転生オートマタ

未羊

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Mission118

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 午後は少し休んでから船に乗る事となった。あまり食べた直後であると、慣れていないと船酔いを起こして悲惨な事になるからだ。
 乗り物は鉄道で慣れているかも知れないが、そもそも鉄道と船では揺れ方の種類が違う。安易な自信は後で地獄を見るはめになるのだ。オートマタがついているとはいっても、過信は禁物なのである。
 やって来た波止場では、ちょうど商船が入港していたのか、積み荷の陸揚げが行われていた。重そうな木箱を抱えた船員たちの姿があちこちに見られる。
 その光景には、このソルティエ公国では海運が盛んだというのが事実であるというのがよく分かる。
 船での移動は風や潮任せというのはあるが、移動速度はそこそこあるし、一度に大量の物品が運搬できる。大量の物品の移動は鉄道でもできるものの、唯一といっていいくらいの弱点である海の移動ができるのが、この船舶というものなのだ。
 それにしても改めて近くで見てみると、その船舶の大きさには驚かされるものだ。そして、イスヴァンがはしゃぎにはしゃぎまわっている。これでも彼はマスカード帝国の現皇帝の一人息子なはずなのだが、なんとも疑いたくなるくらいの浮かれ具合である。
「あらあら、ずいぶんと大喜びのようですね」
 浮かれるイスヴァンを見て、大公妃が笑っている。ただ、単純に楽しそうにしているイスヴァンを見て嬉しく感じているだけみたいなので、嫌な感じはしていないようだった。
 そんな中、大公は大臣を付き添わせながら波止場の人物と交渉している。ギルソンたちを船に乗せてくる船の持ち主を探しているのである。
 さすがに大公の頼みとはいっても、簡単に首を縦に振ってくれる船乗りはすぐには見つからなかった。
「大公様、失礼致します」
 そこへ、ギルソンをジャスミンたちに任せたアリスがやって来た。
「おお、確かギルソン殿下のオートマタの……」
「はい、アリスと申します」
 大公が確認するように話すと、アリスはメイドらしい動きで挨拶をしている。
「今回は私たちファルーダンのオートマタがついております。多少の事が起きても対処できますゆえに、どうか乗船の許可を頂けませんでしょうか」
 大公に頭を下げた後、船乗りたちにお願いをするアリス。
 だが、オートマタの事はよく分からない船乗りたちは、頑として首を縦に振ろうとはしなかった。
 そこで、アリスはやむなくオートマタの力を見せる事にしたのだった。
「これを見ても、そのような態度を取られるのでしょうか」
 アリスが近くの木箱に対して魔法を使う。すると、木箱は水平を保ったまま空中へと持ち上がっていた。
 この光景に船乗りたちは驚いている。中には腰を抜かす者まで居たくらいだ。
「これが、私たちオートマタに備わっている魔法と呼ばれる力でございます。これでも、まだ何かご不安はございますでしょうか」
 半ば脅しではあるものの、ここで大公たちに恥をかかせるわけにはいかない。あまり気が進まないものの、アリスはやるしかなかったのである。
 ここまでやって、ようやく船に乗せてくれる船乗りが見つかった。しかし、表情を見る限り渋々といった感じである。
 その上、この船乗りは船に乗る面々の肩書を聞いて、今度は腰を抜かす始末だ。さっきの魔法の時の反応を越えるレベルの抜かしようである。
「ななな、王族とか偉い人ばかりじゃないですか! い、命が、命がいくつあっても足りやしねえ!」
 地面に倒れ込んだまま叫ぶ船乗りである。気持ちは分からなくはないものの、アリスだって引くつもりはなかった。
「大丈夫です。何かありましても、私たちオートマタが全力で対処致します。あなたはただ、私たちを船に乗せて港湾内を一周してくれればよろしいのです」
 アリスは船乗りに言うと、最後にこの上ない笑顔を見せていた。
「……くっ、そこまで言われちまったら、やるしかねえな。このままじゃ船乗りは腰抜けどもだと思われかねん」
 覚悟を決めた船乗りはすくりと立ち上がる。
「おい、野郎ども。船を出す準備をしやがれ!」
「へい、船長!」
 覚悟を決めた船乗りが、部下に対して命令を飛ばしていた。この船乗りは船長だったようである。
 こうして、準備の整った船に乗り込み、1時間くらいかけて港湾内をぐるっと一周してきた。さすがは歴戦の船乗りたちなのか、うまく船をコントロールしてしっかりきっかり一周させて元の位置に戻ってきたのだった。
「これが船か。なかなかに楽しかったぞ」
 イスヴァンはとても満足そうに笑っていた。港湾内であまり波が穏やかだったので、本当に平気そうに笑っていた。
「列車もそうですが、これだけ大きなものがこのように動くというのは不思議なものですね」
 ギルソンは興味深そうに、下船後もしばらく船を眺めていた。
 途中でちょっとしたトラブルはあったものの、船に乗るという目的が達せられたのか大公も満足していた。大公は別に船乗りの対応に怒っている様子はなかった。この海洋国家を治めるとあって、大公自身にも海や船の知識があるからだ。
 下船後の大公は、乗せてくれた船の船員たち一人一人の事を労っていた。
 こうして、大公による港町の案内は終わりを告げたのであった。
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