まれ、思わずその顔を見てしまうアリス。
 アリスが見た表情は、眉間にしわを寄せて本気で心配するギルソンの顔だった。さすがに自分の主をこれ以上苦しめるわけにはいけないと思ったアリスは、入れかけていた力をすっと抜いた。
「承知致しました。それでは少し休憩いたしましょう」
 マスターたるギルソンには逆らえないアリスは、やむなく休憩を入れることにした。
 近くにあったベンチに腰を掛けるアリスとギルソン。先程作ったダイヤモンドを眺めながら、しばらく談笑をしていた。
 十分に休んだところで、アリスは再び立ち上がる。
「それでは、2個目の作製に取り掛かりますね」
「本当にもう大丈夫なのかい、アリス」
「はい。コツを掴んだとはいっても2個が限界そうですから、次作りましたら、本日はちゃんとお休みしますのでご安心下さい」
 その時のアリスの表情に、ギルソンは思わずドキッとしてしまう。
 普段は淡々とした表情しかしないオートマタなのだが、この時のアリスは憂いを含んだ笑顔を見せたのである。その意外な表情に、ギルソンは思わず反応してしまったのだ。
 ギルソンが呆然と眺める中、アリスは淡々と2個目のダイヤモンドを作り上げてしまう。
「ふぅ、さすがに魔力が尽きかけてしまいますね」
 2個目のダイヤモンドを手に、アリスはギルソンのもとへと向かう。
「マイマスター、ダイヤモンドができ上がりましたので部屋へと戻りましょうか」
「あ、うん。そうだね」
「マイマスター?」
 ちょっと赤らんだ顔に、アリスは首を傾げながらギルソンを見る。
「なんでもないよ。アリスは疲れているんだろう。早く休憩にしようじゃないか」
「……畏まりました」
 つい素早く何度も瞬きをしてしまうアリスである。
(なんだか、ギルソン殿下の様子が変ですね。一体どうされたのでしょうか……)
 疑問に思うアリスではあるが、ひとまずは疲れがたまっているので考えるのをやめた。
(甘いものでも用意して、ゆっくり休んでから考えましょうかね)
 部屋までギルソンを連れていったアリスはそのまま厨房へと向かう。そして、お菓子と紅茶を持って部屋へと戻ってきた。
 そこでようやく、自分が食べ物を必要としていない体だということを思い出して大きく凹んだのだった。
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