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Mission096
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食事を終えて、ギルソンの元にアインダードがやって来た。そして、背後に立つなり、いきなりギルソンの背中を思い切り叩いてきた。
「はっはっはっはっ、お前が王位継承権の放棄とかいう思い切った事をするとは思わなかったぞ」
大声で笑いながら、満面の笑みをさらしているアインダードである。
「アインダード兄様、そんなに強く叩かれると、食べたものが飛び出てきます。少しは手加減をして下さい……」
ギルソンは振り返りながら、げほげほとむせ込んでいた。かなり強く叩かれたようで、ちょっと危なかったようである。
「そうか、それは悪かったな。はっはっはっ」
だが、アインダードには反省するような様子はなかった。
ひと通り笑い終えると、アインダードはギルソンをじっと見る。
「な、なんですか、アインダード兄様……」
「うーむ、しばらく見ないうちに、ずいぶんといい顔になったものだな、ギルソン」
じっくりとギルソンの顔を見ながら、率直な感想を言うアインダード。脳筋気味なだけに、感想は実に素直なものが出てくるのである。
「それに比べて、シュヴァリエの奴はずいぶんと荒れてるというか捻くれているな。あれはいっちょ揉んでやらないといけないな」
顔を引いて直立したアインダードは、首を捻りながらそんな事を呟いていた。脳筋で鈍感なアインダードでもそう感じてしまうほどには、シュヴァリエの状態はかなり危険だという事なのだろう。
アリスはこの様子を、危険はないとして黙って見ていた。
(さすがは騎士団長を目指すアインダード殿下。危機を察する力はさすがですね)
アリスが二人の様子を見守っていると、一人のオートマタがアリスに近付いてきた。
「アリス、お前はどのように思っていますか?」
「オーロン、何をですか?」
アリスに質問を飛ばしてくるのは、アインダードのオートマタ、騎士風の衣装に身を包んだオーロンだった。
アインダードは小さい頃から騎士を目指していたので、オートマタもそれに準じた姿をしているのだ。ちなみに帽子をかぶっていて、その帽子で隠れるような位置に魔法石が付いている。
「シュヴァリエの事ですよ。明らかに態度がおかしいのは、我々であればすぐに分かるはずですが?」
オーロンはアリスにそう言い切っていた。
「おそらくは私たちの魔法石の影響なのでしょうが、アエスみたいに分かりやすいのは居ますが、アルヴィンがそこまで簡単に感情を漏らすようなへまはしませんよ。甘く見ない方がいいと思います」
だが、アリスだって精一杯に反論する。なぜなら、アルヴィンの性格はよく知っているつもりだからだ。これが原作者たるアリスの強みなのである。だが、小説に出てこなかったキャラの性格、例えば目の前に居るオーロンなどに関してはまったく分からないのだが……。
アリスの反論を受けて、オーロンは黙り込む。確かに、オーロンはそうは言ったものの、アルヴィンは確かに分かりにくいのである。ただ、妙な空気を感じるのは確かなようで、それをもってあのようにアリスに問い掛けたようである。
「ですが、油断しない事に越した事はありませんね。私たちオートマタは人間を攻撃はできませんが、オートマタを攻撃する事はできますからね。実際に私に襲い掛かろうとしていたくらいですから」
「なっ!?」
アリスがその様に告げると、オーロンは驚いていた。実際にそこまで深刻になっているとは思っていなかったのだろう。
「……シュヴァリエ殿下、そこまで追い詰められていましたか。今回の事で少しは軟化してくれるとありがたいのですが」
オーロンはすっかり考え込んでしまった。
「がーはっはっはっ。アルヴィンなどこの手で捻り倒してやる。だが、シュヴァリエもそこまで愚かでもあるまい。この状況で下手な事をすれば、反逆者として捕らえられるのは分かっているだろうからな」
アインダードはかなり楽観的に考えているようだ。しかし、ギルソンやアリス、それとオーロンはそうは考えていなかった。
ギルソンはアインダードの顔をしっかりと見る。
「アインダード兄様、シュヴァリエ兄様の事は実に深刻だと思いますよ。ボクが小さい頃はまだ温厚でしたのに、どうして今はあんな眉間にしわを寄せた感じになってしまったのか」
「ううむ、それは確かに……だな」
ギルソンの言葉に、アインダードはつい言葉を詰まらせてしまう。
「単純にマイマスターの活躍に比べて、自分が何もできていない事による劣等感からでしょう。マイマスターの王位継承権放棄が良い方向に働いてくれるとありがたいですが、あの様子では難しそうですね」
アリスもかなり深刻な表情をしていた。それでも、ギルソンによる王位継承権の放棄の宣言は、シュヴァリエにとって一定の牽制効果を持っているはずである。
「では、しばらくは見という方向性でよろしいですかな」
「そうですね。父上にも放棄の件が了承された以上、ボクへの攻撃はただの個人的なものへと変わりました。しばらくは下手に手は出せないと思いますから」
オーロンが確認を取ると、ギルソンはその方向性で合っていると頷いた。
ギルソンの王位継承権の放棄の宣言。その効果がどこまであるのかは未知数だ。だが、シュヴァリエを牽制する一定の効果はあったはずである。
ファルーダン王国やマスカード帝国など、この小説の世界を平和に導くための戦いは、まだまだ続きそうである。
「はっはっはっはっ、お前が王位継承権の放棄とかいう思い切った事をするとは思わなかったぞ」
大声で笑いながら、満面の笑みをさらしているアインダードである。
「アインダード兄様、そんなに強く叩かれると、食べたものが飛び出てきます。少しは手加減をして下さい……」
ギルソンは振り返りながら、げほげほとむせ込んでいた。かなり強く叩かれたようで、ちょっと危なかったようである。
「そうか、それは悪かったな。はっはっはっ」
だが、アインダードには反省するような様子はなかった。
ひと通り笑い終えると、アインダードはギルソンをじっと見る。
「な、なんですか、アインダード兄様……」
「うーむ、しばらく見ないうちに、ずいぶんといい顔になったものだな、ギルソン」
じっくりとギルソンの顔を見ながら、率直な感想を言うアインダード。脳筋気味なだけに、感想は実に素直なものが出てくるのである。
「それに比べて、シュヴァリエの奴はずいぶんと荒れてるというか捻くれているな。あれはいっちょ揉んでやらないといけないな」
顔を引いて直立したアインダードは、首を捻りながらそんな事を呟いていた。脳筋で鈍感なアインダードでもそう感じてしまうほどには、シュヴァリエの状態はかなり危険だという事なのだろう。
アリスはこの様子を、危険はないとして黙って見ていた。
(さすがは騎士団長を目指すアインダード殿下。危機を察する力はさすがですね)
アリスが二人の様子を見守っていると、一人のオートマタがアリスに近付いてきた。
「アリス、お前はどのように思っていますか?」
「オーロン、何をですか?」
アリスに質問を飛ばしてくるのは、アインダードのオートマタ、騎士風の衣装に身を包んだオーロンだった。
アインダードは小さい頃から騎士を目指していたので、オートマタもそれに準じた姿をしているのだ。ちなみに帽子をかぶっていて、その帽子で隠れるような位置に魔法石が付いている。
「シュヴァリエの事ですよ。明らかに態度がおかしいのは、我々であればすぐに分かるはずですが?」
オーロンはアリスにそう言い切っていた。
「おそらくは私たちの魔法石の影響なのでしょうが、アエスみたいに分かりやすいのは居ますが、アルヴィンがそこまで簡単に感情を漏らすようなへまはしませんよ。甘く見ない方がいいと思います」
だが、アリスだって精一杯に反論する。なぜなら、アルヴィンの性格はよく知っているつもりだからだ。これが原作者たるアリスの強みなのである。だが、小説に出てこなかったキャラの性格、例えば目の前に居るオーロンなどに関してはまったく分からないのだが……。
アリスの反論を受けて、オーロンは黙り込む。確かに、オーロンはそうは言ったものの、アルヴィンは確かに分かりにくいのである。ただ、妙な空気を感じるのは確かなようで、それをもってあのようにアリスに問い掛けたようである。
「ですが、油断しない事に越した事はありませんね。私たちオートマタは人間を攻撃はできませんが、オートマタを攻撃する事はできますからね。実際に私に襲い掛かろうとしていたくらいですから」
「なっ!?」
アリスがその様に告げると、オーロンは驚いていた。実際にそこまで深刻になっているとは思っていなかったのだろう。
「……シュヴァリエ殿下、そこまで追い詰められていましたか。今回の事で少しは軟化してくれるとありがたいのですが」
オーロンはすっかり考え込んでしまった。
「がーはっはっはっ。アルヴィンなどこの手で捻り倒してやる。だが、シュヴァリエもそこまで愚かでもあるまい。この状況で下手な事をすれば、反逆者として捕らえられるのは分かっているだろうからな」
アインダードはかなり楽観的に考えているようだ。しかし、ギルソンやアリス、それとオーロンはそうは考えていなかった。
ギルソンはアインダードの顔をしっかりと見る。
「アインダード兄様、シュヴァリエ兄様の事は実に深刻だと思いますよ。ボクが小さい頃はまだ温厚でしたのに、どうして今はあんな眉間にしわを寄せた感じになってしまったのか」
「ううむ、それは確かに……だな」
ギルソンの言葉に、アインダードはつい言葉を詰まらせてしまう。
「単純にマイマスターの活躍に比べて、自分が何もできていない事による劣等感からでしょう。マイマスターの王位継承権放棄が良い方向に働いてくれるとありがたいですが、あの様子では難しそうですね」
アリスもかなり深刻な表情をしていた。それでも、ギルソンによる王位継承権の放棄の宣言は、シュヴァリエにとって一定の牽制効果を持っているはずである。
「では、しばらくは見という方向性でよろしいですかな」
「そうですね。父上にも放棄の件が了承された以上、ボクへの攻撃はただの個人的なものへと変わりました。しばらくは下手に手は出せないと思いますから」
オーロンが確認を取ると、ギルソンはその方向性で合っていると頷いた。
ギルソンの王位継承権の放棄の宣言。その効果がどこまであるのかは未知数だ。だが、シュヴァリエを牽制する一定の効果はあったはずである。
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