転生オートマタ

未羊

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Mission121

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 夕方にはアリスが大公邸に戻ってきていた。
「ただいま戻りました、マイマスター」
 戻ってきたアリスがギルソンの居るはずの客室を訪れる。だが、そこにはギルソンの姿はなかった。
(はて、もう交渉は終わっていると思ったのですが、おかしいですね)
 予想外の光景を見て、アリスは人差し指をした唇に当てながら考え込んでいる。
 考えたところで解決するわけでもないので、大公邸の中に居る適当な人を捕まえて居場所を聞く事にした。
「ああ、みなさんでしたら大公様とまだ会談をされてらっしゃると思います。ですので、会議室にいらっしゃると思います」
「そうですか、ありがとうございます」
 質問に答えて場所を教えてくれた使用人にお礼を言うと、アリスは会議室へと向かっていった。
 会議室にやってきたアリスは、衛兵に挨拶をすると中へと入っていく。ギルソンのオートマタだと分かっているので顔パスである。
「失礼致します。アリス、ただいま戻りました」
 扉を開けて中に入ったところで一礼をするアリス。そして、扉を閉めるとギルソンの元へと向かっていった。
「アリス、もう終わったのかい?」
「はい、滞りなく建設は終了致しました」
 ギルソンの質問に淡々と答えるアリス。その答えを聞いた会場が騒がしくなる。
「あの距離と高低差をもう仕上げてしまったというのか?」
「バカな、早すぎる……」
 ソルティエ公国の面々は、ポルトとマリンも含めてざわめいていた。なにせ日中いっぱいかかっていないのだから。
「そうか、さすがだね」
 にこりと微笑むギルソン。その顔を見たアリスは優しく微笑んでいた。さすがに元々が人間なので、オートマタとは違った反応を返してしまうアリスである。
「すまないが、誰か確認してきてくれないか?」
 信じられない大公は、部下に命じて路線を確認させに行かせた。
 そのバタバタが落ち着くと、会議室の中が一気に静まり返る。あまりにとんでもない話が放り込まれたので、どう話題を切り出せばいいのか困っているのである。
「大公様、とりあえず今日はこれで終わりに致しましょう。ひとまずは、公国の産品を購入させて頂きます。こちらからはツェンの鉱石や加工品などの輸出、これでよろしいでしょうか」
 ギルソンが確認を取ると、大公は唸っていた。どうにもまだ決めかねているようだった。
「すまないが、詳しい決定は鉄道の完成をしっかりと確認してからとさせてもらおう」
「分かりました。ボクの方としてはそれで構いません。ちょうど列車も止めたままになっていますから、そのまま試運転も行って確認致しましょう」
 大公の提案をギルソンが受け入れた事で、この日一日掛かってまとまり切らなかった交渉は翌日に持ち越しとなった。
 会談を終えて、ギルソンたちは部屋を出て行く。
 会議室には疲れ切った大公とその部下数名、それに大公の二人の子どもだけが残っていた。
「……なんだ、あの子どもは」
「なんだって、隣国ファルーダン王国の第五王子ですよ、父上」
 大公の呟きに鋭く答えるポルトである。
「分かっておる。だが、あれが本当に12歳なのか? そう思ったのだよ」
 大公がこう言うと、全員が黙り込んでしまった。なにせ今日の交渉の一部始終を見ていたのだから。
 12歳の末弟王子など取るに足らないと思っていたのだが、蓋を開けてみれば大人で一国の主である大公にまったく引けを取らない、なんとも胆力のある少年だったのだ。隣に座っていた第四王子が静かだった事を考えると、ギルソンの異常さがよく分かるというものだった。
 はっきり言って、今日の交渉は彼にほとんど主導権を握られていた状態だった。12歳であの状態なのだ。このまま大きくなれば、一体どんな人物になるのか。考えただけで寒気が走るというものだった。
「はあ、お前たちを留学させたのは、間違いだったのだろうか……。これではますますあの国に頭が上がらなくなってしまう」
 大公は両肘をついて俯いてしまっていた。
 その姿を見たポルトとマリンは、お互いを向き合うと大きく頷き合う。
「父上。俺たちの留学は取り消さないで下さい」
「そうですよ、お父様。元々留学は私たちがあの国の内情を探って技術などを手に入れてくる目的ではなかったですか」
「お前たち……」
 ポルトとマリンの言葉に、大公は弱々しくながらもゆっくりと顔を上げている。
「そうだな。私が弱気になってはいけないな」
 大公はしっかりと立ち直っていた。
「そうですわ。私たちには大陸一ともいわれる海洋技術がありますもの。かの国が大国になったとて、この技術だけは負けない自負がございますわ」
「確かにその通りだな」
 大公妃の言葉に大公は完全に復活する。
「よし、お前たちは計画通りにファルーダンで学んでその技術や知識を持ち帰ってきてくれ」
「承知致しました」
 大公の言葉に、ポルトとリンクは力強く返事をする。
「ファルーダンの鉄道とかいう技術、逆に利用してやるつもりでいなくてはな」
「そうですよ、父上」
「ソルティエの海産物を売り込みましょう」
 すっかりやる気の戻った大公一家。
 しかし、部下の報告と翌日の試運転でさらに度肝を抜かれたのは言うまでもない話だった。
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