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Mission103
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翌朝、無事に早めに起きて国境を越えたソルティエ公国の一行は、それから4日間で予定通りにファルーダン王国の王都に到着した。
国境越えの時点で先触れとなる使者が送り込まれており、王都に到着と共にポルトとマリンはファルーダンの出迎えを受けた。総勢10名ほどの出迎えの一行であり、城までの移動中、びっちりと周りを護衛の兵たちが固めていた。
そして、城に着いたソルティエ公国の一行は、そこでも出迎えを受ける。
その出迎えの先頭に立っていたのが、第五王子たるギルソンだった。
「遠方よりはるばる、ようこそお越し下さいました。ボクはファルーダン王国第五王子ギルソン・アーディリオ・ファルーダンと申します。歓迎致します、ポルト・ソルティエ公子、マリン・ソルティエ公女」
横に控えるオートマタのアリスともども、馬車を降りたポルトとマリンに対して挨拶と共に深々と頭を下げるギルソンである。
第五とはいえ、ファルーダンの王族直々の出迎えを受けるとは思っていなかったソルティエ公国一行はちょっと面食らったような反応をしている。
「これは、王子自らのお出迎えとは驚きましたね。これより3年少々世話になるよ」
「ええ、この国の事をご堪能頂けると幸いでございます」
ポルトとギルソンが向かい合ってにこりと微笑んでいる。実に微笑ましい光景なのだろうが、周りの人たちは内心はらはらとしてその光景を見守っていた。二人の間には見えない火花が散っているのだから。
「ポルト様、マリン様。お疲れのところ申し訳ございませんが、国王陛下がお待ちでございます。謁見の間へとご案内致します」
アリスはその火花を遮るように、口を挟んだ。さすがにこの状態をいつまでも続けさせるわけにはいかなかったからだ。
火花を遮られたポルトは、ちらりとアリスを見る。
「……人形風情が」
ぼそりと呟くポルト。
だが、ポルトはオートマタを甘く見ていた。アリス以外にもこの場にはオートマタが居たのだが、ポルトの呟きは全員に拾われていたのである。オートマタ全員から視線を向けられた事に、ポルトは気が付いていなかった。
一方、妹であるマリンの方は、その異変に気が付いた。ポルトが不機嫌な表情をした瞬間、その身に寒気を感じたのだ。
(な、なんなの、この感覚。……ありえないわ)
あまりの恐怖に、マリンは兄のポルトではなく侍女のアクアにしがみついていた。
「マリン様?」
がくがくと震えて青ざめるマリンに、アクアは驚いていた。
「マリン様、大丈夫ですか?」
慌ててマリンに声を掛けるアクア。
「だ、大丈夫。ちょっと馬車に酔ったみたい。少し休めば大丈夫だから」
マリンはにこりと微笑んで気丈に振る舞っているが、アクアにはそれがやせ我慢だとすぐに分かった。それと、馬車酔いが嘘だという事も。ただ、アクアは追及はしなかった。主の感情を読み取って支えるのが従者の役目だからだ。
少々のごたごたはあったものの、ポルトとマリンを連れて、ギルソンとアリスは国王の元へと向かうのだった。
ファルーダンの王城の中は、アリスたちの活躍によってずいぶんと持ち直していた。
アリスがこちらの世界で目が覚めた頃は、困窮のあまりにずいぶんとあちこちが薄汚れていたものである。それが今ではすっかり輝きを取り戻していた。
そのきれいになった城内をポルトとマリンは、目を見張りながら歩いていく。あまりにきょろきょろとしているので、従者が気を揉みながらその後ろを歩いている。
どのくらい歩き続けたか。ようやくギルソンたちは謁見の間へとたどり着いた。
謁見の間に立つ近衛兵とギルソンが一言二言話をすると、近衛兵たちはゆっくりと謁見の間の扉を開いていく。
この部屋の中にファルーダンの国王が居る。そう考えただけで、ポルトとマリンに緊張が走る。国外に出た事がない二人にとって、他の国の国家元首と顔を合わせるのは、実に初めてなのである。
謁見の間へと足を踏み入れたポルトとマリンとその従者たち。正面には玉座があり、そこには国王と王妃、その脇にはギルソンを除く王族たちが、長女フランソワを除いて勢ぞろいしていた。もちろん、そのオートマタたちがその脇を固めている。
「父上、ソルティエ公国ポルト公子、マリン公女、並びに同行の者たちをお連れ致しました」
「うむ、ご苦労だったな、ギルソン」
ギルソンが報告すると、それを労う国王。そして、ギルソンは脇に退き、公子公女の二人は間に誰も挟まずにファルーダンの国王たちと相対する形となった。ちなみに、二人は跪いて下を向いた状態である。
不思議な感じの圧迫感がポルトとマリンの二人に襲い掛かる。
(これが……ファルーダンの国王の威圧感、なのか?)
ポルトの額から冷や汗が流れる。下を向いたまま、硬直してしまう公子公女である。
「さて、ソルティエ公国の公子と公女よ。遠路はるばるご苦労だったな。面を上げてよいぞ」
国王が声を掛ける。すると、ポルトとマリンはゆっくりと顔を上げる。
「私がファルーダン王国の国王、アルバート・ヴァンド・ファルーダンだ」
二人と目が合った国王は、にこりと微笑んだ。
国境越えの時点で先触れとなる使者が送り込まれており、王都に到着と共にポルトとマリンはファルーダンの出迎えを受けた。総勢10名ほどの出迎えの一行であり、城までの移動中、びっちりと周りを護衛の兵たちが固めていた。
そして、城に着いたソルティエ公国の一行は、そこでも出迎えを受ける。
その出迎えの先頭に立っていたのが、第五王子たるギルソンだった。
「遠方よりはるばる、ようこそお越し下さいました。ボクはファルーダン王国第五王子ギルソン・アーディリオ・ファルーダンと申します。歓迎致します、ポルト・ソルティエ公子、マリン・ソルティエ公女」
横に控えるオートマタのアリスともども、馬車を降りたポルトとマリンに対して挨拶と共に深々と頭を下げるギルソンである。
第五とはいえ、ファルーダンの王族直々の出迎えを受けるとは思っていなかったソルティエ公国一行はちょっと面食らったような反応をしている。
「これは、王子自らのお出迎えとは驚きましたね。これより3年少々世話になるよ」
「ええ、この国の事をご堪能頂けると幸いでございます」
ポルトとギルソンが向かい合ってにこりと微笑んでいる。実に微笑ましい光景なのだろうが、周りの人たちは内心はらはらとしてその光景を見守っていた。二人の間には見えない火花が散っているのだから。
「ポルト様、マリン様。お疲れのところ申し訳ございませんが、国王陛下がお待ちでございます。謁見の間へとご案内致します」
アリスはその火花を遮るように、口を挟んだ。さすがにこの状態をいつまでも続けさせるわけにはいかなかったからだ。
火花を遮られたポルトは、ちらりとアリスを見る。
「……人形風情が」
ぼそりと呟くポルト。
だが、ポルトはオートマタを甘く見ていた。アリス以外にもこの場にはオートマタが居たのだが、ポルトの呟きは全員に拾われていたのである。オートマタ全員から視線を向けられた事に、ポルトは気が付いていなかった。
一方、妹であるマリンの方は、その異変に気が付いた。ポルトが不機嫌な表情をした瞬間、その身に寒気を感じたのだ。
(な、なんなの、この感覚。……ありえないわ)
あまりの恐怖に、マリンは兄のポルトではなく侍女のアクアにしがみついていた。
「マリン様?」
がくがくと震えて青ざめるマリンに、アクアは驚いていた。
「マリン様、大丈夫ですか?」
慌ててマリンに声を掛けるアクア。
「だ、大丈夫。ちょっと馬車に酔ったみたい。少し休めば大丈夫だから」
マリンはにこりと微笑んで気丈に振る舞っているが、アクアにはそれがやせ我慢だとすぐに分かった。それと、馬車酔いが嘘だという事も。ただ、アクアは追及はしなかった。主の感情を読み取って支えるのが従者の役目だからだ。
少々のごたごたはあったものの、ポルトとマリンを連れて、ギルソンとアリスは国王の元へと向かうのだった。
ファルーダンの王城の中は、アリスたちの活躍によってずいぶんと持ち直していた。
アリスがこちらの世界で目が覚めた頃は、困窮のあまりにずいぶんとあちこちが薄汚れていたものである。それが今ではすっかり輝きを取り戻していた。
そのきれいになった城内をポルトとマリンは、目を見張りながら歩いていく。あまりにきょろきょろとしているので、従者が気を揉みながらその後ろを歩いている。
どのくらい歩き続けたか。ようやくギルソンたちは謁見の間へとたどり着いた。
謁見の間に立つ近衛兵とギルソンが一言二言話をすると、近衛兵たちはゆっくりと謁見の間の扉を開いていく。
この部屋の中にファルーダンの国王が居る。そう考えただけで、ポルトとマリンに緊張が走る。国外に出た事がない二人にとって、他の国の国家元首と顔を合わせるのは、実に初めてなのである。
謁見の間へと足を踏み入れたポルトとマリンとその従者たち。正面には玉座があり、そこには国王と王妃、その脇にはギルソンを除く王族たちが、長女フランソワを除いて勢ぞろいしていた。もちろん、そのオートマタたちがその脇を固めている。
「父上、ソルティエ公国ポルト公子、マリン公女、並びに同行の者たちをお連れ致しました」
「うむ、ご苦労だったな、ギルソン」
ギルソンが報告すると、それを労う国王。そして、ギルソンは脇に退き、公子公女の二人は間に誰も挟まずにファルーダンの国王たちと相対する形となった。ちなみに、二人は跪いて下を向いた状態である。
不思議な感じの圧迫感がポルトとマリンの二人に襲い掛かる。
(これが……ファルーダンの国王の威圧感、なのか?)
ポルトの額から冷や汗が流れる。下を向いたまま、硬直してしまう公子公女である。
「さて、ソルティエ公国の公子と公女よ。遠路はるばるご苦労だったな。面を上げてよいぞ」
国王が声を掛ける。すると、ポルトとマリンはゆっくりと顔を上げる。
「私がファルーダン王国の国王、アルバート・ヴァンド・ファルーダンだ」
二人と目が合った国王は、にこりと微笑んだ。
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