121 / 189
Mission120
しおりを挟む
滞在3日目は、アリスが鉄道建設を進める中、それを見越した上での貿易交渉が行われる。
ポルトとマリンのソルティエ公国の公子公女も同席していたのだが、目の前のやり取りにかなり驚きを隠せない様子だった。
中心となって喋っているのは、マリンと同い年のギルソンだ。20歳は年上のソルティエ公国のアンカー大公と対等の舌戦を繰り広げているのである。これで驚くなという方が難しい。
さすがはマスカード帝国の皇帝ともやり合っただけの事はあるというものだ。
ギルソン以外のメンバーであるアワード、イスヴァン、マリカの三人はまったく出番がない。ただそのやり取りを見聞きしているだけである。
ただ、マリカのオートマタであるジャスミンは、そのやり取りを一言一句漏らす事なく逐一記録していっていた。オートマタ怖い。
さて、ギルソンと大公との間の交渉内容としては、鉄道が結ばれる事による貿易品の変化だろう。
マスカード帝国とのやり取りでも農産物の取引の種類が増えたのだ。ソルティエ公国との間でも変化が起きるのは必至の状況である。
鉄道による輸送時間の短縮に加え、冷蔵冷凍魔法を備えた貨車が存在しているというのが大きい。
海産物はどうしても傷むのが速く、すぐに腐ってしまう。既に農産物輸送でも実証された鉄道運搬が、このソルティエ公国でも役に立ちそうなのだ。
ところがだ。この交渉はかなり難航していた。その理由の一つがギルソンである。
第五王子という王族の末弟であるという事が、いまいちそのまま信用していいかという迷いになっているのだ。
それに加えて、すでに首都はおろか港町まで鉄道を通す事を認めているために、これ以上公国側が譲歩をする必要があるのかという問題だった。
(うーん、さすがにかなり公国側のガードが堅いですね。しかし、現状こちらから切れるカードはツェンで産出される鉱石くらいです。うーん、どうしたものでしょうかね)
アンカー大公の反応が悪すぎて、ここまで交渉を進めてきたギルソンもさすがに手詰まり感を覚えていた。
結局のところ、交渉は平行線のまま時間だけが過ぎていった。
―――
そんな交渉が行われている頃、アリスは外で鉄道の延伸の作業へと入っていた。
首都の港町側に備えられた駅から、港町の方向を改めて確認する。
(地形はかなり高低差がある感じですね。ツェンまでにあった勾配よりも厳しくなりそうですから、少し遠巻きに建設する感じでしょうかね)
馬車での移動の際もかなりうねうねとした道を通っていた。そのくらいに高低差がある地形なのだ。
鉄道も傾斜があると坂を登れなくなってしまう。いくら魔法で動力を確保するといっても限界というものがある。それを考慮に入れて、どのような経路で港町まで結ぶか頭の中で考えている。
(できましたね。このルートなら森などにも被害を与えずにいけます)
どうやら案が固まったようだった。
次の瞬間、人の気配に気を付けながら、斜面の方へ向けて魔法を使い始めるアリス。
魔法を使うや否や、数メートル単位で地面が盛り上がり、あっという間に高架線ができ上がっていく。しかもちゃんと複線である。複線にしている理由は、途中駅での折り返しなんていう芸当ができないし、単線の運行にするといろいろと面倒なので統一しているというわけである。
そうやっている間に、斜面に到達する。
ここからが腕の見せどころだ。
斜面までは街道に沿うような形で建設してきたものの、ここからまっすぐ進むには斜面が急すぎる。なので、迂回させて傾斜を緩くしながら港に並行する形で港町へ乗り入れるのだ。
港町から離れるような形で左へとカーブさせながら建設を進め、斜面中ほどを過ぎたあたりで方向転換をさせる。そして、波止場の近くに終点を持ってくるように進めていく。
さすがにどんどんと土が盛り上がって建設されていく様子を目撃した人たちは、なんだなんだと物珍しそうにその終点あたりに集まってきた。
「何が起きたんだと思ったら、昨日来てたメイドさんじゃないか」
波止場に居た作業員の一人が声を掛けてきた。
「昨日ぶりでございます」
挨拶をするアリス。
「一体これは何だ?」
「鉄道というものでございます。これで素早く首都まで物品を運んで頂く事ができます。とはいえ、まだ今しがた建設したばかりですので無理ですけれど」
「ほぉ、隣国のファルーダンとの間で建設しているっていう、ものすごく速い乗り物らしいな。へえ、ここまでやって来るのか」
作業員はどうやら話を知っていたようだった。顎を触りながら、受け入れているようだった。
「ってことは何か。うちの港で取れた魚がファルーダンまで運ばれるって事か?」
「将来的にはそうなるかと存じます。こればかりはマイマスターたちの交渉次第でございますね」
「そっか、それは残念だな」
「そうでございますよ。交易というのは一方的に行われるものではございませんからね。その損得の駆け引きというのは簡単に割り切れるものではございません」
「確かにそうだ」
その作業員はアリスの話に全て納得がいっていたようだ。ずいぶんと頭のいい人物のようである。
「まっ、俺としちゃあ期待させてもらうぜ」
「ふふっ、それはまた過大評価でございます」
作業員とアリスは笑っている。
「よし、この事は俺から説明しておく。楽しみにしておくぜ、メイドさん」
「ええ、その時はどうぞごひいきに」
話を終えると、アリスは線路を封鎖だけしてから城へと戻っていった。
相変わらずとんでもない事を簡単にやり遂げてしまうオートマタなのであった。
ポルトとマリンのソルティエ公国の公子公女も同席していたのだが、目の前のやり取りにかなり驚きを隠せない様子だった。
中心となって喋っているのは、マリンと同い年のギルソンだ。20歳は年上のソルティエ公国のアンカー大公と対等の舌戦を繰り広げているのである。これで驚くなという方が難しい。
さすがはマスカード帝国の皇帝ともやり合っただけの事はあるというものだ。
ギルソン以外のメンバーであるアワード、イスヴァン、マリカの三人はまったく出番がない。ただそのやり取りを見聞きしているだけである。
ただ、マリカのオートマタであるジャスミンは、そのやり取りを一言一句漏らす事なく逐一記録していっていた。オートマタ怖い。
さて、ギルソンと大公との間の交渉内容としては、鉄道が結ばれる事による貿易品の変化だろう。
マスカード帝国とのやり取りでも農産物の取引の種類が増えたのだ。ソルティエ公国との間でも変化が起きるのは必至の状況である。
鉄道による輸送時間の短縮に加え、冷蔵冷凍魔法を備えた貨車が存在しているというのが大きい。
海産物はどうしても傷むのが速く、すぐに腐ってしまう。既に農産物輸送でも実証された鉄道運搬が、このソルティエ公国でも役に立ちそうなのだ。
ところがだ。この交渉はかなり難航していた。その理由の一つがギルソンである。
第五王子という王族の末弟であるという事が、いまいちそのまま信用していいかという迷いになっているのだ。
それに加えて、すでに首都はおろか港町まで鉄道を通す事を認めているために、これ以上公国側が譲歩をする必要があるのかという問題だった。
(うーん、さすがにかなり公国側のガードが堅いですね。しかし、現状こちらから切れるカードはツェンで産出される鉱石くらいです。うーん、どうしたものでしょうかね)
アンカー大公の反応が悪すぎて、ここまで交渉を進めてきたギルソンもさすがに手詰まり感を覚えていた。
結局のところ、交渉は平行線のまま時間だけが過ぎていった。
―――
そんな交渉が行われている頃、アリスは外で鉄道の延伸の作業へと入っていた。
首都の港町側に備えられた駅から、港町の方向を改めて確認する。
(地形はかなり高低差がある感じですね。ツェンまでにあった勾配よりも厳しくなりそうですから、少し遠巻きに建設する感じでしょうかね)
馬車での移動の際もかなりうねうねとした道を通っていた。そのくらいに高低差がある地形なのだ。
鉄道も傾斜があると坂を登れなくなってしまう。いくら魔法で動力を確保するといっても限界というものがある。それを考慮に入れて、どのような経路で港町まで結ぶか頭の中で考えている。
(できましたね。このルートなら森などにも被害を与えずにいけます)
どうやら案が固まったようだった。
次の瞬間、人の気配に気を付けながら、斜面の方へ向けて魔法を使い始めるアリス。
魔法を使うや否や、数メートル単位で地面が盛り上がり、あっという間に高架線ができ上がっていく。しかもちゃんと複線である。複線にしている理由は、途中駅での折り返しなんていう芸当ができないし、単線の運行にするといろいろと面倒なので統一しているというわけである。
そうやっている間に、斜面に到達する。
ここからが腕の見せどころだ。
斜面までは街道に沿うような形で建設してきたものの、ここからまっすぐ進むには斜面が急すぎる。なので、迂回させて傾斜を緩くしながら港に並行する形で港町へ乗り入れるのだ。
港町から離れるような形で左へとカーブさせながら建設を進め、斜面中ほどを過ぎたあたりで方向転換をさせる。そして、波止場の近くに終点を持ってくるように進めていく。
さすがにどんどんと土が盛り上がって建設されていく様子を目撃した人たちは、なんだなんだと物珍しそうにその終点あたりに集まってきた。
「何が起きたんだと思ったら、昨日来てたメイドさんじゃないか」
波止場に居た作業員の一人が声を掛けてきた。
「昨日ぶりでございます」
挨拶をするアリス。
「一体これは何だ?」
「鉄道というものでございます。これで素早く首都まで物品を運んで頂く事ができます。とはいえ、まだ今しがた建設したばかりですので無理ですけれど」
「ほぉ、隣国のファルーダンとの間で建設しているっていう、ものすごく速い乗り物らしいな。へえ、ここまでやって来るのか」
作業員はどうやら話を知っていたようだった。顎を触りながら、受け入れているようだった。
「ってことは何か。うちの港で取れた魚がファルーダンまで運ばれるって事か?」
「将来的にはそうなるかと存じます。こればかりはマイマスターたちの交渉次第でございますね」
「そっか、それは残念だな」
「そうでございますよ。交易というのは一方的に行われるものではございませんからね。その損得の駆け引きというのは簡単に割り切れるものではございません」
「確かにそうだ」
その作業員はアリスの話に全て納得がいっていたようだ。ずいぶんと頭のいい人物のようである。
「まっ、俺としちゃあ期待させてもらうぜ」
「ふふっ、それはまた過大評価でございます」
作業員とアリスは笑っている。
「よし、この事は俺から説明しておく。楽しみにしておくぜ、メイドさん」
「ええ、その時はどうぞごひいきに」
話を終えると、アリスは線路を封鎖だけしてから城へと戻っていった。
相変わらずとんでもない事を簡単にやり遂げてしまうオートマタなのであった。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

親切なミザリー
みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。
ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。
ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。
こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。
‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。
※不定期更新です。

追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

王太子妃が我慢しなさい ~姉妹差別を受けていた姉がもっとひどい兄弟差別を受けていた王太子に嫁ぎました~
玄未マオ
ファンタジー
メディア王家に伝わる古い呪いで第一王子は家族からも畏怖されていた。
その王子の元に姉妹差別を受けていたメルが嫁ぐことになるが、その事情とは?
ヒロインは姉妹差別され育っていますが、言いたいことはきっちりいう子です。

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる