転生オートマタ

未羊

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Mission086

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 アリスが出しゃばった事で、明らかに小説の世界には異変が起きていた。やはり、みんな幸せハッピーエンドというのは無理なようで、誰かが幸せになる分、その不幸が誰かへとつじつま合わせのように押し寄せてしまうようだ。
 それこそが、小説内でヒロインと結ばれて幸せになるはずのシュヴァリエ第二王子で、ギルソンに注目が集まる中、彼が歪んでいくという状況に陥ってしまっていたようだ。
(本当に世の中うまくいきませんね!)
 城の中で作業をしながら情報収集をしたアリスは、心の中で思わず叫んでしまう。
 そんな中、アリスはふとした事に気が付いた。
(そういえば、最近マリカの姿を見ていませんね)
 鉄道の開業まではあれだけ顔を合わせていたマリカと、ここ最近まったく顔を合わせていないのだ。これはどうしたものかとアリスは思った。
(鉄道の打ち合わせと称して、一度様子を見に行きましょうか。彼女は一応小説でのヒロインなのですからね)
 気になったアリスは、自分のやる仕事をさっさと終わらせるとギルソンの部屋へと急いだのだった。

「どうしたんだい、アリス」
 部屋に入ったアリスに、ギルソンは笑顔で問い掛けている。本来なら卑屈に歪み始めているはずのギルソンだが、この世界では実に天真爛漫でどこか無邪気な少年として育っていた。
 笑顔の眩しいギルソンに、思わず怯みそうになるアリス。だが、今はそれどころではないので、単刀直入に話をする。
「マイマスター、マリカと話をしましょう。ここのところまったく会ってもいませんし、一体今何をしているのか気になって仕方がありません」
 アリスが真面目な顔で言うと、ギルソンは思わず笑ってしまったようだった。
「ずいぶんと必死だね、アリス。それだったらアリスが行って会ってくればいいのではないのかな?」
「いえ、マイマスターも一緒の方がよいと思われます。来年になれば一緒に学園に通うご学友になるのです。気になったりしませんでしょうか?」
 ギルソンの言い分に食い下がるアリス。これにはさすがのギルソンもちょっと首を傾げているようだ。
「確かに一緒に学園に通う事にはなるだろうけれど、僕が行く必要があるのかい?」
「あります。ここまで一緒に鉄道事業で共に行動をしておいて、ここで無言で突き放すのはどうかと思われます」
 首を傾げているギルソンに、アリスは強くはっきりと言い切った。
 すると、ギルソンは本気で悩み始めていた。王子としてというよりも、男性として女性をおろそかに扱うのはよろしくないという風潮があるからだ。紳士たる者、女性は丁重に扱うべきなのである。
 しばらく悩んでいたギルソンだったが、
「……分かりました、すぐに出向きましょう。オートマタの工房でいいですかね」
 決意を固めたようである。
「はい、それでよろしいかと思われます。不在のようでしたら、孤児院の方へと向かいましょう」
「うん、そうですね」
 すぐに支度をすると、ギルソンとアリスは鉄道事業のために手伝ってもらったオートマタの工房へと向かったのだった。

 オートマタ工房に出向いたギルソンとアリス。すぐさま、作業場へと入っていく。さすがに王子の訪問を拒む事などできなかった。
「これはギルソン殿下、本日は如何なるご用事で?」
「マリカは来ているだろうか?」
 工房の責任者に挨拶をされるが、ギルソンは用件だけを返した。責任者はちょっと面食らったような反応をする。
「マリカでしたら、本日はお休みです。おそらく孤児院に居ると思いますです、はい」
 答えが返ってくると、ギルソンは小さく落ち込んだ素振りを見せる。
「そうですか、邪魔をしましたね。引き続き、素晴らしいオートマタを作って下さい」
「はい、王国のためにしっかりと作らせて頂きます!」
 マリカが居ないと分かると、ギルソンは足早に工房を後にしたのだった。

 そして、次にやって来たのは王都の一角にある孤児院だ。ここもだいぶ持ち直してきているようで、外見などは修理されてきれいになっていた。おそらくはマリカが働いた事による収入のおかげだろう。かなり傷んでいただけに、補助金だけでは補修までは手が回らないはずだからだ。
「ごめん下さい。マリカは居ますか?」
 正面玄関に立って、中に呼び掛けるギルソン。その声に反応するように、中からドタバタと走ってくる音が聞こえてくる。
「ぎ、ギルソン殿下?! どうしてこちらにいらっしゃたのですか?」
 マリカだった。
「いや、最近ずっと会っていなかったら、どうしているのか気になっただけなんです。マリカは鉄道事業を一緒に行ってきた仲間ですからね」
 ギルソンがは理由を話すと、マリカはどういうわけか顔を赤くしていた。
(ほほう……、これは脈ありですかね)
 さすがは通算100年以上生きてきたアリスである。マリカの反応を見ただけですぐさま察してしまう。
「これからもマリカには関わってもらおうと思いますから、時々会いましょう」
 ギルソンが恥ずかしげもなくこういうものだから、マリカはすごくもじもじしている。
「は、はい。承知、致しました……」
 マリカは俯き加減の状態で、上目遣いをしながら返事をしていた。うーん、青春である。
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