転生オートマタ

未羊

文字の大きさ
上 下
86 / 189

Mission085

しおりを挟む
 翌日、アリスが城の中を歩いていると、目の前からスーリガンのオートマタであるアエスが歩いてきた。
「アエスではありませんか。どうしたのですか、スーリガン殿下とご一緒ではないのですか?」
 アリスはアエスに声を掛ける。すると、アエスは驚いたような反応をしていた。オートマタがここまで驚くというのも珍しい話だ。
「これはギルソン殿下の……アリスさんでしたっけ。はあ、いいなあ、大人びた感じが羨ましいです」
 アエスはアリスを見るなり妙な反応をしていた。ここまで人間くさい反応をされると、アリスも思わず首を傾げてしまう。
「あっ、ごめんなさい。変な意味じゃないですよ。私、見ての通り子どもっぽいので、マスターであるスーリガン殿下と不釣り合いな気がするんです」
 なんともまあ、本当に人間っぽい悩みを話すオートマタである。
 実際、オートマタの中にも人間じみた感情を持ち合わせる個体が、稀にではあるものの誕生する事がある。どうやらアエスはそういった個体のようだった。
 ちなみにアリスの場合は中身が人間なのでこの定義には当てはまらない。そもそも、アリスはだいぶ人間っぽさを捨ててしまっている感じだ。似たような名前ながら、まったく逆の状態にあるのがまた数奇な感じである。
 それはさておき、アリスはアエスを見ていて、妙な違和感を覚えた。それが何か分かれば苦労はない。とにかく変な違和感があったのだ。
「アエス? もしかして、スーリガン殿下に何かありましたか?」
 アリスは、お節介にもアエスに質問をぶつけていた。
「あ、いえ……。マスターというよりは、シュヴァリエ殿下の方が心配になります」
「えっ、それはどういう事ですか?」
 予想もしない答えが返ってきて、アリスはさらにアエスを問い質す。アリスのその時の剣幕に、アエスは思わず後退ってしまう。オートマタ同士のやり取りとは思えない光景だった。まるで大人と子どものような、そんなやり取りである。
「うう……、言ったらなんて言われるか……。いや、もしかしたら私の魔法石を壊されちゃうかも……」
 アエスがものすごく怯えた反応をしている。
 魔法石とはオートマタの命の源である。これがあるからこそオートマタは動けるし、魔法だって使える。どのオートマタも額か胸部に持っていて、最後に埋め込んでオートマタは完成するために、その弱点部位はよく見えるようになっていた。なので、中には装飾品や服を着こむなどして隠しているオートマタも居るくらいである。弱点を常に晒しているのだから、どうしても気になってしまうのである。
 ちなみにアエスも、アリスと同じように額に魔法石を持っている。アエスの魔法石の色は髪色と同じなので、うまくすれば髪の毛と混ざって分かりにくい。しかし、魔法を使う時にはその魔法石が光ってしまうので、髪の毛や服で隠したところで意味はなかった。だからこそ、このアエスの怯えようというのも理解できる話なのである。
「アリスさん、ここで私と会った事は内緒でお願いします。マスターに迷惑を掛けたくありませんから……」
 アエスはそう言い残すと、とてとてと走り去っていった。
 ところがどっこい、アエスは何事もなくやり過ごした気になっているだろうが、さすがに94歳の人生経験とオートマタになってから7年と100年を超えた人生経験を持つアリスの目からは逃れられなかった。
(なるほどなるほど、あれはスーリガン殿下に好意を持っていますね。主人と性別の違うオートマタだとたまに起きるらしいですが、実際にこの目に掛かるとは思いもしませんでしたね)
 完全にアエスの気持ちは見抜かれているようだった。
(あの様子ですと、シュヴァリエ殿下が、いよいよよろしくない事を考え始めたと見て間違いないでしょうね。となると、マイマスターの身に危険が及ぶ可能性があるかも知れません。一応防護魔法が掛かるようにしてきてはありますが、相手がシュヴァリエ殿下のアルジャンでしたら、油断はできないでしょう)
 アリスにはたったあれだけの事で、完全にすべてが見透かされてしまっていた。さすがは年の功である。これもすべてはこの世界に転生するきっかけになった小説での苦い経験がある。あの時の担当を言いくるめられれば、自分の望む通りの話が書けたかも知れない。それからというもの、人の心理というものを必死に勉強したものだった。
(さて、こうなっては私がマイマスターの側を離れるのは、これでもうやめた方がいいですね。すぐにでも戻って対策を考える事と致しましょう)
 アリスは踵を返して、ギルソンの私室へと向かっていった。イスヴァンの居る間は、彼のオートマタであるフラムに対応を任せる事もできる。しかし、だからといって頼りきりにするのも問題なのだ。
 なぜなら、ギルソンのオートマタは自分なのだから。主を守れなくて何がオートマタか。
 アリスは足早にギルソンの私室へと向かっていく。
 自分がこの世界に転生した目的は何か。それは、ギルソンを殺させやしないというものである。アリスは転生した時のその思いを、改めて強く心に誓ったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

王太子妃が我慢しなさい ~姉妹差別を受けていた姉がもっとひどい兄弟差別を受けていた王太子に嫁ぎました~

玄未マオ
ファンタジー
メディア王家に伝わる古い呪いで第一王子は家族からも畏怖されていた。 その王子の元に姉妹差別を受けていたメルが嫁ぐことになるが、その事情とは? ヒロインは姉妹差別され育っていますが、言いたいことはきっちりいう子です。

親切なミザリー

みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。 ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。 ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。 こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。 ‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。 ※不定期更新です。

ねえ、今どんな気持ち?

かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた 彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。 でも、あなたは真実を知らないみたいね ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・

処理中です...