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Mission137
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アリスが寝ている間、ギルソンは国王と会っていた。
その用件はというと、もちろんアリスが作ったとかいうダイヤモンドの件だった。
周りに気付かれないようにちゃんと包みに隠しながら、ギルソンは城の中を移動していく。
この時間の国王は執務の真っ只中であるのは、いつもの行動から分かっていた。なので、ギルソンは執務室へとやって来たのだった。
「失礼します、父上」
扉を叩いて中に呼び掛けるギルソン。
「どうしたギルソン、入ってきなさい」
国王はあっさりとギルソンを中へと招き入れる。
ギルソンが部屋の中に入ると、国王は手を止めてギルソンの方をじっと見つめていた。思わずびっくりしてしまうくらいである。
「一体何の用かな。私は忙しいんだ。大した用でないなら手短に頼むよ」
国王は再び手を動かし始める。それだけ国王としてこなさなければいけない案件が溜まっているようだった。
だがしかし、だからといって注目株である末息子であるギルソンを軽く扱えない。
そんな状況だからこそ、国王はギルソンを部屋に招き入れたのだ。
「父上。先日申されました、魔法石の代わりを見つけるという話ですが、それについてお話があります」
ギルソンがそう言うと、国王の手が再び止まる。そして、ペンを置くとじっとギルソンを見る。
「なんだ、言ってみるといい」
両肘をついてじっとギルソンを見る国王。その姿は実に国王らしく、威圧感にあふれるものだった。
なんとも久しぶりに見る国王の姿に、ギルソンは予想していなかったのか少し固まってしまっていた。
しかし、すぐに首を左右に振って奮い立つと、改めて国王の顔をじっと見る。
「父上、こちらを見て頂きたく思います」
ギルソンは懐にしまっていた布を取り出し、包んでおいたものを披露する。
中から出てきたものの見事な輝きに、国王は思わず息を飲んだ。
「ギルソン、これは?」
あまりにきれいなものだったために、国王はギルソンに問い掛ける。
「ダイヤモンドというそうです。アリスが思いもしない方法で用意してくれました」
「お前のオートマタがか? 一体どんな方法なのだ……」
「なんでも、炭を魔力で圧縮して変化させたそうです。まったく想像がつきませんが、目撃した者の話ではそういう事のようです」
「……信じられないな」
国王は、目を見開いた状態で椅子に深く腰を掛ける。
「その話の真偽はともかくとして、そのダイヤモンドとやらを見せてくれ」
「はい、こちらです」
国王が切望するので、ギルソンはダイヤモンドを国王へと手渡す。
きれいな形に整えられたダイヤモンドは、部屋の明かりに照らされてキラキラと光り輝いている。
「実に見事な宝石だな……。では、これを魔法石の代わりにするというのか?」
「できればそのようにしたいですね。そう簡単に用意できるものではありませんし、そのダイヤモンドと魔法との親和性もよく分かりませんからね」
「ふうむ……」
まだ分からない事は多いので、ギルソンは決めかねているようだった。
なにせ1個作っただけでアリスも寝込むような状態だ。大量生産などできるわけがないのである。
聡明なギルソンゆえの判断である。
「時間はかかりますが、慎重に調べた上で実用化を目指したいと思います。ですが、その前に父上から許可が頂ければ幸いでございます」
ギルソンはそう言うと、跪いて頭を深く垂れた。
そのギルソンの態度に、国王はずいぶん悩ましげのようだ。そして、悩み抜いてギルソンに声を掛ける。
「分かった、やってみるとよい。ただし、無茶はさせ過ぎないようにしっかりと注意をする事だ。お前のオートマタはいろいろと勝手な行動が目立つのでな」
国王が許可を出すが、条件付きだった。畑に鉄道に、いろいろ勝手に派手にやらかしているのだ。それは注文がつくのも無理はない話なのである。
「承知致しました。許可いただき誠にありがとうございます」
ギルソンは感謝の意を伝えると立ち上がってもう一度深く頭を下げる。そして、執務室から出ていくのだった。
ギルソンが去った執務室。国王は執務の手が止まったままだった。
「やれやれ。本当にあの子は予想をはるかに超えた成長をしてくれているな……」
ペンを置いた国王は、大きくため息をついている。
国王は目の前に置かれたダイヤモンドを手に取る。
「そういえば、これを結局置いていってしまったな。あとで返しておいてやるか」
じっとダイヤモンドを眺める国王。
「とても魔法で作ったとは思えぬ輝きよな。本物の宝石とまったく変わらぬではないか」
その美しさは、思わずため息が出てしまうほどだった。
だが、国王は我に返って首を横に大きく振る。
「いかんいかん、今私は何を思ったのだ」
頭に過った考えを必死に否定する国王。
「無茶をせぬように言うたところだが、私と王妃のために1個ずつくらいは作ってもらうとしようか」
しかし、結局は欲求に勝てず、そんな考えに至る国王なのであった。
こうして、アリスの暴走はまたひとつ、ファルーダン王国の懸念材料となったのだった。
その用件はというと、もちろんアリスが作ったとかいうダイヤモンドの件だった。
周りに気付かれないようにちゃんと包みに隠しながら、ギルソンは城の中を移動していく。
この時間の国王は執務の真っ只中であるのは、いつもの行動から分かっていた。なので、ギルソンは執務室へとやって来たのだった。
「失礼します、父上」
扉を叩いて中に呼び掛けるギルソン。
「どうしたギルソン、入ってきなさい」
国王はあっさりとギルソンを中へと招き入れる。
ギルソンが部屋の中に入ると、国王は手を止めてギルソンの方をじっと見つめていた。思わずびっくりしてしまうくらいである。
「一体何の用かな。私は忙しいんだ。大した用でないなら手短に頼むよ」
国王は再び手を動かし始める。それだけ国王としてこなさなければいけない案件が溜まっているようだった。
だがしかし、だからといって注目株である末息子であるギルソンを軽く扱えない。
そんな状況だからこそ、国王はギルソンを部屋に招き入れたのだ。
「父上。先日申されました、魔法石の代わりを見つけるという話ですが、それについてお話があります」
ギルソンがそう言うと、国王の手が再び止まる。そして、ペンを置くとじっとギルソンを見る。
「なんだ、言ってみるといい」
両肘をついてじっとギルソンを見る国王。その姿は実に国王らしく、威圧感にあふれるものだった。
なんとも久しぶりに見る国王の姿に、ギルソンは予想していなかったのか少し固まってしまっていた。
しかし、すぐに首を左右に振って奮い立つと、改めて国王の顔をじっと見る。
「父上、こちらを見て頂きたく思います」
ギルソンは懐にしまっていた布を取り出し、包んでおいたものを披露する。
中から出てきたものの見事な輝きに、国王は思わず息を飲んだ。
「ギルソン、これは?」
あまりにきれいなものだったために、国王はギルソンに問い掛ける。
「ダイヤモンドというそうです。アリスが思いもしない方法で用意してくれました」
「お前のオートマタがか? 一体どんな方法なのだ……」
「なんでも、炭を魔力で圧縮して変化させたそうです。まったく想像がつきませんが、目撃した者の話ではそういう事のようです」
「……信じられないな」
国王は、目を見開いた状態で椅子に深く腰を掛ける。
「その話の真偽はともかくとして、そのダイヤモンドとやらを見せてくれ」
「はい、こちらです」
国王が切望するので、ギルソンはダイヤモンドを国王へと手渡す。
きれいな形に整えられたダイヤモンドは、部屋の明かりに照らされてキラキラと光り輝いている。
「実に見事な宝石だな……。では、これを魔法石の代わりにするというのか?」
「できればそのようにしたいですね。そう簡単に用意できるものではありませんし、そのダイヤモンドと魔法との親和性もよく分かりませんからね」
「ふうむ……」
まだ分からない事は多いので、ギルソンは決めかねているようだった。
なにせ1個作っただけでアリスも寝込むような状態だ。大量生産などできるわけがないのである。
聡明なギルソンゆえの判断である。
「時間はかかりますが、慎重に調べた上で実用化を目指したいと思います。ですが、その前に父上から許可が頂ければ幸いでございます」
ギルソンはそう言うと、跪いて頭を深く垂れた。
そのギルソンの態度に、国王はずいぶん悩ましげのようだ。そして、悩み抜いてギルソンに声を掛ける。
「分かった、やってみるとよい。ただし、無茶はさせ過ぎないようにしっかりと注意をする事だ。お前のオートマタはいろいろと勝手な行動が目立つのでな」
国王が許可を出すが、条件付きだった。畑に鉄道に、いろいろ勝手に派手にやらかしているのだ。それは注文がつくのも無理はない話なのである。
「承知致しました。許可いただき誠にありがとうございます」
ギルソンは感謝の意を伝えると立ち上がってもう一度深く頭を下げる。そして、執務室から出ていくのだった。
ギルソンが去った執務室。国王は執務の手が止まったままだった。
「やれやれ。本当にあの子は予想をはるかに超えた成長をしてくれているな……」
ペンを置いた国王は、大きくため息をついている。
国王は目の前に置かれたダイヤモンドを手に取る。
「そういえば、これを結局置いていってしまったな。あとで返しておいてやるか」
じっとダイヤモンドを眺める国王。
「とても魔法で作ったとは思えぬ輝きよな。本物の宝石とまったく変わらぬではないか」
その美しさは、思わずため息が出てしまうほどだった。
だが、国王は我に返って首を横に大きく振る。
「いかんいかん、今私は何を思ったのだ」
頭に過った考えを必死に否定する国王。
「無茶をせぬように言うたところだが、私と王妃のために1個ずつくらいは作ってもらうとしようか」
しかし、結局は欲求に勝てず、そんな考えに至る国王なのであった。
こうして、アリスの暴走はまたひとつ、ファルーダン王国の懸念材料となったのだった。
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