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Mission114
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扉が開いて、いよいよ大公との面会である。
ギルソンやアリスたちファルーダンの面々はもちろんだが、実子であるポルトとマリンもかなり緊張しているようだった。
大きな部屋への入室が許可されて、中へと進むギルソンたち。ここまでとは違い、色使いは少々派手ではあるものの、その部屋の内装は比較的シンプルなものだった。
あまり段差は高くはないものの、壇の上に人影が見える。どうやら彼らが大公と大公妃のようだった。
「よく来たな、ファルーダン王国の使いの者たちよ。それと、ポルトとマリン、元気そうでなによりだ」
大公たちの前に跪くアリスたちに、ソルティエ大公が言葉を掛ける。
「このような時期に一時帰国したこと、お詫び申し上げます、父上、母上」
「いいえ、構いませんよ」
謝罪を口にするポルトに対して、大公妃は特に気にしていないようだった。駅に着いた時に先触れを送っておいた効果が出ているようである。
「それにしても、鉄道とやらはずいぶんとすごいもののようだな。ポルト、マリン、実際に乗ってみた感想はどうだ?」
ファルーダン王国の面々の居る前で問い掛ける大公。これには、ポルトとマリンは困ったような表情をしながらお互いを見ている。どうやらギルソンたちに対して気を遣っているようだった。
それに対してギルソンは柔らかな笑みを向ける。まるで気にしなくてもいいよ言っているかのようだった。
ギルソンの笑顔を向けられたポルトとマリンは、はっとした顔をする。そして、安心したかのように柔らかな表情に戻ると、ここまで乗ってきた鉄道の感想を大公に長々と話していた。
二人の話に、話を振っておきながらドン引きの大公である。頭を抱えながら、手を出して話を止めようとしている。
「分かった分かった。それにしても、ファルーダンの王都を今日発ってきたというのがにわかには信じられぬな……」
大公の言葉はもっともである。
ソルティエ公国の首都からファルーダン王国の王都までは、途中の国境審査を含めて10日近くかかってしまう。それを1日掛からずにとなれば、誰だって疑ってかかってしまうのだ。
しかし、これは紛れもない事実である。国境まではノンストップだった事もあって、その後オートマタを降ろしながらゆっくり進んできても、その日の夕刻にはこの首都へとたどり着いてしまったのだ。
本来なら曲がりくねっているような道でも、アリスの魔法を使えば直線的に進めてしまう。その事によって更なる時間短縮ができたので、こういった事が可能だったのだ。驚きの技術である。
「本日は、鉄道の完成のご報告を兼ねまして、ポルト公子とマリン公女を一時的に帰国させてみたのです。親元を離れて不安でしょうからね」
鉄道の説明をしながら、ポルトたちを連れてきた事情を説明するギルソン。そのギルソンの姿を見て、本当にマリンと同い年なのか疑いたくなる大公だった。
「お気遣い感謝する。鉄道に関しては部下に今度試乗させよう」
そう言いながら、大公は部下を呼び寄せる。そして、ギルソンたちの泊まる部屋をすぐに用意するように命令を出した。
「疲れているだろうから、今夜は泊っていくといい。ポルトとマリンは私たちについて来なさい。ゆっくり話を聞かせてもらうぞ」
「分かりました、父上」
大公と大公妃は立ち上がり、ポルトとマリンは両親について行く。
ギルソンたちは兵士たちに付き添われて客室へと案内される事となった。
客室に案内されたギルソンたちは、一応男女別に部屋を宛がわれる。急な来訪だったがために、部屋は2つしか用意されなかった。少々狭くなるが仕方がない話だった。
「狭い部屋にフラムを含めて男四人か。急だとはいえ、狭くなるな」
「仕方ありませんよ。急な訪問でしたから、部屋を用意して頂けるだけマシです。人員の割り当ても大変でしょうから、部屋を減らして作業を減らすしかないんですよ」
イスヴァンが文句を言っているが、ギルソンはそう言ってイスヴァンを宥めていた。
「ギルソンはずいぶんと大人だね」
ギルソンの反応を見て、ついついそう呟いてしまうアワードである。
「なんて言うのでしょうかね。アリスのやる事を見ていたら、落ち着かなきゃって思うんです。自分のオートマタなはずなのに、ほとんどボクに従う様子はないあの自由奔放さを見せられるとね……」
ギルソンは愚痴のように呟きながら、アリスたちが案内された部屋の方へと視線を送る。
「でも、そのおかげでボクは大抵の事には動じなくなりましたよ」
「確かにそうだな。帝国民なら誰もが恐れる俺の親父にも、まったく最初から怯える様子もなかったからな。やけに落ち着いていると思ったが、あのオートマタを見れば納得がいくというものだよな」
イスヴァンにまでこう言われる始末。つまり、アリスという存在は、オートマタからすればかなり異質なものだというわけだった。
「さて、この後には晩餐に呼ばれるでしょうから、しっかりと身支度をしておきましょうか」
「畏まりました。俺にお任せ下さい」
ギルソンが話を終わらせると、フラムが魔法を使う。アリスもよく使う洗浄の魔法である。がさつそうなオートマタだが、この魔法はほとんどのオートマタが標準で覚えているので、フラムでも使えるというわけである。
準備万端となったギルソンたちは、呼ばれるまで部屋の中で待機して待つのだった。
ギルソンやアリスたちファルーダンの面々はもちろんだが、実子であるポルトとマリンもかなり緊張しているようだった。
大きな部屋への入室が許可されて、中へと進むギルソンたち。ここまでとは違い、色使いは少々派手ではあるものの、その部屋の内装は比較的シンプルなものだった。
あまり段差は高くはないものの、壇の上に人影が見える。どうやら彼らが大公と大公妃のようだった。
「よく来たな、ファルーダン王国の使いの者たちよ。それと、ポルトとマリン、元気そうでなによりだ」
大公たちの前に跪くアリスたちに、ソルティエ大公が言葉を掛ける。
「このような時期に一時帰国したこと、お詫び申し上げます、父上、母上」
「いいえ、構いませんよ」
謝罪を口にするポルトに対して、大公妃は特に気にしていないようだった。駅に着いた時に先触れを送っておいた効果が出ているようである。
「それにしても、鉄道とやらはずいぶんとすごいもののようだな。ポルト、マリン、実際に乗ってみた感想はどうだ?」
ファルーダン王国の面々の居る前で問い掛ける大公。これには、ポルトとマリンは困ったような表情をしながらお互いを見ている。どうやらギルソンたちに対して気を遣っているようだった。
それに対してギルソンは柔らかな笑みを向ける。まるで気にしなくてもいいよ言っているかのようだった。
ギルソンの笑顔を向けられたポルトとマリンは、はっとした顔をする。そして、安心したかのように柔らかな表情に戻ると、ここまで乗ってきた鉄道の感想を大公に長々と話していた。
二人の話に、話を振っておきながらドン引きの大公である。頭を抱えながら、手を出して話を止めようとしている。
「分かった分かった。それにしても、ファルーダンの王都を今日発ってきたというのがにわかには信じられぬな……」
大公の言葉はもっともである。
ソルティエ公国の首都からファルーダン王国の王都までは、途中の国境審査を含めて10日近くかかってしまう。それを1日掛からずにとなれば、誰だって疑ってかかってしまうのだ。
しかし、これは紛れもない事実である。国境まではノンストップだった事もあって、その後オートマタを降ろしながらゆっくり進んできても、その日の夕刻にはこの首都へとたどり着いてしまったのだ。
本来なら曲がりくねっているような道でも、アリスの魔法を使えば直線的に進めてしまう。その事によって更なる時間短縮ができたので、こういった事が可能だったのだ。驚きの技術である。
「本日は、鉄道の完成のご報告を兼ねまして、ポルト公子とマリン公女を一時的に帰国させてみたのです。親元を離れて不安でしょうからね」
鉄道の説明をしながら、ポルトたちを連れてきた事情を説明するギルソン。そのギルソンの姿を見て、本当にマリンと同い年なのか疑いたくなる大公だった。
「お気遣い感謝する。鉄道に関しては部下に今度試乗させよう」
そう言いながら、大公は部下を呼び寄せる。そして、ギルソンたちの泊まる部屋をすぐに用意するように命令を出した。
「疲れているだろうから、今夜は泊っていくといい。ポルトとマリンは私たちについて来なさい。ゆっくり話を聞かせてもらうぞ」
「分かりました、父上」
大公と大公妃は立ち上がり、ポルトとマリンは両親について行く。
ギルソンたちは兵士たちに付き添われて客室へと案内される事となった。
客室に案内されたギルソンたちは、一応男女別に部屋を宛がわれる。急な来訪だったがために、部屋は2つしか用意されなかった。少々狭くなるが仕方がない話だった。
「狭い部屋にフラムを含めて男四人か。急だとはいえ、狭くなるな」
「仕方ありませんよ。急な訪問でしたから、部屋を用意して頂けるだけマシです。人員の割り当ても大変でしょうから、部屋を減らして作業を減らすしかないんですよ」
イスヴァンが文句を言っているが、ギルソンはそう言ってイスヴァンを宥めていた。
「ギルソンはずいぶんと大人だね」
ギルソンの反応を見て、ついついそう呟いてしまうアワードである。
「なんて言うのでしょうかね。アリスのやる事を見ていたら、落ち着かなきゃって思うんです。自分のオートマタなはずなのに、ほとんどボクに従う様子はないあの自由奔放さを見せられるとね……」
ギルソンは愚痴のように呟きながら、アリスたちが案内された部屋の方へと視線を送る。
「でも、そのおかげでボクは大抵の事には動じなくなりましたよ」
「確かにそうだな。帝国民なら誰もが恐れる俺の親父にも、まったく最初から怯える様子もなかったからな。やけに落ち着いていると思ったが、あのオートマタを見れば納得がいくというものだよな」
イスヴァンにまでこう言われる始末。つまり、アリスという存在は、オートマタからすればかなり異質なものだというわけだった。
「さて、この後には晩餐に呼ばれるでしょうから、しっかりと身支度をしておきましょうか」
「畏まりました。俺にお任せ下さい」
ギルソンが話を終わらせると、フラムが魔法を使う。アリスもよく使う洗浄の魔法である。がさつそうなオートマタだが、この魔法はほとんどのオートマタが標準で覚えているので、フラムでも使えるというわけである。
準備万端となったギルソンたちは、呼ばれるまで部屋の中で待機して待つのだった。
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