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Mission130
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交渉自体は例年の通り、淡々と繰り広げられる。
海向こうの陸地で商売を営むフォリンとアンジーとの間で、名産品の取引である。それは食品であったり工芸品であったりと、その種類は様々だった。
ソルティエ公国から提供される食品関連は、塩やワインといったところだ。あとは常飲されている紅茶といったところだろう。
反対に海向こうの二人から提示されている内容に、アリスが目を輝かせる事となる。
なにせ、アリスにとってはなじみの深いものばかりだったのだ。
こちらでももどきのようなものを作り始めたばかりだっただけに、すでにでき上がっているものが手に入るのは嬉しい限りだ。
ただ、アリスはオートマタがために食事が要らない。その点だけが悔しくてたまらないようだった。
(味噌と醤油、それと緑茶。まさか、こんなところで出会うとは……)
味噌と醤油はマスカード帝国の農産物の中から豆を見つけて着手したばかりだ。1年ではさすがに実用化できるレベルではなかった。
しかし、でき上がっているものが手に入るのならば、アリスの持つ魔法で解析して方法を試す事ができる。それはもう、胸躍るような話なのである。
いろいろと口を挟みたいアリスだが、オートマタであり従者という立場がゆえに、はやる気持ちをぐっとこらえて様子を見守った。
工芸品や武具などの交渉なども進められ、ようやく話が一旦落ち着く。
ここで一息入れるかと思えば、ソルティエ大公はすかさず次の話題を切り出した。
「ここまで話をしたところで、今回の目玉となる話に入ろうではないか」
大きな話題だという事を主張する大公。さすがにこれにはフォリンとアンジーも反応する。
「大公様がそこまで大きく出るという事は、相当な話題なのですな」
「それはぜひとも聞かせて頂きたいですね」
しっかりと食いついている。これには大公もにっこりである。
そこで大公はギルソンに確認を取ると、ソルティエ公国にまで敷かれた鉄道について話を始めたのだ。
さすがに突飛もない話に、二人は驚いている。
そんなわけで、実際に鉄道を見せる事となる。三人に加えて、ギルソンやアリス、それと関係者数名が同行して港町の駅へと向かった。
そこへやって来たフォリンとアンジーは、思わず開いた口が塞がらなくなっていた。
「な、なんだこれは……」
「陸の上でこんな大きなもの、建物以外で見た事ないですね」
なんとも言い難い迫力に圧倒されていたのだ。
その様子を見たソルティエ大公は、ギルソンに説明を頼んでいる。当事者に説明してもらうのが一番楽だから仕方がない。
頼まれたギルソンはこくりと頷いて了承する。そして、驚きっぱなしになっている二人の前へと移動した。
「失礼致します。説明を任されましたので、ここからはボクが代わって説明致します」
ギルソンはそう言うと、アリスと駅員を務めるオートマタを呼び寄せた。
「こちらの乗り物が、列車というものです。鉄道と呼ばれる設備の中で、人や物を乗せて移動のできるものとなります」
言葉が出ない二人。ギルソンは構わず説明を続ける。
「線路という2本のレールの上に沿って走るために、移動の自由度はそれほど高くありません。それでも、他の乗り物と比べても圧倒的な速さで移動する事ができます」
ここまで言ったところで、ギルソンはソルティエ大公の方を見る。ギルソンから許可を求められて、大公はこくりと頷いた。
大公から許可が下りた事で、ギルソンは二人に向けて提案を持ちかける。
「大公様から許可が下りましたので、公国の首都まで列車を走らせてみましょう」
ギルソンは生き生きとした表情でフォリンとアンジーに言葉を掛けている。なんというか驚きすぎてしまった二人は、流れに逆らうことなく列車へと乗り込んでいった。
そして、首都との間を往復して戻ってきたのだが、二人はもうそれは気が抜けたように呆然としていた。なんといっても体験した事のない乗り物と速さだ。驚きのあまりに、どう反応していいのか分からなくなっていたのだった。
「どうですかな? これさえあれば、お二人の扱う商品がより遠くまで届けられると思うのですよ」
「た、確かにこれならば、早く届けられそうだな……」
腰を抜かしながらも、フォリンがかろうじて大公の言葉に反応していた。
「ぎゃ、逆に言うのなら、こちらの大陸の奥からも、いろいろと取引できる物品を集められるというわけですな……」
アンジーも鉄道への期待を露わにしているようだった。
「ただ、こうなると我々の船というのが、一番の問題点になりそうですけれどね」
「確かにそうだな……」
さすがは商人といったところだ。魅力的なものに飛びつきつつも、すぐさま課題も見抜いてしまう。彼らが成功してきたのにも、それなりの理由があるのである。
それに対して、ギルソンはひとつ提案を行う。
ギルソンの提案は二人が課題と捉える問題点を簡単に解決できる、ファルーダン王国ならではの方法だった。
しかし、よその大陸の出身である二人は、その提案を一時的に保留するのだった。
一体ギルソンはどんな提案をしたのだろうか。
海向こうの陸地で商売を営むフォリンとアンジーとの間で、名産品の取引である。それは食品であったり工芸品であったりと、その種類は様々だった。
ソルティエ公国から提供される食品関連は、塩やワインといったところだ。あとは常飲されている紅茶といったところだろう。
反対に海向こうの二人から提示されている内容に、アリスが目を輝かせる事となる。
なにせ、アリスにとってはなじみの深いものばかりだったのだ。
こちらでももどきのようなものを作り始めたばかりだっただけに、すでにでき上がっているものが手に入るのは嬉しい限りだ。
ただ、アリスはオートマタがために食事が要らない。その点だけが悔しくてたまらないようだった。
(味噌と醤油、それと緑茶。まさか、こんなところで出会うとは……)
味噌と醤油はマスカード帝国の農産物の中から豆を見つけて着手したばかりだ。1年ではさすがに実用化できるレベルではなかった。
しかし、でき上がっているものが手に入るのならば、アリスの持つ魔法で解析して方法を試す事ができる。それはもう、胸躍るような話なのである。
いろいろと口を挟みたいアリスだが、オートマタであり従者という立場がゆえに、はやる気持ちをぐっとこらえて様子を見守った。
工芸品や武具などの交渉なども進められ、ようやく話が一旦落ち着く。
ここで一息入れるかと思えば、ソルティエ大公はすかさず次の話題を切り出した。
「ここまで話をしたところで、今回の目玉となる話に入ろうではないか」
大きな話題だという事を主張する大公。さすがにこれにはフォリンとアンジーも反応する。
「大公様がそこまで大きく出るという事は、相当な話題なのですな」
「それはぜひとも聞かせて頂きたいですね」
しっかりと食いついている。これには大公もにっこりである。
そこで大公はギルソンに確認を取ると、ソルティエ公国にまで敷かれた鉄道について話を始めたのだ。
さすがに突飛もない話に、二人は驚いている。
そんなわけで、実際に鉄道を見せる事となる。三人に加えて、ギルソンやアリス、それと関係者数名が同行して港町の駅へと向かった。
そこへやって来たフォリンとアンジーは、思わず開いた口が塞がらなくなっていた。
「な、なんだこれは……」
「陸の上でこんな大きなもの、建物以外で見た事ないですね」
なんとも言い難い迫力に圧倒されていたのだ。
その様子を見たソルティエ大公は、ギルソンに説明を頼んでいる。当事者に説明してもらうのが一番楽だから仕方がない。
頼まれたギルソンはこくりと頷いて了承する。そして、驚きっぱなしになっている二人の前へと移動した。
「失礼致します。説明を任されましたので、ここからはボクが代わって説明致します」
ギルソンはそう言うと、アリスと駅員を務めるオートマタを呼び寄せた。
「こちらの乗り物が、列車というものです。鉄道と呼ばれる設備の中で、人や物を乗せて移動のできるものとなります」
言葉が出ない二人。ギルソンは構わず説明を続ける。
「線路という2本のレールの上に沿って走るために、移動の自由度はそれほど高くありません。それでも、他の乗り物と比べても圧倒的な速さで移動する事ができます」
ここまで言ったところで、ギルソンはソルティエ大公の方を見る。ギルソンから許可を求められて、大公はこくりと頷いた。
大公から許可が下りた事で、ギルソンは二人に向けて提案を持ちかける。
「大公様から許可が下りましたので、公国の首都まで列車を走らせてみましょう」
ギルソンは生き生きとした表情でフォリンとアンジーに言葉を掛けている。なんというか驚きすぎてしまった二人は、流れに逆らうことなく列車へと乗り込んでいった。
そして、首都との間を往復して戻ってきたのだが、二人はもうそれは気が抜けたように呆然としていた。なんといっても体験した事のない乗り物と速さだ。驚きのあまりに、どう反応していいのか分からなくなっていたのだった。
「どうですかな? これさえあれば、お二人の扱う商品がより遠くまで届けられると思うのですよ」
「た、確かにこれならば、早く届けられそうだな……」
腰を抜かしながらも、フォリンがかろうじて大公の言葉に反応していた。
「ぎゃ、逆に言うのなら、こちらの大陸の奥からも、いろいろと取引できる物品を集められるというわけですな……」
アンジーも鉄道への期待を露わにしているようだった。
「ただ、こうなると我々の船というのが、一番の問題点になりそうですけれどね」
「確かにそうだな……」
さすがは商人といったところだ。魅力的なものに飛びつきつつも、すぐさま課題も見抜いてしまう。彼らが成功してきたのにも、それなりの理由があるのである。
それに対して、ギルソンはひとつ提案を行う。
ギルソンの提案は二人が課題と捉える問題点を簡単に解決できる、ファルーダン王国ならではの方法だった。
しかし、よその大陸の出身である二人は、その提案を一時的に保留するのだった。
一体ギルソンはどんな提案をしたのだろうか。
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