転生オートマタ

未羊

文字の大きさ
上 下
140 / 189

Mission139

しおりを挟む
 アリスは適当な量に積み上げた炭に対して魔法を使う。
 すると、炭は魔法で宙に浮きあがり、なにやら膜のようなものに閉じ込められている。
「それでは、始めます。くれぐれもあの膜に近付かないようにお願い致します」
「どうしてかな、アリス」
 アリスの注意にギルソンが疑問を呈する。
「あの膜の中にはとんでもない圧力をかけることになるからです。膜で覆って外に影響が出ないようにはしていますが、高圧がかかる近くでは何があるか分かりません。ましてや、あの中に体を入れようものなら、その部分は一瞬でひしゃげてしまいます。見せられたものではございませんから、絶対に近寄らないで下さい」
「分かりました。では、この位置から見守るとしましょう」
 さすがにぺっちゃんこは勘弁願いたいので、ギルソンはアリスの隣に立ってその様子を見守る。
 アリスが魔力を込めていくと、空中に浮かんだ膜が少しずつ小さくなっていく。そのことによって、内部の圧力が高くなっていく。
 圧力を加えるということは、それなりに熱と光も発生するはずなのだが、アリスはそれを魔法でうまく中和させている。
 しばらく眺めていると、人の頭より多かった膜が、気が付けば拳大ぐらいまで圧縮されてしまっていた。
 コツは掴んだと言っていたアリスは、オートマタであるにもかかわらず額に汗が浮かび、頬を汗が伝っていっていた。その様子はさながら人間のようだった。
 拳ほどに圧縮された膜が弾けると、中からはキラキラとした石が現れる。これが人工ダイヤモンドだ。
 圧縮しただけなら、石ころのようにごつごつとした感じになるところなのだが、そこはさすがアリスの魔法といったところで、しっかりとカッティングされた状態になっていた。
 今回国王からあった注文では、アクセサリーにしたいという要望だったので、よくある五角形の形ではなかった。ペンダントなどに使えるように楕円型に整えてある。こういうところの気遣いができるあたりがアリスなのである。
「マイマスター、このような感じでいかがでしょうか」
 アリスはでき上がったダイヤモンドを見せながら、ギルソンに確認を求めている。
「きれいですね。多分大丈夫だと思いますよ」
 しかし、ギルソンはまだ子どもであるがために、宝石にはまったく詳しくなかった。なんとも曖昧な返答しかできなかったのだった。
「ありがとうございます。では、2つ目に取り掛かりますね」
 ギルソンからの評価を聞いたアリスが、2つ目を作ろうとして手を伸ばす。
 しかし、それをギルソンが止める。
「アリス、少し休みましょうか。汗が流れているというのは、オートマタではありえない現象ですからね。おそらくはかなり無茶をしているということでしょう」
 ギルソンに腕を掴まれ、思わずその顔を見てしまうアリス。
 アリスが見た表情は、眉間にしわを寄せて本気で心配するギルソンの顔だった。さすがに自分の主をこれ以上苦しめるわけにはいけないと思ったアリスは、入れかけていた力をすっと抜いた。
「承知致しました。それでは少し休憩いたしましょう」
 マスターたるギルソンには逆らえないアリスは、やむなく休憩を入れることにした。
 近くにあったベンチに腰を掛けるアリスとギルソン。先程作ったダイヤモンドを眺めながら、しばらく談笑をしていた。
 十分に休んだところで、アリスは再び立ち上がる。
「それでは、2個目の作製に取り掛かりますね」
「本当にもう大丈夫なのかい、アリス」
「はい。コツを掴んだとはいっても2個が限界そうですから、次作りましたら、本日はちゃんとお休みしますのでご安心下さい」
 その時のアリスの表情に、ギルソンは思わずドキッとしてしまう。
 普段は淡々とした表情しかしないオートマタなのだが、この時のアリスは憂いを含んだ笑顔を見せたのである。その意外な表情に、ギルソンは思わず反応してしまったのだ。
 ギルソンが呆然と眺める中、アリスは淡々と2個目のダイヤモンドを作り上げてしまう。
「ふぅ、さすがに魔力が尽きかけてしまいますね」
 2個目のダイヤモンドを手に、アリスはギルソンのもとへと向かう。
「マイマスター、ダイヤモンドができ上がりましたので部屋へと戻りましょうか」
「あ、うん。そうだね」
「マイマスター?」
 ちょっと赤らんだ顔に、アリスは首を傾げながらギルソンを見る。
「なんでもないよ。アリスは疲れているんだろう。早く休憩にしようじゃないか」
「……畏まりました」
 つい素早く何度も瞬きをしてしまうアリスである。
(なんだか、ギルソン殿下の様子が変ですね。一体どうされたのでしょうか……)
 疑問に思うアリスではあるが、ひとまずは疲れがたまっているので考えるのをやめた。
(甘いものでも用意して、ゆっくり休んでから考えましょうかね)
 部屋までギルソンを連れていったアリスはそのまま厨房へと向かう。そして、お菓子と紅茶を持って部屋へと戻ってきた。
 そこでようやく、自分が食べ物を必要としていない体だということを思い出して大きく凹んだのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

親切なミザリー

みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。 ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。 ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。 こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。 ‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。 ※不定期更新です。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

王太子妃が我慢しなさい ~姉妹差別を受けていた姉がもっとひどい兄弟差別を受けていた王太子に嫁ぎました~

玄未マオ
ファンタジー
メディア王家に伝わる古い呪いで第一王子は家族からも畏怖されていた。 その王子の元に姉妹差別を受けていたメルが嫁ぐことになるが、その事情とは? ヒロインは姉妹差別され育っていますが、言いたいことはきっちりいう子です。

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

処理中です...