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Mission110
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結局一週間では間に合わなかったので、既存の車両を使っての試運転を始める事となった。
「さて、ポルト殿下、マリン殿下。一度公国に戻られますか?」
城で滞在しているポルトとマリンは、突然のギルソンの言葉に目が点になっていた。
「マイマスター、さすがにそれでは言葉足らずかと存じます。ちゃんと事情を説明致しませんと」
すかさずツッコミを入れるアリスである。それに対して、ギルソンはくすくすと笑っていた。
「いや、すまないね。実はソルティエ公国の首都までの鉄道が完成したんだ。これまでの実績上問題はないだろうから、一緒に試乗してもらえると嬉しいと思ってね」
「えっ、もうできたのか?!」
ギルソンの説明に、驚きを隠せないポルトとマリンである。話をしてからそんなに日数が経っていないから仕方がない。
「ははっ、実に驚くよな。マスカード帝国の帝都までもものすごく早かったからな。しかも、父上の要求を完全に満たした上での建設だ。お前たちも安心していいと思うぞ」
それに付け加えるようにイスヴァンが口を挟んだ。どうやら勝手についてきたようだった。
「丸一日あれば、マスカード帝国からソルティエ公国までも移動できるようになるんだからな。お前たちのところの産物と俺のとこの産物とが組み合わせられるっていうのは、実に面白くはないか?」
わがままな皇子だったはずのイスヴァンだが、実に頭の切れる発言をしていた。農産物の豊かなマスカード帝国と海産物の豊かなソルティエ公国、これにはアリスもすごく興味を示した。
(確かに、それは十分面白い事ができそうだわ。前世知識の料理もかなり幅が広がるもの)
イスヴァンの発言でついつい考え込んでしまうアリスだった。何気に前世というか異世界の知識持ちの悪い癖である。
「アリス?」
考え込んでいるアリスに対して、ギルソンが声を掛けてくる。その声ではっと我に返るアリスだった。
「……これは失礼致しました、マイマスター。つい食材を組み合わせて何かできないかと考えてしまいました」
謝罪しながらも正直に話すアリスである。それを聞いて、ギルソンはつい笑ってしまっていた。
「まったく、アリスは面白いな。ボクのパートナーなんだから、やっぱそうでなくっちゃね。ボクを退屈させないでおくれよ、アリス」
「畏まりました、マイマスター」
アリスはギルソンの言葉に答えていた。
そのやり取りを見ていたポルトとマリンは、ぼーっとした表情をしている。
「どうかされましたか、二人とも」
その表情に気が付いたギルソンは、ついつい問い掛けてしまう。
「オートマタの事でしたら、父上からの許可は必要になるでしょうが、お作りする事はできると思います。なにせこちらのイスヴァン殿下もお持ちですからね」
「なんと?!」
「まあ!」
ギルソンが話をすれば、ポルトもマリンもとても驚いていた。
「マイマスター、安易に広めてはいかがかと存じます。彼らには専属の使用人もいらっしゃるのですから、その方たちの仕事を奪ってしまいます」
もう作るのが決定しているかのような流れだったので、アリスはあえて苦言を呈しておく。小説とは別な方向でギルソンが危険になりそうだったからだ。
ギルソンを幸せにしようとするのなら、変に方向に行かないよう御さねばならない。実に気を遣う話である。
ただでさえ鉄道だけでもかなりファルーダン王国に力が集中しかねない状況なのだ。これ以上いろいろと集中させるのは避けておきたいというわけだった。
他国に力を見せつけるという意味では鉄道もオートマタも有効なのだが、依存度を高めすぎると何かのはずみでそれが壊れた時に世界は一気に崩壊してしまう。なので、各国とも何らかの形で自立させておかねばならないのだ。
世界の均衡を保つというのは難しいのである。
「マイマスター、とりあえずは鉄道の素晴らしさだけを示すだけでよろしいでしょう。マリカ様とジャスミンと相談の上、決めさせて頂きたく存じます」
「うんそうだね。アリス、任せたよ」
「承知致しました。それでは、明日試運転できるように手配しておきます」
返事をしたアリスはマリカのところへと向かったのだった。
アリスを見送ったところで、ギルソンはポルトとマリンの方へと振り返る。
「そういうわけですので、明日をぜひお楽しみにしていて下さい」
「まったくだぞ。あの景色を見たら、お前らもきっと度肝を抜かれると思うぜ」
ギルソンに乗っかるようにしてイスヴァンも大口を開けて笑っていた。
実際にイスヴァンは乗る度に驚いていたのだから、なんとも説得力のある話というものである。
「それでは、これにて失礼致します。まだまだやる事がありますので」
ギルソンはそう言い残すと、ポルトとマリンの前から去っていった。
「まったく、忙しい奴だな。てなわけで、よかったら俺と話をしないか? 意外と話する機会がなかったしな、お互いを知るにはちょうどいい」
「わ、分かりました」
「よし決まりだな。俺の部屋に向かうぞ」
ポルトとマリンは、訳が分からないうちにイスヴァンに連れられていってしまう。
そして、ポルトとマリンは夕食の時間までイスヴァンの話に延々と付き合わされたのだった。
「さて、ポルト殿下、マリン殿下。一度公国に戻られますか?」
城で滞在しているポルトとマリンは、突然のギルソンの言葉に目が点になっていた。
「マイマスター、さすがにそれでは言葉足らずかと存じます。ちゃんと事情を説明致しませんと」
すかさずツッコミを入れるアリスである。それに対して、ギルソンはくすくすと笑っていた。
「いや、すまないね。実はソルティエ公国の首都までの鉄道が完成したんだ。これまでの実績上問題はないだろうから、一緒に試乗してもらえると嬉しいと思ってね」
「えっ、もうできたのか?!」
ギルソンの説明に、驚きを隠せないポルトとマリンである。話をしてからそんなに日数が経っていないから仕方がない。
「ははっ、実に驚くよな。マスカード帝国の帝都までもものすごく早かったからな。しかも、父上の要求を完全に満たした上での建設だ。お前たちも安心していいと思うぞ」
それに付け加えるようにイスヴァンが口を挟んだ。どうやら勝手についてきたようだった。
「丸一日あれば、マスカード帝国からソルティエ公国までも移動できるようになるんだからな。お前たちのところの産物と俺のとこの産物とが組み合わせられるっていうのは、実に面白くはないか?」
わがままな皇子だったはずのイスヴァンだが、実に頭の切れる発言をしていた。農産物の豊かなマスカード帝国と海産物の豊かなソルティエ公国、これにはアリスもすごく興味を示した。
(確かに、それは十分面白い事ができそうだわ。前世知識の料理もかなり幅が広がるもの)
イスヴァンの発言でついつい考え込んでしまうアリスだった。何気に前世というか異世界の知識持ちの悪い癖である。
「アリス?」
考え込んでいるアリスに対して、ギルソンが声を掛けてくる。その声ではっと我に返るアリスだった。
「……これは失礼致しました、マイマスター。つい食材を組み合わせて何かできないかと考えてしまいました」
謝罪しながらも正直に話すアリスである。それを聞いて、ギルソンはつい笑ってしまっていた。
「まったく、アリスは面白いな。ボクのパートナーなんだから、やっぱそうでなくっちゃね。ボクを退屈させないでおくれよ、アリス」
「畏まりました、マイマスター」
アリスはギルソンの言葉に答えていた。
そのやり取りを見ていたポルトとマリンは、ぼーっとした表情をしている。
「どうかされましたか、二人とも」
その表情に気が付いたギルソンは、ついつい問い掛けてしまう。
「オートマタの事でしたら、父上からの許可は必要になるでしょうが、お作りする事はできると思います。なにせこちらのイスヴァン殿下もお持ちですからね」
「なんと?!」
「まあ!」
ギルソンが話をすれば、ポルトもマリンもとても驚いていた。
「マイマスター、安易に広めてはいかがかと存じます。彼らには専属の使用人もいらっしゃるのですから、その方たちの仕事を奪ってしまいます」
もう作るのが決定しているかのような流れだったので、アリスはあえて苦言を呈しておく。小説とは別な方向でギルソンが危険になりそうだったからだ。
ギルソンを幸せにしようとするのなら、変に方向に行かないよう御さねばならない。実に気を遣う話である。
ただでさえ鉄道だけでもかなりファルーダン王国に力が集中しかねない状況なのだ。これ以上いろいろと集中させるのは避けておきたいというわけだった。
他国に力を見せつけるという意味では鉄道もオートマタも有効なのだが、依存度を高めすぎると何かのはずみでそれが壊れた時に世界は一気に崩壊してしまう。なので、各国とも何らかの形で自立させておかねばならないのだ。
世界の均衡を保つというのは難しいのである。
「マイマスター、とりあえずは鉄道の素晴らしさだけを示すだけでよろしいでしょう。マリカ様とジャスミンと相談の上、決めさせて頂きたく存じます」
「うんそうだね。アリス、任せたよ」
「承知致しました。それでは、明日試運転できるように手配しておきます」
返事をしたアリスはマリカのところへと向かったのだった。
アリスを見送ったところで、ギルソンはポルトとマリンの方へと振り返る。
「そういうわけですので、明日をぜひお楽しみにしていて下さい」
「まったくだぞ。あの景色を見たら、お前らもきっと度肝を抜かれると思うぜ」
ギルソンに乗っかるようにしてイスヴァンも大口を開けて笑っていた。
実際にイスヴァンは乗る度に驚いていたのだから、なんとも説得力のある話というものである。
「それでは、これにて失礼致します。まだまだやる事がありますので」
ギルソンはそう言い残すと、ポルトとマリンの前から去っていった。
「まったく、忙しい奴だな。てなわけで、よかったら俺と話をしないか? 意外と話する機会がなかったしな、お互いを知るにはちょうどいい」
「わ、分かりました」
「よし決まりだな。俺の部屋に向かうぞ」
ポルトとマリンは、訳が分からないうちにイスヴァンに連れられていってしまう。
そして、ポルトとマリンは夕食の時間までイスヴァンの話に延々と付き合わされたのだった。
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