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Mission115
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やがて使用人が呼びに来て、歓迎の晩餐会が開かれる食堂へと呼ばれるギルソンたち。部屋に入ると、主催である大公たちは既に席についていた。
部屋に入ったギルソンたちは十分に頭を下げて大公たちに挨拶をする。
「本日は急なご訪問にもかかわらず、丁寧なお出迎えをして頂きありがとうございます。ファルーダン王国の者を代表して、御礼申し上げます」
丁寧な挨拶に、大公たちは驚いている。なにせギルソンは、自分の娘マリンと同い年なのだから。
(ほう、本当にできた王子だな。これで娘と同じ12歳か。この人材、できればほしいところだな……)
ギルソンの挨拶を聞きながら、ついそう思ってしまう大公である。
しかし、この大公の考えにはひとつ問題点があった。
なにせポルトという公子が存在しているのだ。マリンの結婚相手となっても、跡を継ぐ可能性が高いのはポルトである。つまりは、マリンの相手では大公を継げない可能性が高いというわけだった。
だが、そういう状況があるにもかかわらず、大公はギルソンに対して魅力を感じていた。
ファルーダン王国は大国とはいえ、ギルソンは第五王子だ。大した事はないと高を括っていたのだろう。
だが、実際に会ってみたギルソンはとても落ち着いていて、しかも聡明に見えた。隣に居るおそらく兄だと思われる人物がガチガチに固まっているのだ。それを思えばこの堂々ぶりは特筆すべき事項の一つだろう。挟んで反対側に居るマスカード帝国のイスヴァン皇子と比較しても、ひときわ異彩を放っている。
驚いていた大公だったが、大公妃の視線に気が付いてごほんと咳払いをひとつする。
「急だったのは確かに驚いたが、せめてしっかりと歓迎させてもらおう。私はアンカー・ソルティエ、この国の大公、君たちで言うところの国王や皇帝に該当する座に居る者だ」
「その妻であるセイレス・ソルティエです。私たちの子がお世話になっております」
大公と大公妃がそれぞれに挨拶をしている。
「これは失礼致しました。ボクの方が先に名乗らなければいけませんでしたね。ボクはファルーダン王国第五王子、ギルソン・アーディリオ・ファルーダンと申します。この度は鉄道の建設許可を頂き、本当にありがとうございました」
ギルソンは改めて頭を下げていた。
「いやいや、鉄道の事は噂には聞いていたので、興味を持っていたのでね。それで今回は子どもたちの事もあったので許可を出したまでだ。礼を言われる事ではないよ」
大公は笑いながら気にするなという感じで手を左右に振っている。それを見たギルソンは再び頭を下げた。
その後、食事を始める前にイスヴァンとアワード、それに一人だけ騎士爵という平民同然の身分がために場違いだと感じているマリカが自己紹介をしていた。
「ほう、すごいな。その年でオートマタを作っているのか。剣の腕もそこそこあるとは、若いのに素晴らしい」
「い、いえ……、もったいない、お言葉、です……」
大公に褒められるマリカだが、さすがに身分が違い過ぎてガッチガチに固まってしまっていた。顔を見ても、話しをしている時以外はほぼ常に目が泳いでしまっていた。
そして、ひと通り挨拶が済んだ事で、いよいよ歓迎の晩餐会が始まったのだった。
その晩餐会の後ろで、一人気持ちが抑えられない人物が居た。
(お魚! 貝! 海産物がたくさん並んでいるではないですか!)
言わずもがな、前世持ちのアリスである。
前世の彼女は日本人なので、海産物には慣れ親しみがあるのだ。それがゆえに、目の前に並んでいる海産物を使った料理に目を奪われていたのである。
だがしかし、オートマタはお腹が減る事がないので食事を取る必要がない。オートマタは食べられなくもないが、食べたところで消化ができない。つまり、体の中に残ってしまうので、動きに影響が出る可能性があるのだ。食べたいものが目の前にあるのに食べられない。これほどまでの拷問があるのだろうか。
「お姉様?」
アリスの様子に気が付いたジャスミンが声を掛けてくる。
「大丈夫ですか、お姉様」
反応がないので、もう一度声を掛けるジャスミン。すると、ようやくアリスが反応した。
「だ、大丈夫ですよ、ジャスミン」
すると、すごく複雑な表情をしたアリスの顔が見えて、思わずびっくりしてしまうジャスミンだった。声が出そうになったので、とっさに口を塞ぐくらいである。
「……お姉様、とりあえず顔だけでもちゃんと致しましょう。その顔では周りから変に思われてしまいます」
「そ、そうですね。これでは従者として失格ですね」
ジャスミンに諫められて、アリスは表情と態度をしっかりと引き締め直していた。その様子を見て、ジャスミンは小さくため息を吐いた。そして、再び晩餐会の様子を黙って見守っていた。
初めて見る海産物に驚いていたギルソンたちだったが、歓迎の晩餐会は特に問題もなく終了した。
今日の到着は遅かったがために、鉄道の詳しい説明は翌日へと持ち越しとなったため、ギルソンたちは客間に戻ってゆっくりと体を休めたのだった。
部屋に入ったギルソンたちは十分に頭を下げて大公たちに挨拶をする。
「本日は急なご訪問にもかかわらず、丁寧なお出迎えをして頂きありがとうございます。ファルーダン王国の者を代表して、御礼申し上げます」
丁寧な挨拶に、大公たちは驚いている。なにせギルソンは、自分の娘マリンと同い年なのだから。
(ほう、本当にできた王子だな。これで娘と同じ12歳か。この人材、できればほしいところだな……)
ギルソンの挨拶を聞きながら、ついそう思ってしまう大公である。
しかし、この大公の考えにはひとつ問題点があった。
なにせポルトという公子が存在しているのだ。マリンの結婚相手となっても、跡を継ぐ可能性が高いのはポルトである。つまりは、マリンの相手では大公を継げない可能性が高いというわけだった。
だが、そういう状況があるにもかかわらず、大公はギルソンに対して魅力を感じていた。
ファルーダン王国は大国とはいえ、ギルソンは第五王子だ。大した事はないと高を括っていたのだろう。
だが、実際に会ってみたギルソンはとても落ち着いていて、しかも聡明に見えた。隣に居るおそらく兄だと思われる人物がガチガチに固まっているのだ。それを思えばこの堂々ぶりは特筆すべき事項の一つだろう。挟んで反対側に居るマスカード帝国のイスヴァン皇子と比較しても、ひときわ異彩を放っている。
驚いていた大公だったが、大公妃の視線に気が付いてごほんと咳払いをひとつする。
「急だったのは確かに驚いたが、せめてしっかりと歓迎させてもらおう。私はアンカー・ソルティエ、この国の大公、君たちで言うところの国王や皇帝に該当する座に居る者だ」
「その妻であるセイレス・ソルティエです。私たちの子がお世話になっております」
大公と大公妃がそれぞれに挨拶をしている。
「これは失礼致しました。ボクの方が先に名乗らなければいけませんでしたね。ボクはファルーダン王国第五王子、ギルソン・アーディリオ・ファルーダンと申します。この度は鉄道の建設許可を頂き、本当にありがとうございました」
ギルソンは改めて頭を下げていた。
「いやいや、鉄道の事は噂には聞いていたので、興味を持っていたのでね。それで今回は子どもたちの事もあったので許可を出したまでだ。礼を言われる事ではないよ」
大公は笑いながら気にするなという感じで手を左右に振っている。それを見たギルソンは再び頭を下げた。
その後、食事を始める前にイスヴァンとアワード、それに一人だけ騎士爵という平民同然の身分がために場違いだと感じているマリカが自己紹介をしていた。
「ほう、すごいな。その年でオートマタを作っているのか。剣の腕もそこそこあるとは、若いのに素晴らしい」
「い、いえ……、もったいない、お言葉、です……」
大公に褒められるマリカだが、さすがに身分が違い過ぎてガッチガチに固まってしまっていた。顔を見ても、話しをしている時以外はほぼ常に目が泳いでしまっていた。
そして、ひと通り挨拶が済んだ事で、いよいよ歓迎の晩餐会が始まったのだった。
その晩餐会の後ろで、一人気持ちが抑えられない人物が居た。
(お魚! 貝! 海産物がたくさん並んでいるではないですか!)
言わずもがな、前世持ちのアリスである。
前世の彼女は日本人なので、海産物には慣れ親しみがあるのだ。それがゆえに、目の前に並んでいる海産物を使った料理に目を奪われていたのである。
だがしかし、オートマタはお腹が減る事がないので食事を取る必要がない。オートマタは食べられなくもないが、食べたところで消化ができない。つまり、体の中に残ってしまうので、動きに影響が出る可能性があるのだ。食べたいものが目の前にあるのに食べられない。これほどまでの拷問があるのだろうか。
「お姉様?」
アリスの様子に気が付いたジャスミンが声を掛けてくる。
「大丈夫ですか、お姉様」
反応がないので、もう一度声を掛けるジャスミン。すると、ようやくアリスが反応した。
「だ、大丈夫ですよ、ジャスミン」
すると、すごく複雑な表情をしたアリスの顔が見えて、思わずびっくりしてしまうジャスミンだった。声が出そうになったので、とっさに口を塞ぐくらいである。
「……お姉様、とりあえず顔だけでもちゃんと致しましょう。その顔では周りから変に思われてしまいます」
「そ、そうですね。これでは従者として失格ですね」
ジャスミンに諫められて、アリスは表情と態度をしっかりと引き締め直していた。その様子を見て、ジャスミンは小さくため息を吐いた。そして、再び晩餐会の様子を黙って見守っていた。
初めて見る海産物に驚いていたギルソンたちだったが、歓迎の晩餐会は特に問題もなく終了した。
今日の到着は遅かったがために、鉄道の詳しい説明は翌日へと持ち越しとなったため、ギルソンたちは客間に戻ってゆっくりと体を休めたのだった。
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