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Mission116
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翌日の朝食の後。
ギルソンたちは大公の部下に引き連れられて首都の中を散策していた。せっかく来てもらったのでソルティエ公国の事を知ってもらおうと、大公が命令を出したのだ。
オートマタを除けば全員が12歳から14歳という子どもなので、引率の大臣や兵士たちは少しばかり不満そうな顔をしている。だが、マリカを除けば国の重要人物たちである。不満はあるけれども仕事と割り切っていた。
ソルティエ公国の首都は海からかなり近いとあって、風向き次第では潮の香りが首都にまで届く。それでも、首都から海まではまだ距離があるので、アリスとしては海まで鉄道を延ばしたいと思ってしまうのだ。
しかし、今はギルソンの付き添いとして首都の視察を行っているので、口には出さずにおとなしくしている。だけども、そのアリスの胸のうちは、ギルソンとジャスミンの二人がしっかりと察しているのだった。
それにしても、さすがに海が近い場所である。
立ち並ぶ露店には海産物がこれでもかというくらいに売られている。
前世日本人であるアリスは食べたくて仕方がない。しかし、オートマタがゆえに食べる事ができない。昨夜の晩餐会に続いて、実に歯がゆい状況になっていた。
(これはあまりにも殺生というものですよ……!)
好きなものが目の前にあるのに食べられない。これほどつらい状況があってたまるものかと、オートマタであるがゆえに泣けないために、アリスは心の中で大泣きをしたのだった。
結局は、ギルソンたちがおいしそうに味わう姿を見守るしかなかったアリス。心の中で泣きながら、ハンカチを取り出してはギルソンの口や手についた汚れを拭きとっていたのだった。
視察の午後には工芸店などを回る。午前中は街の中を歩いて雰囲気を味わってもらったので、午後は産業など知ってもらおうというわけだ。
ソルティエ公国は船を建造するので、土木関係の技術がかなり高い。首都の中にもかなりの木工業の工房が軒を連ねている。
ただ、木材加工という点では、ファルーダン王国だって負けてはいない。なぜならオートマタは基本的に木製だからだ。
とはいえ、同じ木材を扱うとはいっても、人形と船ではまったく技術が違う。きっと参考になるものがあるはずだと、ギルソンとマリカはかなり興味深そうにしている。
そんな二人を後ろで見守るアリスとジャスミン。自分たちのマスターたちのわくわくとした笑顔に、ついつい困ったような顔で笑ってしまっていた。
何か所か見て回ったものの、首都の工芸店では二人の興味を引けるものは木工品の中にはなかった模様。ただ、興味を引いたものがなかったわけではなかった。
それが魚の骨を使った工芸品だった。
魚の骨を2本組み合わせて、それを木の棒に差し込んで作ったペン。魚の中骨を輪切りにして加工したアクセサリー。こういったものはファルーダンでは見る事がないものだったので、ギルソンやマリカの興味を惹いたようだった。
ファルーダンでは川魚を食すことはあるものの、骨は基本的に全部そのまま地面に埋められてしまう。このように加工する事がないので新鮮だったのだ。
しかし、対照的にアワードとイスヴァンはあまり興味を持たなかったようだった。
「お気に召したようで何よりです。明日はその骨が手に入る港へとご案内致しますので、楽しみにしていて下さい」
最初は不機嫌だった大臣も、ギルソンたちが喜ぶ姿を見てすっかり機嫌がよくなっていた。命令でやらされていたとはいえ、自国のものにこれだけ興味を示してくれるので、売り込みたい気持ちがふつふつと湧いてきたようだった。
「それは楽しみですね」
ギルソンが笑顔で反応すれば、
「ええ、そうでしょうとも。港に行けば、我がソルティエが誇る船の数々もご覧に入れましょう」
大臣もすっかり乗り気になっていた。
「なに、それは本当か!」
だが、これに一番反応したのはイスヴァンだった。
「もちろん本当でございます。ソルティエ公国は海運業が盛んに行われています国がゆえに、長期間の航海にも耐えられるような船を何隻も持ち合わせております。それをしかとお見せ致しましょう」
イスヴァンの勢いに押されながらも、大臣はそのような約束を口にしていた。
これを聞いたイスヴァンは、体を震わせている。
そういえば、鉄道を見た時も感動をしていたイスヴァンなのだ。もしかしたら、乗り物や大きいものに惹かれるのかも知れない。こういうところは、典型的な男の子の傾向だなと思うアリスである。
特に何の問題もなく首都の視察を終えて城に戻ったギルソンたち。今日の案内をやり切った大臣たちは、ひとまず嬉々として大公のところへと向かっていった。
その夜、夕食の後で客室で休むギルソンたち。歩き疲れて次々とぐっすりと眠る中、ただ一人、イスヴァンだけがなかなか寝付けなかった。明日が楽しみで興奮のし過ぎで寝付けないのである。
こんな調子で大丈夫なのだろうか。部屋の隅で心配そうに見守るフラムの姿があったのだった。
ギルソンたちは大公の部下に引き連れられて首都の中を散策していた。せっかく来てもらったのでソルティエ公国の事を知ってもらおうと、大公が命令を出したのだ。
オートマタを除けば全員が12歳から14歳という子どもなので、引率の大臣や兵士たちは少しばかり不満そうな顔をしている。だが、マリカを除けば国の重要人物たちである。不満はあるけれども仕事と割り切っていた。
ソルティエ公国の首都は海からかなり近いとあって、風向き次第では潮の香りが首都にまで届く。それでも、首都から海まではまだ距離があるので、アリスとしては海まで鉄道を延ばしたいと思ってしまうのだ。
しかし、今はギルソンの付き添いとして首都の視察を行っているので、口には出さずにおとなしくしている。だけども、そのアリスの胸のうちは、ギルソンとジャスミンの二人がしっかりと察しているのだった。
それにしても、さすがに海が近い場所である。
立ち並ぶ露店には海産物がこれでもかというくらいに売られている。
前世日本人であるアリスは食べたくて仕方がない。しかし、オートマタがゆえに食べる事ができない。昨夜の晩餐会に続いて、実に歯がゆい状況になっていた。
(これはあまりにも殺生というものですよ……!)
好きなものが目の前にあるのに食べられない。これほどつらい状況があってたまるものかと、オートマタであるがゆえに泣けないために、アリスは心の中で大泣きをしたのだった。
結局は、ギルソンたちがおいしそうに味わう姿を見守るしかなかったアリス。心の中で泣きながら、ハンカチを取り出してはギルソンの口や手についた汚れを拭きとっていたのだった。
視察の午後には工芸店などを回る。午前中は街の中を歩いて雰囲気を味わってもらったので、午後は産業など知ってもらおうというわけだ。
ソルティエ公国は船を建造するので、土木関係の技術がかなり高い。首都の中にもかなりの木工業の工房が軒を連ねている。
ただ、木材加工という点では、ファルーダン王国だって負けてはいない。なぜならオートマタは基本的に木製だからだ。
とはいえ、同じ木材を扱うとはいっても、人形と船ではまったく技術が違う。きっと参考になるものがあるはずだと、ギルソンとマリカはかなり興味深そうにしている。
そんな二人を後ろで見守るアリスとジャスミン。自分たちのマスターたちのわくわくとした笑顔に、ついつい困ったような顔で笑ってしまっていた。
何か所か見て回ったものの、首都の工芸店では二人の興味を引けるものは木工品の中にはなかった模様。ただ、興味を引いたものがなかったわけではなかった。
それが魚の骨を使った工芸品だった。
魚の骨を2本組み合わせて、それを木の棒に差し込んで作ったペン。魚の中骨を輪切りにして加工したアクセサリー。こういったものはファルーダンでは見る事がないものだったので、ギルソンやマリカの興味を惹いたようだった。
ファルーダンでは川魚を食すことはあるものの、骨は基本的に全部そのまま地面に埋められてしまう。このように加工する事がないので新鮮だったのだ。
しかし、対照的にアワードとイスヴァンはあまり興味を持たなかったようだった。
「お気に召したようで何よりです。明日はその骨が手に入る港へとご案内致しますので、楽しみにしていて下さい」
最初は不機嫌だった大臣も、ギルソンたちが喜ぶ姿を見てすっかり機嫌がよくなっていた。命令でやらされていたとはいえ、自国のものにこれだけ興味を示してくれるので、売り込みたい気持ちがふつふつと湧いてきたようだった。
「それは楽しみですね」
ギルソンが笑顔で反応すれば、
「ええ、そうでしょうとも。港に行けば、我がソルティエが誇る船の数々もご覧に入れましょう」
大臣もすっかり乗り気になっていた。
「なに、それは本当か!」
だが、これに一番反応したのはイスヴァンだった。
「もちろん本当でございます。ソルティエ公国は海運業が盛んに行われています国がゆえに、長期間の航海にも耐えられるような船を何隻も持ち合わせております。それをしかとお見せ致しましょう」
イスヴァンの勢いに押されながらも、大臣はそのような約束を口にしていた。
これを聞いたイスヴァンは、体を震わせている。
そういえば、鉄道を見た時も感動をしていたイスヴァンなのだ。もしかしたら、乗り物や大きいものに惹かれるのかも知れない。こういうところは、典型的な男の子の傾向だなと思うアリスである。
特に何の問題もなく首都の視察を終えて城に戻ったギルソンたち。今日の案内をやり切った大臣たちは、ひとまず嬉々として大公のところへと向かっていった。
その夜、夕食の後で客室で休むギルソンたち。歩き疲れて次々とぐっすりと眠る中、ただ一人、イスヴァンだけがなかなか寝付けなかった。明日が楽しみで興奮のし過ぎで寝付けないのである。
こんな調子で大丈夫なのだろうか。部屋の隅で心配そうに見守るフラムの姿があったのだった。
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