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Mission095
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「王位継承権を放棄します」
ギルソンの爆弾発言は、王家の食卓に衝撃が走った。
これに最初に反応したのは第二王女のリリアンだった。両手をテーブルに突いて勢いよく立ち上がっていた。
「ギルソン、どういうつもりなんですか? 王位継承権を放棄するってどういう事か分かっていますの?」
あまり怒る事のないリリアンだが、この時ばかりはかなり強めにギルソンを問い質している。さすがにこのリリアンの様子には、ギルソンも少し怯んでしまう。優しい姉とばかり思っていたのだが、まさかここまで感情を露わにするとは思ってもみなかった。これにはイスヴァンもびっくりである。
だが、ギルソンだって勢いだけで言っているわけではない。ちゃんと自分の中で整理をつけたからこそ、今この時点で告げているというわけだ。
「ギルソン、何ゆえ継承権を放棄する。お前ほどの実績があれば、むしろ筆頭になってもおかしくない話だ。それを自ら手放すとは、にわかに信じられん話だぞ」
国王も驚いたが、冷静にギルソンに確認を取っている。
その国王とリリアンの問い掛けにも、ギルソンは黙っている。そして、落ち着いて周りを見回していると、王妃も、他の王子たちも、全員の視線がすべてギルソンに集中している。その視線から感じられる感情は様々だったが、やはり、第二王子シュヴァリエから向けられる視線だけは特殊過ぎた。それはまるで鋭い刃で突き刺すような、それほどまでに冷たい憎悪に満ちたものだった。
正直、そのシュヴァリエの視線は恐怖を感じるものだが、ここで引き下がるわけにはいかなかった。ギルソンはぎゅっと拳を握りしめてしっかりと顔を上げた。
「父上、兄上たち、姉上、ボクは本気です。ここまでいろいろな事をしてきましたが、ボクは城で構えているよりも自分で動いてこの目で見てくる仕事の方が合っています。ですから、国王よりは外交官として、この国を支えたいんです」
ギルソンは国王たちに言い切った。
正直、国王たちはギルソンがここまで考えているとは考えていなかったようだ。はっきりギルソンの口から出た言葉に、驚き固まっていた。
「……ギルソン、それは本気なのか?」
どうにか正気に戻った国王は、改めてギルソンに問い掛ける。
「はい、本気です」
それに対して、ギルソンは迷う事なく、まっすぐとして瞳ではっきりとと答えていた。その姿に、国王はギルソンが本気だという事をしっかりと認識したのだった。
「本当にいいんだな? 自ら放棄すると、やむを得ない場合以外は王位に就く事ができなくなるぞ?」
「もちろんです! それで構いません」
国王が念を押すように確認するが、ギルソンは即答だった。
その答えを聞いた国王は、背もたれに背中をつけて、深く長く息を吐いていた。
「分かった。ギルソンの決意がそこまで固いのなら、私からはもう何も言わない。アインダードも王位継承権を放棄しているからな。シュヴァリエ、スーリガン、アワード。お前たち三人の中から改めて次期国王を選ぶ事とする」
「はい!」
国王の決定に、全員が返事をする。国王は額に手を当てて、顔を左右に振っていた。
この様子では、国王の中では、王位継承はほぼギルソンで決まりかけていたのだろう。それが、ギルソンからのまさかの宣言で白紙撤回になったのだ。この時の国王の落胆具合といったら、それは計り知れないものに違いなかった。
「ちっ……」
その様子を見ていたシュヴァリエが、小さく舌打ちをしていた。王位継承において邪魔な存在であるギルソンを、こっそり始末しようとしていたのだから。
今回のギルソンの宣言のせいで、消す理由が消えてしまったのだ。そのイライラといったら相当なものだろう。
イライラの募るシュヴァリエは、まだ全部食べ切っていないというのに、急に席を立って食堂を出ていこうとする。
「どうした、シュヴァリエ」
「そうですよ、まだ残っているではありませんか」
両親から呼び止められるシュヴァリエは、扉の前でようやく止まる。
「ちょっと気分が優れませんので……。失礼します」
扉を静かに開けて、シュヴァリエは食堂から足早に出ていったのだった。
「一体どうしたというんだ、シュヴァリエは」
突然の行動に、その理由が分からないといった感じの国王である。
おそらくはここに居る面々の中で、シュヴァリエが出ていった理由が分かるのは、スーリガン、アワード、ギルソン、イスヴァンの四人だけだろう。それ以外はシュヴァリエの抱える心の闇を知らないのだから。
(これで、シュヴァリエ兄様が少しおとなしくなってくれるといいのですが……。おそらくは時間稼ぎにしかならないでしょうね)
シュヴァリエの様子から、ギルソンはそんな風に感じ取っていた。
ギルソンによる王位継承権放棄という急展開を迎えたファルーダン王家。
はてさて、ここから王子たちの話はどう動いていくというのだろうか。解決に向けて動くのだろうか、それともますます気の抜けない事態となるのだろうか。それは誰にも分からない事だった。
ギルソンの爆弾発言は、王家の食卓に衝撃が走った。
これに最初に反応したのは第二王女のリリアンだった。両手をテーブルに突いて勢いよく立ち上がっていた。
「ギルソン、どういうつもりなんですか? 王位継承権を放棄するってどういう事か分かっていますの?」
あまり怒る事のないリリアンだが、この時ばかりはかなり強めにギルソンを問い質している。さすがにこのリリアンの様子には、ギルソンも少し怯んでしまう。優しい姉とばかり思っていたのだが、まさかここまで感情を露わにするとは思ってもみなかった。これにはイスヴァンもびっくりである。
だが、ギルソンだって勢いだけで言っているわけではない。ちゃんと自分の中で整理をつけたからこそ、今この時点で告げているというわけだ。
「ギルソン、何ゆえ継承権を放棄する。お前ほどの実績があれば、むしろ筆頭になってもおかしくない話だ。それを自ら手放すとは、にわかに信じられん話だぞ」
国王も驚いたが、冷静にギルソンに確認を取っている。
その国王とリリアンの問い掛けにも、ギルソンは黙っている。そして、落ち着いて周りを見回していると、王妃も、他の王子たちも、全員の視線がすべてギルソンに集中している。その視線から感じられる感情は様々だったが、やはり、第二王子シュヴァリエから向けられる視線だけは特殊過ぎた。それはまるで鋭い刃で突き刺すような、それほどまでに冷たい憎悪に満ちたものだった。
正直、そのシュヴァリエの視線は恐怖を感じるものだが、ここで引き下がるわけにはいかなかった。ギルソンはぎゅっと拳を握りしめてしっかりと顔を上げた。
「父上、兄上たち、姉上、ボクは本気です。ここまでいろいろな事をしてきましたが、ボクは城で構えているよりも自分で動いてこの目で見てくる仕事の方が合っています。ですから、国王よりは外交官として、この国を支えたいんです」
ギルソンは国王たちに言い切った。
正直、国王たちはギルソンがここまで考えているとは考えていなかったようだ。はっきりギルソンの口から出た言葉に、驚き固まっていた。
「……ギルソン、それは本気なのか?」
どうにか正気に戻った国王は、改めてギルソンに問い掛ける。
「はい、本気です」
それに対して、ギルソンは迷う事なく、まっすぐとして瞳ではっきりとと答えていた。その姿に、国王はギルソンが本気だという事をしっかりと認識したのだった。
「本当にいいんだな? 自ら放棄すると、やむを得ない場合以外は王位に就く事ができなくなるぞ?」
「もちろんです! それで構いません」
国王が念を押すように確認するが、ギルソンは即答だった。
その答えを聞いた国王は、背もたれに背中をつけて、深く長く息を吐いていた。
「分かった。ギルソンの決意がそこまで固いのなら、私からはもう何も言わない。アインダードも王位継承権を放棄しているからな。シュヴァリエ、スーリガン、アワード。お前たち三人の中から改めて次期国王を選ぶ事とする」
「はい!」
国王の決定に、全員が返事をする。国王は額に手を当てて、顔を左右に振っていた。
この様子では、国王の中では、王位継承はほぼギルソンで決まりかけていたのだろう。それが、ギルソンからのまさかの宣言で白紙撤回になったのだ。この時の国王の落胆具合といったら、それは計り知れないものに違いなかった。
「ちっ……」
その様子を見ていたシュヴァリエが、小さく舌打ちをしていた。王位継承において邪魔な存在であるギルソンを、こっそり始末しようとしていたのだから。
今回のギルソンの宣言のせいで、消す理由が消えてしまったのだ。そのイライラといったら相当なものだろう。
イライラの募るシュヴァリエは、まだ全部食べ切っていないというのに、急に席を立って食堂を出ていこうとする。
「どうした、シュヴァリエ」
「そうですよ、まだ残っているではありませんか」
両親から呼び止められるシュヴァリエは、扉の前でようやく止まる。
「ちょっと気分が優れませんので……。失礼します」
扉を静かに開けて、シュヴァリエは食堂から足早に出ていったのだった。
「一体どうしたというんだ、シュヴァリエは」
突然の行動に、その理由が分からないといった感じの国王である。
おそらくはここに居る面々の中で、シュヴァリエが出ていった理由が分かるのは、スーリガン、アワード、ギルソン、イスヴァンの四人だけだろう。それ以外はシュヴァリエの抱える心の闇を知らないのだから。
(これで、シュヴァリエ兄様が少しおとなしくなってくれるといいのですが……。おそらくは時間稼ぎにしかならないでしょうね)
シュヴァリエの様子から、ギルソンはそんな風に感じ取っていた。
ギルソンによる王位継承権放棄という急展開を迎えたファルーダン王家。
はてさて、ここから王子たちの話はどう動いていくというのだろうか。解決に向けて動くのだろうか、それともますます気の抜けない事態となるのだろうか。それは誰にも分からない事だった。
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