転生オートマタ

未羊

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Mission124

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 フェールが自分が適任とツェンへと向かった理由は、その夜アワードの口から伝えられた。
 それによると、フェールには金属と相性がよい魔力があるのだという。さすがは鉄を意味する名前を持つだけの事はあると思われる。それがゆえに、フェールは鉱山の問題を解決するために名乗りを上げたというわけだった。
「へえ、オートマタにもそのような適性があるのですね」
「そうだね。私も知らなかったけど、フェールはどうもそうだったみたいだよ」
 ギルソンとアワードはのんきに語り合っていた。
「オートマタの適性っていうのは納得がいくな。俺のフラムだって炎に適性があるみたいだからな」
「恐縮でございます」
 唐突に話に混ざってくるイスヴァンと、執事らしく頭を下げてくるフラムである。
 まったく誰も褒めていないのにと思うアリスである。
「とりあえずです。フェールが戻ってくるまではしばらくかかるでしょう。その間に私たちでできる事をしませんとね」
「そうだね、アリス。アワード兄様もいいでしょうか」
「私でできる事なら、可能な限り手伝うよ」
 ギルソンの問い掛けに、アワードは真面目な顔で答えていた。
 王家の中では頼りなさそうな四男五男による、なんとも心強い同盟がここに成立したのだった。

 フェールによる鉱山の調査報告を待つ間、とりあえずはソルティエ公国との間の鉄道の本格開業に向けて話を詰めていく事になった。
 すでに国境までは定期便が運行されてはいるものの、そこから先というのはこれから詰めていくことになる。
 ソルティエ公国との間の路線は、首都も通るが終点は港町だ。
 そもそもこの路線は、ファルーダン王国に海の幸を運ぶためにと結んだ路線だった。ソルティエ公国の思惑に乗る形で利用したのである。
 しかし、この港町というのは、なんと海運も行っている。つまり、海の向こう側との交流もあるわけなのだ。
 その事実にたどり着いた時、ギルソンはポルトとマリンの二人に話を持ちかけた。

「ポルト公子、マリン公女、ちょっとよろしいでしょうか」
 ギルソンはアリスたちを伴って二人のところを訪れていた。
「何でしょうか、ギルソン殿下」
 ポルトが反応する。
「ちょっと相談したい事があるのです。お話だけでもよろしいでしょうか」
「構いませんよ、一体どのような事なのでしょうか」
 思わぬ来訪だったとはいえ、二人とも好意的にギルソンたちを迎え入れていた。
「実はですね、アリスが建設した鉄道を使って、更なる貿易ができないかと思いましてね」
「ほう、それはどのような?」
 すんなりとポルトの興味を引いたようである。
「鉄道を使えば、ボクたちのファルーダン王国や、イスヴァン殿下のマスカード帝国とも短時間で移動ができてしまいます。それを使って、ボクたちの国と海の向こう側とで交易が行えないかと考えたのです」
 ギルソンの言葉に、ポルトとマリンはものすごく驚いている。二人ともそこまで考えていなかったのだ。
 しかし、そこに気が付いてしまうとは、ギルソンという人物の底知れなさを感じて怖くなった二人である。
「さすがに私たちだけでは判断できませんね。それこそ、お父様と相談してみませんとなんとも言えません」
 ソルティエ公国の二人からは、こういう答えしか返ってこなかった。さすがに貿易の話ともなると、子どもである二人には難しすぎるのだ。
「分かりました。それでは親書を認めますので、ソルティエ大公様に届けて頂けますでしょうか。こちらでやる事がありますから、ボクたちの誰も移動ができませんからね」
「それでしたら、お受けしましょう」
 ポルトはギルソンの申し出を了承すると、使用人を呼ぶ。誰かと思えば、ポルトのお付きの使用人であるセイルだった。
「お呼びでしょうか、ポルト様」
「うむ、ギルソンから親書を受け取ったら、父上に届けてほしい。鉄道があるからその日のうちに届けられるだろう」
「畏まりました。では、親書がご用意できましたら、またお呼び下さい」
 ポルトの言葉におとなしく従うセイルだった。これだけすんなりと了承するあたり、思った以上にギルソンたちに対して敵意を持っていないようである。
(本当に、マイマスターの影響力には驚かされますね。まったく、どうしてこんな有能な方をやられ役にしてしまったのでしょうか。あの時の担当は人を見る目がなさすぎです)
 ギルソンのここまでの有能っぷりを見るたびに、前世での小説の担当者の無能っぷりに怒りを覚えるアリスである。
 それと同時に、その担当の意見に押し切られてその展開を受け入れてしまった自分にも憤っていた。だからこそ、なおさらギルソンを幸せにしなければならない。アリスはさらに決意を固めていったのだった。

 翌日、ギルソンからの提案が認められた親書が、セイルの手に託される。
「必ずお届け致します」
「頼んだぞ、セイル」
 王都の鉄道駅まで出向き、セイルを見送るポルトたち。
 この時セイルに託された親書が、この世界に新たな動きを生み出す一手になろうとは、この時誰も考えていなかったのだった。
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