113 / 189
Mission112
しおりを挟む
国境に差し掛かる。ここで一度少し長めの休憩を取る。
ここまでは初めて同行させているオートマタを3体降ろす予定になっているからだ。ここからこういう作業が増えるので、これまで以上に時間がかかってしまう予定だ。これはポルトたちには事前に説明済みだった。
今回の試運転には駅員を配置するという目的があるのだ。ソルティエ公国に入れば各駅でオートマタたちを2体ずつ降ろしていく。事前に駅員の配置の事は伝えてあるので、スムーズにいくとは思うものの不安というのはつきまとうというものだった。
「アリス、国境での荷物や人の検査のシステムを説明してくれないかな?」
「畏まりました、マイマスター」
ギルソンから話を振られた事で、アリスは国境におけるシステムの説明を始める。
列車を運行しながらいろいろチェックするというのは、この鉄道だけが採っているシステムだ。これはオートマタが居るからこそ成り立つシステムとも言える。それだけ魔法というものが凄いというわけである。
ちなみに国境を挟む両方の街にある駅間は近いので、ここだけスピードが出にくいのだ。だからこそ、魔法による検査がなおのこと精度を保てるというわけだ。
「……というわけでございます」
「そんな事が可能なのか……」
「オートマタって、すごい……」
アリスが話を終えると、ポルトもマリンもオートマタが使う魔法のすごさに言葉を失っていた。死んだものを生き返らせる以外であれば、魔法というものはほとんど何でもできてしまうような力なのだ。言葉を失うのも当然だろう。
「うん、どうやら準備が整ったようですね」
ギルソンが外を確認しながら口にする。
「これから列車が国境を越えてソルティエ公国に入ります。おそらく敏感な人は国境を越える瞬間に何かを感じると思いますよ」
「それはどういう事ですか?」
ギルソンの説明にマリンが反応する。
「単純に魔法を浴びせられるからでございます。魔法は私たちオートマタ以外は使えませんが、その魔力の波動というものを感じ取れる方はいらっしゃいますからね」
「な、なるほど……」
それに対してアリスが答えると、ポルトが分かったような分からないような微妙な反応をしていた。
なんともまとまり切らない空気の中、列車がゆっくりと動き出す。
しばらく進むと、国境の壁が見えてきた。そこのど真ん中に大きく開けられた穴、そこを通って列車はソルティエ公国へと入っていく。
その壁を通り抜ける瞬間、一瞬ピンと空気が張り詰める。これが検査のための魔法の中を通り抜けた証拠なのである。ちなみにこれはマスカード帝国との国境の間でも同じような感じである。
「うぷ……」
「大丈夫かマリン」
「う、うん、大丈夫」
少し酔ったような反応を見せるマリン。どうやら、魔力の波動を感じ取ってしまったようだ。
「魔力に対して過剰に反応したかもしれませんね。次の駅では少し長めに休みましょうか」
「す、すまない」
ギルソンの提案に、ポルトは素直にお礼を言っていた。妹のマリンの事は大事に思っているようである。
ちなみにだが、イスヴァンとアワードは何ともなく、マリカもマリンと同じように少し気分が悪くなったようだった。たまたまかも知れないが、魔力に反応したのは女性であるマリカとマリンの二人だった。もしかしたら、女性の方が魔力に敏感なのかも知れない。
それはともかくとして、ソルティエ公国の国境の街に入る。列車が走る高架の下では、物珍しそうに街の人たちが見上げている。大半の人間は列車を見るのが初めてだから、この光景は仕方のない事だろう。ファルーダン王国もマスカード帝国も同じだったのだから。
地表に降りて、駅に停車する。
「ジャスミン、ここはお願いします。私はここの駅担当のオートマタを連れて、駅の担当者に会ってきますので」
「分かりました、お姉様」
ギルソンたちの事をジャスミンに任せて、アリスは駅員となるオートマタ2体を連れて列車を降りていった。
「マスター、大丈夫ですか?」
少し気持ちを悪くしているマリカを気遣うジャスミン。
「ええ、大丈夫です。ありがとう、ジャスミン」
その光景を見ていたイスヴァンは、フラムに話し掛ける。
「こういう現象っていうのはそう頻繁に起きるものなのか?」
「そうは起こりませんな。大体、魔力を感じ取れる人間自体が少ないですからね」
「やっぱりそうなのか。俺は何度となく国境を越えてきてるが、まったく感じなかったからな」
「マスターが鈍いだけでは?」
「なんだと?」
にこりと微笑むフラムに、イスヴァンは不機嫌な表情をぶつけている。からかい合えるくらいには信頼関係ができている二人なのである。
「まったく、何をしているんでしょうね、この二人は……」
その様子を見ながら苦笑いをするアワードである。
「まったくですね。マリン様、マリカ様、お水をどうぞです」
睨み合うイスヴァンとフラムをよそに、フェールは魔力に中てられた二人に水を差し出していた。
イスヴァンとフラムのやり取りは戻ってきたアリスを呆れさせ、アリスから雷を落とされたのだという。その光景を見て、ジャスミンは当然とばかりに頷いていた。
こうして静かになった列車は、ソルティエ公国の首都を目指して再び走り始めたのだった。
ここまでは初めて同行させているオートマタを3体降ろす予定になっているからだ。ここからこういう作業が増えるので、これまで以上に時間がかかってしまう予定だ。これはポルトたちには事前に説明済みだった。
今回の試運転には駅員を配置するという目的があるのだ。ソルティエ公国に入れば各駅でオートマタたちを2体ずつ降ろしていく。事前に駅員の配置の事は伝えてあるので、スムーズにいくとは思うものの不安というのはつきまとうというものだった。
「アリス、国境での荷物や人の検査のシステムを説明してくれないかな?」
「畏まりました、マイマスター」
ギルソンから話を振られた事で、アリスは国境におけるシステムの説明を始める。
列車を運行しながらいろいろチェックするというのは、この鉄道だけが採っているシステムだ。これはオートマタが居るからこそ成り立つシステムとも言える。それだけ魔法というものが凄いというわけである。
ちなみに国境を挟む両方の街にある駅間は近いので、ここだけスピードが出にくいのだ。だからこそ、魔法による検査がなおのこと精度を保てるというわけだ。
「……というわけでございます」
「そんな事が可能なのか……」
「オートマタって、すごい……」
アリスが話を終えると、ポルトもマリンもオートマタが使う魔法のすごさに言葉を失っていた。死んだものを生き返らせる以外であれば、魔法というものはほとんど何でもできてしまうような力なのだ。言葉を失うのも当然だろう。
「うん、どうやら準備が整ったようですね」
ギルソンが外を確認しながら口にする。
「これから列車が国境を越えてソルティエ公国に入ります。おそらく敏感な人は国境を越える瞬間に何かを感じると思いますよ」
「それはどういう事ですか?」
ギルソンの説明にマリンが反応する。
「単純に魔法を浴びせられるからでございます。魔法は私たちオートマタ以外は使えませんが、その魔力の波動というものを感じ取れる方はいらっしゃいますからね」
「な、なるほど……」
それに対してアリスが答えると、ポルトが分かったような分からないような微妙な反応をしていた。
なんともまとまり切らない空気の中、列車がゆっくりと動き出す。
しばらく進むと、国境の壁が見えてきた。そこのど真ん中に大きく開けられた穴、そこを通って列車はソルティエ公国へと入っていく。
その壁を通り抜ける瞬間、一瞬ピンと空気が張り詰める。これが検査のための魔法の中を通り抜けた証拠なのである。ちなみにこれはマスカード帝国との国境の間でも同じような感じである。
「うぷ……」
「大丈夫かマリン」
「う、うん、大丈夫」
少し酔ったような反応を見せるマリン。どうやら、魔力の波動を感じ取ってしまったようだ。
「魔力に対して過剰に反応したかもしれませんね。次の駅では少し長めに休みましょうか」
「す、すまない」
ギルソンの提案に、ポルトは素直にお礼を言っていた。妹のマリンの事は大事に思っているようである。
ちなみにだが、イスヴァンとアワードは何ともなく、マリカもマリンと同じように少し気分が悪くなったようだった。たまたまかも知れないが、魔力に反応したのは女性であるマリカとマリンの二人だった。もしかしたら、女性の方が魔力に敏感なのかも知れない。
それはともかくとして、ソルティエ公国の国境の街に入る。列車が走る高架の下では、物珍しそうに街の人たちが見上げている。大半の人間は列車を見るのが初めてだから、この光景は仕方のない事だろう。ファルーダン王国もマスカード帝国も同じだったのだから。
地表に降りて、駅に停車する。
「ジャスミン、ここはお願いします。私はここの駅担当のオートマタを連れて、駅の担当者に会ってきますので」
「分かりました、お姉様」
ギルソンたちの事をジャスミンに任せて、アリスは駅員となるオートマタ2体を連れて列車を降りていった。
「マスター、大丈夫ですか?」
少し気持ちを悪くしているマリカを気遣うジャスミン。
「ええ、大丈夫です。ありがとう、ジャスミン」
その光景を見ていたイスヴァンは、フラムに話し掛ける。
「こういう現象っていうのはそう頻繁に起きるものなのか?」
「そうは起こりませんな。大体、魔力を感じ取れる人間自体が少ないですからね」
「やっぱりそうなのか。俺は何度となく国境を越えてきてるが、まったく感じなかったからな」
「マスターが鈍いだけでは?」
「なんだと?」
にこりと微笑むフラムに、イスヴァンは不機嫌な表情をぶつけている。からかい合えるくらいには信頼関係ができている二人なのである。
「まったく、何をしているんでしょうね、この二人は……」
その様子を見ながら苦笑いをするアワードである。
「まったくですね。マリン様、マリカ様、お水をどうぞです」
睨み合うイスヴァンとフラムをよそに、フェールは魔力に中てられた二人に水を差し出していた。
イスヴァンとフラムのやり取りは戻ってきたアリスを呆れさせ、アリスから雷を落とされたのだという。その光景を見て、ジャスミンは当然とばかりに頷いていた。
こうして静かになった列車は、ソルティエ公国の首都を目指して再び走り始めたのだった。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

親切なミザリー
みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。
ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。
ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。
こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。
‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。
※不定期更新です。

追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

王太子妃が我慢しなさい ~姉妹差別を受けていた姉がもっとひどい兄弟差別を受けていた王太子に嫁ぎました~
玄未マオ
ファンタジー
メディア王家に伝わる古い呪いで第一王子は家族からも畏怖されていた。
その王子の元に姉妹差別を受けていたメルが嫁ぐことになるが、その事情とは?
ヒロインは姉妹差別され育っていますが、言いたいことはきっちりいう子です。

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる