転生オートマタ

未羊

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Mission120

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 滞在3日目は、アリスが鉄道建設を進める中、それを見越した上での貿易交渉が行われる。
 ポルトとマリンのソルティエ公国の公子公女も同席していたのだが、目の前のやり取りにかなり驚きを隠せない様子だった。
 中心となって喋っているのは、マリンと同い年のギルソンだ。20歳は年上のソルティエ公国のアンカー大公と対等の舌戦を繰り広げているのである。これで驚くなという方が難しい。
 さすがはマスカード帝国の皇帝ともやり合っただけの事はあるというものだ。
 ギルソン以外のメンバーであるアワード、イスヴァン、マリカの三人はまったく出番がない。ただそのやり取りを見聞きしているだけである。
 ただ、マリカのオートマタであるジャスミンは、そのやり取りを一言一句漏らす事なく逐一記録していっていた。オートマタ怖い。
 さて、ギルソンと大公との間の交渉内容としては、鉄道が結ばれる事による貿易品の変化だろう。
 マスカード帝国とのやり取りでも農産物の取引の種類が増えたのだ。ソルティエ公国との間でも変化が起きるのは必至の状況である。
 鉄道による輸送時間の短縮に加え、冷蔵冷凍魔法を備えた貨車が存在しているというのが大きい。
 海産物はどうしても傷むのが速く、すぐに腐ってしまう。既に農産物輸送でも実証された鉄道運搬が、このソルティエ公国でも役に立ちそうなのだ。
 ところがだ。この交渉はかなり難航していた。その理由の一つがギルソンである。
 第五王子という王族の末弟であるという事が、いまいちそのまま信用していいかという迷いになっているのだ。
 それに加えて、すでに首都はおろか港町まで鉄道を通す事を認めているために、これ以上公国側が譲歩をする必要があるのかという問題だった。
(うーん、さすがにかなり公国側のガードが堅いですね。しかし、現状こちらから切れるカードはツェンで産出される鉱石くらいです。うーん、どうしたものでしょうかね)
 アンカー大公の反応が悪すぎて、ここまで交渉を進めてきたギルソンもさすがに手詰まり感を覚えていた。
 結局のところ、交渉は平行線のまま時間だけが過ぎていった。

 ―――

 そんな交渉が行われている頃、アリスは外で鉄道の延伸の作業へと入っていた。
 首都の港町側に備えられた駅から、港町の方向を改めて確認する。
(地形はかなり高低差がある感じですね。ツェンまでにあった勾配よりも厳しくなりそうですから、少し遠巻きに建設する感じでしょうかね)
 馬車での移動の際もかなりうねうねとした道を通っていた。そのくらいに高低差がある地形なのだ。
 鉄道も傾斜があると坂を登れなくなってしまう。いくら魔法で動力を確保するといっても限界というものがある。それを考慮に入れて、どのような経路で港町まで結ぶか頭の中で考えている。
(できましたね。このルートなら森などにも被害を与えずにいけます)
 どうやら案が固まったようだった。
 次の瞬間、人の気配に気を付けながら、斜面の方へ向けて魔法を使い始めるアリス。
 魔法を使うや否や、数メートル単位で地面が盛り上がり、あっという間に高架線ができ上がっていく。しかもちゃんと複線である。複線にしている理由は、途中駅での折り返しなんていう芸当ができないし、単線の運行にするといろいろと面倒なので統一しているというわけである。
 そうやっている間に、斜面に到達する。
 ここからが腕の見せどころだ。
 斜面までは街道に沿うような形で建設してきたものの、ここからまっすぐ進むには斜面が急すぎる。なので、迂回させて傾斜を緩くしながら港に並行する形で港町へ乗り入れるのだ。
 港町から離れるような形で左へとカーブさせながら建設を進め、斜面中ほどを過ぎたあたりで方向転換をさせる。そして、波止場の近くに終点を持ってくるように進めていく。
 さすがにどんどんと土が盛り上がって建設されていく様子を目撃した人たちは、なんだなんだと物珍しそうにその終点あたりに集まってきた。
「何が起きたんだと思ったら、昨日来てたメイドさんじゃないか」
 波止場に居た作業員の一人が声を掛けてきた。
「昨日ぶりでございます」
 挨拶をするアリス。
「一体これは何だ?」
「鉄道というものでございます。これで素早く首都まで物品を運んで頂く事ができます。とはいえ、まだ今しがた建設したばかりですので無理ですけれど」
「ほぉ、隣国のファルーダンとの間で建設しているっていう、ものすごく速い乗り物らしいな。へえ、ここまでやって来るのか」
 作業員はどうやら話を知っていたようだった。顎を触りながら、受け入れているようだった。
「ってことは何か。うちの港で取れた魚がファルーダンまで運ばれるって事か?」
「将来的にはそうなるかと存じます。こればかりはマイマスターたちの交渉次第でございますね」
「そっか、それは残念だな」
「そうでございますよ。交易というのは一方的に行われるものではございませんからね。その損得の駆け引きというのは簡単に割り切れるものではございません」
「確かにそうだ」
 その作業員はアリスの話に全て納得がいっていたようだ。ずいぶんと頭のいい人物のようである。
「まっ、俺としちゃあ期待させてもらうぜ」
「ふふっ、それはまた過大評価でございます」
 作業員とアリスは笑っている。
「よし、この事は俺から説明しておく。楽しみにしておくぜ、メイドさん」
「ええ、その時はどうぞごひいきに」
 話を終えると、アリスは線路を封鎖だけしてから城へと戻っていった。
 相変わらずとんでもない事を簡単にやり遂げてしまうオートマタなのであった。
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