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Mission125
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その日のうちに、ソルティエ大公の元にギルソンの親書が届けられた。以前は何日もかかっていただけに、驚くような早さである。
「ほう、ギルソン王子からの手紙か。どれ、見せてみなさい」
「ははっ」
セイルからソルティエ大公に、護衛を通じてギルソンの親書が手渡される。
早速開封をして中身を確認するソルティエ大公。
文面を読み進めていくにしたがって、その体を震わせ始めるソルティエ大公。その様子に護衛もセイルも驚きを隠せなかった。
「なんと……、なんと恐ろしい子どもよな。あれでまだ12歳とかいったか。このような提案をしてくるとは、ファルーダン王国の第五王子、侮れんな」
天井を見上げながら、ため息を吐いて頭を左右に振るソルティエ大公である。そのくらいには、どう反応していいのか分からないようだった。
「一体どのような事が書かれていたのでしょうか」
気になったセイルが、おそれ多くも大公へと問い掛けている。だが、ソルティエ大公は別に不機嫌になる事もなく、セイルの質問に答える。
「ふふっ、我が国の船を使った貿易に割り込もうとしているのだよ。ファルーダン王国などの特産品を輸出したり、逆に私たちが取引したものを輸入したりとな。今までは移動がネックで叶わなかったが、鉄道というもののおかげでそれが解消したのだからな」
「な、なんと……」
大公の口から出た話に、セイルはとても驚いている。使用人とはいえども公子の専属になっているくらいだ。それなりに知識はあるし、頭の回転だっていいのである。大公の話をあっさり理解してしまったのだ。
「しかし、それを実現するには先方との話し合いが必要でございますね」
「うむ、その通りだ。次回の取引には幸い余裕がある。そこでだ、セイルよ」
「はっ、何なりと」
大公に声を掛けられたセイルは、再び跪いている。
「次の取引の日程をファルーダン王国、いやギルソンに伝えてくれ。取引をする気があるのなら、あちらさんに出向いてもらわないとな」
「はっ、畏まりました」
セイルが返事をすると、大公はすぐに返事となる親書を認める。そして、書き終わるとそれをセイルに持たせた。
見送った後のソルティエ大公は、大きくため息を吐いていた。
「いやはや、ただでかいだけの隣国だと思っていたが、思わぬ伏兵が居たものだな……」
大公は手を叩いて大臣を召喚する。
「はっ、なんでございますでしょうか、大公様」
直立した状態から頭をしっかりと下げて挨拶をする大臣。
「私のところにこんな手紙が来たのだよ。親書だそうだから、これを書いたのはファルーダンの第五王子ギルソンらしい」
「ほう、あの幼い王子ですか。拝見してもよろしいでしょうか」
「うむ、構わん」
「では、拝見させて頂きます」
大公は近付いてきた大臣にギルソンの親書を手渡す。渡された手紙をじっくり読む大臣は、書いてある内容に思わず震え始めていた。
「な、なんなのですか、この内容は」
ものすごい形相で大臣は大公を見ている。この分では大臣は大公と同じ印象を持ったようだった。
「うーむ、これはとても子どもとは思えない内容ですね。本当にギルソン王子の直筆なのですか?」
「先日話をしてみた感じだが、実際に彼が考えて認めたと見て間違いないだろう」
「なんと?!」
大公の考えに驚く大臣である。
「これはなんとしても、我が国に欲しい人材だな。ちょうど娘のマリンとは同い年だし、いいとは思わぬか?」
にやりと笑いながら、ソルティエ大公は大臣に問い掛けている。
「左様でございますな。このような聡明さがあるのであるならば、我が国も安泰というものでしょう」
大臣もすんなりと大公に賛成している。あの親書を見せられたのでは、賛同せざるを得ないといったところである。
「先程親書を届けに来たセイルに、私の親書を持たせてファルーダンに戻らせたところだ。あの提案をしてきたというのんら、間違いなく誘いに乗ってきてくれるだろう」
「ほほう……。その内容とは一体?」
「今度の貿易の交渉の場に参加をしてもらうのだ。あんな提案をしてきた以上、交渉の表舞台に立たぬわけにはいかないだろうからな」
「なるほど、さすがでございますな、大公様」
ソルティエ大公も大臣も、ものすごく悪い顔をしている。
「何にしてもだ、次の貿易交渉が楽しみでならない。こんなに心躍る貿易交渉など、久しぶりだな」
「左様でございますな、大公様」
直後に部屋の中に男性二人の笑い声がこだましていた。
そして、ひと通り笑い終えたソルティエ大公は、大臣に命じてすぐさま次回の貿易交渉のための準備を始めさせたのである。
こうして、次に行われるソルティエ公国と船による貿易をしている国との貿易交渉に、ギルソンも参加する事はソルティエ大公たちの間で決定事項となっていた。
はたしてソルティエ大公からの返事を受け取ったギルソンは、一体どんな判断を下すのだろうか。
ソルティエ大公とギルソンとの間の思惑の攻防が、今まさに始まろうとしているのである。
「ほう、ギルソン王子からの手紙か。どれ、見せてみなさい」
「ははっ」
セイルからソルティエ大公に、護衛を通じてギルソンの親書が手渡される。
早速開封をして中身を確認するソルティエ大公。
文面を読み進めていくにしたがって、その体を震わせ始めるソルティエ大公。その様子に護衛もセイルも驚きを隠せなかった。
「なんと……、なんと恐ろしい子どもよな。あれでまだ12歳とかいったか。このような提案をしてくるとは、ファルーダン王国の第五王子、侮れんな」
天井を見上げながら、ため息を吐いて頭を左右に振るソルティエ大公である。そのくらいには、どう反応していいのか分からないようだった。
「一体どのような事が書かれていたのでしょうか」
気になったセイルが、おそれ多くも大公へと問い掛けている。だが、ソルティエ大公は別に不機嫌になる事もなく、セイルの質問に答える。
「ふふっ、我が国の船を使った貿易に割り込もうとしているのだよ。ファルーダン王国などの特産品を輸出したり、逆に私たちが取引したものを輸入したりとな。今までは移動がネックで叶わなかったが、鉄道というもののおかげでそれが解消したのだからな」
「な、なんと……」
大公の口から出た話に、セイルはとても驚いている。使用人とはいえども公子の専属になっているくらいだ。それなりに知識はあるし、頭の回転だっていいのである。大公の話をあっさり理解してしまったのだ。
「しかし、それを実現するには先方との話し合いが必要でございますね」
「うむ、その通りだ。次回の取引には幸い余裕がある。そこでだ、セイルよ」
「はっ、何なりと」
大公に声を掛けられたセイルは、再び跪いている。
「次の取引の日程をファルーダン王国、いやギルソンに伝えてくれ。取引をする気があるのなら、あちらさんに出向いてもらわないとな」
「はっ、畏まりました」
セイルが返事をすると、大公はすぐに返事となる親書を認める。そして、書き終わるとそれをセイルに持たせた。
見送った後のソルティエ大公は、大きくため息を吐いていた。
「いやはや、ただでかいだけの隣国だと思っていたが、思わぬ伏兵が居たものだな……」
大公は手を叩いて大臣を召喚する。
「はっ、なんでございますでしょうか、大公様」
直立した状態から頭をしっかりと下げて挨拶をする大臣。
「私のところにこんな手紙が来たのだよ。親書だそうだから、これを書いたのはファルーダンの第五王子ギルソンらしい」
「ほう、あの幼い王子ですか。拝見してもよろしいでしょうか」
「うむ、構わん」
「では、拝見させて頂きます」
大公は近付いてきた大臣にギルソンの親書を手渡す。渡された手紙をじっくり読む大臣は、書いてある内容に思わず震え始めていた。
「な、なんなのですか、この内容は」
ものすごい形相で大臣は大公を見ている。この分では大臣は大公と同じ印象を持ったようだった。
「うーむ、これはとても子どもとは思えない内容ですね。本当にギルソン王子の直筆なのですか?」
「先日話をしてみた感じだが、実際に彼が考えて認めたと見て間違いないだろう」
「なんと?!」
大公の考えに驚く大臣である。
「これはなんとしても、我が国に欲しい人材だな。ちょうど娘のマリンとは同い年だし、いいとは思わぬか?」
にやりと笑いながら、ソルティエ大公は大臣に問い掛けている。
「左様でございますな。このような聡明さがあるのであるならば、我が国も安泰というものでしょう」
大臣もすんなりと大公に賛成している。あの親書を見せられたのでは、賛同せざるを得ないといったところである。
「先程親書を届けに来たセイルに、私の親書を持たせてファルーダンに戻らせたところだ。あの提案をしてきたというのんら、間違いなく誘いに乗ってきてくれるだろう」
「ほほう……。その内容とは一体?」
「今度の貿易の交渉の場に参加をしてもらうのだ。あんな提案をしてきた以上、交渉の表舞台に立たぬわけにはいかないだろうからな」
「なるほど、さすがでございますな、大公様」
ソルティエ大公も大臣も、ものすごく悪い顔をしている。
「何にしてもだ、次の貿易交渉が楽しみでならない。こんなに心躍る貿易交渉など、久しぶりだな」
「左様でございますな、大公様」
直後に部屋の中に男性二人の笑い声がこだましていた。
そして、ひと通り笑い終えたソルティエ大公は、大臣に命じてすぐさま次回の貿易交渉のための準備を始めさせたのである。
こうして、次に行われるソルティエ公国と船による貿易をしている国との貿易交渉に、ギルソンも参加する事はソルティエ大公たちの間で決定事項となっていた。
はたしてソルティエ大公からの返事を受け取ったギルソンは、一体どんな判断を下すのだろうか。
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