120 / 193
Mission119
しおりを挟む
城に戻って来たギルソンたちは、ひとまず汗を流す。
あれだけかんかんに照りつける陽の下に居たのだから、汗をかいてしまうのは仕方のない事である。港町に居た事もあってか、ちょっといつもと汗の感じが違うので、ギルソンたちには相当な不快感になっていたようだ。
ギルソンたちのお風呂の世話はポルト公子の使用人たちに任せて、アリスたちは着替えの準備をしている。
その間、アリスはいろいろと考え事をしていた。
(やはり、あの港町まで鉄道を引くべきですね。高低差があるので、かなり時間がかかってしまいますし、最大の問題はあの気温です)
そう、港町は意外と暑かったのだ。
今は暑い季節ではあるものの、それを加味してもかなり暑苦しかった。おそらく原因は湿気だろう。少なくともアリスはそのようににらんでいる。
(あの湿度と気温では、思った以上に傷んでしまいます。大公様にどうにかして認めさせませんと……)
少しでも鮮度の良い海産物を届けるために、アリスは心に固く決意をするのだった。
そして、その日も大公たちと揃って食事を取るギルソンたち。
この夕食の席に並んだ海鮮料理は、昨日とはまた違った料理法で作られていた。
(うんうん、素材や調理法を変えて飽きさせない。実に心配りができていますね。この献立作りを考えた人は、なかなかできる人ですね)
夕食の席を見守りながら、アリスは感心したように心の中で頷いている。ただ……。
(ああ、できれば私も味わいたいですよ。オートマタってどうして食事が要らないんですか!)
海の幸も好きだった前世のせいか、心の中で血涙を流すアリスなのであった。ファルーダン王国でもマスカード帝国でもそんな事はなかったのに、ソルティエ公国に来てからずっとこの調子である。どれだけ海産物が好きなのだろうか。心の中を知られたら、きっとドン引きされる事だろう。
ふと視線が気になったアリスが横を見る。すると、そこにはドン引きした表情のジャスミンが居た。
「ジャスミン?」
その表情のせいで思わず声が出てしまうアリスである。
アリスの声で我に返ったジャスミンは、無表情に戻って前を見ていた。まるで何事もなかったかのようである。その様子に引っ掛かりを覚えたアリスだったが、今は食事の真っ最中なので問い質すのは後回しにしたのだった。
食事の後、ギルソンは大公に何やら話し掛けていた。すると、ギルソンがアリスに向かって手招きをしているではないか。一体なんだろうかと、アリスはゆっくりとギルソンの元へと歩いていく。
「お呼びでしょうか、マイマスター」
「うん、ちょっと大公様とお話をしようと思いましてね。アリスにも同席を頼みたいのです」
ギルソンがにこやかに話し掛けてくる。
「承知致しました、マイマスター」
アリスはよく分からないものの了承をする。オートマタが主に逆らう事はまずないので、了承するしかないのだが。
「それで、ギルソン殿下は何のお話なのですかね」
大公がすぐさま本題に入ってくる。それに対してくるりと振り返るギルソン。
「そうですね。首都まで引いてきた鉄道ですが、本日伺った港町まで延伸したいと思うのです」
ギルソンが出した提案に驚いてしまうアリス。どうやら、主従でまったく同じ事を考えていたらしい。
この提案を受けた大公は少し考え始める。
「それはどういう理由で、ですかな」
ひとまずは理由を尋ねる大公。それに対してギルソンはまたにこりと微笑んでいる。
「単純に、ここに運んでくるまでに海産物が傷まないかという心配ですね」
「といいますと?」
「今日伺って分かったのですが、港町あたりは思いの外暖かいんです。温度の高いところに食べ物を置くと傷みやすく、すぐに腐ってしまいます。ですから、少しでも早く冷えたところに運んで、傷みにくくする必要があると感じたのですよ」
ギルソンの言い分を聞いて、大公は驚かされる。自分の子どもたちと同い年だというのに、こんなところにまで考えが及ぶのかと。
もちろん、ポルトもマリンも頭が悪いわけではない。ギルソンが異様に頭がいいだけなのである。大人であり、一国の主である大公ですら唸らされるほどの頭脳の持ち主、それがギルソンなのだ。
ちなにみ、アリスだってそんなにギルソンの教育をしてきたわけではない。元々が努力家だったがために、ぐれる世界線が潰えた今、本来のギルソンが出てきているというわけなのである。
ギルソンの中に恐ろしさを感じた大公だったが、鉄道の延伸自体は別に悪い話ではないと感じている。
「分かった、港町への延伸は許可しよう」
思ったよりも簡単に、大公は延伸許可を出してしまっていた。そして、ギルソンはすぐにアリスへと振り返る。
「やってくれるかい?」
「もちろんでございます。私が居ない間は、フェールかフラムにご用命下さいませ」
「うん、分かった。では、今日は遅いから、明日に早速頼むよ、アリス」
「承知致しました、マイマスター」
こうして、あっさりと大事業の許可を勝ち取ってしまったギルソンである。実に末恐ろしい末っ子王子である。
あれだけかんかんに照りつける陽の下に居たのだから、汗をかいてしまうのは仕方のない事である。港町に居た事もあってか、ちょっといつもと汗の感じが違うので、ギルソンたちには相当な不快感になっていたようだ。
ギルソンたちのお風呂の世話はポルト公子の使用人たちに任せて、アリスたちは着替えの準備をしている。
その間、アリスはいろいろと考え事をしていた。
(やはり、あの港町まで鉄道を引くべきですね。高低差があるので、かなり時間がかかってしまいますし、最大の問題はあの気温です)
そう、港町は意外と暑かったのだ。
今は暑い季節ではあるものの、それを加味してもかなり暑苦しかった。おそらく原因は湿気だろう。少なくともアリスはそのようににらんでいる。
(あの湿度と気温では、思った以上に傷んでしまいます。大公様にどうにかして認めさせませんと……)
少しでも鮮度の良い海産物を届けるために、アリスは心に固く決意をするのだった。
そして、その日も大公たちと揃って食事を取るギルソンたち。
この夕食の席に並んだ海鮮料理は、昨日とはまた違った料理法で作られていた。
(うんうん、素材や調理法を変えて飽きさせない。実に心配りができていますね。この献立作りを考えた人は、なかなかできる人ですね)
夕食の席を見守りながら、アリスは感心したように心の中で頷いている。ただ……。
(ああ、できれば私も味わいたいですよ。オートマタってどうして食事が要らないんですか!)
海の幸も好きだった前世のせいか、心の中で血涙を流すアリスなのであった。ファルーダン王国でもマスカード帝国でもそんな事はなかったのに、ソルティエ公国に来てからずっとこの調子である。どれだけ海産物が好きなのだろうか。心の中を知られたら、きっとドン引きされる事だろう。
ふと視線が気になったアリスが横を見る。すると、そこにはドン引きした表情のジャスミンが居た。
「ジャスミン?」
その表情のせいで思わず声が出てしまうアリスである。
アリスの声で我に返ったジャスミンは、無表情に戻って前を見ていた。まるで何事もなかったかのようである。その様子に引っ掛かりを覚えたアリスだったが、今は食事の真っ最中なので問い質すのは後回しにしたのだった。
食事の後、ギルソンは大公に何やら話し掛けていた。すると、ギルソンがアリスに向かって手招きをしているではないか。一体なんだろうかと、アリスはゆっくりとギルソンの元へと歩いていく。
「お呼びでしょうか、マイマスター」
「うん、ちょっと大公様とお話をしようと思いましてね。アリスにも同席を頼みたいのです」
ギルソンがにこやかに話し掛けてくる。
「承知致しました、マイマスター」
アリスはよく分からないものの了承をする。オートマタが主に逆らう事はまずないので、了承するしかないのだが。
「それで、ギルソン殿下は何のお話なのですかね」
大公がすぐさま本題に入ってくる。それに対してくるりと振り返るギルソン。
「そうですね。首都まで引いてきた鉄道ですが、本日伺った港町まで延伸したいと思うのです」
ギルソンが出した提案に驚いてしまうアリス。どうやら、主従でまったく同じ事を考えていたらしい。
この提案を受けた大公は少し考え始める。
「それはどういう理由で、ですかな」
ひとまずは理由を尋ねる大公。それに対してギルソンはまたにこりと微笑んでいる。
「単純に、ここに運んでくるまでに海産物が傷まないかという心配ですね」
「といいますと?」
「今日伺って分かったのですが、港町あたりは思いの外暖かいんです。温度の高いところに食べ物を置くと傷みやすく、すぐに腐ってしまいます。ですから、少しでも早く冷えたところに運んで、傷みにくくする必要があると感じたのですよ」
ギルソンの言い分を聞いて、大公は驚かされる。自分の子どもたちと同い年だというのに、こんなところにまで考えが及ぶのかと。
もちろん、ポルトもマリンも頭が悪いわけではない。ギルソンが異様に頭がいいだけなのである。大人であり、一国の主である大公ですら唸らされるほどの頭脳の持ち主、それがギルソンなのだ。
ちなにみ、アリスだってそんなにギルソンの教育をしてきたわけではない。元々が努力家だったがために、ぐれる世界線が潰えた今、本来のギルソンが出てきているというわけなのである。
ギルソンの中に恐ろしさを感じた大公だったが、鉄道の延伸自体は別に悪い話ではないと感じている。
「分かった、港町への延伸は許可しよう」
思ったよりも簡単に、大公は延伸許可を出してしまっていた。そして、ギルソンはすぐにアリスへと振り返る。
「やってくれるかい?」
「もちろんでございます。私が居ない間は、フェールかフラムにご用命下さいませ」
「うん、分かった。では、今日は遅いから、明日に早速頼むよ、アリス」
「承知致しました、マイマスター」
こうして、あっさりと大事業の許可を勝ち取ってしまったギルソンである。実に末恐ろしい末っ子王子である。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

【完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る
金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。
ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの?
お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。
ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。
少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。
どうしてくれるのよ。
ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ!
腹立つわ〜。
舞台は独自の世界です。
ご都合主義です。
緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる