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Mission119
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城に戻って来たギルソンたちは、ひとまず汗を流す。
あれだけかんかんに照りつける陽の下に居たのだから、汗をかいてしまうのは仕方のない事である。港町に居た事もあってか、ちょっといつもと汗の感じが違うので、ギルソンたちには相当な不快感になっていたようだ。
ギルソンたちのお風呂の世話はポルト公子の使用人たちに任せて、アリスたちは着替えの準備をしている。
その間、アリスはいろいろと考え事をしていた。
(やはり、あの港町まで鉄道を引くべきですね。高低差があるので、かなり時間がかかってしまいますし、最大の問題はあの気温です)
そう、港町は意外と暑かったのだ。
今は暑い季節ではあるものの、それを加味してもかなり暑苦しかった。おそらく原因は湿気だろう。少なくともアリスはそのようににらんでいる。
(あの湿度と気温では、思った以上に傷んでしまいます。大公様にどうにかして認めさせませんと……)
少しでも鮮度の良い海産物を届けるために、アリスは心に固く決意をするのだった。
そして、その日も大公たちと揃って食事を取るギルソンたち。
この夕食の席に並んだ海鮮料理は、昨日とはまた違った料理法で作られていた。
(うんうん、素材や調理法を変えて飽きさせない。実に心配りができていますね。この献立作りを考えた人は、なかなかできる人ですね)
夕食の席を見守りながら、アリスは感心したように心の中で頷いている。ただ……。
(ああ、できれば私も味わいたいですよ。オートマタってどうして食事が要らないんですか!)
海の幸も好きだった前世のせいか、心の中で血涙を流すアリスなのであった。ファルーダン王国でもマスカード帝国でもそんな事はなかったのに、ソルティエ公国に来てからずっとこの調子である。どれだけ海産物が好きなのだろうか。心の中を知られたら、きっとドン引きされる事だろう。
ふと視線が気になったアリスが横を見る。すると、そこにはドン引きした表情のジャスミンが居た。
「ジャスミン?」
その表情のせいで思わず声が出てしまうアリスである。
アリスの声で我に返ったジャスミンは、無表情に戻って前を見ていた。まるで何事もなかったかのようである。その様子に引っ掛かりを覚えたアリスだったが、今は食事の真っ最中なので問い質すのは後回しにしたのだった。
食事の後、ギルソンは大公に何やら話し掛けていた。すると、ギルソンがアリスに向かって手招きをしているではないか。一体なんだろうかと、アリスはゆっくりとギルソンの元へと歩いていく。
「お呼びでしょうか、マイマスター」
「うん、ちょっと大公様とお話をしようと思いましてね。アリスにも同席を頼みたいのです」
ギルソンがにこやかに話し掛けてくる。
「承知致しました、マイマスター」
アリスはよく分からないものの了承をする。オートマタが主に逆らう事はまずないので、了承するしかないのだが。
「それで、ギルソン殿下は何のお話なのですかね」
大公がすぐさま本題に入ってくる。それに対してくるりと振り返るギルソン。
「そうですね。首都まで引いてきた鉄道ですが、本日伺った港町まで延伸したいと思うのです」
ギルソンが出した提案に驚いてしまうアリス。どうやら、主従でまったく同じ事を考えていたらしい。
この提案を受けた大公は少し考え始める。
「それはどういう理由で、ですかな」
ひとまずは理由を尋ねる大公。それに対してギルソンはまたにこりと微笑んでいる。
「単純に、ここに運んでくるまでに海産物が傷まないかという心配ですね」
「といいますと?」
「今日伺って分かったのですが、港町あたりは思いの外暖かいんです。温度の高いところに食べ物を置くと傷みやすく、すぐに腐ってしまいます。ですから、少しでも早く冷えたところに運んで、傷みにくくする必要があると感じたのですよ」
ギルソンの言い分を聞いて、大公は驚かされる。自分の子どもたちと同い年だというのに、こんなところにまで考えが及ぶのかと。
もちろん、ポルトもマリンも頭が悪いわけではない。ギルソンが異様に頭がいいだけなのである。大人であり、一国の主である大公ですら唸らされるほどの頭脳の持ち主、それがギルソンなのだ。
ちなにみ、アリスだってそんなにギルソンの教育をしてきたわけではない。元々が努力家だったがために、ぐれる世界線が潰えた今、本来のギルソンが出てきているというわけなのである。
ギルソンの中に恐ろしさを感じた大公だったが、鉄道の延伸自体は別に悪い話ではないと感じている。
「分かった、港町への延伸は許可しよう」
思ったよりも簡単に、大公は延伸許可を出してしまっていた。そして、ギルソンはすぐにアリスへと振り返る。
「やってくれるかい?」
「もちろんでございます。私が居ない間は、フェールかフラムにご用命下さいませ」
「うん、分かった。では、今日は遅いから、明日に早速頼むよ、アリス」
「承知致しました、マイマスター」
こうして、あっさりと大事業の許可を勝ち取ってしまったギルソンである。実に末恐ろしい末っ子王子である。
あれだけかんかんに照りつける陽の下に居たのだから、汗をかいてしまうのは仕方のない事である。港町に居た事もあってか、ちょっといつもと汗の感じが違うので、ギルソンたちには相当な不快感になっていたようだ。
ギルソンたちのお風呂の世話はポルト公子の使用人たちに任せて、アリスたちは着替えの準備をしている。
その間、アリスはいろいろと考え事をしていた。
(やはり、あの港町まで鉄道を引くべきですね。高低差があるので、かなり時間がかかってしまいますし、最大の問題はあの気温です)
そう、港町は意外と暑かったのだ。
今は暑い季節ではあるものの、それを加味してもかなり暑苦しかった。おそらく原因は湿気だろう。少なくともアリスはそのようににらんでいる。
(あの湿度と気温では、思った以上に傷んでしまいます。大公様にどうにかして認めさせませんと……)
少しでも鮮度の良い海産物を届けるために、アリスは心に固く決意をするのだった。
そして、その日も大公たちと揃って食事を取るギルソンたち。
この夕食の席に並んだ海鮮料理は、昨日とはまた違った料理法で作られていた。
(うんうん、素材や調理法を変えて飽きさせない。実に心配りができていますね。この献立作りを考えた人は、なかなかできる人ですね)
夕食の席を見守りながら、アリスは感心したように心の中で頷いている。ただ……。
(ああ、できれば私も味わいたいですよ。オートマタってどうして食事が要らないんですか!)
海の幸も好きだった前世のせいか、心の中で血涙を流すアリスなのであった。ファルーダン王国でもマスカード帝国でもそんな事はなかったのに、ソルティエ公国に来てからずっとこの調子である。どれだけ海産物が好きなのだろうか。心の中を知られたら、きっとドン引きされる事だろう。
ふと視線が気になったアリスが横を見る。すると、そこにはドン引きした表情のジャスミンが居た。
「ジャスミン?」
その表情のせいで思わず声が出てしまうアリスである。
アリスの声で我に返ったジャスミンは、無表情に戻って前を見ていた。まるで何事もなかったかのようである。その様子に引っ掛かりを覚えたアリスだったが、今は食事の真っ最中なので問い質すのは後回しにしたのだった。
食事の後、ギルソンは大公に何やら話し掛けていた。すると、ギルソンがアリスに向かって手招きをしているではないか。一体なんだろうかと、アリスはゆっくりとギルソンの元へと歩いていく。
「お呼びでしょうか、マイマスター」
「うん、ちょっと大公様とお話をしようと思いましてね。アリスにも同席を頼みたいのです」
ギルソンがにこやかに話し掛けてくる。
「承知致しました、マイマスター」
アリスはよく分からないものの了承をする。オートマタが主に逆らう事はまずないので、了承するしかないのだが。
「それで、ギルソン殿下は何のお話なのですかね」
大公がすぐさま本題に入ってくる。それに対してくるりと振り返るギルソン。
「そうですね。首都まで引いてきた鉄道ですが、本日伺った港町まで延伸したいと思うのです」
ギルソンが出した提案に驚いてしまうアリス。どうやら、主従でまったく同じ事を考えていたらしい。
この提案を受けた大公は少し考え始める。
「それはどういう理由で、ですかな」
ひとまずは理由を尋ねる大公。それに対してギルソンはまたにこりと微笑んでいる。
「単純に、ここに運んでくるまでに海産物が傷まないかという心配ですね」
「といいますと?」
「今日伺って分かったのですが、港町あたりは思いの外暖かいんです。温度の高いところに食べ物を置くと傷みやすく、すぐに腐ってしまいます。ですから、少しでも早く冷えたところに運んで、傷みにくくする必要があると感じたのですよ」
ギルソンの言い分を聞いて、大公は驚かされる。自分の子どもたちと同い年だというのに、こんなところにまで考えが及ぶのかと。
もちろん、ポルトもマリンも頭が悪いわけではない。ギルソンが異様に頭がいいだけなのである。大人であり、一国の主である大公ですら唸らされるほどの頭脳の持ち主、それがギルソンなのだ。
ちなにみ、アリスだってそんなにギルソンの教育をしてきたわけではない。元々が努力家だったがために、ぐれる世界線が潰えた今、本来のギルソンが出てきているというわけなのである。
ギルソンの中に恐ろしさを感じた大公だったが、鉄道の延伸自体は別に悪い話ではないと感じている。
「分かった、港町への延伸は許可しよう」
思ったよりも簡単に、大公は延伸許可を出してしまっていた。そして、ギルソンはすぐにアリスへと振り返る。
「やってくれるかい?」
「もちろんでございます。私が居ない間は、フェールかフラムにご用命下さいませ」
「うん、分かった。では、今日は遅いから、明日に早速頼むよ、アリス」
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