転生オートマタ

未羊

文字の大きさ
上 下
101 / 189

Mission100

しおりを挟む
 それからまた10日後の事、ファルーダン王国にソルティエ公国からの返事が届けられた。
 その返事は、すぐさまファルーダン国王に伝えられる。
「おお、返事が来たか。どれどれ?」
 国王は使いの者から届けられた手紙を兵士を通して受け取ると、すぐさまその中身を確認していた。そのくらいにはソルティエ公国に期待を寄せていたのだ。
 中身を確認した国王は、体をふるふると震わせていた。一体何が書かれていたというのだろうか。
「そうかそうか。ソルティエ公国が公子と公女を我が国に留学させるそうだ。これは嬉しい事ではないか!」
 国王は本当に嬉しそうに叫んでいる。まあ、国の跡取りを他国に勉強に出させるという時点で、勝ちといえば勝ちなのだろう。だからこそ、国王はここまで大喜びをしているわけである。
 あまりの喜びように、宰相も使いの兵士も驚きで固まりながらその様子を見ていた。

 その夜、王族が揃って行う食事の席での事だった。
 最初こそ全員が黙々と食べていたのだが、国王が突然話を切り出し始めた。
「お前たち、ちょっと聞いてくれ」
 国王のこの言葉に、全員が手を止めて注目する。一体何の話があるというのだろうか。食事を淡々と食べていたいアインダードは、露骨に嫌な顔をしていた。
 だが、国王はそんな事を気にする事もなく、話を続けていく。
「実はな、昼間の事だが、以前手紙を出したソルティエ公国からの返事が来たのだ」
 この言葉に、全員が騒めいている。ソルティエ公国から反応があった事は驚きだが、国王が勝手に打診していた事にはもっと驚いた。どうやら宰相とは話をしたようだが、家族にはまったく話をしていなかったようだ。だからこそ、この反応なのである。
 壁際で立って待機するアリスも、さすがにこの国王の発言には驚いていた。同時に、ソルティエ公国の公子と公女という存在に興味を示していた。
 それはなぜか。南隣の国は自分の小説には出てこなかった国だからだ。アリスが書いた小説で出てきたのは、メインとなるファルーダン王国と北隣のマスカード帝国の2国だけだったのだ。だからこそ、アリスは興味を抱いているというわけである。
 アリスが聞き耳を立てている事に、隣に立つイスヴァンのオートマタであるフラムとアワードのオートマタであるフェールは気が付いていた。だが、食事中はよほどの事がなければ動いてはいけないので、二人とも気にはなるものの直立不動で耐えていた。
(ソルティエ公国の公子と公女が、我が国の学園に留学を……ですか。あとでマイマスターから情報を聞き出さねばなりませんね。私の魔法石ではその辺りの情報が欠落しているようですし、前の世界で書いていた小説でも出てこなかった国ですからね)
 アリスは気になって仕方ないのだが、オートマタである以上、勝手にしゃしゃり出るわけにはいかない。食事が終わるまでぐっと堪えているのだった。

 食事が終わり、ギルソンと共に部屋へと移動するアリス。
 そこでアリスは、ギルソンへと早速質問をぶつけていた。
「マイマスター、ちょっとよろしいでしょうか」
「うん、なんだいアリス」
 アリスの問い掛けに、普段通りの笑顔で対応している。
「今日の夕食で話題に出てきましたソルティエ公国についてお教え頂きたいのです」
 アリスの問い掛けに、ギルソンは意外だなという顔をしていた。だが、ギルソンはアリスの事をバカにするような事はなく、丁寧に説明を始めた。
「そうだね、アリスには今までかなりお世話になったからね、ボクが知る限りを教えようじゃないか。存在する事は知っていても、内情までは詳しくないなんて事はよくあるからね」
「恐れ入ります、マイマスター」
 ギルソンはアリスに対してソルティエ公国の事を知る限り語り始めた。
 ギルソンの話では、ファルーダン王国の南西に位置するソルティエ公国は、公爵をトップとして据えた海に面した国だという。ここまではアリスも知っている情報だ。
 そのトップたる公爵は大公と呼ばれていて、その大公には息子と娘が居るという事らしい。ちなみにどちらもギルソンよりは年上で、公子はアワードと、公女はイスヴァンと同い年なのだという。
 公子の名前はポルト、公女の名前はマリンというそうだ。それを聞いた瞬間、ものすごく安直な名前だと思ったアリスである。
 それはさておき、ソルティエ公国は海運が盛んではあるものの、じわじわと内陸の方にも睨みを利かせ始めているらしい。特にこのファルーダンは突如として国政を立て直したとあって、より一層注目をしているとの事で、公子と公女の留学という話もこれに関連しているのではないかとギルソンは睨んでいるのだ。
「なるほど、よく分かりました。さすがはマイマスターでございます」
 アリスは頭を下げる。
「まあ、外交を頑張るというのなら、これくらいはしないとね」
 ギルソンはそう言って笑っていた。
 本当に大したものである。結構忙しそうにしていた割には、これだけ調べ上げていたとは恐れ入る。アリスは改めてギルソンの能力の高さを思い知ったのだった。
 だが、そこまで聞いたアリスの心の中には、なんとなく胸騒ぎが起こった。理由は分からないが、そんな気がしたのである。
 さてさて、マスカード帝国はおろか、ソルティエ公国からも留学生を迎える事になったファルーダン王国。これからどうなっていってしまうのだろうか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

親切なミザリー

みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。 ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。 ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。 こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。 ‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。 ※不定期更新です。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

王太子妃が我慢しなさい ~姉妹差別を受けていた姉がもっとひどい兄弟差別を受けていた王太子に嫁ぎました~

玄未マオ
ファンタジー
メディア王家に伝わる古い呪いで第一王子は家族からも畏怖されていた。 その王子の元に姉妹差別を受けていたメルが嫁ぐことになるが、その事情とは? ヒロインは姉妹差別され育っていますが、言いたいことはきっちりいう子です。

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

処理中です...