転生オートマタ

未羊

文字の大きさ
上 下
133 / 173

Mission132

しおりを挟む
 商談を終えた翌日、ギルソンはアリスとともにファルーダン王国へと戻っていく。
 その見送りに大公がやって来ていたのだが、その表情はなんとも複雑そうなものだった。ギルソンの表情が満足げだったがために、なんとも対照的で印象に残るものだった。
 そして、半日ほどでファルーダンに戻ってきたギルソンは、早速父親であるファルーダン国王に報告へと向かった。
 ギルソンから報告を受けた国王は、アリスが予想していた通り頭を抱えていた。ギルソンはやりすぎなのである。
「ギルソンよ。さすがに魔法石をこれ以上出すわけにはいかぬ。どうにか代替手段を考えるのだな。オートマタはこの国とは切っても切れぬものなのだからな」
 さすがに魔法石をこれ以上大量に使う事に対して許可が下りなかった。オートマタはファルーダンの最大の特色であるのだから、予想の範囲内というところである。
「分かりました、父上。魔法石は使わずにどうにかしてみせます」
 ギルソンは自信たっぷりに告げて、国王への報告を終えたのだった。

 おとなしくギルソンが去ったのを確認した国王は、思わずそのまま背中を倒していた。
「やれやれ、あれが私の息子かと思うと恐ろしい限りだ。まさか、海向こうの人物に対しても交渉を成立させてしまうとはな……」
 思わずぶるぶると頭を左右に振る国王である。
 マスカード帝国との交渉の時からずっと思っていたのだが、話を聞く度に自分の末の息子の能力に驚かされるばかりだ。これでいてギルソンには王位を継ぐ意思がないというのだから、怖い限りなのだ。
 あれだけの行動力、交渉力、判断力があるのなら、裏から国を操る事だって可能だろう。
 ギルソンがどういう方向性で育っていくのか、心配になっていくばかりである。
「アダマス、居るか?」
「はいこちらに」
 どこからともなく姿を見せる細身の男性。彼は国王のオートマタである。
「しばらく、ギルソンの事を監視してくれ。必要なら、ギルソンのオートマタであるアリスと連携を取ってくれ」
「畏まりました。陛下の身辺の警護はよろしいのですか?」
「護衛が居るし、下手に私の身を狙う者もおるまい。それよりも、今はギルソンの方が心配だ」
 国王が頭を抱えるようにしながら言うので、アダマスも察したようである。
「承知致しました。このアダマス、その命、しかと遂行してみせましょう」
 アダマスはそう言うと、国王の部屋から姿を消したのだった。
「ギルソンは聡い子ゆえに、踏み外す事はないだろうがな……。父親として行く末が心配なのだよ」
 いろいろと国の利益になることをやってのけてくれるギルソンだが、そのペースと規模に逆に心配になってきてしまう父親である国王。
 しばらくの間、そのまま頭を抱え続けるのだった。

 自室に戻ったギルソンは、天井を見上げながらため息をついていた。
「魔法石はやはりだめでしたか……。しかし、魔法石の代わりとなると、そんな都合のいい石なんてありますかね」
 愚痴のように漏らすギルソン。その様子をアリスは黙って見守っている。
 そのアリスに対して、ギルソンが視線を向けてくる。
「ねえ、アリス」
「なんでしょうか、マイマスター」
 声を掛けられて反応するアリス。
「魔法石と同じように魔力を含んだ石っていうのはあると思うかい?」
 自分で抱え込んだ課題に対して、アリスに意見を求めるギルソン。
「そうですね。魔法の使えない人間だと、その辺りは難しい問題です。オートマタである私に聞いたのは正解ですね」
 すぐに答えを返さずに、少しはぐらかすアリス。
「ですが、私ではそこまで満足する答えを導き出すのは厳しいでしょう」
「そうか……」
 アリスの答えを聞いて、今度は机に突っ伏すギルソンである。
 壁にぶち当たって、少々ふて腐れ気味のようだ。
「マイマスター、諦めるのは早いというものです。こういう時は詳しい方に聞いてみるべきなのですよ」
「詳しい人?」
 反応するギルソンの言葉に対して、こくりと頷くアリス。
「おそらくもう戻ってきていらっしゃると思いますので、アワード殿下に会いに参りましょう」
「アワード兄様に?」
 眉をひそめているギルソンに、今度は力強く頷くアリスである。
 とにかく行けば分かると、アリスはギルソンを無理やり椅子から立ち上がらせる。
「わわっ、アリス。一人で歩けるからやめて下さい」
 思わぬ事態に慌てるギルソン。まだ12歳という幼さゆえに、可愛い反応を見せている。
 アリスは抱え上げていたギルソンを床に下ろすと、その手を引いて部屋を出ていく。
 それにしても、アリスには一体どんな狙いがあるというのだろうか。
 ギルソンにしては珍しく、自分のオートマタに対して疑いの目を向けている。ただ、アリスとしてはギルソンの気持ちが分かるので、あえて反応することなくアワードの部屋へと向かう。
 そして、アワードの部屋の前に到着すると、その扉を叩く。
「アワード殿下、失礼致します。弟君であられるギルソン殿下とそのオートマタ、アリスでございます。部屋に入ってもよろしいでしょうか」
 アリスの呼び掛けに、しばらくすると返事がある。
「ギルソンとアリスかい? ちょうどよかった、入っても大丈夫です」
 アワードから入室許可が出たので、二人揃って扉を開けて部屋へと入っていったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる

千環
恋愛
 第三王子の婚約者であった侯爵令嬢アドリアーナだが、第三王子が想いを寄せる男爵令嬢を害した罪で婚約破棄を言い渡されたことによりスタングロム侯爵家から勘当され、平民アニーとして生きることとなった。  なんとか日々を過ごす内に12年の歳月が流れ、ある時出会った10歳年上の平民アレクと結ばれて、可愛い娘チェルシーを授かり、とても幸せに暮らしていたのだが……道に飛び出して馬車に轢かれそうになった娘を庇おうとしたアニーは気付けば6歳のアドリアーナに戻っていた。

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

幼女に転生したらイケメン冒険者パーティーに保護&溺愛されています

ひなた
ファンタジー
死んだと思ったら 目の前に神様がいて、 剣と魔法のファンタジー異世界に転生することに! 魔法のチート能力をもらったものの、 いざ転生したら10歳の幼女だし、草原にぼっちだし、いきなり魔物でるし、 魔力はあって魔法適正もあるのに肝心の使い方はわからないし で転生早々大ピンチ! そんなピンチを救ってくれたのは イケメン冒険者3人組。 その3人に保護されつつパーティーメンバーとして冒険者登録することに! 日々の疲労の癒しとしてイケメン3人に可愛いがられる毎日が、始まりました。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...