127 / 189
Mission126
しおりを挟む
「ただいま戻りました」
「おお、戻ったか、セイルよ」
翌日の夕方には、ファルーダンの王城にポルト公子の侍従であるセイルが戻ってきた。
「いやはや、まさか出た翌日に戻ってこれるとは思いませんでしたね」
ソルティエ公国から戻ったセイルは、あまりの早さに若干呆けたような表情をしている。それも仕方のない話だ。通常ならばまだ往路の真っ最中で、ファルーダン王国の土地から抜け出せてもいないのだから。同じファルーダンの王国内にいるとはいっても、用事を済ませているかいないかという大きな違いがそこにはあった。
「まったくだな。あの鉄道というものはすごすぎるというに限る」
ポルトは思わず笑ってしまっていた。
「それで、父上からはなんと?」
すぐに気を取り直したポルトがセイルに問い掛けている。
「はっ、そうでした。大公様よりギルソン殿下への親書を預かっております」
「そうか。ならばすぐにギルソンに会いに行くとしようか」
「はっ、畏まりました」
報告を受けたポルトは、すぐさまギルソンの居る部屋へと向かうのだった。
ギルソンの部屋の扉が突如叩かれる。
その音に気が付いたギルソンは、すぐさま反応を見せた。
「ギルソン殿下、ポルト公子様がお見えでございます」
「分かりました。通して下さい」
ギルソンが答えると、部屋の扉が開く。そして、ポルトとセイルの二人が揃って姿を見せたのだった。
「ポルト公子、いかがなさいましたか」
ギルソンはいつものように笑顔を絶やさずに声を掛ける。
「お忙しいところ失礼致します。私のところのセイルがソルティエ公国より戻って参ったのでご報告に上がりました」
「そうなのですか。という事は、もうソルティエ大公様よりお返事を頂いたという事ですね」
「はい、その通りです」
ポルトがソルトに合図を送ると、こくりと頷いている。
アリスが近付いてセイルから手紙を受け取ると、その手紙はギルソンへと手渡された。
すぐさま封を開けて中身を確認するギルソン。読み進めながら、ふむふむと頷いている。
「これは、ずいぶんと思い切った判断をされたようですね、ソルティエ大公様は」
読み終えたギルソンが、楽しそうに笑っている。その笑みに、思わず恐怖を感じてしまうポルトである。
(怖えな。こいつ、本当にマリンと同い年なのかよ)
そう思うのも無理はない。ここまで皇帝だの大公だの、各国のお偉いさんと散々交渉をしてきたギルソンなのだ。今さらそれ以外の人たちのとの交渉に、怯むわけもないのである。
「分かりました。ちょうど交渉の日時が書かれておりますので、その2日前までに港町に入れるように手配しておきますね」
ポルトとセイルに向けて、にこりとこの上ない笑顔を向けるギルソンである。
だが、ソルティエ公国の二人からしてみれば、その笑顔がかえって怖かった。しかし、その一方で興味も引かれた。この末弟たる第五王子が、海向こうの人たちとどのような交渉を行うのかという事に。
「わざわざありがとうございました。このお礼はまた今度させて頂きますね」
「はっ、ありがたく存じます」
「そ、それは失礼するよ、ギルソン」
話が終わり、ポルトとセイルの二人が部屋を出て行くと、ギルソンはアリスに話し掛けている。
「海向こうの知識はあるかな」
「少々お待ち下さいませ」
ギルソンからの指示を受けて、アリスは自分の魔法石にアクセスして情報を探る。しかし、さすがの魔法石も万能というわけではなかったようだ。
「……申し訳ございません。私の魔法石にはマイマスターの望む情報はございませんでした」
「そうか。まあ仕方ないかな。魔法石はあくまでもファルーダンで採れる宝石だものね。こちらの陸地の記憶があっても、さすがに海向こうは厳しいよね」
ギルソンはそう言って椅子から立ち上がる。
「マイマスター、どちらに?」
「城の書庫。あそこならもしかしたらと思うからね」
「畏まりました。私もご同行致します」
「うん。頼むよ、アリス」
ギルソンはアリスを連れて、城の書庫へと向かった。
その日はさすがに夕食前とあって時間が取れなかったが、それからというもの、ソルティエ公国の商談の日まで時間が許す限り、ギルソンはアリスを伴って城の書庫へと通い詰めることにした。
しかし、鉄道で行き来が楽になった今ならともかく、昔の記録には近隣諸国の記述もほとんど見つける事はできなかった。
結局、大した情報を集める事もできず、いよいよソルティエ公国で行われる商談の日が目前まで迫ってしまった。
「……ダメでしたね」
「お役に立てず申し訳ございません、マイマスター」
「いや、アリスのせいじゃないよ。手伝ってくれてありがとう」
「恐れ多いお言葉でございます」
やるだけやってみたが、情報はまったく手に入れられなかった。しかし、日付が近付いて来てしまった以上、向かわざるを得ない。ギルソンは覚悟を決めてソルティエ公国へと向かう事にしたのだった。
はたして、ギルソンはソルティエ公国で行われる商談をうまく乗り越える事はできるのだろうか。
「おお、戻ったか、セイルよ」
翌日の夕方には、ファルーダンの王城にポルト公子の侍従であるセイルが戻ってきた。
「いやはや、まさか出た翌日に戻ってこれるとは思いませんでしたね」
ソルティエ公国から戻ったセイルは、あまりの早さに若干呆けたような表情をしている。それも仕方のない話だ。通常ならばまだ往路の真っ最中で、ファルーダン王国の土地から抜け出せてもいないのだから。同じファルーダンの王国内にいるとはいっても、用事を済ませているかいないかという大きな違いがそこにはあった。
「まったくだな。あの鉄道というものはすごすぎるというに限る」
ポルトは思わず笑ってしまっていた。
「それで、父上からはなんと?」
すぐに気を取り直したポルトがセイルに問い掛けている。
「はっ、そうでした。大公様よりギルソン殿下への親書を預かっております」
「そうか。ならばすぐにギルソンに会いに行くとしようか」
「はっ、畏まりました」
報告を受けたポルトは、すぐさまギルソンの居る部屋へと向かうのだった。
ギルソンの部屋の扉が突如叩かれる。
その音に気が付いたギルソンは、すぐさま反応を見せた。
「ギルソン殿下、ポルト公子様がお見えでございます」
「分かりました。通して下さい」
ギルソンが答えると、部屋の扉が開く。そして、ポルトとセイルの二人が揃って姿を見せたのだった。
「ポルト公子、いかがなさいましたか」
ギルソンはいつものように笑顔を絶やさずに声を掛ける。
「お忙しいところ失礼致します。私のところのセイルがソルティエ公国より戻って参ったのでご報告に上がりました」
「そうなのですか。という事は、もうソルティエ大公様よりお返事を頂いたという事ですね」
「はい、その通りです」
ポルトがソルトに合図を送ると、こくりと頷いている。
アリスが近付いてセイルから手紙を受け取ると、その手紙はギルソンへと手渡された。
すぐさま封を開けて中身を確認するギルソン。読み進めながら、ふむふむと頷いている。
「これは、ずいぶんと思い切った判断をされたようですね、ソルティエ大公様は」
読み終えたギルソンが、楽しそうに笑っている。その笑みに、思わず恐怖を感じてしまうポルトである。
(怖えな。こいつ、本当にマリンと同い年なのかよ)
そう思うのも無理はない。ここまで皇帝だの大公だの、各国のお偉いさんと散々交渉をしてきたギルソンなのだ。今さらそれ以外の人たちのとの交渉に、怯むわけもないのである。
「分かりました。ちょうど交渉の日時が書かれておりますので、その2日前までに港町に入れるように手配しておきますね」
ポルトとセイルに向けて、にこりとこの上ない笑顔を向けるギルソンである。
だが、ソルティエ公国の二人からしてみれば、その笑顔がかえって怖かった。しかし、その一方で興味も引かれた。この末弟たる第五王子が、海向こうの人たちとどのような交渉を行うのかという事に。
「わざわざありがとうございました。このお礼はまた今度させて頂きますね」
「はっ、ありがたく存じます」
「そ、それは失礼するよ、ギルソン」
話が終わり、ポルトとセイルの二人が部屋を出て行くと、ギルソンはアリスに話し掛けている。
「海向こうの知識はあるかな」
「少々お待ち下さいませ」
ギルソンからの指示を受けて、アリスは自分の魔法石にアクセスして情報を探る。しかし、さすがの魔法石も万能というわけではなかったようだ。
「……申し訳ございません。私の魔法石にはマイマスターの望む情報はございませんでした」
「そうか。まあ仕方ないかな。魔法石はあくまでもファルーダンで採れる宝石だものね。こちらの陸地の記憶があっても、さすがに海向こうは厳しいよね」
ギルソンはそう言って椅子から立ち上がる。
「マイマスター、どちらに?」
「城の書庫。あそこならもしかしたらと思うからね」
「畏まりました。私もご同行致します」
「うん。頼むよ、アリス」
ギルソンはアリスを連れて、城の書庫へと向かった。
その日はさすがに夕食前とあって時間が取れなかったが、それからというもの、ソルティエ公国の商談の日まで時間が許す限り、ギルソンはアリスを伴って城の書庫へと通い詰めることにした。
しかし、鉄道で行き来が楽になった今ならともかく、昔の記録には近隣諸国の記述もほとんど見つける事はできなかった。
結局、大した情報を集める事もできず、いよいよソルティエ公国で行われる商談の日が目前まで迫ってしまった。
「……ダメでしたね」
「お役に立てず申し訳ございません、マイマスター」
「いや、アリスのせいじゃないよ。手伝ってくれてありがとう」
「恐れ多いお言葉でございます」
やるだけやってみたが、情報はまったく手に入れられなかった。しかし、日付が近付いて来てしまった以上、向かわざるを得ない。ギルソンは覚悟を決めてソルティエ公国へと向かう事にしたのだった。
はたして、ギルソンはソルティエ公国で行われる商談をうまく乗り越える事はできるのだろうか。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

親切なミザリー
みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。
ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。
ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。
こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。
‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。
※不定期更新です。

追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

王太子妃が我慢しなさい ~姉妹差別を受けていた姉がもっとひどい兄弟差別を受けていた王太子に嫁ぎました~
玄未マオ
ファンタジー
メディア王家に伝わる古い呪いで第一王子は家族からも畏怖されていた。
その王子の元に姉妹差別を受けていたメルが嫁ぐことになるが、その事情とは?
ヒロインは姉妹差別され育っていますが、言いたいことはきっちりいう子です。

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる