107 / 189
Mission106
しおりを挟む
鉄道の経路が決まれば、そこからのアリスの行動は早かった。すぐさま国王に許可を取りに行き、ソルティエ公国までの街道に沿うような形で国境の街まで線路を敷きに出ていった。
まったく、元おばあちゃんもかなり張り切っているようである。
ここまでさんざん鉄道を敷設してきた事もあって、ソルティエ公国までの国境までの線路は、あっという間に敷き終えてしまっていた。ちなみにソルティエ公国の国境までは6日ほどの距離がある。
だというのに、そこまでの線路がたったの4日で敷き終わってしまったのである。この元おばあちゃん、張り切り過ぎである。
ちなみにだが、国境の地点の線路の終端はマスカード帝国に向けて敷いた時と同じで、国境の壁にぶつかったところで線路が途切れている状態となっている。
「ただいま戻りました、マイマスター」
「ご苦労だったね、アリス」
戻ってきたアリスを労うギルソンである。
「それで、途中の街の反応はどうだったかな?」
「はい、すでに国内には2つの路線が敷かれていますゆえ、ようやく我が街にも来たかと、町長たちは歓迎している様子でした。駅の設置にも実に協力的でした」
「そうか。それはよかった」
アリスからの報告に、ほっとした様子のギルソンである。
しかし、問題はここから先である。
ソルティエ公国に入ると、さすがに事情が変わってくるのだ。そこから先、公国の首都まではさらに7日間の道のりが待ち構えている。
一応、使節団との間でルート選定をしたとはいえ、正式に敷設工事を始めようとするなら大公の許可が必要になる。
アリスが国内の敷設を行っている間に、ギルソンは大公に宛てての親書を認めていたのだが、どうにも文章がうまくまとまらずにいまだに親書を送れずにいたのである。
「マスカードの時とは少々勝手が違いますからね。ボクではうまく文章をまとめ切れないようです。ここは父上に頼むとしましょうか」
国家間同士の取り決めなのだからと、ギルソンは父親である国王へと相談に向かったのだった。アリスもそれについて行く。
ちなみにだが、ギルソンの王位継承権の放棄の宣言から、シュヴァリエとの間の確執は少し影を潜めるようになっていた。だが、相変わらずシュヴァリエは警戒をしているようで、アルヴィンをギルソンの監視に差し向けているようだった。
そんな背景があって、ギルソンは一人で行動する事はない。アリスが鉄道の敷設に出ている間は、第四王子であるアワードやそのオートマタであるフェール、もしくはイスヴァンとそのオートマタであるフラムの誰かと一緒に行動をしていたのだった。用心に越した事はないのである。
「父上、失礼致します」
「うん? どうしたんだ、ギルソン」
国王の執務室へとやって来たギルソンを見て、不思議そうな顔をしてる国王である。なにせギルソンは、国王の子どもたちの中では一番しっかりしている。そのせいでか、自分のところにやって来るイメージというものがまったくない国王なのである。
「父上、相談があって参りました。少々よろしいでしょうか」
「ほう、ギルソンが相談とな。どれ、話してみせなさい」
しっかりしている息子に頼られているとあってか、国王はいつになく気合いが入っていた。
ところがだ。そのギルソンから寄せられた相談に、国王の表情がもの凄く曇った。
「ソルティエ公国に信書……か」
顎を触りながら、苦い表情をしている国王である。
「はい、いざ書こうと思いましたら、どうにもうまく文章がまとまりませんでして。ボクが思うに、まだソルティエ公国とのつながりがないために、うまく言葉が選べないためだと思うのです」
「ふむ……、それは確かにあり得ると思うぞ」
ギルソンの推論に、国王はものすごく納得がいってしまう。物事がしっかりと判断できるギルソンを見て、国王は息子のために一肌脱ぐ事を決めた。
「分かった。この私が代わりに一筆取ろう。鉄道の事でソルティエ公国の大公宛てに一筆認めればよいのであろう?」
さすが国王というべきか、相談に来た事情をしっかりと汲み取っていた。これだけを見れば立派な父親である。
「はい頼みます、父上」
父親である国王の言葉に、頭を下げてお願いするギルソンだった。
部屋を出て行くギルソンを見送った国王は、早速筆を執る。大公とはそれなりに面識があるために、国王の筆に迷いはなかった。
(息子の頑張りに応えられなくて、なにが父親だろうかな。本当に末子として軽く見ていたが、一番立派に育ってくれて私は嬉しい限りだよ)
国王はつい感慨深くなって泣きそうになっていた。
しかし、今は手紙を認めている真っ最中だ。涙をこぼすわけにはいかないのである。ただ、息子の頑張りを支えるべく、一筆一筆に思いを込めながら書き進めていった。
「すまないが、誰か居ないか?」
「お呼びでございますでしょうか、陛下」
「うむ、この手紙をソルティエ公国まで無事に届けてほしい。両国の未来を左右するかも知れぬものだ、確実に届けてくれよ?」
「はっ、畏まりました。必ずや届けてみせましょう」
国王から手紙を受け取った兵士は、すぐさまソルティエ公国へと向けて馬を走らせたのだった。
「少しは父親らしい事をできたかな?」
椅子に深く腰掛けた国王は、天井を見上げて物思いにふけるのだった。
まったく、元おばあちゃんもかなり張り切っているようである。
ここまでさんざん鉄道を敷設してきた事もあって、ソルティエ公国までの国境までの線路は、あっという間に敷き終えてしまっていた。ちなみにソルティエ公国の国境までは6日ほどの距離がある。
だというのに、そこまでの線路がたったの4日で敷き終わってしまったのである。この元おばあちゃん、張り切り過ぎである。
ちなみにだが、国境の地点の線路の終端はマスカード帝国に向けて敷いた時と同じで、国境の壁にぶつかったところで線路が途切れている状態となっている。
「ただいま戻りました、マイマスター」
「ご苦労だったね、アリス」
戻ってきたアリスを労うギルソンである。
「それで、途中の街の反応はどうだったかな?」
「はい、すでに国内には2つの路線が敷かれていますゆえ、ようやく我が街にも来たかと、町長たちは歓迎している様子でした。駅の設置にも実に協力的でした」
「そうか。それはよかった」
アリスからの報告に、ほっとした様子のギルソンである。
しかし、問題はここから先である。
ソルティエ公国に入ると、さすがに事情が変わってくるのだ。そこから先、公国の首都まではさらに7日間の道のりが待ち構えている。
一応、使節団との間でルート選定をしたとはいえ、正式に敷設工事を始めようとするなら大公の許可が必要になる。
アリスが国内の敷設を行っている間に、ギルソンは大公に宛てての親書を認めていたのだが、どうにも文章がうまくまとまらずにいまだに親書を送れずにいたのである。
「マスカードの時とは少々勝手が違いますからね。ボクではうまく文章をまとめ切れないようです。ここは父上に頼むとしましょうか」
国家間同士の取り決めなのだからと、ギルソンは父親である国王へと相談に向かったのだった。アリスもそれについて行く。
ちなみにだが、ギルソンの王位継承権の放棄の宣言から、シュヴァリエとの間の確執は少し影を潜めるようになっていた。だが、相変わらずシュヴァリエは警戒をしているようで、アルヴィンをギルソンの監視に差し向けているようだった。
そんな背景があって、ギルソンは一人で行動する事はない。アリスが鉄道の敷設に出ている間は、第四王子であるアワードやそのオートマタであるフェール、もしくはイスヴァンとそのオートマタであるフラムの誰かと一緒に行動をしていたのだった。用心に越した事はないのである。
「父上、失礼致します」
「うん? どうしたんだ、ギルソン」
国王の執務室へとやって来たギルソンを見て、不思議そうな顔をしてる国王である。なにせギルソンは、国王の子どもたちの中では一番しっかりしている。そのせいでか、自分のところにやって来るイメージというものがまったくない国王なのである。
「父上、相談があって参りました。少々よろしいでしょうか」
「ほう、ギルソンが相談とな。どれ、話してみせなさい」
しっかりしている息子に頼られているとあってか、国王はいつになく気合いが入っていた。
ところがだ。そのギルソンから寄せられた相談に、国王の表情がもの凄く曇った。
「ソルティエ公国に信書……か」
顎を触りながら、苦い表情をしている国王である。
「はい、いざ書こうと思いましたら、どうにもうまく文章がまとまりませんでして。ボクが思うに、まだソルティエ公国とのつながりがないために、うまく言葉が選べないためだと思うのです」
「ふむ……、それは確かにあり得ると思うぞ」
ギルソンの推論に、国王はものすごく納得がいってしまう。物事がしっかりと判断できるギルソンを見て、国王は息子のために一肌脱ぐ事を決めた。
「分かった。この私が代わりに一筆取ろう。鉄道の事でソルティエ公国の大公宛てに一筆認めればよいのであろう?」
さすが国王というべきか、相談に来た事情をしっかりと汲み取っていた。これだけを見れば立派な父親である。
「はい頼みます、父上」
父親である国王の言葉に、頭を下げてお願いするギルソンだった。
部屋を出て行くギルソンを見送った国王は、早速筆を執る。大公とはそれなりに面識があるために、国王の筆に迷いはなかった。
(息子の頑張りに応えられなくて、なにが父親だろうかな。本当に末子として軽く見ていたが、一番立派に育ってくれて私は嬉しい限りだよ)
国王はつい感慨深くなって泣きそうになっていた。
しかし、今は手紙を認めている真っ最中だ。涙をこぼすわけにはいかないのである。ただ、息子の頑張りを支えるべく、一筆一筆に思いを込めながら書き進めていった。
「すまないが、誰か居ないか?」
「お呼びでございますでしょうか、陛下」
「うむ、この手紙をソルティエ公国まで無事に届けてほしい。両国の未来を左右するかも知れぬものだ、確実に届けてくれよ?」
「はっ、畏まりました。必ずや届けてみせましょう」
国王から手紙を受け取った兵士は、すぐさまソルティエ公国へと向けて馬を走らせたのだった。
「少しは父親らしい事をできたかな?」
椅子に深く腰掛けた国王は、天井を見上げて物思いにふけるのだった。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

親切なミザリー
みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。
ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。
ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。
こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。
‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。
※不定期更新です。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

王太子妃が我慢しなさい ~姉妹差別を受けていた姉がもっとひどい兄弟差別を受けていた王太子に嫁ぎました~
玄未マオ
ファンタジー
メディア王家に伝わる古い呪いで第一王子は家族からも畏怖されていた。
その王子の元に姉妹差別を受けていたメルが嫁ぐことになるが、その事情とは?
ヒロインは姉妹差別され育っていますが、言いたいことはきっちりいう子です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる