125 / 193
Mission124
しおりを挟む
フェールが自分が適任とツェンへと向かった理由は、その夜アワードの口から伝えられた。
それによると、フェールには金属と相性がよい魔力があるのだという。さすがは鉄を意味する名前を持つだけの事はあると思われる。それがゆえに、フェールは鉱山の問題を解決するために名乗りを上げたというわけだった。
「へえ、オートマタにもそのような適性があるのですね」
「そうだね。私も知らなかったけど、フェールはどうもそうだったみたいだよ」
ギルソンとアワードはのんきに語り合っていた。
「オートマタの適性っていうのは納得がいくな。俺のフラムだって炎に適性があるみたいだからな」
「恐縮でございます」
唐突に話に混ざってくるイスヴァンと、執事らしく頭を下げてくるフラムである。
まったく誰も褒めていないのにと思うアリスである。
「とりあえずです。フェールが戻ってくるまではしばらくかかるでしょう。その間に私たちでできる事をしませんとね」
「そうだね、アリス。アワード兄様もいいでしょうか」
「私でできる事なら、可能な限り手伝うよ」
ギルソンの問い掛けに、アワードは真面目な顔で答えていた。
王家の中では頼りなさそうな四男五男による、なんとも心強い同盟がここに成立したのだった。
フェールによる鉱山の調査報告を待つ間、とりあえずはソルティエ公国との間の鉄道の本格開業に向けて話を詰めていく事になった。
すでに国境までは定期便が運行されてはいるものの、そこから先というのはこれから詰めていくことになる。
ソルティエ公国との間の路線は、首都も通るが終点は港町だ。
そもそもこの路線は、ファルーダン王国に海の幸を運ぶためにと結んだ路線だった。ソルティエ公国の思惑に乗る形で利用したのである。
しかし、この港町というのは、なんと海運も行っている。つまり、海の向こう側との交流もあるわけなのだ。
その事実にたどり着いた時、ギルソンはポルトとマリンの二人に話を持ちかけた。
「ポルト公子、マリン公女、ちょっとよろしいでしょうか」
ギルソンはアリスたちを伴って二人のところを訪れていた。
「何でしょうか、ギルソン殿下」
ポルトが反応する。
「ちょっと相談したい事があるのです。お話だけでもよろしいでしょうか」
「構いませんよ、一体どのような事なのでしょうか」
思わぬ来訪だったとはいえ、二人とも好意的にギルソンたちを迎え入れていた。
「実はですね、アリスが建設した鉄道を使って、更なる貿易ができないかと思いましてね」
「ほう、それはどのような?」
すんなりとポルトの興味を引いたようである。
「鉄道を使えば、ボクたちのファルーダン王国や、イスヴァン殿下のマスカード帝国とも短時間で移動ができてしまいます。それを使って、ボクたちの国と海の向こう側とで交易が行えないかと考えたのです」
ギルソンの言葉に、ポルトとマリンはものすごく驚いている。二人ともそこまで考えていなかったのだ。
しかし、そこに気が付いてしまうとは、ギルソンという人物の底知れなさを感じて怖くなった二人である。
「さすがに私たちだけでは判断できませんね。それこそ、お父様と相談してみませんとなんとも言えません」
ソルティエ公国の二人からは、こういう答えしか返ってこなかった。さすがに貿易の話ともなると、子どもである二人には難しすぎるのだ。
「分かりました。それでは親書を認めますので、ソルティエ大公様に届けて頂けますでしょうか。こちらでやる事がありますから、ボクたちの誰も移動ができませんからね」
「それでしたら、お受けしましょう」
ポルトはギルソンの申し出を了承すると、使用人を呼ぶ。誰かと思えば、ポルトのお付きの使用人であるセイルだった。
「お呼びでしょうか、ポルト様」
「うむ、ギルソンから親書を受け取ったら、父上に届けてほしい。鉄道があるからその日のうちに届けられるだろう」
「畏まりました。では、親書がご用意できましたら、またお呼び下さい」
ポルトの言葉におとなしく従うセイルだった。これだけすんなりと了承するあたり、思った以上にギルソンたちに対して敵意を持っていないようである。
(本当に、マイマスターの影響力には驚かされますね。まったく、どうしてこんな有能な方をやられ役にしてしまったのでしょうか。あの時の担当は人を見る目がなさすぎです)
ギルソンのここまでの有能っぷりを見るたびに、前世での小説の担当者の無能っぷりに怒りを覚えるアリスである。
それと同時に、その担当の意見に押し切られてその展開を受け入れてしまった自分にも憤っていた。だからこそ、なおさらギルソンを幸せにしなければならない。アリスはさらに決意を固めていったのだった。
翌日、ギルソンからの提案が認められた親書が、セイルの手に託される。
「必ずお届け致します」
「頼んだぞ、セイル」
王都の鉄道駅まで出向き、セイルを見送るポルトたち。
この時セイルに託された親書が、この世界に新たな動きを生み出す一手になろうとは、この時誰も考えていなかったのだった。
それによると、フェールには金属と相性がよい魔力があるのだという。さすがは鉄を意味する名前を持つだけの事はあると思われる。それがゆえに、フェールは鉱山の問題を解決するために名乗りを上げたというわけだった。
「へえ、オートマタにもそのような適性があるのですね」
「そうだね。私も知らなかったけど、フェールはどうもそうだったみたいだよ」
ギルソンとアワードはのんきに語り合っていた。
「オートマタの適性っていうのは納得がいくな。俺のフラムだって炎に適性があるみたいだからな」
「恐縮でございます」
唐突に話に混ざってくるイスヴァンと、執事らしく頭を下げてくるフラムである。
まったく誰も褒めていないのにと思うアリスである。
「とりあえずです。フェールが戻ってくるまではしばらくかかるでしょう。その間に私たちでできる事をしませんとね」
「そうだね、アリス。アワード兄様もいいでしょうか」
「私でできる事なら、可能な限り手伝うよ」
ギルソンの問い掛けに、アワードは真面目な顔で答えていた。
王家の中では頼りなさそうな四男五男による、なんとも心強い同盟がここに成立したのだった。
フェールによる鉱山の調査報告を待つ間、とりあえずはソルティエ公国との間の鉄道の本格開業に向けて話を詰めていく事になった。
すでに国境までは定期便が運行されてはいるものの、そこから先というのはこれから詰めていくことになる。
ソルティエ公国との間の路線は、首都も通るが終点は港町だ。
そもそもこの路線は、ファルーダン王国に海の幸を運ぶためにと結んだ路線だった。ソルティエ公国の思惑に乗る形で利用したのである。
しかし、この港町というのは、なんと海運も行っている。つまり、海の向こう側との交流もあるわけなのだ。
その事実にたどり着いた時、ギルソンはポルトとマリンの二人に話を持ちかけた。
「ポルト公子、マリン公女、ちょっとよろしいでしょうか」
ギルソンはアリスたちを伴って二人のところを訪れていた。
「何でしょうか、ギルソン殿下」
ポルトが反応する。
「ちょっと相談したい事があるのです。お話だけでもよろしいでしょうか」
「構いませんよ、一体どのような事なのでしょうか」
思わぬ来訪だったとはいえ、二人とも好意的にギルソンたちを迎え入れていた。
「実はですね、アリスが建設した鉄道を使って、更なる貿易ができないかと思いましてね」
「ほう、それはどのような?」
すんなりとポルトの興味を引いたようである。
「鉄道を使えば、ボクたちのファルーダン王国や、イスヴァン殿下のマスカード帝国とも短時間で移動ができてしまいます。それを使って、ボクたちの国と海の向こう側とで交易が行えないかと考えたのです」
ギルソンの言葉に、ポルトとマリンはものすごく驚いている。二人ともそこまで考えていなかったのだ。
しかし、そこに気が付いてしまうとは、ギルソンという人物の底知れなさを感じて怖くなった二人である。
「さすがに私たちだけでは判断できませんね。それこそ、お父様と相談してみませんとなんとも言えません」
ソルティエ公国の二人からは、こういう答えしか返ってこなかった。さすがに貿易の話ともなると、子どもである二人には難しすぎるのだ。
「分かりました。それでは親書を認めますので、ソルティエ大公様に届けて頂けますでしょうか。こちらでやる事がありますから、ボクたちの誰も移動ができませんからね」
「それでしたら、お受けしましょう」
ポルトはギルソンの申し出を了承すると、使用人を呼ぶ。誰かと思えば、ポルトのお付きの使用人であるセイルだった。
「お呼びでしょうか、ポルト様」
「うむ、ギルソンから親書を受け取ったら、父上に届けてほしい。鉄道があるからその日のうちに届けられるだろう」
「畏まりました。では、親書がご用意できましたら、またお呼び下さい」
ポルトの言葉におとなしく従うセイルだった。これだけすんなりと了承するあたり、思った以上にギルソンたちに対して敵意を持っていないようである。
(本当に、マイマスターの影響力には驚かされますね。まったく、どうしてこんな有能な方をやられ役にしてしまったのでしょうか。あの時の担当は人を見る目がなさすぎです)
ギルソンのここまでの有能っぷりを見るたびに、前世での小説の担当者の無能っぷりに怒りを覚えるアリスである。
それと同時に、その担当の意見に押し切られてその展開を受け入れてしまった自分にも憤っていた。だからこそ、なおさらギルソンを幸せにしなければならない。アリスはさらに決意を固めていったのだった。
翌日、ギルソンからの提案が認められた親書が、セイルの手に託される。
「必ずお届け致します」
「頼んだぞ、セイル」
王都の鉄道駅まで出向き、セイルを見送るポルトたち。
この時セイルに託された親書が、この世界に新たな動きを生み出す一手になろうとは、この時誰も考えていなかったのだった。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

【完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る
金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。
ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの?
お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。
ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。
少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。
どうしてくれるのよ。
ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ!
腹立つわ〜。
舞台は独自の世界です。
ご都合主義です。
緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる