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Mission088
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だが、アリスの気持ちとしては複雑なものがあった。それは、今はまだ物語が始まる前の時間なのである。
小説においてギルソンの反乱が起きたのは、学園在籍中の話だ。学園2年目、小説の話としては第一部の締めとして起きたギルソンの突如としての乱心である。第二部ではギルソンの反乱とその集結を描いており、その締めこそが、この転生劇の冒頭に出てきたシーンなのである。
この世界においては小説のようにギルソンはいじめられる事も捨て置かれるような事もまったくない。真っすぐで純真な少年として成長している。そして、やさぐれた時ですら持っていた視野の広さはこの状態でも健在で、城の中にはギルソンを次期国王に推す声も少なからず存在している。その人間性からかなり国内での人気が高いのである。
ただ、そのしわ寄せがもろに向かったのが、第二王子であるシュヴァリエである。
元々幼少期は次期国王として期待されていた。そういった背景から学園もしっかりと首席で卒業するくらいには努力もしていた。
ところがだ。今ではそんな努力も吹っ飛んでしまうくらいに、注目を集めているのは第五王子であるギルソンだった。質の劣るのオートマタを宛がわれたというのに、そのオートマタが大活躍してギルソンの評価を押し上げてしまったのだ。はっきり言ってしまえば、シュヴァリエとしては面白くないわけである。
そういう兆候は以前からも見られたわけだが、イスヴァンに与えたオートマタであるフラムからの報告で、より鮮明になったのが現在である。
正直言って、この状況はよろしくない。該当する人物が入れ替わる形で国家を揺るがす戦争が起きかねないのだ。せっかくここまで国を立て直してきて、さらには隣国マスカード帝国とも友好が築けているのだ。これまでの努力を無駄にしないためにも、それだけはどうしても避けたいのがアリスたちの心情なのである。
そんなわけで、城の中での動向を探るべく、イスヴァンのオートマタであるフラムとアワードのオートマタであるフェールにそれとなく探りを入れてもらう事にした。
アワードのオートマタも女性型である。おどおどした感じのアワードを支えるべく、しっかりとしたお姉さんタイプの性格である。強気なフラムとはいいコンビになりそうな感じだった。
「さて、マスターとギルソン殿下にお願いされましたけれど、どこから探りを入れましょうか」
「アリスの話を信じるとするなら、スーリガン殿下のオートマタであるアエスを捕まえるのがいいだろう。かなり気の弱いタイプのオートマタのようだしな」
この2体のオートマタは、主が学生であるがために、その間は城に留まっているのだ。なにせ、学園へはオートマタを連れていけないという事になっているのだから。つまり、来年になるとアリスはギルソンと一緒に学園に行けなくなってしまうという事になる。
だが、小説中の描写ではアリスも学園に通っていた。これはギルソンが荒れていた事が原因である。つまり、監視目的というわけだ。そのために、特例として学園についていけたというわけなのである。
……その結果は暴走を許しただけだったのだが、それはここでは関係ないのでとりあえず置いておこう。
フラムとフェールは話し合いの結果、スーリガンのオートマタ、アエスを捕まえて話を聞く事にした。
ただ、魔法石を壊される事に怯えているアエスが、おとなしく事情を話してくれるかというのはまったくもって分からない事だ。そのために、極力シュヴァリエやスーリガンから離れた場所で捕まえなければならなかった。
「場合によっては、アインダード殿下の協力も仰いだ方がいいかも知れないな。王位継承権を放棄されて、騎士団長となるべく努力をされているらしい。そんな彼ならば、弟たちの醜い争いは見たくないだろうからな」
「そうですね。念のために先に相談を持ち掛けてみますか?」
「あくまでも最終手段だ。できればシュヴァリエ殿下とスーリガン殿下を直に説得する方向で持っていきたい」
「分かりました。私もそのように致します」
2体のオートマタは解決のための方向性を決めた。問題なのはシュヴァリエとスーリガンなのだから、できればその二人とオートマタだけで話を済ませようというわけである。確証もないわけだから、いたずらに周りを巻き込む事を避けたというわけなのだ。
そんなわけで、適当な仕事をこなしながら、二人はスーリガンのオートマタであるアエスを探したのだった。
その頃、鉄道事業の事で駅の業務に従事するオートマタたちと連絡を取り合うアリスは、フラムとフェールの事を気に掛けていた。
(あの二人は大丈夫でしょうかね。もし、シュヴァリエ殿下が小説のギルソンと同じような事になっていれば、オートマタとはいえ厄介な相手になるはずです。しかも、あの世界では反乱を起こしたのは14歳のギルソンですけれど、今のシュヴァリエ殿下は21歳。体格や経験がまったく違いますから、下手をするとまったく歯が立たない可能性がありますね……)
そう、問題はこの世界のシュヴァリエの能力があまりはっきりしていない事だった。今までそれどころではなかったがために、意識から漏れていたのである。それがゆえに、アリスは不安を抱えているのだった。
(無事に解決するといいのですが、胸騒ぎがしますね……)
どことなく仕事が手につかなくなるアリスだった。
はたして、これは杞憂に終わってくれるのだろうか。不安な日々が続くのであった。
小説においてギルソンの反乱が起きたのは、学園在籍中の話だ。学園2年目、小説の話としては第一部の締めとして起きたギルソンの突如としての乱心である。第二部ではギルソンの反乱とその集結を描いており、その締めこそが、この転生劇の冒頭に出てきたシーンなのである。
この世界においては小説のようにギルソンはいじめられる事も捨て置かれるような事もまったくない。真っすぐで純真な少年として成長している。そして、やさぐれた時ですら持っていた視野の広さはこの状態でも健在で、城の中にはギルソンを次期国王に推す声も少なからず存在している。その人間性からかなり国内での人気が高いのである。
ただ、そのしわ寄せがもろに向かったのが、第二王子であるシュヴァリエである。
元々幼少期は次期国王として期待されていた。そういった背景から学園もしっかりと首席で卒業するくらいには努力もしていた。
ところがだ。今ではそんな努力も吹っ飛んでしまうくらいに、注目を集めているのは第五王子であるギルソンだった。質の劣るのオートマタを宛がわれたというのに、そのオートマタが大活躍してギルソンの評価を押し上げてしまったのだ。はっきり言ってしまえば、シュヴァリエとしては面白くないわけである。
そういう兆候は以前からも見られたわけだが、イスヴァンに与えたオートマタであるフラムからの報告で、より鮮明になったのが現在である。
正直言って、この状況はよろしくない。該当する人物が入れ替わる形で国家を揺るがす戦争が起きかねないのだ。せっかくここまで国を立て直してきて、さらには隣国マスカード帝国とも友好が築けているのだ。これまでの努力を無駄にしないためにも、それだけはどうしても避けたいのがアリスたちの心情なのである。
そんなわけで、城の中での動向を探るべく、イスヴァンのオートマタであるフラムとアワードのオートマタであるフェールにそれとなく探りを入れてもらう事にした。
アワードのオートマタも女性型である。おどおどした感じのアワードを支えるべく、しっかりとしたお姉さんタイプの性格である。強気なフラムとはいいコンビになりそうな感じだった。
「さて、マスターとギルソン殿下にお願いされましたけれど、どこから探りを入れましょうか」
「アリスの話を信じるとするなら、スーリガン殿下のオートマタであるアエスを捕まえるのがいいだろう。かなり気の弱いタイプのオートマタのようだしな」
この2体のオートマタは、主が学生であるがために、その間は城に留まっているのだ。なにせ、学園へはオートマタを連れていけないという事になっているのだから。つまり、来年になるとアリスはギルソンと一緒に学園に行けなくなってしまうという事になる。
だが、小説中の描写ではアリスも学園に通っていた。これはギルソンが荒れていた事が原因である。つまり、監視目的というわけだ。そのために、特例として学園についていけたというわけなのである。
……その結果は暴走を許しただけだったのだが、それはここでは関係ないのでとりあえず置いておこう。
フラムとフェールは話し合いの結果、スーリガンのオートマタ、アエスを捕まえて話を聞く事にした。
ただ、魔法石を壊される事に怯えているアエスが、おとなしく事情を話してくれるかというのはまったくもって分からない事だ。そのために、極力シュヴァリエやスーリガンから離れた場所で捕まえなければならなかった。
「場合によっては、アインダード殿下の協力も仰いだ方がいいかも知れないな。王位継承権を放棄されて、騎士団長となるべく努力をされているらしい。そんな彼ならば、弟たちの醜い争いは見たくないだろうからな」
「そうですね。念のために先に相談を持ち掛けてみますか?」
「あくまでも最終手段だ。できればシュヴァリエ殿下とスーリガン殿下を直に説得する方向で持っていきたい」
「分かりました。私もそのように致します」
2体のオートマタは解決のための方向性を決めた。問題なのはシュヴァリエとスーリガンなのだから、できればその二人とオートマタだけで話を済ませようというわけである。確証もないわけだから、いたずらに周りを巻き込む事を避けたというわけなのだ。
そんなわけで、適当な仕事をこなしながら、二人はスーリガンのオートマタであるアエスを探したのだった。
その頃、鉄道事業の事で駅の業務に従事するオートマタたちと連絡を取り合うアリスは、フラムとフェールの事を気に掛けていた。
(あの二人は大丈夫でしょうかね。もし、シュヴァリエ殿下が小説のギルソンと同じような事になっていれば、オートマタとはいえ厄介な相手になるはずです。しかも、あの世界では反乱を起こしたのは14歳のギルソンですけれど、今のシュヴァリエ殿下は21歳。体格や経験がまったく違いますから、下手をするとまったく歯が立たない可能性がありますね……)
そう、問題はこの世界のシュヴァリエの能力があまりはっきりしていない事だった。今までそれどころではなかったがために、意識から漏れていたのである。それがゆえに、アリスは不安を抱えているのだった。
(無事に解決するといいのですが、胸騒ぎがしますね……)
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