転生オートマタ

未羊

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Mission083

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 ギルソンとイスヴァンの戦いを見ていた人物が他にも居た。
「ほう、ギルソンも思ったよりやるな。さすがは王族としての決意があるといったところか」
「アインダード殿下。どうかなさいましたか?」
「ふっ、ちょっと兵士の訓練で面白いものが見れただけだ」
 そう、ギルソンたち王族の長兄であるアインダード・ファルーダンだった。彼は今25歳。現在は、ファルーダン王国騎士団の騎士団長の座を目指して軍事職の勉強の真っ只中なのだ。軍をまとめ上げる者となるためには、戦闘技術の高さや体力だけではいけない。地形や天気などの様々な状況を読み解き戦略を立てられる頭の良さ、瞬時の判断力、そして、平時の事務処理能力と、上に立つ者というものはかなりの能力を求められるのである。
 そのアインダード。事務処理の合間を縫って訓練場を見ていたところ、ギルソンとイスヴァンが模擬戦を始めたのでそれを見守っていたのである。
 ギルソンは12歳、イスヴァンは13歳という年齢ではあるが、将来的には楽しみな戦いを見せてくれた事で、アインダードは笑みを浮かべていたのである。
「末弟が頑張っているとあっては、俺も負けてはいられないな。さて、報告を聞こうか」
「はっ、では申し上げます!」
 アインダードが話を振れば、部屋にやって来た兵士たちはアインダードに対して報告を始めたのだった。

 このファルーダンが国境を接する国は、何もイスヴァンの出身国であるマスカードだけではない。ツェンの山向こうにだって国はある。川が流れていく下流は海であり、そこにはさすがに国はないが、3方向に別の国が5つも接しているのだ。その1つがすでに何度も登場している北側に広がるマスカード帝国である。山向こうの国は険しい山を越えなければならないのでさほど警戒されていないが、ファルーダンで気にしなければならないのはマスカードとは反対側で接している南側の2国である。
 海に近い方がソルティエ公国、山に近い方がソリエア王国である。
 ソルティエ公国は、公爵がトップとなる国で、海洋技術の高い国である。ファルーダンとは停戦協定と友好国協定を結んでいるために、比較的関係は良好な国である。
 一方のソリエア王国は、ファルーダンと並ぶ鉱物資源の多い国で、この地では温泉も湧き出ているらしい。その関係で鉱物を扱う技術に関してはファルーダン王国とは常に敵対関係にあり、自分の方が上だとして虎視眈々と攻め入る隙を窺っているようだった。

 アインダードがこの時受けていた報告は、その2国との国境沿いの警備からの報告だった。
「ふむ、ソルティエの方は問題がないような感じだな。しかし、マスカードとの関係が築かれた今、どういう反応を示すかは読めん。引き続き注視するように伝えておけ」
「はっ!」
 アインダードの言葉に、元気よく返事をする兵士である。
「ソリエアの方は……、文面から見るに強い警戒を示しているようだな。こっちは恐らく鉄道をかなり脅威だと見ている感じか。まあ、大々的に宣伝していたしな、俺も相手国ならそういう反応をしただろう。実物を見て警戒しない方がおかしいというものだ」
 アインダードはそんな事を言っている。
 実際、あの鉄道の高速移動はアインダードも衝撃を受けたものだ。馬車で10日も掛かっていたような場所に、たった1日で行けてしまうのだから。あの技術で兵士を送り込まれたら、迎撃態勢ができる前に壊滅させられて終わってしまうだろう。ましてやファルーダンには兵士以外にもオートマタという脅威が存在している。ソリエア王国の反応は、当然だと考えているのだ。
「こうなると、ソリエアの方は何かしら交渉をしておくべきかも知れんな。父上に伝えておくとするか」
 アインダードは椅子から立ち上がる。
「国境の兵士たちには、引き続き警戒を継続するように伝えておけ。具体的な対策が国王と宰相、それと騎士団長の間で決める。それまでは待つようにもな」
「承知致しました。では、私はこれにて失礼致します」
 それぞれから状況を報告に来た兵士はアインダードの命令を受けて、再び国境へと戻っていった。
「はてさて、これを聞いた弟たちは、一体どういう反応を示すのだろうな」
 アインダードは父親である国王の元へと歩いていく。
(それにしても、ギルソンのオートマタ、確かアリスといったか。あれが来てからいうもの、国の中が大きく変わったな。だからこそ俺は安心して王位継承権を捨てられた。そもそも血が上りやすい俺は為政者に向いていないからな)
 歩きながら、アインダードはいろいろと過去を思い出しながら思いを巡らせている。
(しかし、おかしなものだ。王位継承権を捨てたら、頭がすっきりしたかのように冷静に考えられるようになった。王位継承権を捨てる事で、弟たちの事もしっかりと見れるようになるとは、まったく面白いものだな……)
 アインダードから自然と笑みがこぼれていた。自分の身に起きた皮肉を笑っているのだ。
(あいつらがどんな選択肢を選ぶか分からないが、兄としてしっかりと支えてやらねばな)
 そう思ったアインダードは、足取りを速めて国王の元へと向かったのだった。
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