転生オートマタ

未羊

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Mission085

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 翌日、アリスが城の中を歩いていると、目の前からスーリガンのオートマタであるアエスが歩いてきた。
「アエスではありませんか。どうしたのですか、スーリガン殿下とご一緒ではないのですか?」
 アリスはアエスに声を掛ける。すると、アエスは驚いたような反応をしていた。オートマタがここまで驚くというのも珍しい話だ。
「これはギルソン殿下の……アリスさんでしたっけ。はあ、いいなあ、大人びた感じが羨ましいです」
 アエスはアリスを見るなり妙な反応をしていた。ここまで人間くさい反応をされると、アリスも思わず首を傾げてしまう。
「あっ、ごめんなさい。変な意味じゃないですよ。私、見ての通り子どもっぽいので、マスターであるスーリガン殿下と不釣り合いな気がするんです」
 なんともまあ、本当に人間っぽい悩みを話すオートマタである。
 実際、オートマタの中にも人間じみた感情を持ち合わせる個体が、稀にではあるものの誕生する事がある。どうやらアエスはそういった個体のようだった。
 ちなみにアリスの場合は中身が人間なのでこの定義には当てはまらない。そもそも、アリスはだいぶ人間っぽさを捨ててしまっている感じだ。似たような名前ながら、まったく逆の状態にあるのがまた数奇な感じである。
 それはさておき、アリスはアエスを見ていて、妙な違和感を覚えた。それが何か分かれば苦労はない。とにかく変な違和感があったのだ。
「アエス? もしかして、スーリガン殿下に何かありましたか?」
 アリスは、お節介にもアエスに質問をぶつけていた。
「あ、いえ……。マスターというよりは、シュヴァリエ殿下の方が心配になります」
「えっ、それはどういう事ですか?」
 予想もしない答えが返ってきて、アリスはさらにアエスを問い質す。アリスのその時の剣幕に、アエスは思わず後退ってしまう。オートマタ同士のやり取りとは思えない光景だった。まるで大人と子どものような、そんなやり取りである。
「うう……、言ったらなんて言われるか……。いや、もしかしたら私の魔法石を壊されちゃうかも……」
 アエスがものすごく怯えた反応をしている。
 魔法石とはオートマタの命の源である。これがあるからこそオートマタは動けるし、魔法だって使える。どのオートマタも額か胸部に持っていて、最後に埋め込んでオートマタは完成するために、その弱点部位はよく見えるようになっていた。なので、中には装飾品や服を着こむなどして隠しているオートマタも居るくらいである。弱点を常に晒しているのだから、どうしても気になってしまうのである。
 ちなみにアエスも、アリスと同じように額に魔法石を持っている。アエスの魔法石の色は髪色と同じなので、うまくすれば髪の毛と混ざって分かりにくい。しかし、魔法を使う時にはその魔法石が光ってしまうので、髪の毛や服で隠したところで意味はなかった。だからこそ、このアエスの怯えようというのも理解できる話なのである。
「アリスさん、ここで私と会った事は内緒でお願いします。マスターに迷惑を掛けたくありませんから……」
 アエスはそう言い残すと、とてとてと走り去っていった。
 ところがどっこい、アエスは何事もなくやり過ごした気になっているだろうが、さすがに94歳の人生経験とオートマタになってから7年と100年を超えた人生経験を持つアリスの目からは逃れられなかった。
(なるほどなるほど、あれはスーリガン殿下に好意を持っていますね。主人と性別の違うオートマタだとたまに起きるらしいですが、実際にこの目に掛かるとは思いもしませんでしたね)
 完全にアエスの気持ちは見抜かれているようだった。
(あの様子ですと、シュヴァリエ殿下が、いよいよよろしくない事を考え始めたと見て間違いないでしょうね。となると、マイマスターの身に危険が及ぶ可能性があるかも知れません。一応防護魔法が掛かるようにしてきてはありますが、相手がシュヴァリエ殿下のアルジャンでしたら、油断はできないでしょう)
 アリスにはたったあれだけの事で、完全にすべてが見透かされてしまっていた。さすがは年の功である。これもすべてはこの世界に転生するきっかけになった小説での苦い経験がある。あの時の担当を言いくるめられれば、自分の望む通りの話が書けたかも知れない。それからというもの、人の心理というものを必死に勉強したものだった。
(さて、こうなっては私がマイマスターの側を離れるのは、これでもうやめた方がいいですね。すぐにでも戻って対策を考える事と致しましょう)
 アリスは踵を返して、ギルソンの私室へと向かっていった。イスヴァンの居る間は、彼のオートマタであるフラムに対応を任せる事もできる。しかし、だからといって頼りきりにするのも問題なのだ。
 なぜなら、ギルソンのオートマタは自分なのだから。主を守れなくて何がオートマタか。
 アリスは足早にギルソンの私室へと向かっていく。
 自分がこの世界に転生した目的は何か。それは、ギルソンを殺させやしないというものである。アリスは転生した時のその思いを、改めて強く心に誓ったのだった。
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