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Mission126
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「ただいま戻りました」
「おお、戻ったか、セイルよ」
翌日の夕方には、ファルーダンの王城にポルト公子の侍従であるセイルが戻ってきた。
「いやはや、まさか出た翌日に戻ってこれるとは思いませんでしたね」
ソルティエ公国から戻ったセイルは、あまりの早さに若干呆けたような表情をしている。それも仕方のない話だ。通常ならばまだ往路の真っ最中で、ファルーダン王国の土地から抜け出せてもいないのだから。同じファルーダンの王国内にいるとはいっても、用事を済ませているかいないかという大きな違いがそこにはあった。
「まったくだな。あの鉄道というものはすごすぎるというに限る」
ポルトは思わず笑ってしまっていた。
「それで、父上からはなんと?」
すぐに気を取り直したポルトがセイルに問い掛けている。
「はっ、そうでした。大公様よりギルソン殿下への親書を預かっております」
「そうか。ならばすぐにギルソンに会いに行くとしようか」
「はっ、畏まりました」
報告を受けたポルトは、すぐさまギルソンの居る部屋へと向かうのだった。
ギルソンの部屋の扉が突如叩かれる。
その音に気が付いたギルソンは、すぐさま反応を見せた。
「ギルソン殿下、ポルト公子様がお見えでございます」
「分かりました。通して下さい」
ギルソンが答えると、部屋の扉が開く。そして、ポルトとセイルの二人が揃って姿を見せたのだった。
「ポルト公子、いかがなさいましたか」
ギルソンはいつものように笑顔を絶やさずに声を掛ける。
「お忙しいところ失礼致します。私のところのセイルがソルティエ公国より戻って参ったのでご報告に上がりました」
「そうなのですか。という事は、もうソルティエ大公様よりお返事を頂いたという事ですね」
「はい、その通りです」
ポルトがソルトに合図を送ると、こくりと頷いている。
アリスが近付いてセイルから手紙を受け取ると、その手紙はギルソンへと手渡された。
すぐさま封を開けて中身を確認するギルソン。読み進めながら、ふむふむと頷いている。
「これは、ずいぶんと思い切った判断をされたようですね、ソルティエ大公様は」
読み終えたギルソンが、楽しそうに笑っている。その笑みに、思わず恐怖を感じてしまうポルトである。
(怖えな。こいつ、本当にマリンと同い年なのかよ)
そう思うのも無理はない。ここまで皇帝だの大公だの、各国のお偉いさんと散々交渉をしてきたギルソンなのだ。今さらそれ以外の人たちのとの交渉に、怯むわけもないのである。
「分かりました。ちょうど交渉の日時が書かれておりますので、その2日前までに港町に入れるように手配しておきますね」
ポルトとセイルに向けて、にこりとこの上ない笑顔を向けるギルソンである。
だが、ソルティエ公国の二人からしてみれば、その笑顔がかえって怖かった。しかし、その一方で興味も引かれた。この末弟たる第五王子が、海向こうの人たちとどのような交渉を行うのかという事に。
「わざわざありがとうございました。このお礼はまた今度させて頂きますね」
「はっ、ありがたく存じます」
「そ、それは失礼するよ、ギルソン」
話が終わり、ポルトとセイルの二人が部屋を出て行くと、ギルソンはアリスに話し掛けている。
「海向こうの知識はあるかな」
「少々お待ち下さいませ」
ギルソンからの指示を受けて、アリスは自分の魔法石にアクセスして情報を探る。しかし、さすがの魔法石も万能というわけではなかったようだ。
「……申し訳ございません。私の魔法石にはマイマスターの望む情報はございませんでした」
「そうか。まあ仕方ないかな。魔法石はあくまでもファルーダンで採れる宝石だものね。こちらの陸地の記憶があっても、さすがに海向こうは厳しいよね」
ギルソンはそう言って椅子から立ち上がる。
「マイマスター、どちらに?」
「城の書庫。あそこならもしかしたらと思うからね」
「畏まりました。私もご同行致します」
「うん。頼むよ、アリス」
ギルソンはアリスを連れて、城の書庫へと向かった。
その日はさすがに夕食前とあって時間が取れなかったが、それからというもの、ソルティエ公国の商談の日まで時間が許す限り、ギルソンはアリスを伴って城の書庫へと通い詰めることにした。
しかし、鉄道で行き来が楽になった今ならともかく、昔の記録には近隣諸国の記述もほとんど見つける事はできなかった。
結局、大した情報を集める事もできず、いよいよソルティエ公国で行われる商談の日が目前まで迫ってしまった。
「……ダメでしたね」
「お役に立てず申し訳ございません、マイマスター」
「いや、アリスのせいじゃないよ。手伝ってくれてありがとう」
「恐れ多いお言葉でございます」
やるだけやってみたが、情報はまったく手に入れられなかった。しかし、日付が近付いて来てしまった以上、向かわざるを得ない。ギルソンは覚悟を決めてソルティエ公国へと向かう事にしたのだった。
はたして、ギルソンはソルティエ公国で行われる商談をうまく乗り越える事はできるのだろうか。
「おお、戻ったか、セイルよ」
翌日の夕方には、ファルーダンの王城にポルト公子の侍従であるセイルが戻ってきた。
「いやはや、まさか出た翌日に戻ってこれるとは思いませんでしたね」
ソルティエ公国から戻ったセイルは、あまりの早さに若干呆けたような表情をしている。それも仕方のない話だ。通常ならばまだ往路の真っ最中で、ファルーダン王国の土地から抜け出せてもいないのだから。同じファルーダンの王国内にいるとはいっても、用事を済ませているかいないかという大きな違いがそこにはあった。
「まったくだな。あの鉄道というものはすごすぎるというに限る」
ポルトは思わず笑ってしまっていた。
「それで、父上からはなんと?」
すぐに気を取り直したポルトがセイルに問い掛けている。
「はっ、そうでした。大公様よりギルソン殿下への親書を預かっております」
「そうか。ならばすぐにギルソンに会いに行くとしようか」
「はっ、畏まりました」
報告を受けたポルトは、すぐさまギルソンの居る部屋へと向かうのだった。
ギルソンの部屋の扉が突如叩かれる。
その音に気が付いたギルソンは、すぐさま反応を見せた。
「ギルソン殿下、ポルト公子様がお見えでございます」
「分かりました。通して下さい」
ギルソンが答えると、部屋の扉が開く。そして、ポルトとセイルの二人が揃って姿を見せたのだった。
「ポルト公子、いかがなさいましたか」
ギルソンはいつものように笑顔を絶やさずに声を掛ける。
「お忙しいところ失礼致します。私のところのセイルがソルティエ公国より戻って参ったのでご報告に上がりました」
「そうなのですか。という事は、もうソルティエ大公様よりお返事を頂いたという事ですね」
「はい、その通りです」
ポルトがソルトに合図を送ると、こくりと頷いている。
アリスが近付いてセイルから手紙を受け取ると、その手紙はギルソンへと手渡された。
すぐさま封を開けて中身を確認するギルソン。読み進めながら、ふむふむと頷いている。
「これは、ずいぶんと思い切った判断をされたようですね、ソルティエ大公様は」
読み終えたギルソンが、楽しそうに笑っている。その笑みに、思わず恐怖を感じてしまうポルトである。
(怖えな。こいつ、本当にマリンと同い年なのかよ)
そう思うのも無理はない。ここまで皇帝だの大公だの、各国のお偉いさんと散々交渉をしてきたギルソンなのだ。今さらそれ以外の人たちのとの交渉に、怯むわけもないのである。
「分かりました。ちょうど交渉の日時が書かれておりますので、その2日前までに港町に入れるように手配しておきますね」
ポルトとセイルに向けて、にこりとこの上ない笑顔を向けるギルソンである。
だが、ソルティエ公国の二人からしてみれば、その笑顔がかえって怖かった。しかし、その一方で興味も引かれた。この末弟たる第五王子が、海向こうの人たちとどのような交渉を行うのかという事に。
「わざわざありがとうございました。このお礼はまた今度させて頂きますね」
「はっ、ありがたく存じます」
「そ、それは失礼するよ、ギルソン」
話が終わり、ポルトとセイルの二人が部屋を出て行くと、ギルソンはアリスに話し掛けている。
「海向こうの知識はあるかな」
「少々お待ち下さいませ」
ギルソンからの指示を受けて、アリスは自分の魔法石にアクセスして情報を探る。しかし、さすがの魔法石も万能というわけではなかったようだ。
「……申し訳ございません。私の魔法石にはマイマスターの望む情報はございませんでした」
「そうか。まあ仕方ないかな。魔法石はあくまでもファルーダンで採れる宝石だものね。こちらの陸地の記憶があっても、さすがに海向こうは厳しいよね」
ギルソンはそう言って椅子から立ち上がる。
「マイマスター、どちらに?」
「城の書庫。あそこならもしかしたらと思うからね」
「畏まりました。私もご同行致します」
「うん。頼むよ、アリス」
ギルソンはアリスを連れて、城の書庫へと向かった。
その日はさすがに夕食前とあって時間が取れなかったが、それからというもの、ソルティエ公国の商談の日まで時間が許す限り、ギルソンはアリスを伴って城の書庫へと通い詰めることにした。
しかし、鉄道で行き来が楽になった今ならともかく、昔の記録には近隣諸国の記述もほとんど見つける事はできなかった。
結局、大した情報を集める事もできず、いよいよソルティエ公国で行われる商談の日が目前まで迫ってしまった。
「……ダメでしたね」
「お役に立てず申し訳ございません、マイマスター」
「いや、アリスのせいじゃないよ。手伝ってくれてありがとう」
「恐れ多いお言葉でございます」
やるだけやってみたが、情報はまったく手に入れられなかった。しかし、日付が近付いて来てしまった以上、向かわざるを得ない。ギルソンは覚悟を決めてソルティエ公国へと向かう事にしたのだった。
はたして、ギルソンはソルティエ公国で行われる商談をうまく乗り越える事はできるのだろうか。
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