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Mission099
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それからというもの、国王は自室にこもるようになった。その理由は息子たちの婚約者をめぐるものである。
長女フランソワは既に嫁いでいっているし、次女のリリアンもマスカード帝国皇子イスヴァンとの婚約が決定している。
それに比べて、息子たちの方は誰一人として婚約者が未定なのだった。
長男のアインダードにいたっては、今年で22歳だ。これで独身というのもはっきりいって問題がある。
今まで末子であるギルソンにばかり期待を掛けていたがために、その辺がおろそかになってしまっていたというわけだった。
国王は今になって放置していた事に頭を悩ませる事になってしまったのだった。
「むむむむ……。宰相よ、どうしたらいいと思うか?」
国王は一人で悩んでも答えが出なかったので、宰相に意見を求める。
「国内の貴族はもとより、他国の姫君たちも検討してみるとよいと思われます」
「うーむ。国内の貴族といっても、これといっていい人材など居ただろうかな……」
宰相の意見を聞いて、国王は机を指でトントンと叩いている。
「貢献度の高い貴族の娘を迎え入れるのはいかがでしょうか」
「うーむ、そうなると今から洗い出しをせねばならぬな」
宰相の意見を聞きながら、国王は今度は肘をついている。相当に頭の痛い話のようだった。
「今までしてこなかったわけですから、こればかりは仕方ないかと」
お小言を言われる国王である。だが、こればかりはとても反論のできない国王であった。
「仕方がないな。国内の貴族全員をしっかりと調べ上げろ。それが終わったら、王国への貢献度の高い貴族を中心に声を掛けるのだ」
「御意に」
国王の言葉に従って、宰相が部屋を出ていこうとする。だが、国王はそれを呼び止める。
「待て」
「何でしょうか、陛下」
「念のため、ソルティエ公国とソリエア王国にも声を掛けておいてくれ。あと、学園に通う気があるかという確認もな」
「承知致しました。すぐに使いを出します」
宰相は頭を下げると、落ち着いた様子で国王の私室を出ていった。
「はあ……、ギルソンがまさかあのように考えているとは……。息子の考えを見抜けなかった私は、父親失格なのだろうか……」
国王は頭を抱えたのだった。
それから10日ほどの事、ソルティエ公国では。
「なんと、ファルーダン王国からの書簡だと?」
「はい、大公様」
声を荒げる公国のトップ、大公である。
「こちらに寄こすのだ」
「はっ」
慌てた様子で書簡を持ってきた部下を近くに寄らせると、大公はその書簡を手に取った。
目を通す事しばらく、大公は体を震わせ始めた。
「いかがなさいましたか、大公様」
その様子に部下が心配そうに声を掛ける。
「どうやら、我が国にもツキが回ってきたようだ。我が子たちに王国の学園に通わないかという打診が来たのだ」
「なんですと?!」
大公から発せられた言葉に、部下が驚いている。
「鉄道なるものを築いたファルーダンの技術を間近で見られるという事だ。こんな機会はそうなかろう?」
「確かにそうでございますな」
「マスカード帝国の皇子が既に通っていると聞く。我が国もこの流れに、これ以上遅れるわけにはいくまいて?」
大公はこう言うと、部下の男と一緒に怪しい笑みを浮かべていた。
「すぐにポルトとマリンを連れてこい」
「畏まりました、大公様」
大公の命令を聞いて、部下は急ぎ足で部屋を出ていった。
しばらくすると、大公の部屋に二人の人物がやって来た。水色のなびくような髪が特徴な少年と瑠璃色のくるくるとした髪が特徴の少女だった。
「父上、お呼びになりましたでしょうか」
「おお、来たか。ポルト、マリン」
そうこの二人こそが、ソルティエ公国の公子ポルトと公女マリンだった。
「実はな、ファルーダンから自国の学園で学ばないかという打診があったのだ」
「ほう、それは興味深いですね、父上」
大公の言葉にポルトが反応する。
「ですが、なぜファルーダンはそのような事を言い出してきたのでしょうか」
対照的に、マリンの方は警戒しているのか疑いの声を上げていた。
「分からん。だが、ファルーダンの王子たちは、誰も結婚したという話がない。その辺を絡めてきた可能性があるな。マリンはちょうど今12歳だ。ファルーダンの学園は13歳からだと聞く。ちょうどいいと思わんか?」
「ええ、それは確かに……」
大公の推測に、マリンは納得がいっている様子だ。
「この機会をうまく使えば、ファルーダンの持つ技術などを我が国に取り込める。実に興味深いと思わんかね?」
大公はにやりと笑いながら、自分の子どもたちに話し掛けている。その圧力に、二人はごくりと息を飲んだ。
「……分かりました。この話、お受け致しましょう」
「……私もお受け致します」
「おお、それでこそ我が子どもたちというものだ。早速、ファルーダンに返事を出すとしようではないか」
二人があっさり了承した事で、大公はご機嫌になって自ら筆を執って返事を認めている。
「ふふふふ、急成長したファルーダンの秘密、それを暴いてやろうではないか」
子どもたちを前に、大公の笑いは止まらないようだった。
長女フランソワは既に嫁いでいっているし、次女のリリアンもマスカード帝国皇子イスヴァンとの婚約が決定している。
それに比べて、息子たちの方は誰一人として婚約者が未定なのだった。
長男のアインダードにいたっては、今年で22歳だ。これで独身というのもはっきりいって問題がある。
今まで末子であるギルソンにばかり期待を掛けていたがために、その辺がおろそかになってしまっていたというわけだった。
国王は今になって放置していた事に頭を悩ませる事になってしまったのだった。
「むむむむ……。宰相よ、どうしたらいいと思うか?」
国王は一人で悩んでも答えが出なかったので、宰相に意見を求める。
「国内の貴族はもとより、他国の姫君たちも検討してみるとよいと思われます」
「うーむ。国内の貴族といっても、これといっていい人材など居ただろうかな……」
宰相の意見を聞いて、国王は机を指でトントンと叩いている。
「貢献度の高い貴族の娘を迎え入れるのはいかがでしょうか」
「うーむ、そうなると今から洗い出しをせねばならぬな」
宰相の意見を聞きながら、国王は今度は肘をついている。相当に頭の痛い話のようだった。
「今までしてこなかったわけですから、こればかりは仕方ないかと」
お小言を言われる国王である。だが、こればかりはとても反論のできない国王であった。
「仕方がないな。国内の貴族全員をしっかりと調べ上げろ。それが終わったら、王国への貢献度の高い貴族を中心に声を掛けるのだ」
「御意に」
国王の言葉に従って、宰相が部屋を出ていこうとする。だが、国王はそれを呼び止める。
「待て」
「何でしょうか、陛下」
「念のため、ソルティエ公国とソリエア王国にも声を掛けておいてくれ。あと、学園に通う気があるかという確認もな」
「承知致しました。すぐに使いを出します」
宰相は頭を下げると、落ち着いた様子で国王の私室を出ていった。
「はあ……、ギルソンがまさかあのように考えているとは……。息子の考えを見抜けなかった私は、父親失格なのだろうか……」
国王は頭を抱えたのだった。
それから10日ほどの事、ソルティエ公国では。
「なんと、ファルーダン王国からの書簡だと?」
「はい、大公様」
声を荒げる公国のトップ、大公である。
「こちらに寄こすのだ」
「はっ」
慌てた様子で書簡を持ってきた部下を近くに寄らせると、大公はその書簡を手に取った。
目を通す事しばらく、大公は体を震わせ始めた。
「いかがなさいましたか、大公様」
その様子に部下が心配そうに声を掛ける。
「どうやら、我が国にもツキが回ってきたようだ。我が子たちに王国の学園に通わないかという打診が来たのだ」
「なんですと?!」
大公から発せられた言葉に、部下が驚いている。
「鉄道なるものを築いたファルーダンの技術を間近で見られるという事だ。こんな機会はそうなかろう?」
「確かにそうでございますな」
「マスカード帝国の皇子が既に通っていると聞く。我が国もこの流れに、これ以上遅れるわけにはいくまいて?」
大公はこう言うと、部下の男と一緒に怪しい笑みを浮かべていた。
「すぐにポルトとマリンを連れてこい」
「畏まりました、大公様」
大公の命令を聞いて、部下は急ぎ足で部屋を出ていった。
しばらくすると、大公の部屋に二人の人物がやって来た。水色のなびくような髪が特徴な少年と瑠璃色のくるくるとした髪が特徴の少女だった。
「父上、お呼びになりましたでしょうか」
「おお、来たか。ポルト、マリン」
そうこの二人こそが、ソルティエ公国の公子ポルトと公女マリンだった。
「実はな、ファルーダンから自国の学園で学ばないかという打診があったのだ」
「ほう、それは興味深いですね、父上」
大公の言葉にポルトが反応する。
「ですが、なぜファルーダンはそのような事を言い出してきたのでしょうか」
対照的に、マリンの方は警戒しているのか疑いの声を上げていた。
「分からん。だが、ファルーダンの王子たちは、誰も結婚したという話がない。その辺を絡めてきた可能性があるな。マリンはちょうど今12歳だ。ファルーダンの学園は13歳からだと聞く。ちょうどいいと思わんか?」
「ええ、それは確かに……」
大公の推測に、マリンは納得がいっている様子だ。
「この機会をうまく使えば、ファルーダンの持つ技術などを我が国に取り込める。実に興味深いと思わんかね?」
大公はにやりと笑いながら、自分の子どもたちに話し掛けている。その圧力に、二人はごくりと息を飲んだ。
「……分かりました。この話、お受け致しましょう」
「……私もお受け致します」
「おお、それでこそ我が子どもたちというものだ。早速、ファルーダンに返事を出すとしようではないか」
二人があっさり了承した事で、大公はご機嫌になって自ら筆を執って返事を認めている。
「ふふふふ、急成長したファルーダンの秘密、それを暴いてやろうではないか」
子どもたちを前に、大公の笑いは止まらないようだった。
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