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Mission109
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その頃のアリスはソルティエ公国までの鉄道を敷設し終えていた。
(さて、大公に挨拶をしてファルーダンに戻りませんとね。こちらに向かわせる列車はまだ予備の運用を回しているだけですから、本格的な運行となるとまだまだ厳しいです。早く編成を増やしませんと……)
線路の最終点検をしながら、アリスはそんな事を考えていた。
機械技師だった前世だが、趣味で鉄道旅行もしていたがためにこの辺りの知識は豊富なのである。
だが、その一方でアリスはふと疑問に思う事もあった。どうして自分はこうやって鉄道ばかりを建設しているのかと。
アリスがそもそもこの世界にやって来たのは、自分の小説の中で救えなかったギルソンを救うためである。それだというのに、そのギルソンの側を離れての建設作業である。
まったく今さら感はあるのだけど、今さらだから思ってしまうのだ。
(ひとまずは鉄道建設が終わりましたから、大公に会いに参りましょうか)
すべてのチェックを終えたアリスは、公国の首都へと向けて移動していった。そして、大公から正式に許可を得て、ついにファルーダン王国とソルティエ公国との間の鉄道が正式に開通する運びとなったのだった。
―――
ファルーダン王国に戻ったアリスは、ギルソンに報告した後マリカとジャスミンを訪ねた。
「お久しぶりですね、マリカ。調子はどうですか?」
「お久しぶりでございます、ギルソン殿下。はい、すこぶる良いですよ」
騎士爵の娘とはいえど、しっかりとした挨拶で答えるマリカである。
「オートマタ作りは順調なのかな?」
「はい。とはいえ、作りすぎはよくないと言って、逆に親方たちから止められてしまってますが」
「はははっ、それはすごいね」
マリカが恥ずかしそうに答えていると、ギルソンはついおかしくなって笑ってしまっていた。
このやり取りを見て、アリスは少し複雑な表情をしていた。
マリカがオートマタ作りに関して天才的なのは小説通りなのだ。ただ、小説内では内乱という状態にあったからこそその腕が活きていた。
ところがだ。今は内乱も戦争もまったく起きる気配がなく、実に平和そのものなのだ。マリカのオートマタを作る能力が思うように発揮できないのである。
自分が願った世界のために、他の登場人物たちの活躍を阻害してしまっていいのだろうか。アリスはふとそんな事を考えてしまったのである。
「孤児院の方はどうなっているかな?」
思い悩むアリスをよそに、ギルソンは次の質問をマリカにぶつけていた。
「孤児院の方は私の稼ぎが加わって、ずいぶんと環境がよくなりました。これなら子どもたちにもいろいろと勉強などの環境を整える事ができますね。嬉しい限りですよ」
嫌がる様子もなく、マリカはにこやかにそう答えていた。本当に心優しい少女なのである。だからこそ、マリカは小説のヒロインとして大活躍して、最終的にファルーダンの王妃となったのだ。
「それで、今日はどのようなご用件なのでしょうか、ギルソン殿下」
にこやかに笑っていたと思ったら、急に真面目な顔をして尋ね返してくるマリカである。こういう切り替えができるあたりは、さすがは騎士爵とはいえ貴族の令嬢である。
「それは、私の方から説明致します」
ギルソンを制してアリスが一歩前に出る。
「実は、ソルティエ公国の首都まで鉄道の路線が延伸致しました。それにつきまして、追加の車両とオートマタが必要となりましたので、ご用意頂きたく思うのです」
アリスは淡々と用件を話した。
すると、マリカは自分のオートマタのジャスミンと顔を見合わせる。
「それでしたら、ここで話をするわけには参りませんね。工房の方へ参りましょう」
すぐに判断を下すマリカである。
というわけで、ギルソンたちは工房へと移動していく。
「おう、マリカ。今日は休めと言っておいたはずだが?」
「申し訳ありません、親方。急なお願いが入りましたので、こうしてやって来たというわけです」
マリカが親方に謝りながら、すっと体を横にずらす。
「なっ……」
そこにあった姿を見て、親方は思わず声を上げてしまう。なにせそこに居たのはギルソンだったのだから。頻繁に来ているとはいっても、さすがに王族の訪問には気を揉まずにはいられないのである。
「お久しぶりですね、親方」
「こ、これはギルソン殿下。本日は如何なるご用件でしょうか」
急に低姿勢になる親方である。
「ソルティエ公国との間で鉄道の運行が始まる事になりました。そのためのオートマタを追加でお願いしたいのです」
「それはそれは、実におめでたい事ですな。20ほどでよろしいでしょうか」
親方の質問に、ギルソンはアリスを見る。
「はい、それくらいで大丈夫です」
アリスが親方に答える。
「確かに承りました。期限はいつに致しましょう」
「一週間後でございます。その時に公国との間で試運転を行いますのでね」
淡々と答えるアリスに対し、顔が青くなる親方である。
ちなみにこの後、鉄道車両を作っている工房の方にも出向いて、同じように工房の面々を青ざめさせる事になったのは言うまでもない事だった。
何にしても、ファルーダン王国との間で新たな鉄道による国交が始まる事となるのであった。
(さて、大公に挨拶をしてファルーダンに戻りませんとね。こちらに向かわせる列車はまだ予備の運用を回しているだけですから、本格的な運行となるとまだまだ厳しいです。早く編成を増やしませんと……)
線路の最終点検をしながら、アリスはそんな事を考えていた。
機械技師だった前世だが、趣味で鉄道旅行もしていたがためにこの辺りの知識は豊富なのである。
だが、その一方でアリスはふと疑問に思う事もあった。どうして自分はこうやって鉄道ばかりを建設しているのかと。
アリスがそもそもこの世界にやって来たのは、自分の小説の中で救えなかったギルソンを救うためである。それだというのに、そのギルソンの側を離れての建設作業である。
まったく今さら感はあるのだけど、今さらだから思ってしまうのだ。
(ひとまずは鉄道建設が終わりましたから、大公に会いに参りましょうか)
すべてのチェックを終えたアリスは、公国の首都へと向けて移動していった。そして、大公から正式に許可を得て、ついにファルーダン王国とソルティエ公国との間の鉄道が正式に開通する運びとなったのだった。
―――
ファルーダン王国に戻ったアリスは、ギルソンに報告した後マリカとジャスミンを訪ねた。
「お久しぶりですね、マリカ。調子はどうですか?」
「お久しぶりでございます、ギルソン殿下。はい、すこぶる良いですよ」
騎士爵の娘とはいえど、しっかりとした挨拶で答えるマリカである。
「オートマタ作りは順調なのかな?」
「はい。とはいえ、作りすぎはよくないと言って、逆に親方たちから止められてしまってますが」
「はははっ、それはすごいね」
マリカが恥ずかしそうに答えていると、ギルソンはついおかしくなって笑ってしまっていた。
このやり取りを見て、アリスは少し複雑な表情をしていた。
マリカがオートマタ作りに関して天才的なのは小説通りなのだ。ただ、小説内では内乱という状態にあったからこそその腕が活きていた。
ところがだ。今は内乱も戦争もまったく起きる気配がなく、実に平和そのものなのだ。マリカのオートマタを作る能力が思うように発揮できないのである。
自分が願った世界のために、他の登場人物たちの活躍を阻害してしまっていいのだろうか。アリスはふとそんな事を考えてしまったのである。
「孤児院の方はどうなっているかな?」
思い悩むアリスをよそに、ギルソンは次の質問をマリカにぶつけていた。
「孤児院の方は私の稼ぎが加わって、ずいぶんと環境がよくなりました。これなら子どもたちにもいろいろと勉強などの環境を整える事ができますね。嬉しい限りですよ」
嫌がる様子もなく、マリカはにこやかにそう答えていた。本当に心優しい少女なのである。だからこそ、マリカは小説のヒロインとして大活躍して、最終的にファルーダンの王妃となったのだ。
「それで、今日はどのようなご用件なのでしょうか、ギルソン殿下」
にこやかに笑っていたと思ったら、急に真面目な顔をして尋ね返してくるマリカである。こういう切り替えができるあたりは、さすがは騎士爵とはいえ貴族の令嬢である。
「それは、私の方から説明致します」
ギルソンを制してアリスが一歩前に出る。
「実は、ソルティエ公国の首都まで鉄道の路線が延伸致しました。それにつきまして、追加の車両とオートマタが必要となりましたので、ご用意頂きたく思うのです」
アリスは淡々と用件を話した。
すると、マリカは自分のオートマタのジャスミンと顔を見合わせる。
「それでしたら、ここで話をするわけには参りませんね。工房の方へ参りましょう」
すぐに判断を下すマリカである。
というわけで、ギルソンたちは工房へと移動していく。
「おう、マリカ。今日は休めと言っておいたはずだが?」
「申し訳ありません、親方。急なお願いが入りましたので、こうしてやって来たというわけです」
マリカが親方に謝りながら、すっと体を横にずらす。
「なっ……」
そこにあった姿を見て、親方は思わず声を上げてしまう。なにせそこに居たのはギルソンだったのだから。頻繁に来ているとはいっても、さすがに王族の訪問には気を揉まずにはいられないのである。
「お久しぶりですね、親方」
「こ、これはギルソン殿下。本日は如何なるご用件でしょうか」
急に低姿勢になる親方である。
「ソルティエ公国との間で鉄道の運行が始まる事になりました。そのためのオートマタを追加でお願いしたいのです」
「それはそれは、実におめでたい事ですな。20ほどでよろしいでしょうか」
親方の質問に、ギルソンはアリスを見る。
「はい、それくらいで大丈夫です」
アリスが親方に答える。
「確かに承りました。期限はいつに致しましょう」
「一週間後でございます。その時に公国との間で試運転を行いますのでね」
淡々と答えるアリスに対し、顔が青くなる親方である。
ちなみにこの後、鉄道車両を作っている工房の方にも出向いて、同じように工房の面々を青ざめさせる事になったのは言うまでもない事だった。
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