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Mission084
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アインダードが落ち着いた兄となった一方、第二王子シュヴァリエと第三王子スーリガンは、逆に歪んでいっていた。
その日も、自分たちのオートマタを連れて二人で何やら話をしている。
シュヴァリエのオートマタは男性型のアルジャン、スーリガンのオートマタは女性型のアエスという名前である。これもアリスが前世で書いた小説で出てきたキャラクターだ。
スーリガンのオートマタがアリスに似ているのは、アエスがギルソン退場後に登場した事によるものだ。作者であるありすのわがままを押し通す事で、アリスの面影を捻じ込む事に成功したからである。ちなみにこのアエスという名前は、ラテン語で銅という意味だ。第三王子のスーリガンだからこその名前である。
だが、その姿はアリスとは異なり、少々幼い感じのするゆるふわウェーブのツインテールが特徴のメイドである。髪色は銅らしく赤茶色で、瞳は炎色反応の色の緑色である。ついでに言うと、シュヴァリエのオートマタのアルジャンの髪色は乳白色で、瞳は深い青である。
「……気に入らない。実に気に入らない」
シュヴァリエは不満を口にしている。
「シュヴァリエ兄様、落ち着いて下さい」
スーリガンが慌ててシュヴァリエを落ち着かせようとするが、それが気に入らないのか、シュヴァリエはギリッとスーリガンを睨み付けていた。その鋭さといったら、スーリガンが飛び退こうとしてしまうくらいだった。椅子に座っているので非常に危険だったのだがオートマタのアエスが優秀だったので、椅子が倒れる事もなくスーリガンも無事だった。
「まったく、最近はどいつもこいつもギルソンギルソンギルソン……。そんなにあいつがいいのかよ!」
目の前の机を思いっきり叩きながら叫ぶシュヴァリエ。アリスがギルソンに肩入れしまくった結果がこれである。アリスが小説で設定した(というかさせられた)誠実で真面目で正義感の強いシュヴァリエの姿はもうどこにも存在していなかった。アリス本来の設定でも、ここまで荒れる事はなかったはずである。
それが、今ではすっかりぎらついた目が特徴の怖い人物となっていた。とはいえ、ギルソンの事が絡まなければまだ普通の人と言い張れるくらいの活躍はしている。
「兄より優れた弟など、居てたまるものか! 必ずあいつを蹴落としてくれる!」
シュヴァリエはそう叫ぶと、怖い顔で歯ぎしりをしていた。
「シュヴァリエ兄様、そんな事を言ったら一番優秀なのはアインダード兄様になってしまいます」
そこへ、すかさずスーリガンからもっともなツッコミが飛んでくる。すると、シュヴァリエは再びスーリガンを睨み付けた。当然ながら、スーリガンはそれにも怯んでしまった。
それにしても、シュヴァリエはどうしてここまで歪んでしまったのか。
原因はすべてアリスのでせいである。アリスが一番救いたかったギルソンに肩入れし過ぎて、他の兄弟をほったらかしにしたのがいけなかった。これの影響をもろに受けたのが、一番不安定な年齢に居たシュヴァリエなのである。
アインダードはそういうのは気にしないし、スーリガンはまだ周りにも救われた。アワードはギルソンと年齢が近い事もあったので、気にするというよりは興味があった方なのである。
アリスが目覚めた時のシュヴァリエは12歳で、翌年から学園に入るタイミングだった。アリスの介入のせいで、学園に通う頃にはギルソンのオートマタであるアリスの話が否が応でも学園で毎日のように聞かされるになってしまったのだ。それに比べて自分は何もできていなかったのだから、そりゃもう歪むというのも無理もない話だった。
こうやって一回拗れた性格というのはそう簡単に直るものでもなく、さらに拗れ続けて弟のスーリガンをも巻き込む結果となってしまったのだ。
だが、救いだったのは兄であるアインダードがシュヴァリエに巻き込まれなかった事だ。むしろ逆に気に掛けてくれているくらいだった。それでも、それがむしろシュヴァリエには逆効果となっている。
アインダードという第一王子を味方に入れられなかった事で、シュヴァリエはさらに焦りを募らせているのだ。
アインダードが王位継承権を放棄した今、第二王子シュヴァリエから第五王子ギルソンまでの四人での王位継承の争いとなっている。食糧事情改善やファルーダン鉄道などの実績から、王位継承はギルソンが有利という状況なのである。だが、そのギルソンはまだ12歳。一方のシュヴァリエは19歳だ。この年で婚約者は居ないし、ろくな実績も持っていない。周りからの評価も手伝って、これでは王子として性格が荒んでしまうのも無理はなかったのだ。
ものすごく不機嫌な顔で座り込むシュヴァリエと、それに怯えながら縮こまるスーリガン。特に話もする事なく重苦しい空気だけがその場を包み込んでいた。
そんな中、突如としてシュヴァリエが口を開く。
「よし、何としてもギルソンを後継争いから引きずり下ろすぞ」
「ええっ!? い、一体何をするつもりなんですか、シュヴァリエ兄様」
不穏な事を言い始めたシュヴァリエに、スーリガンは本気で慌てていた。
「このまま、あいつにいい気をさせておけるわけがないだろう。なあ、アルジャン」
「はい。王にふさわしいのはマスターでございます」
主をよいしょするアルジャン。その声を聞いて、怖い笑い声をあげるシュヴァリエ。その目の前では恐怖に怯えるスーリガンを、アエスが一生懸命落ち着かせるのだった。
その日も、自分たちのオートマタを連れて二人で何やら話をしている。
シュヴァリエのオートマタは男性型のアルジャン、スーリガンのオートマタは女性型のアエスという名前である。これもアリスが前世で書いた小説で出てきたキャラクターだ。
スーリガンのオートマタがアリスに似ているのは、アエスがギルソン退場後に登場した事によるものだ。作者であるありすのわがままを押し通す事で、アリスの面影を捻じ込む事に成功したからである。ちなみにこのアエスという名前は、ラテン語で銅という意味だ。第三王子のスーリガンだからこその名前である。
だが、その姿はアリスとは異なり、少々幼い感じのするゆるふわウェーブのツインテールが特徴のメイドである。髪色は銅らしく赤茶色で、瞳は炎色反応の色の緑色である。ついでに言うと、シュヴァリエのオートマタのアルジャンの髪色は乳白色で、瞳は深い青である。
「……気に入らない。実に気に入らない」
シュヴァリエは不満を口にしている。
「シュヴァリエ兄様、落ち着いて下さい」
スーリガンが慌ててシュヴァリエを落ち着かせようとするが、それが気に入らないのか、シュヴァリエはギリッとスーリガンを睨み付けていた。その鋭さといったら、スーリガンが飛び退こうとしてしまうくらいだった。椅子に座っているので非常に危険だったのだがオートマタのアエスが優秀だったので、椅子が倒れる事もなくスーリガンも無事だった。
「まったく、最近はどいつもこいつもギルソンギルソンギルソン……。そんなにあいつがいいのかよ!」
目の前の机を思いっきり叩きながら叫ぶシュヴァリエ。アリスがギルソンに肩入れしまくった結果がこれである。アリスが小説で設定した(というかさせられた)誠実で真面目で正義感の強いシュヴァリエの姿はもうどこにも存在していなかった。アリス本来の設定でも、ここまで荒れる事はなかったはずである。
それが、今ではすっかりぎらついた目が特徴の怖い人物となっていた。とはいえ、ギルソンの事が絡まなければまだ普通の人と言い張れるくらいの活躍はしている。
「兄より優れた弟など、居てたまるものか! 必ずあいつを蹴落としてくれる!」
シュヴァリエはそう叫ぶと、怖い顔で歯ぎしりをしていた。
「シュヴァリエ兄様、そんな事を言ったら一番優秀なのはアインダード兄様になってしまいます」
そこへ、すかさずスーリガンからもっともなツッコミが飛んでくる。すると、シュヴァリエは再びスーリガンを睨み付けた。当然ながら、スーリガンはそれにも怯んでしまった。
それにしても、シュヴァリエはどうしてここまで歪んでしまったのか。
原因はすべてアリスのでせいである。アリスが一番救いたかったギルソンに肩入れし過ぎて、他の兄弟をほったらかしにしたのがいけなかった。これの影響をもろに受けたのが、一番不安定な年齢に居たシュヴァリエなのである。
アインダードはそういうのは気にしないし、スーリガンはまだ周りにも救われた。アワードはギルソンと年齢が近い事もあったので、気にするというよりは興味があった方なのである。
アリスが目覚めた時のシュヴァリエは12歳で、翌年から学園に入るタイミングだった。アリスの介入のせいで、学園に通う頃にはギルソンのオートマタであるアリスの話が否が応でも学園で毎日のように聞かされるになってしまったのだ。それに比べて自分は何もできていなかったのだから、そりゃもう歪むというのも無理もない話だった。
こうやって一回拗れた性格というのはそう簡単に直るものでもなく、さらに拗れ続けて弟のスーリガンをも巻き込む結果となってしまったのだ。
だが、救いだったのは兄であるアインダードがシュヴァリエに巻き込まれなかった事だ。むしろ逆に気に掛けてくれているくらいだった。それでも、それがむしろシュヴァリエには逆効果となっている。
アインダードという第一王子を味方に入れられなかった事で、シュヴァリエはさらに焦りを募らせているのだ。
アインダードが王位継承権を放棄した今、第二王子シュヴァリエから第五王子ギルソンまでの四人での王位継承の争いとなっている。食糧事情改善やファルーダン鉄道などの実績から、王位継承はギルソンが有利という状況なのである。だが、そのギルソンはまだ12歳。一方のシュヴァリエは19歳だ。この年で婚約者は居ないし、ろくな実績も持っていない。周りからの評価も手伝って、これでは王子として性格が荒んでしまうのも無理はなかったのだ。
ものすごく不機嫌な顔で座り込むシュヴァリエと、それに怯えながら縮こまるスーリガン。特に話もする事なく重苦しい空気だけがその場を包み込んでいた。
そんな中、突如としてシュヴァリエが口を開く。
「よし、何としてもギルソンを後継争いから引きずり下ろすぞ」
「ええっ!? い、一体何をするつもりなんですか、シュヴァリエ兄様」
不穏な事を言い始めたシュヴァリエに、スーリガンは本気で慌てていた。
「このまま、あいつにいい気をさせておけるわけがないだろう。なあ、アルジャン」
「はい。王にふさわしいのはマスターでございます」
主をよいしょするアルジャン。その声を聞いて、怖い笑い声をあげるシュヴァリエ。その目の前では恐怖に怯えるスーリガンを、アエスが一生懸命落ち着かせるのだった。
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