転生オートマタ

未羊

文字の大きさ
上 下
126 / 189

Mission125

しおりを挟む
 その日のうちに、ソルティエ大公の元にギルソンの親書が届けられた。以前は何日もかかっていただけに、驚くような早さである。
「ほう、ギルソン王子からの手紙か。どれ、見せてみなさい」
「ははっ」
 セイルからソルティエ大公に、護衛を通じてギルソンの親書が手渡される。
 早速開封をして中身を確認するソルティエ大公。
 文面を読み進めていくにしたがって、その体を震わせ始めるソルティエ大公。その様子に護衛もセイルも驚きを隠せなかった。
「なんと……、なんと恐ろしい子どもよな。あれでまだ12歳とかいったか。このような提案をしてくるとは、ファルーダン王国の第五王子、侮れんな」
 天井を見上げながら、ため息を吐いて頭を左右に振るソルティエ大公である。そのくらいには、どう反応していいのか分からないようだった。
「一体どのような事が書かれていたのでしょうか」
 気になったセイルが、おそれ多くも大公へと問い掛けている。だが、ソルティエ大公は別に不機嫌になる事もなく、セイルの質問に答える。
「ふふっ、我が国の船を使った貿易に割り込もうとしているのだよ。ファルーダン王国などの特産品を輸出したり、逆に私たちが取引したものを輸入したりとな。今までは移動がネックで叶わなかったが、鉄道というもののおかげでそれが解消したのだからな」
「な、なんと……」
 大公の口から出た話に、セイルはとても驚いている。使用人とはいえども公子の専属になっているくらいだ。それなりに知識はあるし、頭の回転だっていいのである。大公の話をあっさり理解してしまったのだ。
「しかし、それを実現するには先方との話し合いが必要でございますね」
「うむ、その通りだ。次回の取引には幸い余裕がある。そこでだ、セイルよ」
「はっ、何なりと」
 大公に声を掛けられたセイルは、再び跪いている。
「次の取引の日程をファルーダン王国、いやギルソンに伝えてくれ。取引をする気があるのなら、あちらさんに出向いてもらわないとな」
「はっ、畏まりました」
 セイルが返事をすると、大公はすぐに返事となる親書を認める。そして、書き終わるとそれをセイルに持たせた。
 見送った後のソルティエ大公は、大きくため息を吐いていた。
「いやはや、ただでかいだけの隣国だと思っていたが、思わぬ伏兵が居たものだな……」
 大公は手を叩いて大臣を召喚する。
「はっ、なんでございますでしょうか、大公様」
 直立した状態から頭をしっかりと下げて挨拶をする大臣。
「私のところにこんな手紙が来たのだよ。親書だそうだから、これを書いたのはファルーダンの第五王子ギルソンらしい」
「ほう、あの幼い王子ですか。拝見してもよろしいでしょうか」
「うむ、構わん」
「では、拝見させて頂きます」
 大公は近付いてきた大臣にギルソンの親書を手渡す。渡された手紙をじっくり読む大臣は、書いてある内容に思わず震え始めていた。
「な、なんなのですか、この内容は」
 ものすごい形相で大臣は大公を見ている。この分では大臣は大公と同じ印象を持ったようだった。
「うーむ、これはとても子どもとは思えない内容ですね。本当にギルソン王子の直筆なのですか?」
「先日話をしてみた感じだが、実際に彼が考えて認めたと見て間違いないだろう」
「なんと?!」
 大公の考えに驚く大臣である。
「これはなんとしても、我が国に欲しい人材だな。ちょうど娘のマリンとは同い年だし、いいとは思わぬか?」
 にやりと笑いながら、ソルティエ大公は大臣に問い掛けている。
「左様でございますな。このような聡明さがあるのであるならば、我が国も安泰というものでしょう」
 大臣もすんなりと大公に賛成している。あの親書を見せられたのでは、賛同せざるを得ないといったところである。
「先程親書を届けに来たセイルに、私の親書を持たせてファルーダンに戻らせたところだ。あの提案をしてきたというのんら、間違いなく誘いに乗ってきてくれるだろう」
「ほほう……。その内容とは一体?」
「今度の貿易の交渉の場に参加をしてもらうのだ。あんな提案をしてきた以上、交渉の表舞台に立たぬわけにはいかないだろうからな」
「なるほど、さすがでございますな、大公様」
 ソルティエ大公も大臣も、ものすごく悪い顔をしている。
「何にしてもだ、次の貿易交渉が楽しみでならない。こんなに心躍る貿易交渉など、久しぶりだな」
「左様でございますな、大公様」
 直後に部屋の中に男性二人の笑い声がこだましていた。
 そして、ひと通り笑い終えたソルティエ大公は、大臣に命じてすぐさま次回の貿易交渉のための準備を始めさせたのである。

 こうして、次に行われるソルティエ公国と船による貿易をしている国との貿易交渉に、ギルソンも参加する事はソルティエ大公たちの間で決定事項となっていた。
 はたしてソルティエ大公からの返事を受け取ったギルソンは、一体どんな判断を下すのだろうか。
 ソルティエ大公とギルソンとの間の思惑の攻防が、今まさに始まろうとしているのである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

親切なミザリー

みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。 ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。 ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。 こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。 ‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。 ※不定期更新です。

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。 これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。 それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

元悪役令嬢はオンボロ修道院で余生を過ごす

こうじ
ファンタジー
両親から妹に婚約者を譲れと言われたレスナー・ティアント。彼女は勝手な両親や裏切った婚約者、寝取った妹に嫌気がさし自ら修道院に入る事にした。研修期間を経て彼女は修道院に入る事になったのだが彼女が送られたのは廃墟寸前の修道院でしかも修道女はレスナー一人のみ。しかし、彼女にとっては好都合だった。『誰にも邪魔されずに好きな事が出来る!これって恵まれているんじゃ?』公爵令嬢から修道女になったレスナーののんびり修道院ライフが始まる!

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

処理中です...