転生オートマタ

未羊

文字の大きさ
上 下
88 / 193

Mission087

しおりを挟む
 小説ではギルソンの反乱や隣国との戦いで顔を合わせる事が多かったシュヴァリエと結ばれる事になっているマリカだが、この世界では鉄道事業を通じてギルソンとの交流が増えていただけにギルソンに対して好意を寄せているようだった。分かりやすいくらいに顔を赤くしてもじもじする姿に、オートマタとして冷静に振る舞いながらも、心の中ではすっかりおばあちゃんとして孫を見守るような心境になっているアリスである。
 しかし、そんなほっこりする光景を目の前に幸せを感じているばかりではいられなかった。
 それというのも、アエスが漏らしていたシュヴァリエの動向が気になっていたからだ。
 この世界のシュヴァリエは、小説世界のギルソンのごとく、かなり負の感情を今のギルソンに向けているようなのだ。
 アリスがこの世界に転生してきた一番の理由は、不幸にしかできなかったギルソンを幸せにする事。
 だが、だからといって他の登場人物を不幸にしていいわけがない。勝手に恨みつらみを重ねていったとしても、その相手もまた、アリスにとっては自分の大事な子どものようなものなのだ。間違った事をしようとしているのなら、それを全力で止めるのが、生みの親たる自分の役目だと考えているのである。
(やれやれ……。とりあえずマリカの事はジャスミンに任せるとして、城の中の動向をどうにかして探りませんとね。……手遅れになる前に、確実にシュヴァリエ殿下を止めませんとね)
 目の前のギルソンとマリカの微笑ましい光景を見ながら、アリスは当面の目標を強い思いと共に決めたのだった。

 城に戻ったアリスは、ギルソンにお願いしてイスヴァンとアワードに集まってもらった。
「なんだなんだ、ギルソン。俺たちを呼んで一体何を話すつもりなんだ?」
「そうですよ、ギルソン。君から僕たちを呼ぶなんて珍しいじゃないですか」
 二人揃ってギルソンを問い質してくる。だが、当のギルソンはまったくそれに動じていなかった。
「呼んだのはボクじゃありませんよ。ね、アリス」
 ギルソンはにこやかにしながらアリスに話を振る。すると、アリスは無表情のままこくりと頷いた。
「はい、お二人をお呼びたてしたのは、私のお願いでございます。そのためにお二人のオートマタにも来て頂いているのです」
 アリスの言葉に顔を見合わせるイスヴァンとアワード。一体どういう事なのか分からない様子である。
「まあ、これだけいろいろやらかしてくれたオートマタの話だ。きっと重要な事なんだろうな」
 頭の後ろで手を組んで椅子にもたれ掛かるイスヴァン。本当にまだまだわがままなところはあるが、ずいぶんと頭の切れる人物となっているようだった。
「はい、左様でございます」
 イスヴァンの言葉を肯定するアリス。アリスの返答を聞いて、イスヴァンとフラムが目を合わせている。
「なら、その内容も当ててやろう。シュヴァリエの事だろう?」
 さすがにこのイスヴァンの言葉に、アリスは驚きを隠せなかった。だが、イスヴァンは当然だという顔をしていた。
「フラムに城の中の事は探らせてある。そしたら、第二王子シュヴァリエと第三王子スーリガンの周りからはあまりいい感じのしない話がたくさん出てきたんだ」
 後ろ手に組んでいた手を解き、普通に座り直すイスヴァン。最大の敵だった彼が仲間になると、ここまで頼りになるのかと、アリスは驚いてばかりである。
 その様子を見ていたイスヴァンは、フラムへと再び目をやる。すると、フラムがぺこりと頭を下げ、調べていた内容を話し始めた。
「まず、かなりシュヴァリエ王子はギルソン王子に対して不満を溜めているようです。末の王子という事もあってか、功績を重ね続けている事が大変気に食わないように感じられます」
 この話を聞いたギルソンは、顎に手を当てて小さく頷いていた。同じ王子として、このシュヴァリエの心理は理解できるようだった。
「一方のスーリガン王子も不満を溜めているようですが、こちらは消極的ですね。揉め事を好まないのでしょうな」
「確かに、スーリガン殿下のオートマタであるアエスもかなり心配していたようですからね。それはとても理解できる話です」
 スーリガンに関する報告に、アリスは理解を示していた。
「なので、実質警戒すべきはシュヴァリエ王子だけでしょう。彼は既に自分のオートマタであるアルジャンを使って、何やら画策しているようですから」
「なんだって?!」
 フラムの報告に、イスヴァンまでもが驚いていた。まさかここまでの事態になっているとは思っていなかったのだろう。
「フラム、それは具体的にどういう事か分かるか?」
 イスヴァンは慌ててフラムに確認する。だが、フラムは首を横に振っていた。現時点ではそこまでは分からなかったようだ。
「私はイスヴァン殿下のオートマタですからね。さすがに自由が少々限られてしまいます。調べるにも限度というものがあります」
 フラムは淡々と語っているが、悔しさのようなものが感じられた。
「それでしたら、僕のオートマタも使いましょう。どうせ子どもだと思われているので、そこまで警戒されないと思います」
 アワードは自分のオートマタを見る。すると、オートマタもこくりと頷いていた。
「分かりました。ボクのためにわざわざありがとうございます。ですが、くれぐれも無茶はしないで下さい。万が一があってはいけませんから」
「分かってる」
 ギルソンの言葉に、イスヴァンもアワードもこくりと大きく頷いた。
 段々と怪しい雲行きを呈してきたファルーダン王家。アリスの望むハッピーエンドを迎える事ができるのか、いよいよ正念場となってきたようである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

【完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る

金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。 ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの? お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。 ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。 少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。 どうしてくれるのよ。 ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ! 腹立つわ〜。 舞台は独自の世界です。 ご都合主義です。 緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

処理中です...