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Mission136
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「なんと、そんな無茶苦茶な事をアリスはしていたのですね」
マリカとジャスミンの事情説明を聞いて、なんとも呆れた表情を見せるギルソンだった。
「はい。実は炭とダイヤモンドは同じ物質から構成されていまして、炭に圧力を加えて安定化させるとダイヤモンドになるんです。ただ、その圧力が尋常じゃないのですけれどね」
「あの真っ黒な炭とこんなきれいな宝石が同じだなんて、信じられませんね……」
ギルソンはジャスミンが持ってきたダイヤモンドを眺めながら、ため息まじりに呟いている。そのくらいに目の前にあるダイヤモンドが美しいのである。
「お姉様ったら、殿下が魔法石の代わりを用意するように持ちかけられたのを聞いて、こんな手に出たようです。私たちオートマタというのは、時に妙な知識を持っている事がございますからね」
「アリス……」
ギルソンは魔力を消耗して寝ているアリスを見つめて呟く。その表情は、自分のために無茶をさせてしまったという後悔の表情だった。
「ギルソン殿下が心を痛められることはありませんよ。お姉様が勝手にした事ですからね」
「でも……」
ジャスミンの言葉にも凹んだままのギルソンである。
「そもそもお姉様が鉄道を造ったのが原因です。全部お姉様が原因ですから、自業自得でいいんですよ。そもそも私たちオートマタはマスターのために何かをするのが役目でございます。ギルソン殿下はとにかく前を見ておいて下さい。目を覚ましたお姉様が安心できるように」
アリスを咎める一方、ギルソンを鼓舞するジャスミン。
この叱咤激励に、はっとするギルソンである。
アリスが無茶をしたのは自分のためなのだ。だったら、自分がここで止まるわけにはいかないと。
「……ありがとう、ジャスミン」
「このくらいは当然です。お姉様のためですからね」
ふんすと鼻息荒くポーズを取るジャスミン。その姿を見たマリカがつい吹き出してしまっていた。
「マスター、何がおかしいのですか」
「いえ、ジャスミンって、本当にアリスさんの事が好きなんだと思いましてね」
「まあ、好きか嫌いかといいましたら好きでございますね」
マリカが笑いを堪えながら放った言葉を肯定するジャスミンである。
ジャスミンの性格と知識の一部は、アリスの前世である娘の茉莉花の影響を受けているのだ。好きなのは当然といえるだろう。ちなみにその茉莉花ではあるが、70歳を超えてまだ元気である。あくまでもアリスの影響によるものだと思われる。
「とはいえども、いくらお姉様が気がかりとはいえ、私はあくまでもマスターであるマリカ様のオートマタです。なので、お姉様の事はギルソン殿下にお任せするしかございません」
実に不服そうな顔をしながら話すジャスミンである。オートマタとはいえ、その感情や表情はまるで人間と同じ立ち振る舞いだった。
心配そうに話すジャスミンの姿に、ギルソンはぎゅっと唇をかみしめる。
「分かりました。アリスはボクのオートマタですからね。ボクのために尽力してくれるのは嬉しいですが、さすがにこんな無茶までされてしまっては心苦しい限りですものね」
本当に悔しそうなギルソンは、アリスを心配そうに見つめている。
「では、用件は終わりましたので、私たちはこれで失礼させて頂きます」
「し、失礼致します、ギルソン殿下」
ジャスミンが挨拶をすると、慌てたようにマリカも挨拶をして頭を下げている。
ジャスミンの話が難しすぎたために、今回せっかくギルソンと顔を合わせたのにほぼ黙り込んだ状態のマリカだった。帰る時の姿は、それは残念そうにしょぼくれていた。
そのマリカの姿に思わず笑みをこぼしてしまいながらも、ギルソンは最後までじっと視線を送り続けていた。
扉が閉まって二人の姿が見えなくなると、ギルソンはすやすや眠るアリスの下へと歩み寄っていく。
そして、アリスが寝かされているソファに腰を掛けると、アリスへと声を掛ける。
「まったく、ボクのオートマタはいつでもみんなを驚かせてくれるね。本当に仕方のないオートマタだよ」
そっとその髪を撫でると、アリスは少し反応を見せる。
「でも、もう少しみんなに相談をしてくれてもいいんじゃないかな。本当に一人でいろいろ突っ走りすぎなんだよ」
そして、その髪をそのまますくい上げる。手からこぼれた髪の毛は、さらさらと一本ずつなめらかに元の位置へと戻っていく。
「オートマタは人形とは言うけれど、こうやって見てみると、人間と変わらないな。……ボクために動くのはいいけれど、本当に無茶をしないでおくれよ、アリス」
ギルソンはそういうと、自分のベッドからシーツを1枚持ってきてアリスへと掛けた。
オートマタは病気にはならないとはいっても、見た目は普通の女性なのだから気遣わずにはいられないというものだった。
「アリス、悪いけれどこのダイヤモンドの件は父上に報告させてもらうからね」
アリスの耳元でささやいたギルソンは、マリカとジャスミンから受け取ったダイヤモンドを持って部屋を出ていったのだった。
この間も、アリスはまったく回復する様子もなく、そのまますーすーと寝息を立てていたのだった。
マリカとジャスミンの事情説明を聞いて、なんとも呆れた表情を見せるギルソンだった。
「はい。実は炭とダイヤモンドは同じ物質から構成されていまして、炭に圧力を加えて安定化させるとダイヤモンドになるんです。ただ、その圧力が尋常じゃないのですけれどね」
「あの真っ黒な炭とこんなきれいな宝石が同じだなんて、信じられませんね……」
ギルソンはジャスミンが持ってきたダイヤモンドを眺めながら、ため息まじりに呟いている。そのくらいに目の前にあるダイヤモンドが美しいのである。
「お姉様ったら、殿下が魔法石の代わりを用意するように持ちかけられたのを聞いて、こんな手に出たようです。私たちオートマタというのは、時に妙な知識を持っている事がございますからね」
「アリス……」
ギルソンは魔力を消耗して寝ているアリスを見つめて呟く。その表情は、自分のために無茶をさせてしまったという後悔の表情だった。
「ギルソン殿下が心を痛められることはありませんよ。お姉様が勝手にした事ですからね」
「でも……」
ジャスミンの言葉にも凹んだままのギルソンである。
「そもそもお姉様が鉄道を造ったのが原因です。全部お姉様が原因ですから、自業自得でいいんですよ。そもそも私たちオートマタはマスターのために何かをするのが役目でございます。ギルソン殿下はとにかく前を見ておいて下さい。目を覚ましたお姉様が安心できるように」
アリスを咎める一方、ギルソンを鼓舞するジャスミン。
この叱咤激励に、はっとするギルソンである。
アリスが無茶をしたのは自分のためなのだ。だったら、自分がここで止まるわけにはいかないと。
「……ありがとう、ジャスミン」
「このくらいは当然です。お姉様のためですからね」
ふんすと鼻息荒くポーズを取るジャスミン。その姿を見たマリカがつい吹き出してしまっていた。
「マスター、何がおかしいのですか」
「いえ、ジャスミンって、本当にアリスさんの事が好きなんだと思いましてね」
「まあ、好きか嫌いかといいましたら好きでございますね」
マリカが笑いを堪えながら放った言葉を肯定するジャスミンである。
ジャスミンの性格と知識の一部は、アリスの前世である娘の茉莉花の影響を受けているのだ。好きなのは当然といえるだろう。ちなみにその茉莉花ではあるが、70歳を超えてまだ元気である。あくまでもアリスの影響によるものだと思われる。
「とはいえども、いくらお姉様が気がかりとはいえ、私はあくまでもマスターであるマリカ様のオートマタです。なので、お姉様の事はギルソン殿下にお任せするしかございません」
実に不服そうな顔をしながら話すジャスミンである。オートマタとはいえ、その感情や表情はまるで人間と同じ立ち振る舞いだった。
心配そうに話すジャスミンの姿に、ギルソンはぎゅっと唇をかみしめる。
「分かりました。アリスはボクのオートマタですからね。ボクのために尽力してくれるのは嬉しいですが、さすがにこんな無茶までされてしまっては心苦しい限りですものね」
本当に悔しそうなギルソンは、アリスを心配そうに見つめている。
「では、用件は終わりましたので、私たちはこれで失礼させて頂きます」
「し、失礼致します、ギルソン殿下」
ジャスミンが挨拶をすると、慌てたようにマリカも挨拶をして頭を下げている。
ジャスミンの話が難しすぎたために、今回せっかくギルソンと顔を合わせたのにほぼ黙り込んだ状態のマリカだった。帰る時の姿は、それは残念そうにしょぼくれていた。
そのマリカの姿に思わず笑みをこぼしてしまいながらも、ギルソンは最後までじっと視線を送り続けていた。
扉が閉まって二人の姿が見えなくなると、ギルソンはすやすや眠るアリスの下へと歩み寄っていく。
そして、アリスが寝かされているソファに腰を掛けると、アリスへと声を掛ける。
「まったく、ボクのオートマタはいつでもみんなを驚かせてくれるね。本当に仕方のないオートマタだよ」
そっとその髪を撫でると、アリスは少し反応を見せる。
「でも、もう少しみんなに相談をしてくれてもいいんじゃないかな。本当に一人でいろいろ突っ走りすぎなんだよ」
そして、その髪をそのまますくい上げる。手からこぼれた髪の毛は、さらさらと一本ずつなめらかに元の位置へと戻っていく。
「オートマタは人形とは言うけれど、こうやって見てみると、人間と変わらないな。……ボクために動くのはいいけれど、本当に無茶をしないでおくれよ、アリス」
ギルソンはそういうと、自分のベッドからシーツを1枚持ってきてアリスへと掛けた。
オートマタは病気にはならないとはいっても、見た目は普通の女性なのだから気遣わずにはいられないというものだった。
「アリス、悪いけれどこのダイヤモンドの件は父上に報告させてもらうからね」
アリスの耳元でささやいたギルソンは、マリカとジャスミンから受け取ったダイヤモンドを持って部屋を出ていったのだった。
この間も、アリスはまったく回復する様子もなく、そのまますーすーと寝息を立てていたのだった。
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