112 / 189
Mission111
しおりを挟む
翌日、ポルトとマリンはファルーダン鉄道の王都の駅にやって来ていた。
ギルソンにイスヴァン、アワードの三人に加えて、マリカと四人のオートマタのアリス、フラム、フェール、ジャスミンも同行している。
「さあ着きましたよ。国境まではすでに何度も運転していますが、ソルティエ公国に入った部分は今日が初めての運転になります。ボクもすごく楽しみにしているんですよ。なにせ初めてのソルティエ公国ですからね」
ギルソンはこの上ない笑顔でポルトたちに話し掛けていた。
ところが、ポルトとマリンの表情は硬い。なにせ目の前にはでかい鉄の塊が鎮座しているのだから。これだけの大きな鉄の塊があの速度で移動しているというのが、ツェンとの間で往復したというのに未だに信じられないのである。
「アリス様、準備はできております。新しくソルティエ公国の駅に配備するオートマタも乗車を済ませておりますので、合図下さればいつでも出発できます」
運転士を務めるオートマタが顔を出してアリスに話し掛けている。
「分かりました。それにしても、この短い編成しか用意できなかったのは残念ですね」
「仕方ないですよ。急に決まったわけですし、運転できる編成があるだけでも十分だと思います」
アリスがため息まじりに言葉を漏らすと、ギルソンからフォローが入っていた。オートマタ相手でも気遣いのできる男、それがギルソンなのだ。
「それでは、みなさんも乗り込みましょう」
「畏まりました、マイマスター」
「さあ乗りましょうか、マスター」
ギルソンの掛け声で、全員が列車の中に乗り込む。客車二両という短い編成ではあるものの、試運転ができるだけでもマシというものだった。
現在は王都の工房が一生懸命急ピッチで新しい車両を建造している。少なくとも10日ほどは掛かるとの事なので、本営業はまだまだ先という事になりそうだった。
「この鉄道というのは、何を使って動いているのですか?」
ポルトがギルソンに問い掛ける。
「わが国で採れる魔法石というものを使っています。それにオートマタの魔法を作用させて、この列車の機動力としているのですよ」
ギルソンは惜しげもなく情報を開示する。知ったところでファルーダン以外には到底再現できない技術なので、こうやってあっさり話せるというわけだ。
そもそもオートマタと魔法石の存在は他国にもしっかり広まっているものだ。だからこそ、隠し立てする必要はまったくないというわけだった。
しばらくすると、列車の出入り口の扉が全て閉められる。
ポーッと汽笛が鳴り響くと、列車がゆっくりとだが動き始めた。
「う、動き出したぞ」
ポルトがびっくりしている。
ちなみに列車は既存の路線であるツェン方向へと進んでいる。
本当は反対方向、ソルティエ公国側に真っすぐ延伸したかったのだが、王都内の設備をこれ以上壊す事ができなかったのだ。なので、一度ツェン方向へ移動して王都を出たのち、ぐるりと旋回してソルティエ公国方面へと進行するという経路を取らざるを得なかったというわけだった。
王都を出た列車はツェン方向の線路から分岐して、立体交差で大きく南の方へと曲がっていく。ちなみにこの立体交差の大きな建造物も、全部アリスの魔法によるものだ。
普通のオートマタならば、このくらいの建造物を造ると魔力切れを起こしかねない。だが、異世界から転生し、神からの祝福を受けたアリスだからこそ、こんなとんでもない建造物も軽々と建設できてしまうのである。
列車は西向きに進路を取り、進行方向右手に王都を見ながら進んでいく。しかし、あれだけ大きなファルーダンの王都ですら、視界に収められるのはせいぜい数分程度。あっという間に視界には何もない荒野が広がっていた。
「もうファルーダンの王都が見えなくなったわ」
マリンは驚きを呟いていた。
「驚くのはこれだけじゃありませんよ。そろそろ最初の街が見えてきます」
ギルソンが言った通り、1時間もしないうちにソルティエ公国方面の街道の最初の宿場町に着いた。
すると列車に一人の男性が近付いてきた。
「ギルソン殿下、ようこそおいで下さいました」
「やあ、街に変わりはないかい?」
「はい、特には。ただ、この鉄道の本営業はいつなのかという問い合わせが相次いでおります。おそらくはソルティエ公国に行ける事を楽しみにしているのでしょう」
「そうですか。できる限りは急ぎますが、職人の力にも限界はありますのでね。皆さんにはもうしばらくお待ち頂く事になるとお伝え下さい」
「はっ、畏まりました!」
男性が列車から離れていく。額に石が輝いていたので、オートマタのようである。
「何体もオートマタを見てきたけど、本当に人間のように流暢に応対できるんですね」
「ええ。ファルーダンが栄えているのも、オートマタのおかげなんですよ。本当に彼らにはいくら感謝してもしきれません」
ギルソンはそう言いながら、優しく微笑んでいた。
しばしの休憩をした一行。彼らを乗せた列車は、再びソルティエ公国へ向けて走り出したのだった。
ギルソンにイスヴァン、アワードの三人に加えて、マリカと四人のオートマタのアリス、フラム、フェール、ジャスミンも同行している。
「さあ着きましたよ。国境まではすでに何度も運転していますが、ソルティエ公国に入った部分は今日が初めての運転になります。ボクもすごく楽しみにしているんですよ。なにせ初めてのソルティエ公国ですからね」
ギルソンはこの上ない笑顔でポルトたちに話し掛けていた。
ところが、ポルトとマリンの表情は硬い。なにせ目の前にはでかい鉄の塊が鎮座しているのだから。これだけの大きな鉄の塊があの速度で移動しているというのが、ツェンとの間で往復したというのに未だに信じられないのである。
「アリス様、準備はできております。新しくソルティエ公国の駅に配備するオートマタも乗車を済ませておりますので、合図下さればいつでも出発できます」
運転士を務めるオートマタが顔を出してアリスに話し掛けている。
「分かりました。それにしても、この短い編成しか用意できなかったのは残念ですね」
「仕方ないですよ。急に決まったわけですし、運転できる編成があるだけでも十分だと思います」
アリスがため息まじりに言葉を漏らすと、ギルソンからフォローが入っていた。オートマタ相手でも気遣いのできる男、それがギルソンなのだ。
「それでは、みなさんも乗り込みましょう」
「畏まりました、マイマスター」
「さあ乗りましょうか、マスター」
ギルソンの掛け声で、全員が列車の中に乗り込む。客車二両という短い編成ではあるものの、試運転ができるだけでもマシというものだった。
現在は王都の工房が一生懸命急ピッチで新しい車両を建造している。少なくとも10日ほどは掛かるとの事なので、本営業はまだまだ先という事になりそうだった。
「この鉄道というのは、何を使って動いているのですか?」
ポルトがギルソンに問い掛ける。
「わが国で採れる魔法石というものを使っています。それにオートマタの魔法を作用させて、この列車の機動力としているのですよ」
ギルソンは惜しげもなく情報を開示する。知ったところでファルーダン以外には到底再現できない技術なので、こうやってあっさり話せるというわけだ。
そもそもオートマタと魔法石の存在は他国にもしっかり広まっているものだ。だからこそ、隠し立てする必要はまったくないというわけだった。
しばらくすると、列車の出入り口の扉が全て閉められる。
ポーッと汽笛が鳴り響くと、列車がゆっくりとだが動き始めた。
「う、動き出したぞ」
ポルトがびっくりしている。
ちなみに列車は既存の路線であるツェン方向へと進んでいる。
本当は反対方向、ソルティエ公国側に真っすぐ延伸したかったのだが、王都内の設備をこれ以上壊す事ができなかったのだ。なので、一度ツェン方向へ移動して王都を出たのち、ぐるりと旋回してソルティエ公国方面へと進行するという経路を取らざるを得なかったというわけだった。
王都を出た列車はツェン方向の線路から分岐して、立体交差で大きく南の方へと曲がっていく。ちなみにこの立体交差の大きな建造物も、全部アリスの魔法によるものだ。
普通のオートマタならば、このくらいの建造物を造ると魔力切れを起こしかねない。だが、異世界から転生し、神からの祝福を受けたアリスだからこそ、こんなとんでもない建造物も軽々と建設できてしまうのである。
列車は西向きに進路を取り、進行方向右手に王都を見ながら進んでいく。しかし、あれだけ大きなファルーダンの王都ですら、視界に収められるのはせいぜい数分程度。あっという間に視界には何もない荒野が広がっていた。
「もうファルーダンの王都が見えなくなったわ」
マリンは驚きを呟いていた。
「驚くのはこれだけじゃありませんよ。そろそろ最初の街が見えてきます」
ギルソンが言った通り、1時間もしないうちにソルティエ公国方面の街道の最初の宿場町に着いた。
すると列車に一人の男性が近付いてきた。
「ギルソン殿下、ようこそおいで下さいました」
「やあ、街に変わりはないかい?」
「はい、特には。ただ、この鉄道の本営業はいつなのかという問い合わせが相次いでおります。おそらくはソルティエ公国に行ける事を楽しみにしているのでしょう」
「そうですか。できる限りは急ぎますが、職人の力にも限界はありますのでね。皆さんにはもうしばらくお待ち頂く事になるとお伝え下さい」
「はっ、畏まりました!」
男性が列車から離れていく。額に石が輝いていたので、オートマタのようである。
「何体もオートマタを見てきたけど、本当に人間のように流暢に応対できるんですね」
「ええ。ファルーダンが栄えているのも、オートマタのおかげなんですよ。本当に彼らにはいくら感謝してもしきれません」
ギルソンはそう言いながら、優しく微笑んでいた。
しばしの休憩をした一行。彼らを乗せた列車は、再びソルティエ公国へ向けて走り出したのだった。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

親切なミザリー
みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。
ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。
ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。
こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。
‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。
※不定期更新です。

追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

王太子妃が我慢しなさい ~姉妹差別を受けていた姉がもっとひどい兄弟差別を受けていた王太子に嫁ぎました~
玄未マオ
ファンタジー
メディア王家に伝わる古い呪いで第一王子は家族からも畏怖されていた。
その王子の元に姉妹差別を受けていたメルが嫁ぐことになるが、その事情とは?
ヒロインは姉妹差別され育っていますが、言いたいことはきっちりいう子です。

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる