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Mission127
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覚悟を決めたギルソンとアリスは、ソルティエ公国へと列車に乗り込んで向かう。
今走らせている列車は試運転用の列車であり、現在はまだ国境までしか運行できていなかった。
それというのも列車が製造が間に合っておらず、かつ、ソルティエ公国内ので駅の整備が間に合っていないのだ。それでいまだに開業に至っていないのである。
「頑張って下さってましたが、この商談には間に合いませんでしたね」
「残念でなりませんね、マイマスター」
間に合わなかった事を悔しがりつつも、商談に向けて気持ちを切り替えるギルソンとアリスなのであった。
そんな状態の二人を乗せた列車は、無事にソルティエ公国の首都へと到着したのだった。
「お久しぶりでございます、ソルティエ大公」
「うむ、ギルソンか。久しいな」
早速、大公邸で顔を合わせるギルソンとアリス。
「それにしても、我が子たちは連れてこなかったのだな」
大公は眉をひそめながらギルソンに問い掛ける。どうやら大公は、自分の子どもであるポルトとマリンもやって来るものだと思っていたらしい。もしかしたら、自分の仕事を見せつけるつもりだったのかもしれない。
「申し訳ございません。来年からの学園の準備がございまして、どうしても連れ出す事ができなかったのです。今回はボクだけでご勘弁を願います」
実に残念そうな顔をしている大公に、ギルソンはただ謝罪する事しかできなかった。
だが、そこまで真剣に謝罪されると、大公の方も反応に困るというものだった。子どもたちが来ると勝手に期待しただけなのだから、どうしたものかと戸惑っているようである。
そこで仕方なく、咳払いをしてごまかす大公である。
「ま、まあ、来れなかったのは残念だが仕方がない。舶来の者との商談は、予定通り2日後だ。それまではゆっくり休んでくれたまえ」
大公はそう言うと、使用人を呼んでギルソンたちを客間へと案内させる。
ギルソンたちを使用人に任せた大公は、椅子に深く腰を掛け直してため息をついている。
「さて、明後日はあの王子の実力拝見とさせてもらおうか。いつもの通りにやるだけではなく、積極的に参加させてやらないとな」
大公はそう考えると、椅子から立ち上がって部屋を移っていったのだった。
そして、2日後を迎え、商談が行われる日がやって来た。
この日はせっかく開通した鉄道に乗って港町へと向かう。
普段ならば馬車で2時間はかかっていた片道が、たったの10分ほどである。
「うーむ、さすがに早すぎる。いつになったらこの鉄道は開業できるのだ?」
思わずギルソンに問い掛けてしまう大公だった。
「こちらのオートマタは配置できておりますから、開業自体はいつでも可能です。遅れている理由としては、列車の製造が間に合っていない事もございますが、もう一つはソルティエ公国の整備不足ですね」
「なんと、こちらも原因なのか?」
ギルソンの返答に、思わず驚いてしまう大公である。
「はい。マスカード帝国の開業がスムーズだったのは、皇子であるイスヴァン殿下の理解があったおかげです。おかげで駅周辺の整備が十分で、開通からそう時間を掛けずに開業できました」
ギルソンの説明をしっかりと聞く大公である。
子どもの説明に大人が、しかも一国の主が真剣に耳を傾けているのである。なんとも不思議な光景だ。
しかし、今回の交渉ではこの鉄道というものが重要な位置にあるがために、大公とて軽々に扱えないのである。だからこそ、ギルソンの説明にここまで聞き入っているのだ。
「ふむ、分かった。そこは早急に対応しよう。私の理解が不足していたようだな、謝罪しよう」
そういう背景があるためか、大公がすんなり謝罪してきた。
「いえ、初めてのものともなると、なかなかに受け入れにくいものです。ボクの方としても説明が不足していたと思います。こちらこそ申し訳ございませんでした」
その謝罪を受け入れつつも、ギルソンの方も大公に謝罪していた。互いに謙虚なものである。
そういったやり取りを経て、ギルソンとアリスは、大公とともに商談の行われる会場へと向かった。
今回の会場となるのは、例年通り、港町にある商業組合の一室である。
さすがに大物が揃うとだけあって、その部屋はかなり広く、全体的にきれいにされている。
(ほう、これはしっかりと掃除が行き届いておりますね。これだけの部屋をきれいに磨き上げる腕前……、侮れませんね)
ついメイドとしての分析をしてしまうアリスである。
それにしても、商談の会場となる部屋にはまだ誰も到着してはいなかった。
「まだ誰も来ていないのですね」
「私どもが早く来すぎただけですよ。いつもならまだ2時間も後なんですからね」
ギルソンが疑問に思うと、大公からは即返答があった。
なるほどと思うギルソンである。
港町まで建設した鉄道のせいで、いつもの時間に出たら早く着きすぎてしまった。ただそれだけの事だった。
仕方がないので、他の商談の面々が到着するまで、大公から商談に関する話を延々と聞かされる事となったのだった。
そうしていると、やがて外が騒がしくなってくる。
どうやら商談の相手が到着したようだった。
はてさて、ギルソンは一体どんな成果を見せてくれるのだろうか。大公の瞳がきらりと光るのだった。
今走らせている列車は試運転用の列車であり、現在はまだ国境までしか運行できていなかった。
それというのも列車が製造が間に合っておらず、かつ、ソルティエ公国内ので駅の整備が間に合っていないのだ。それでいまだに開業に至っていないのである。
「頑張って下さってましたが、この商談には間に合いませんでしたね」
「残念でなりませんね、マイマスター」
間に合わなかった事を悔しがりつつも、商談に向けて気持ちを切り替えるギルソンとアリスなのであった。
そんな状態の二人を乗せた列車は、無事にソルティエ公国の首都へと到着したのだった。
「お久しぶりでございます、ソルティエ大公」
「うむ、ギルソンか。久しいな」
早速、大公邸で顔を合わせるギルソンとアリス。
「それにしても、我が子たちは連れてこなかったのだな」
大公は眉をひそめながらギルソンに問い掛ける。どうやら大公は、自分の子どもであるポルトとマリンもやって来るものだと思っていたらしい。もしかしたら、自分の仕事を見せつけるつもりだったのかもしれない。
「申し訳ございません。来年からの学園の準備がございまして、どうしても連れ出す事ができなかったのです。今回はボクだけでご勘弁を願います」
実に残念そうな顔をしている大公に、ギルソンはただ謝罪する事しかできなかった。
だが、そこまで真剣に謝罪されると、大公の方も反応に困るというものだった。子どもたちが来ると勝手に期待しただけなのだから、どうしたものかと戸惑っているようである。
そこで仕方なく、咳払いをしてごまかす大公である。
「ま、まあ、来れなかったのは残念だが仕方がない。舶来の者との商談は、予定通り2日後だ。それまではゆっくり休んでくれたまえ」
大公はそう言うと、使用人を呼んでギルソンたちを客間へと案内させる。
ギルソンたちを使用人に任せた大公は、椅子に深く腰を掛け直してため息をついている。
「さて、明後日はあの王子の実力拝見とさせてもらおうか。いつもの通りにやるだけではなく、積極的に参加させてやらないとな」
大公はそう考えると、椅子から立ち上がって部屋を移っていったのだった。
そして、2日後を迎え、商談が行われる日がやって来た。
この日はせっかく開通した鉄道に乗って港町へと向かう。
普段ならば馬車で2時間はかかっていた片道が、たったの10分ほどである。
「うーむ、さすがに早すぎる。いつになったらこの鉄道は開業できるのだ?」
思わずギルソンに問い掛けてしまう大公だった。
「こちらのオートマタは配置できておりますから、開業自体はいつでも可能です。遅れている理由としては、列車の製造が間に合っていない事もございますが、もう一つはソルティエ公国の整備不足ですね」
「なんと、こちらも原因なのか?」
ギルソンの返答に、思わず驚いてしまう大公である。
「はい。マスカード帝国の開業がスムーズだったのは、皇子であるイスヴァン殿下の理解があったおかげです。おかげで駅周辺の整備が十分で、開通からそう時間を掛けずに開業できました」
ギルソンの説明をしっかりと聞く大公である。
子どもの説明に大人が、しかも一国の主が真剣に耳を傾けているのである。なんとも不思議な光景だ。
しかし、今回の交渉ではこの鉄道というものが重要な位置にあるがために、大公とて軽々に扱えないのである。だからこそ、ギルソンの説明にここまで聞き入っているのだ。
「ふむ、分かった。そこは早急に対応しよう。私の理解が不足していたようだな、謝罪しよう」
そういう背景があるためか、大公がすんなり謝罪してきた。
「いえ、初めてのものともなると、なかなかに受け入れにくいものです。ボクの方としても説明が不足していたと思います。こちらこそ申し訳ございませんでした」
その謝罪を受け入れつつも、ギルソンの方も大公に謝罪していた。互いに謙虚なものである。
そういったやり取りを経て、ギルソンとアリスは、大公とともに商談の行われる会場へと向かった。
今回の会場となるのは、例年通り、港町にある商業組合の一室である。
さすがに大物が揃うとだけあって、その部屋はかなり広く、全体的にきれいにされている。
(ほう、これはしっかりと掃除が行き届いておりますね。これだけの部屋をきれいに磨き上げる腕前……、侮れませんね)
ついメイドとしての分析をしてしまうアリスである。
それにしても、商談の会場となる部屋にはまだ誰も到着してはいなかった。
「まだ誰も来ていないのですね」
「私どもが早く来すぎただけですよ。いつもならまだ2時間も後なんですからね」
ギルソンが疑問に思うと、大公からは即返答があった。
なるほどと思うギルソンである。
港町まで建設した鉄道のせいで、いつもの時間に出たら早く着きすぎてしまった。ただそれだけの事だった。
仕方がないので、他の商談の面々が到着するまで、大公から商談に関する話を延々と聞かされる事となったのだった。
そうしていると、やがて外が騒がしくなってくる。
どうやら商談の相手が到着したようだった。
はてさて、ギルソンは一体どんな成果を見せてくれるのだろうか。大公の瞳がきらりと光るのだった。
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