転生オートマタ

未羊

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Mission091

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 どうにか落ち着いたアエスから、シュヴァリエとスーリガンの近況を聞き出そうとするアリスたち。
 周りをオートマタ三人に囲まれてしまっては、非力なオートマタであるアエスには逆らうという選択肢はなかった。
「シュヴァリエ殿下は、王位継承権を自分のものにしようと動いています。シュヴァリエ殿下のオートマタであるアルヴィンを使っていろいろと動いているようなんです」
 観念したアエスは、ぽつぽつとシュヴァリエとスーリガンの動向を話し始めた。
 なんともまあ、予想外な事にシュヴァリエは完全に歪んでしまっているようだった。確かに性格はだいぶ悪い感じになっていたのだが、そこまでしようと考えているとは思い至らなかったのである。
「あの、マスターを……、スーリガン殿下を……、助けて頂けませんか?」
 アエスはぽつりぽつりと涙をこぼし始めていた。まさかオートマタが泣くとは、これまた驚かされるアリスたちだった。
「アエス、落ち着きなさい。私たちは誰も不幸にするつもりはないですから」
 アリスがアエスに声を掛ける。だが、これにはフラムとフェールの二人は同調しなかった。
「いえ、国家転覆を考えているに等しい話ですね。最悪極刑すらあり得る話です」
「まったくだ。自分の地位を手に入れるために兄弟を蹴落とそうとするというのなら、俺は遠慮をするつもりはない」
 二人はかなり厳しい意見のようだった。この点ではアリスとの同調は考えられないようである。
「お二人の気持ちも分かりますが、まだ水面下で動いているような状況です。実行に移る前に潰してしまえば、そこまで問題にする必要はないでしょう?」
 アリスは、そうフラムとフェールに対して反論する。
「確かにそうでございますが、オートマタが動いている以上は、それは厳しいかと思われます。特にシュヴァリエ殿下のオートマタであるアルヴィンは任務に忠実です。あれを止めるとなると、私たちも無傷ではすみませんよ」
 だが、それに対してフェールから実に厳しい反論が飛んできた。
 確かにその通りである。
 第二王子シュヴァリエの側近であるアルヴィンは、屈指の強キャラの設定だ。そうでなければ小説内のギルソンの反乱を止めたり、マスカード帝国との戦争を終わらせたりというのは不可能だからだ。優秀で強いオートマタが居たからこそ、実現できたようなものなのである。
 だからこそ、フェールの言い分がもの凄く分かるアリスなのだった。
 しかし、アリスにだって譲れないものがある。自分がこの世界にやって来たのは、出版社都合で不幸な人物にさせられてしまったギルソンを救うためである。そして今、そのギルソンに危機が迫っているのだ。シュヴァリエの暴走を止めない理由など、そこにはなかったのだ。
「お二人の意見はよく分かりました」
 目を閉じて言うアリス。
「ですが、私にだって譲れないものがございます。私はこの王家のどなたも不幸にするつもりはございません。お二人が協力しなくても、私はシュヴァリエ殿下の企みを止めてみせます」
 カッと目を開いてきっぱりと言い切るアリス。そこには、強い決意が秘められているからだった。
 このどこまでも強い決意を秘めたアリスの発言に、フラムもフェールも、そしてアエスも心が揺れ動いた。淡々と言われた事だけをこなすオートマタが、心揺さぶられたのである。
「……分かりました。そこまで仰るのでしたら、私も未然に防ぐために協力致しましょう」
「まったくだな。面倒くさいと言えば面倒くさいが、何かあれば殿下も悲しむだろう。ずいぶんとこのファルーダンを気に入っているようだしな」
 フェールとフラムから、協力の申し出が口を突いて出てきたのである。
「わ、私もお手伝いします! マスターにこれ以上酷い事のお手伝いはさせたくないですから!」
 アエスも搾り出すように協力を申し出てくれた。
 真剣なアリスの心が、心のない人形のはずのオートマタたちを動かしたのである。
「ありがとうございます、みなさん」
 アリスは素直に頭を下げた。
「それでは、不穏な動きを潰すために、しっかり作戦を立てましょう。特にアエス、あなたはあちら側の陣営です。行動には十分ご注意下さいね」
「わ、分かりました」
 アリスが淡々と言うと、アエスはきゅっと両手を握って返事をしていた。

 小説ではギルソンが起こすはずだった反乱は、なんと主犯がシュヴァリエにすり替わって引き起こされそうな状態となっていた。
 小説通りであるならば、シュヴァリエもそのオートマタのアルヴィンも能力が高い。はっきり言って分の悪い戦いではある。
 しかし、アリスには原作者として、そして、なによりも別世界で培ってきた知識と経験というものがある。なんとしても最悪の事態は避けたいものである。
 こうして、ファルーダン王国の中における不穏な動きに対する対策がついに動き始めた。
 アリスたちは無事に、シュヴァリエとアルヴィンの暴走を食い止める事ができるのだろうか。本格的な戦いが始まったのである。
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