転生オートマタ

未羊

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Mission101

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 ソルティエ公国からも公子と公女を受け入れると決まった日から、ファルーダン王国内では受け入れ態勢の準備が始まった。
 それというのも、ソルティエ公国の塩というのはかなり重要視されているからだ。もちろん陸地から取れる岩塩というものもあるのだが、その量は圧倒的に少ない。だからこそ、海水から精製される塩というのは重要なのである。これは隣のマスカード帝国も同じらしく、ソルティエ公国というのはアリスが思っていた以上に重要な国のようだった。
 ちなみに、それと同時にソルティエ公国に向けてファルーダン王国としての返事を持たせていた。最も遅いパターンだとしても30日後にはソルティエ公国から公子と公女は到着する事になるだろう。
 まさか、ファルーダン王国の中に他国の重要人物をこれほど抱え込む事になるとは、誰も想像していなかっただろう。
 この状況を生み出したのは、間違いなくアリスによる農地改革と鉄道事業だろう。実際、鉄道事業のお披露目は、隣国のマスカード帝国との関係を改善するのに大きく役に立った。その結果がイスヴァンの留学であるので、ソルティエ公国も反応するのは無理もない話なのである。なにせあの気難しい帝国から皇子の留学を勝ち取ったのだから。

「なあ、ギルソン」
「何でしょうか、イスヴァン殿下」
 受け入れ準備の進むある日の事、ギルソンにイスヴァンが話し掛けてきた。
「ソルティエ公国の連中がどんな感じか気になるな」
「そうですね。貿易上の付き合いはありますが、交流という点までに広げるとあまり付き合いがないので、分からない事が多いですからね」
 イスヴァンの質問に、ギルソンは淡々と答えている。
「なあ、ギルソン」
「今度は何ですかね」
「いい加減に殿下をつけるのはやめてくれ。イスヴァンと呼び捨てにしていいんだからな」
 気さくにギルソンに言うイスヴァンだが、それに対してギルソンは難色を示していた。どうもギルソンは呼び捨てが苦手のようだった。
「はあ、仕方ねえな。俺が我慢するぜ」
「すみません。やはり外交官を目指すとなると、そういうところはしっかりしておきたいものですから」
 イスヴァンが頭の後ろで手を組みながら言うと、ギルソンは謝っていた。
「まぁいいよ。嫌がる奴に強要する方がよくないからな」
 イスヴァンはあっさり引き下がった。そして、扉の方へと視線を向ける。
「おう、フラム。今日の見回りはどうだった?」
「はっ、最近はシュヴァリエ王子とアルヴィンの周りに怪しい動きはありませんでした。やはり、ギルソン王子の王位継承権放棄の宣言はかなり効果があったようです」
「ふむ……」
 フラムの報告を聞いて、イスヴァンは考え込む。
「報告ご苦労。引き続き監視してくれ」
「畏まりました」
 フラムはイスヴァンの命令に答えると、再び部屋を出ていった。
「ギルソン、お前のところのアリスは、今日も鉄道の仕事か?」
「ええ、開業から時間が経過しているので、劣化の具合を確認しに行っているみたいです。事故が起きてしまってはいけないという事で、かなり気合いを入れていたようですよ」
「ふむ、そうか」
 ギルソンから事情を説明されると、イスヴァンは再び考え込んだ。
「そうなると、今は俺たちの事はアワードのオートマタであるフェール一人で見るという状況か。さすがにシュヴァリエ王子の件が解決していない状況では、少々不安があるな」
「大丈夫ですよ。そろそろアリスは戻ってきますから」
「うん? そうか」
 考え込むイスヴァンに、ギルソンは確信を持って伝える。
「ただいま戻りました、マイマスター」
「ほらね」
 その直後にアリスが戻ってきた事で、イスヴァンは目を丸くしていた。
「……何があったのでございますでしょうか?」
 状況を飲み込めないアリスは、ギルソンに確認を取っている。
「うん、アリスは気にしなくていいよ。ボクたちの問題だからね」
「……左様でございましたか。では、報告させて頂きます」
 ギルソンの言葉が気になったアリスだが、今はそれよりも鉄道に関する報告を優先させた。
「そうか。オートマタたちにメンテナンスの方法を教えてきたというわけか」
「はい、物である以上、どうしても経年劣化は避けられません。ですので、オートマタ独自の力である魔法を使ってメンテナンスする方法を教えて参りました」
 ギルソンとアリスのやり取りを聞いているイスヴァンだが、何の話をしているのかまったく理解できなかった。
「実に興味深い話ですね。これならソルティエ公国との交渉においても有利に進める事ができそうです」
 アリスとの話を終えたギルソンは、珍しく悪そうな顔をしていた。
「やっぱりお前もそう思うか?」
「はい。何の考えも無しに公子と公女を送り込んでくるわけがありません。狙いはファルーダンの急成長の秘密ですよ」
 イスヴァンの確認に対して、ギルソンは唇に人差し指を当ててにんまりと微笑んでいた。
「目的は分かっていますから、しっかりとおもてなしをしてあげないといけませんね」
「……やれやれ、お前を敵に回さなくてよかったと思うぜ」
 ギルソンの微笑みを見ながら、イスヴァンは呟いたのだった。

 何にしても、近いうちにソルティエ公国の公子と公女がやって来る。
 様々な思惑が渦巻いてはいるものの、ギルソンたちは彼らを迎え撃つ準備を整えていったのである。
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