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Mission094
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「ただいま戻りました、マイマスター」
アリスがギルソンの部屋へと戻ってきた。
「ああ、お帰り、アリス。……どうしたんだい?」
アリスの顔を見た瞬間にギルソンが何かを感じ取ったのか、疑問を投げかけてきた。オートマタがこうも露骨に表情を見せるような事は本来ないはずなのだが、今のアリスははっきりと分かるくらいに表情が曇っていたのである。
「これはマイマスター。私、表情に出してしまっていたでしょうか」
アリスも気が付いていなかったようである。
このアリスの発言に対して、ギルソンはこくりと黙って頷いた。これにはアリスは観念するしかなかったようだ。そんなわけで、ギルソンに先程あった出来事を報告する事としたのだ。
アリスからの報告を聞いたギルソンは、表情を曇らせた。思っていた以上に事態は深刻化しているようだからだ。
「シュヴァリエ兄様……、そんなところまで思い詰めておられるのですね……」
ギルソンは手を組んで、真剣に考え始めた。
ギルソン自体はファルーダン王国をよくする事を考えているので、兄弟で争う事を歓迎するわけがないのだ。さすがにアリスの報告には心が痛かった。
「おう、ギルソン、どうしたんだ」
そこへ、イスヴァンとアワードの二人がやってきた。
「ああ、イスヴァン。ちょっとね……」
それに答えるギルソンの表情が浮かない。さすがにこれにはイスヴァンもいい顔をしなかった。
ずかずかと歩いてきたかと思えば、ギルソンの隣にドカッと座り込んできた。
「その様子を見ると、お前の兄上であるシュヴァリエの事だろう? 思った以上に深刻だったってところだな」
まさにズバリな指摘に、ギルソンは目を丸くしてしまう。まったく、俺様主義だったはずの帝国の皇子は、ものすごく切れる頭を持っていたのである。なんて予想外な事なのだろうか。
「まあ、そうですね。アリスからの報告によれば、シュヴァリエ兄様のオートマタ、アルヴィンが攻撃をしてきたそうなのです」
「オートマタは基本的に人間を攻撃しませんから、アルヴィンがアリスを攻撃したという事ですか」
「なるほどな。オートマタを破壊してギルソンの勢いを削ごうとしたってわけか。えげつねえな。とてもお前の兄貴とは思えねえ話だぜ」
イスヴァンもアワードも、思ったよりは落ち着いた反応をしていた。どうやら、二人からすれば予想の範疇にあったようだ。とはいえ、それを実行してきた事には驚かざるをえなかった。
事態は思ったよりも深刻だという事を認識した四人は、すぐさま対策を立てるべきだろうという認識で一致した。
「ギルソンをそこまで敵視しているというのなら、王位継承権に関してはっきりさせておいた方がいいだろうな。このままいけば、ファルーダン王家に血の雨が降りかねねえ」
イスヴァンははっきりそう言い切っていた。他国の人間なのだからよその王族に首を突っ込むのはあまり好ましくないのだが、学園に通わせてもらっている以上、国内事情にはどうしても関心が高くなってしまうのである。
「それは僕も思いますね。シュヴァリエ兄様の最近の様子はあまり見ていられたものではないですから」
アワードも同じような考えのようである。
これらの意見を聞いて、ギルソンは唸りながら考え込んでいた。まだ学園にも通わない12歳という状態なのだから、この時点で結論を出すには早いからである。
だが、シュヴァリエが実力行使に出てきている以上、いずれは自分に危害が及ぶ可能性が低くなくなってきている。そうなると、今にも結論を出した方がよいと思われるのである。
「そうですね。ボクとしては支えられるよりは支える側で居たいですから、王位継承権というのは枷にしかなりません。シュヴァリエ兄様が実力行使に出た以上、確かに結論は急いだ方がいいですね」
ギルソンは悩み抜いた末、結論を出した。
「早速、今夜の食事の際にでも父上に伝えようかと思います」
「そうだな。こういう事は少しでも早い方がいい」
「ギルソンが出した結論なら、僕も支持しますよ。大事な弟ですからね」
ギルソンの決意に、イスヴァンとアワードが味方に付く。こうして、ついに重要な場面に突入する事となったのだった。
夕食の席、ギルソンはいつもと違った面持ちで臨んでいる。両脇にイスヴァンとアワード、後ろには三人のオートマタが付いている。
いつもと同じ風景だというのに、何かが違って見える。そのくらい、ギルソンがした決意というものは重大なものなのだ。
普段通りの食事の光景。頃合いを見計らってギルソンが声を上げる。
「父上、ちょっとお話がございます」
「どうした、ギルソン」
ギルソンの発言に対して、国王が反応する。だが、ギルソンの表情を見た国王は、その表情を少し曇らせた。
「ギルソン、一体どうしたというのだ。この場で言える事なら言ってくれ」
国王がこう言うので、ギルソンは一度深呼吸をする。そして、真面目な面持ちでこう発言した。
「ボク、ギルソン・アーディリオ・ファルーダン第五王子は、王位継承権を放棄したいと存じます」
ギルソンが投下した爆弾発言に、食堂の中は時が凍り付いたかのようにすべての音と動きが止まったのだった。
アリスがギルソンの部屋へと戻ってきた。
「ああ、お帰り、アリス。……どうしたんだい?」
アリスの顔を見た瞬間にギルソンが何かを感じ取ったのか、疑問を投げかけてきた。オートマタがこうも露骨に表情を見せるような事は本来ないはずなのだが、今のアリスははっきりと分かるくらいに表情が曇っていたのである。
「これはマイマスター。私、表情に出してしまっていたでしょうか」
アリスも気が付いていなかったようである。
このアリスの発言に対して、ギルソンはこくりと黙って頷いた。これにはアリスは観念するしかなかったようだ。そんなわけで、ギルソンに先程あった出来事を報告する事としたのだ。
アリスからの報告を聞いたギルソンは、表情を曇らせた。思っていた以上に事態は深刻化しているようだからだ。
「シュヴァリエ兄様……、そんなところまで思い詰めておられるのですね……」
ギルソンは手を組んで、真剣に考え始めた。
ギルソン自体はファルーダン王国をよくする事を考えているので、兄弟で争う事を歓迎するわけがないのだ。さすがにアリスの報告には心が痛かった。
「おう、ギルソン、どうしたんだ」
そこへ、イスヴァンとアワードの二人がやってきた。
「ああ、イスヴァン。ちょっとね……」
それに答えるギルソンの表情が浮かない。さすがにこれにはイスヴァンもいい顔をしなかった。
ずかずかと歩いてきたかと思えば、ギルソンの隣にドカッと座り込んできた。
「その様子を見ると、お前の兄上であるシュヴァリエの事だろう? 思った以上に深刻だったってところだな」
まさにズバリな指摘に、ギルソンは目を丸くしてしまう。まったく、俺様主義だったはずの帝国の皇子は、ものすごく切れる頭を持っていたのである。なんて予想外な事なのだろうか。
「まあ、そうですね。アリスからの報告によれば、シュヴァリエ兄様のオートマタ、アルヴィンが攻撃をしてきたそうなのです」
「オートマタは基本的に人間を攻撃しませんから、アルヴィンがアリスを攻撃したという事ですか」
「なるほどな。オートマタを破壊してギルソンの勢いを削ごうとしたってわけか。えげつねえな。とてもお前の兄貴とは思えねえ話だぜ」
イスヴァンもアワードも、思ったよりは落ち着いた反応をしていた。どうやら、二人からすれば予想の範疇にあったようだ。とはいえ、それを実行してきた事には驚かざるをえなかった。
事態は思ったよりも深刻だという事を認識した四人は、すぐさま対策を立てるべきだろうという認識で一致した。
「ギルソンをそこまで敵視しているというのなら、王位継承権に関してはっきりさせておいた方がいいだろうな。このままいけば、ファルーダン王家に血の雨が降りかねねえ」
イスヴァンははっきりそう言い切っていた。他国の人間なのだからよその王族に首を突っ込むのはあまり好ましくないのだが、学園に通わせてもらっている以上、国内事情にはどうしても関心が高くなってしまうのである。
「それは僕も思いますね。シュヴァリエ兄様の最近の様子はあまり見ていられたものではないですから」
アワードも同じような考えのようである。
これらの意見を聞いて、ギルソンは唸りながら考え込んでいた。まだ学園にも通わない12歳という状態なのだから、この時点で結論を出すには早いからである。
だが、シュヴァリエが実力行使に出てきている以上、いずれは自分に危害が及ぶ可能性が低くなくなってきている。そうなると、今にも結論を出した方がよいと思われるのである。
「そうですね。ボクとしては支えられるよりは支える側で居たいですから、王位継承権というのは枷にしかなりません。シュヴァリエ兄様が実力行使に出た以上、確かに結論は急いだ方がいいですね」
ギルソンは悩み抜いた末、結論を出した。
「早速、今夜の食事の際にでも父上に伝えようかと思います」
「そうだな。こういう事は少しでも早い方がいい」
「ギルソンが出した結論なら、僕も支持しますよ。大事な弟ですからね」
ギルソンの決意に、イスヴァンとアワードが味方に付く。こうして、ついに重要な場面に突入する事となったのだった。
夕食の席、ギルソンはいつもと違った面持ちで臨んでいる。両脇にイスヴァンとアワード、後ろには三人のオートマタが付いている。
いつもと同じ風景だというのに、何かが違って見える。そのくらい、ギルソンがした決意というものは重大なものなのだ。
普段通りの食事の光景。頃合いを見計らってギルソンが声を上げる。
「父上、ちょっとお話がございます」
「どうした、ギルソン」
ギルソンの発言に対して、国王が反応する。だが、ギルソンの表情を見た国王は、その表情を少し曇らせた。
「ギルソン、一体どうしたというのだ。この場で言える事なら言ってくれ」
国王がこう言うので、ギルソンは一度深呼吸をする。そして、真面目な面持ちでこう発言した。
「ボク、ギルソン・アーディリオ・ファルーダン第五王子は、王位継承権を放棄したいと存じます」
ギルソンが投下した爆弾発言に、食堂の中は時が凍り付いたかのようにすべての音と動きが止まったのだった。
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