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Mission132
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商談を終えた翌日、ギルソンはアリスとともにファルーダン王国へと戻っていく。
その見送りに大公がやって来ていたのだが、その表情はなんとも複雑そうなものだった。ギルソンの表情が満足げだったがために、なんとも対照的で印象に残るものだった。
そして、半日ほどでファルーダンに戻ってきたギルソンは、早速父親であるファルーダン国王に報告へと向かった。
ギルソンから報告を受けた国王は、アリスが予想していた通り頭を抱えていた。ギルソンはやりすぎなのである。
「ギルソンよ。さすがに魔法石をこれ以上出すわけにはいかぬ。どうにか代替手段を考えるのだな。オートマタはこの国とは切っても切れぬものなのだからな」
さすがに魔法石をこれ以上大量に使う事に対して許可が下りなかった。オートマタはファルーダンの最大の特色であるのだから、予想の範囲内というところである。
「分かりました、父上。魔法石は使わずにどうにかしてみせます」
ギルソンは自信たっぷりに告げて、国王への報告を終えたのだった。
おとなしくギルソンが去ったのを確認した国王は、思わずそのまま背中を倒していた。
「やれやれ、あれが私の息子かと思うと恐ろしい限りだ。まさか、海向こうの人物に対しても交渉を成立させてしまうとはな……」
思わずぶるぶると頭を左右に振る国王である。
マスカード帝国との交渉の時からずっと思っていたのだが、話を聞く度に自分の末の息子の能力に驚かされるばかりだ。これでいてギルソンには王位を継ぐ意思がないというのだから、怖い限りなのだ。
あれだけの行動力、交渉力、判断力があるのなら、裏から国を操る事だって可能だろう。
ギルソンがどういう方向性で育っていくのか、心配になっていくばかりである。
「アダマス、居るか?」
「はいこちらに」
どこからともなく姿を見せる細身の男性。彼は国王のオートマタである。
「しばらく、ギルソンの事を監視してくれ。必要なら、ギルソンのオートマタであるアリスと連携を取ってくれ」
「畏まりました。陛下の身辺の警護はよろしいのですか?」
「護衛が居るし、下手に私の身を狙う者もおるまい。それよりも、今はギルソンの方が心配だ」
国王が頭を抱えるようにしながら言うので、アダマスも察したようである。
「承知致しました。このアダマス、その命、しかと遂行してみせましょう」
アダマスはそう言うと、国王の部屋から姿を消したのだった。
「ギルソンは聡い子ゆえに、踏み外す事はないだろうがな……。父親として行く末が心配なのだよ」
いろいろと国の利益になることをやってのけてくれるギルソンだが、そのペースと規模に逆に心配になってきてしまう父親である国王。
しばらくの間、そのまま頭を抱え続けるのだった。
自室に戻ったギルソンは、天井を見上げながらため息をついていた。
「魔法石はやはりだめでしたか……。しかし、魔法石の代わりとなると、そんな都合のいい石なんてありますかね」
愚痴のように漏らすギルソン。その様子をアリスは黙って見守っている。
そのアリスに対して、ギルソンが視線を向けてくる。
「ねえ、アリス」
「なんでしょうか、マイマスター」
声を掛けられて反応するアリス。
「魔法石と同じように魔力を含んだ石っていうのはあると思うかい?」
自分で抱え込んだ課題に対して、アリスに意見を求めるギルソン。
「そうですね。魔法の使えない人間だと、その辺りは難しい問題です。オートマタである私に聞いたのは正解ですね」
すぐに答えを返さずに、少しはぐらかすアリス。
「ですが、私ではそこまで満足する答えを導き出すのは厳しいでしょう」
「そうか……」
アリスの答えを聞いて、今度は机に突っ伏すギルソンである。
壁にぶち当たって、少々ふて腐れ気味のようだ。
「マイマスター、諦めるのは早いというものです。こういう時は詳しい方に聞いてみるべきなのですよ」
「詳しい人?」
反応するギルソンの言葉に対して、こくりと頷くアリス。
「おそらくもう戻ってきていらっしゃると思いますので、アワード殿下に会いに参りましょう」
「アワード兄様に?」
眉をひそめているギルソンに、今度は力強く頷くアリスである。
とにかく行けば分かると、アリスはギルソンを無理やり椅子から立ち上がらせる。
「わわっ、アリス。一人で歩けるからやめて下さい」
思わぬ事態に慌てるギルソン。まだ12歳という幼さゆえに、可愛い反応を見せている。
アリスは抱え上げていたギルソンを床に下ろすと、その手を引いて部屋を出ていく。
それにしても、アリスには一体どんな狙いがあるというのだろうか。
ギルソンにしては珍しく、自分のオートマタに対して疑いの目を向けている。ただ、アリスとしてはギルソンの気持ちが分かるので、あえて反応することなくアワードの部屋へと向かう。
そして、アワードの部屋の前に到着すると、その扉を叩く。
「アワード殿下、失礼致します。弟君であられるギルソン殿下とそのオートマタ、アリスでございます。部屋に入ってもよろしいでしょうか」
アリスの呼び掛けに、しばらくすると返事がある。
「ギルソンとアリスかい? ちょうどよかった、入っても大丈夫です」
アワードから入室許可が出たので、二人揃って扉を開けて部屋へと入っていったのだった。
その見送りに大公がやって来ていたのだが、その表情はなんとも複雑そうなものだった。ギルソンの表情が満足げだったがために、なんとも対照的で印象に残るものだった。
そして、半日ほどでファルーダンに戻ってきたギルソンは、早速父親であるファルーダン国王に報告へと向かった。
ギルソンから報告を受けた国王は、アリスが予想していた通り頭を抱えていた。ギルソンはやりすぎなのである。
「ギルソンよ。さすがに魔法石をこれ以上出すわけにはいかぬ。どうにか代替手段を考えるのだな。オートマタはこの国とは切っても切れぬものなのだからな」
さすがに魔法石をこれ以上大量に使う事に対して許可が下りなかった。オートマタはファルーダンの最大の特色であるのだから、予想の範囲内というところである。
「分かりました、父上。魔法石は使わずにどうにかしてみせます」
ギルソンは自信たっぷりに告げて、国王への報告を終えたのだった。
おとなしくギルソンが去ったのを確認した国王は、思わずそのまま背中を倒していた。
「やれやれ、あれが私の息子かと思うと恐ろしい限りだ。まさか、海向こうの人物に対しても交渉を成立させてしまうとはな……」
思わずぶるぶると頭を左右に振る国王である。
マスカード帝国との交渉の時からずっと思っていたのだが、話を聞く度に自分の末の息子の能力に驚かされるばかりだ。これでいてギルソンには王位を継ぐ意思がないというのだから、怖い限りなのだ。
あれだけの行動力、交渉力、判断力があるのなら、裏から国を操る事だって可能だろう。
ギルソンがどういう方向性で育っていくのか、心配になっていくばかりである。
「アダマス、居るか?」
「はいこちらに」
どこからともなく姿を見せる細身の男性。彼は国王のオートマタである。
「しばらく、ギルソンの事を監視してくれ。必要なら、ギルソンのオートマタであるアリスと連携を取ってくれ」
「畏まりました。陛下の身辺の警護はよろしいのですか?」
「護衛が居るし、下手に私の身を狙う者もおるまい。それよりも、今はギルソンの方が心配だ」
国王が頭を抱えるようにしながら言うので、アダマスも察したようである。
「承知致しました。このアダマス、その命、しかと遂行してみせましょう」
アダマスはそう言うと、国王の部屋から姿を消したのだった。
「ギルソンは聡い子ゆえに、踏み外す事はないだろうがな……。父親として行く末が心配なのだよ」
いろいろと国の利益になることをやってのけてくれるギルソンだが、そのペースと規模に逆に心配になってきてしまう父親である国王。
しばらくの間、そのまま頭を抱え続けるのだった。
自室に戻ったギルソンは、天井を見上げながらため息をついていた。
「魔法石はやはりだめでしたか……。しかし、魔法石の代わりとなると、そんな都合のいい石なんてありますかね」
愚痴のように漏らすギルソン。その様子をアリスは黙って見守っている。
そのアリスに対して、ギルソンが視線を向けてくる。
「ねえ、アリス」
「なんでしょうか、マイマスター」
声を掛けられて反応するアリス。
「魔法石と同じように魔力を含んだ石っていうのはあると思うかい?」
自分で抱え込んだ課題に対して、アリスに意見を求めるギルソン。
「そうですね。魔法の使えない人間だと、その辺りは難しい問題です。オートマタである私に聞いたのは正解ですね」
すぐに答えを返さずに、少しはぐらかすアリス。
「ですが、私ではそこまで満足する答えを導き出すのは厳しいでしょう」
「そうか……」
アリスの答えを聞いて、今度は机に突っ伏すギルソンである。
壁にぶち当たって、少々ふて腐れ気味のようだ。
「マイマスター、諦めるのは早いというものです。こういう時は詳しい方に聞いてみるべきなのですよ」
「詳しい人?」
反応するギルソンの言葉に対して、こくりと頷くアリス。
「おそらくもう戻ってきていらっしゃると思いますので、アワード殿下に会いに参りましょう」
「アワード兄様に?」
眉をひそめているギルソンに、今度は力強く頷くアリスである。
とにかく行けば分かると、アリスはギルソンを無理やり椅子から立ち上がらせる。
「わわっ、アリス。一人で歩けるからやめて下さい」
思わぬ事態に慌てるギルソン。まだ12歳という幼さゆえに、可愛い反応を見せている。
アリスは抱え上げていたギルソンを床に下ろすと、その手を引いて部屋を出ていく。
それにしても、アリスには一体どんな狙いがあるというのだろうか。
ギルソンにしては珍しく、自分のオートマタに対して疑いの目を向けている。ただ、アリスとしてはギルソンの気持ちが分かるので、あえて反応することなくアワードの部屋へと向かう。
そして、アワードの部屋の前に到着すると、その扉を叩く。
「アワード殿下、失礼致します。弟君であられるギルソン殿下とそのオートマタ、アリスでございます。部屋に入ってもよろしいでしょうか」
アリスの呼び掛けに、しばらくすると返事がある。
「ギルソンとアリスかい? ちょうどよかった、入っても大丈夫です」
アワードから入室許可が出たので、二人揃って扉を開けて部屋へと入っていったのだった。
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