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Mission098
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小説の中では性格を壊されて死ぬ事になってしまった第五王子ギルソン。アリスがオートマタとして転生してきたこの世界では、とりあえず12歳の段階で功労者として立場が確保された状態となった。
だが、その反動なのか、第二王子であるシュヴァリエの性格が荒れまくってしまい、小説の中で起きたファルーダン王国の危機はまだ回避できたような感じではなかった。アリスとしては頭が痛い状態が続いているのである。
先日の王位継承権の放棄で少しは抑え込めるかと思ったのだが、相変わらずシュヴァリエもアルヴィンも不審な動きを見せている。アリス、フラム、フェールの三人で代わる代わる様子を見守っているが、やっぱりまだまだ安心できるような状態ではなかった。
アリスは、第三王子であるスーリガンが鍵になると見ている。これはギルソンも同じだ。スーリガン以上に曖昧な立場に居るのはそのオートマタであるアエスだが、こちらはとりあえず放置だ。なぜなら、オートマタはあくまでも主人に対する付属でしかないからだ。つまり、スーリガンの状況次第ではどうとでも立場を変える事ができる。動きに注意を払う必要があるが、そこまで重要というわけではないのだ。
孤児院から戻ってきたギルソンとアリスは、自室で話を始める。
「アリス、シュヴァリエ兄様をおとなしくさせるいい方法はないかな?」
ギルソンはアリスに対して、質問を投げかけてきた。
「やはり、婚約者でしょうか。19歳となった今でも婚約者の存在が居ないというのは、王族としては大きな不名誉となりかねません。これは他の殿下方にも言える事ですが、そう思うと婚約者も居ないのに割り切っていらっしゃるアインダード殿下は特殊かも知れませんね」
アリスはそう答えていた。
「そうですね。ボクもシュヴァリエ兄様には早く結婚して頂きたいと思っていますから。ただ、急に婚約者を宛がおうとすると、余計こじれてしまう気がしますね」
ギルソンは自信の見解を述べている。
アリスも確かにその様に感じている。特に今のような捻くれた状態であるなら、余計に事態を悪化させかねない。やはりここで必要になるのは運命の出会いのようなものだろう。そう、今のシュヴァリエに必要なのは、心動かされる衝撃なのかも知れないのだった。
「そうでございますね。でしたら、南側の隣国にその辺りを打診してみるのはいかがでしょうか。国同士の関係性を保つための政略結婚もございますし、姫様を婚約者として迎え入れるのも手のひとつと思われます」
「そうですね。父上に早速進言してみましょうか。シュヴァリエ兄様がダメでも、スーリガン兄様やアワード兄様もいらっしゃいますし、やはり婚約者が居るというのは重要でしょうからね」
というわけで、ギルソンとアリスは早速国王の執務室へ向かう事にしたのだった。
「どうしたギルソン」
入室の許可をもらって部屋に入ったギルソンとアリス。そこでは国王が不思議そうな顔をして待ち構えていた。
「父上、相談したい事がございます。少々お時間、よろしいでしょうか」
「うむ、構わぬぞ。申してみい」
ギルソンから確認された国王は、手を止めて許可していた。
「父上、国に余裕も出てきた事ですし、兄様たちに婚約者の検討をしてもよろしいのではないでしょうか。姉様たちはあれだけ早く決めたというのに、兄様たちにはまったくその手の話がないではないですか」
「う、ううむ……」
ギルソンから単刀直入に話を持ち掛けられ、どいうわけか国王は後ろめたそうな反応を示している。一体、どうしたというのだろうか。
「正直言うと、お前にこそ最初に婚約者を考えていたんだがな……」
ギルソンが真剣な表情を向けていると、国王は渋々そんな事を打ち明けてきた。だが、ギルソンもアリスもそれには驚かなかった。予測はしていたのである。
しかしながら、それも一気に状況が変わってしまった。なにせギルソンが王位継承権を放棄してしまったのだから。
当然ながら、これに最も驚いたのは国王と王妃だった。秘密裏にギルソンの婚約者を決めるべく、あちこちに調査の手を伸ばしていたのだから。
その目論見が、この間の一件で一気に崩れ去ってしまった。正直言って、国王たちはどうしていいのか分からなくなってしまったというわけだった。
「まったく、だからといって兄様たちを放置していい理由にはなりません。父上と母上が放置した結果が、僕たち兄弟の不和でもあるのですから」
「ど、どういう事だ?!」
ギルソンが迫ると、国王は訳が分からないといった反応を示していた。これにはギルソンもアリスも呆れてしまう。
「失礼を承知で申し上げます。実は、シュヴァリエ殿下なのですが、密かにマイマスターの失脚を画策しているようなのです。シュヴァリエ殿下のオートマタであるアルヴィンに、襲われそうになった事がございますので、ほぼ間違いないかと」
「なん……だと?」
アリスからもたらされた情報に、国王は酷くショックを受けていた。まさか、自分の息子たちの間でそんな事が起きているとは思っていなかったようである。
国王は肘をついて頭を抱えてしまった。
「……分かった。ソルティエ公国とソリエア王国に打診をしてみる事にする」
国王は頭を抱え込んだままだった。
まるで一人にしてくれと言わんばかりの雰囲気だっただけに、ギルソンとアリスは挨拶だけすると国王の執務室から出ていたのだった。
だが、その反動なのか、第二王子であるシュヴァリエの性格が荒れまくってしまい、小説の中で起きたファルーダン王国の危機はまだ回避できたような感じではなかった。アリスとしては頭が痛い状態が続いているのである。
先日の王位継承権の放棄で少しは抑え込めるかと思ったのだが、相変わらずシュヴァリエもアルヴィンも不審な動きを見せている。アリス、フラム、フェールの三人で代わる代わる様子を見守っているが、やっぱりまだまだ安心できるような状態ではなかった。
アリスは、第三王子であるスーリガンが鍵になると見ている。これはギルソンも同じだ。スーリガン以上に曖昧な立場に居るのはそのオートマタであるアエスだが、こちらはとりあえず放置だ。なぜなら、オートマタはあくまでも主人に対する付属でしかないからだ。つまり、スーリガンの状況次第ではどうとでも立場を変える事ができる。動きに注意を払う必要があるが、そこまで重要というわけではないのだ。
孤児院から戻ってきたギルソンとアリスは、自室で話を始める。
「アリス、シュヴァリエ兄様をおとなしくさせるいい方法はないかな?」
ギルソンはアリスに対して、質問を投げかけてきた。
「やはり、婚約者でしょうか。19歳となった今でも婚約者の存在が居ないというのは、王族としては大きな不名誉となりかねません。これは他の殿下方にも言える事ですが、そう思うと婚約者も居ないのに割り切っていらっしゃるアインダード殿下は特殊かも知れませんね」
アリスはそう答えていた。
「そうですね。ボクもシュヴァリエ兄様には早く結婚して頂きたいと思っていますから。ただ、急に婚約者を宛がおうとすると、余計こじれてしまう気がしますね」
ギルソンは自信の見解を述べている。
アリスも確かにその様に感じている。特に今のような捻くれた状態であるなら、余計に事態を悪化させかねない。やはりここで必要になるのは運命の出会いのようなものだろう。そう、今のシュヴァリエに必要なのは、心動かされる衝撃なのかも知れないのだった。
「そうでございますね。でしたら、南側の隣国にその辺りを打診してみるのはいかがでしょうか。国同士の関係性を保つための政略結婚もございますし、姫様を婚約者として迎え入れるのも手のひとつと思われます」
「そうですね。父上に早速進言してみましょうか。シュヴァリエ兄様がダメでも、スーリガン兄様やアワード兄様もいらっしゃいますし、やはり婚約者が居るというのは重要でしょうからね」
というわけで、ギルソンとアリスは早速国王の執務室へ向かう事にしたのだった。
「どうしたギルソン」
入室の許可をもらって部屋に入ったギルソンとアリス。そこでは国王が不思議そうな顔をして待ち構えていた。
「父上、相談したい事がございます。少々お時間、よろしいでしょうか」
「うむ、構わぬぞ。申してみい」
ギルソンから確認された国王は、手を止めて許可していた。
「父上、国に余裕も出てきた事ですし、兄様たちに婚約者の検討をしてもよろしいのではないでしょうか。姉様たちはあれだけ早く決めたというのに、兄様たちにはまったくその手の話がないではないですか」
「う、ううむ……」
ギルソンから単刀直入に話を持ち掛けられ、どいうわけか国王は後ろめたそうな反応を示している。一体、どうしたというのだろうか。
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ギルソンが真剣な表情を向けていると、国王は渋々そんな事を打ち明けてきた。だが、ギルソンもアリスもそれには驚かなかった。予測はしていたのである。
しかしながら、それも一気に状況が変わってしまった。なにせギルソンが王位継承権を放棄してしまったのだから。
当然ながら、これに最も驚いたのは国王と王妃だった。秘密裏にギルソンの婚約者を決めるべく、あちこちに調査の手を伸ばしていたのだから。
その目論見が、この間の一件で一気に崩れ去ってしまった。正直言って、国王たちはどうしていいのか分からなくなってしまったというわけだった。
「まったく、だからといって兄様たちを放置していい理由にはなりません。父上と母上が放置した結果が、僕たち兄弟の不和でもあるのですから」
「ど、どういう事だ?!」
ギルソンが迫ると、国王は訳が分からないといった反応を示していた。これにはギルソンもアリスも呆れてしまう。
「失礼を承知で申し上げます。実は、シュヴァリエ殿下なのですが、密かにマイマスターの失脚を画策しているようなのです。シュヴァリエ殿下のオートマタであるアルヴィンに、襲われそうになった事がございますので、ほぼ間違いないかと」
「なん……だと?」
アリスからもたらされた情報に、国王は酷くショックを受けていた。まさか、自分の息子たちの間でそんな事が起きているとは思っていなかったようである。
国王は肘をついて頭を抱えてしまった。
「……分かった。ソルティエ公国とソリエア王国に打診をしてみる事にする」
国王は頭を抱え込んだままだった。
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