転生オートマタ

未羊

文字の大きさ
上 下
101 / 173

Mission100

しおりを挟む
 それからまた10日後の事、ファルーダン王国にソルティエ公国からの返事が届けられた。
 その返事は、すぐさまファルーダン国王に伝えられる。
「おお、返事が来たか。どれどれ?」
 国王は使いの者から届けられた手紙を兵士を通して受け取ると、すぐさまその中身を確認していた。そのくらいにはソルティエ公国に期待を寄せていたのだ。
 中身を確認した国王は、体をふるふると震わせていた。一体何が書かれていたというのだろうか。
「そうかそうか。ソルティエ公国が公子と公女を我が国に留学させるそうだ。これは嬉しい事ではないか!」
 国王は本当に嬉しそうに叫んでいる。まあ、国の跡取りを他国に勉強に出させるという時点で、勝ちといえば勝ちなのだろう。だからこそ、国王はここまで大喜びをしているわけである。
 あまりの喜びように、宰相も使いの兵士も驚きで固まりながらその様子を見ていた。

 その夜、王族が揃って行う食事の席での事だった。
 最初こそ全員が黙々と食べていたのだが、国王が突然話を切り出し始めた。
「お前たち、ちょっと聞いてくれ」
 国王のこの言葉に、全員が手を止めて注目する。一体何の話があるというのだろうか。食事を淡々と食べていたいアインダードは、露骨に嫌な顔をしていた。
 だが、国王はそんな事を気にする事もなく、話を続けていく。
「実はな、昼間の事だが、以前手紙を出したソルティエ公国からの返事が来たのだ」
 この言葉に、全員が騒めいている。ソルティエ公国から反応があった事は驚きだが、国王が勝手に打診していた事にはもっと驚いた。どうやら宰相とは話をしたようだが、家族にはまったく話をしていなかったようだ。だからこそ、この反応なのである。
 壁際で立って待機するアリスも、さすがにこの国王の発言には驚いていた。同時に、ソルティエ公国の公子と公女という存在に興味を示していた。
 それはなぜか。南隣の国は自分の小説には出てこなかった国だからだ。アリスが書いた小説で出てきたのは、メインとなるファルーダン王国と北隣のマスカード帝国の2国だけだったのだ。だからこそ、アリスは興味を抱いているというわけである。
 アリスが聞き耳を立てている事に、隣に立つイスヴァンのオートマタであるフラムとアワードのオートマタであるフェールは気が付いていた。だが、食事中はよほどの事がなければ動いてはいけないので、二人とも気にはなるものの直立不動で耐えていた。
(ソルティエ公国の公子と公女が、我が国の学園に留学を……ですか。あとでマイマスターから情報を聞き出さねばなりませんね。私の魔法石ではその辺りの情報が欠落しているようですし、前の世界で書いていた小説でも出てこなかった国ですからね)
 アリスは気になって仕方ないのだが、オートマタである以上、勝手にしゃしゃり出るわけにはいかない。食事が終わるまでぐっと堪えているのだった。

 食事が終わり、ギルソンと共に部屋へと移動するアリス。
 そこでアリスは、ギルソンへと早速質問をぶつけていた。
「マイマスター、ちょっとよろしいでしょうか」
「うん、なんだいアリス」
 アリスの問い掛けに、普段通りの笑顔で対応している。
「今日の夕食で話題に出てきましたソルティエ公国についてお教え頂きたいのです」
 アリスの問い掛けに、ギルソンは意外だなという顔をしていた。だが、ギルソンはアリスの事をバカにするような事はなく、丁寧に説明を始めた。
「そうだね、アリスには今までかなりお世話になったからね、ボクが知る限りを教えようじゃないか。存在する事は知っていても、内情までは詳しくないなんて事はよくあるからね」
「恐れ入ります、マイマスター」
 ギルソンはアリスに対してソルティエ公国の事を知る限り語り始めた。
 ギルソンの話では、ファルーダン王国の南西に位置するソルティエ公国は、公爵をトップとして据えた海に面した国だという。ここまではアリスも知っている情報だ。
 そのトップたる公爵は大公と呼ばれていて、その大公には息子と娘が居るという事らしい。ちなみにどちらもギルソンよりは年上で、公子はアワードと、公女はイスヴァンと同い年なのだという。
 公子の名前はポルト、公女の名前はマリンというそうだ。それを聞いた瞬間、ものすごく安直な名前だと思ったアリスである。
 それはさておき、ソルティエ公国は海運が盛んではあるものの、じわじわと内陸の方にも睨みを利かせ始めているらしい。特にこのファルーダンは突如として国政を立て直したとあって、より一層注目をしているとの事で、公子と公女の留学という話もこれに関連しているのではないかとギルソンは睨んでいるのだ。
「なるほど、よく分かりました。さすがはマイマスターでございます」
 アリスは頭を下げる。
「まあ、外交を頑張るというのなら、これくらいはしないとね」
 ギルソンはそう言って笑っていた。
 本当に大したものである。結構忙しそうにしていた割には、これだけ調べ上げていたとは恐れ入る。アリスは改めてギルソンの能力の高さを思い知ったのだった。
 だが、そこまで聞いたアリスの心の中には、なんとなく胸騒ぎが起こった。理由は分からないが、そんな気がしたのである。
 さてさて、マスカード帝国はおろか、ソルティエ公国からも留学生を迎える事になったファルーダン王国。これからどうなっていってしまうのだろうか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される

マー子
ファンタジー
ある日魔の森で異常が見られ、調査に来ていた冒険者ルーク。 そこで木の影で眠る幼女を見つけた。 自分の名前しか記憶がなく、両親やこの国の事も知らないというアイリは、冒険者ギルドで保護されることに。 実はある事情で記憶を失って転生した幼女だけど、異世界で最強冒険者に溺愛されて、第二の人生楽しんでいきます。 ・初のファンタジー物です ・ある程度内容纏まってからの更新になる為、進みは遅めになると思います ・長編予定ですが、最後まで気力が持たない場合は短編になるかもしれません⋯ どうか温かく見守ってください♪ ☆感謝☆ HOTランキング1位になりました。偏にご覧下さる皆様のお陰です。この場を借りて、感謝の気持ちを⋯ そしてなんと、人気ランキングの方にもちゃっかり載っておりました。 本当にありがとうございます!

勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる

千環
恋愛
 第三王子の婚約者であった侯爵令嬢アドリアーナだが、第三王子が想いを寄せる男爵令嬢を害した罪で婚約破棄を言い渡されたことによりスタングロム侯爵家から勘当され、平民アニーとして生きることとなった。  なんとか日々を過ごす内に12年の歳月が流れ、ある時出会った10歳年上の平民アレクと結ばれて、可愛い娘チェルシーを授かり、とても幸せに暮らしていたのだが……道に飛び出して馬車に轢かれそうになった娘を庇おうとしたアニーは気付けば6歳のアドリアーナに戻っていた。

幼女に転生したらイケメン冒険者パーティーに保護&溺愛されています

ひなた
ファンタジー
死んだと思ったら 目の前に神様がいて、 剣と魔法のファンタジー異世界に転生することに! 魔法のチート能力をもらったものの、 いざ転生したら10歳の幼女だし、草原にぼっちだし、いきなり魔物でるし、 魔力はあって魔法適正もあるのに肝心の使い方はわからないし で転生早々大ピンチ! そんなピンチを救ってくれたのは イケメン冒険者3人組。 その3人に保護されつつパーティーメンバーとして冒険者登録することに! 日々の疲労の癒しとしてイケメン3人に可愛いがられる毎日が、始まりました。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

【番外編】貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン
ファンタジー
『貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。』の番外編です。 本編にくっつけるとスクロールが大変そうなので別にしました。

処理中です...