84 / 189
Mission083
しおりを挟む
ギルソンとイスヴァンの戦いを見ていた人物が他にも居た。
「ほう、ギルソンも思ったよりやるな。さすがは王族としての決意があるといったところか」
「アインダード殿下。どうかなさいましたか?」
「ふっ、ちょっと兵士の訓練で面白いものが見れただけだ」
そう、ギルソンたち王族の長兄であるアインダード・ファルーダンだった。彼は今25歳。現在は、ファルーダン王国騎士団の騎士団長の座を目指して軍事職の勉強の真っ只中なのだ。軍をまとめ上げる者となるためには、戦闘技術の高さや体力だけではいけない。地形や天気などの様々な状況を読み解き戦略を立てられる頭の良さ、瞬時の判断力、そして、平時の事務処理能力と、上に立つ者というものはかなりの能力を求められるのである。
そのアインダード。事務処理の合間を縫って訓練場を見ていたところ、ギルソンとイスヴァンが模擬戦を始めたのでそれを見守っていたのである。
ギルソンは12歳、イスヴァンは13歳という年齢ではあるが、将来的には楽しみな戦いを見せてくれた事で、アインダードは笑みを浮かべていたのである。
「末弟が頑張っているとあっては、俺も負けてはいられないな。さて、報告を聞こうか」
「はっ、では申し上げます!」
アインダードが話を振れば、部屋にやって来た兵士たちはアインダードに対して報告を始めたのだった。
このファルーダンが国境を接する国は、何もイスヴァンの出身国であるマスカードだけではない。ツェンの山向こうにだって国はある。川が流れていく下流は海であり、そこにはさすがに国はないが、3方向に別の国が5つも接しているのだ。その1つがすでに何度も登場している北側に広がるマスカード帝国である。山向こうの国は険しい山を越えなければならないのでさほど警戒されていないが、ファルーダンで気にしなければならないのはマスカードとは反対側で接している南側の2国である。
海に近い方がソルティエ公国、山に近い方がソリエア王国である。
ソルティエ公国は、公爵がトップとなる国で、海洋技術の高い国である。ファルーダンとは停戦協定と友好国協定を結んでいるために、比較的関係は良好な国である。
一方のソリエア王国は、ファルーダンと並ぶ鉱物資源の多い国で、この地では温泉も湧き出ているらしい。その関係で鉱物を扱う技術に関してはファルーダン王国とは常に敵対関係にあり、自分の方が上だとして虎視眈々と攻め入る隙を窺っているようだった。
アインダードがこの時受けていた報告は、その2国との国境沿いの警備からの報告だった。
「ふむ、ソルティエの方は問題がないような感じだな。しかし、マスカードとの関係が築かれた今、どういう反応を示すかは読めん。引き続き注視するように伝えておけ」
「はっ!」
アインダードの言葉に、元気よく返事をする兵士である。
「ソリエアの方は……、文面から見るに強い警戒を示しているようだな。こっちは恐らく鉄道をかなり脅威だと見ている感じか。まあ、大々的に宣伝していたしな、俺も相手国ならそういう反応をしただろう。実物を見て警戒しない方がおかしいというものだ」
アインダードはそんな事を言っている。
実際、あの鉄道の高速移動はアインダードも衝撃を受けたものだ。馬車で10日も掛かっていたような場所に、たった1日で行けてしまうのだから。あの技術で兵士を送り込まれたら、迎撃態勢ができる前に壊滅させられて終わってしまうだろう。ましてやファルーダンには兵士以外にもオートマタという脅威が存在している。ソリエア王国の反応は、当然だと考えているのだ。
「こうなると、ソリエアの方は何かしら交渉をしておくべきかも知れんな。父上に伝えておくとするか」
アインダードは椅子から立ち上がる。
「国境の兵士たちには、引き続き警戒を継続するように伝えておけ。具体的な対策が国王と宰相、それと騎士団長の間で決める。それまでは待つようにもな」
「承知致しました。では、私はこれにて失礼致します」
それぞれから状況を報告に来た兵士はアインダードの命令を受けて、再び国境へと戻っていった。
「はてさて、これを聞いた弟たちは、一体どういう反応を示すのだろうな」
アインダードは父親である国王の元へと歩いていく。
(それにしても、ギルソンのオートマタ、確かアリスといったか。あれが来てからいうもの、国の中が大きく変わったな。だからこそ俺は安心して王位継承権を捨てられた。そもそも血が上りやすい俺は為政者に向いていないからな)
歩きながら、アインダードはいろいろと過去を思い出しながら思いを巡らせている。
(しかし、おかしなものだ。王位継承権を捨てたら、頭がすっきりしたかのように冷静に考えられるようになった。王位継承権を捨てる事で、弟たちの事もしっかりと見れるようになるとは、まったく面白いものだな……)
アインダードから自然と笑みがこぼれていた。自分の身に起きた皮肉を笑っているのだ。
(あいつらがどんな選択肢を選ぶか分からないが、兄としてしっかりと支えてやらねばな)
そう思ったアインダードは、足取りを速めて国王の元へと向かったのだった。
「ほう、ギルソンも思ったよりやるな。さすがは王族としての決意があるといったところか」
「アインダード殿下。どうかなさいましたか?」
「ふっ、ちょっと兵士の訓練で面白いものが見れただけだ」
そう、ギルソンたち王族の長兄であるアインダード・ファルーダンだった。彼は今25歳。現在は、ファルーダン王国騎士団の騎士団長の座を目指して軍事職の勉強の真っ只中なのだ。軍をまとめ上げる者となるためには、戦闘技術の高さや体力だけではいけない。地形や天気などの様々な状況を読み解き戦略を立てられる頭の良さ、瞬時の判断力、そして、平時の事務処理能力と、上に立つ者というものはかなりの能力を求められるのである。
そのアインダード。事務処理の合間を縫って訓練場を見ていたところ、ギルソンとイスヴァンが模擬戦を始めたのでそれを見守っていたのである。
ギルソンは12歳、イスヴァンは13歳という年齢ではあるが、将来的には楽しみな戦いを見せてくれた事で、アインダードは笑みを浮かべていたのである。
「末弟が頑張っているとあっては、俺も負けてはいられないな。さて、報告を聞こうか」
「はっ、では申し上げます!」
アインダードが話を振れば、部屋にやって来た兵士たちはアインダードに対して報告を始めたのだった。
このファルーダンが国境を接する国は、何もイスヴァンの出身国であるマスカードだけではない。ツェンの山向こうにだって国はある。川が流れていく下流は海であり、そこにはさすがに国はないが、3方向に別の国が5つも接しているのだ。その1つがすでに何度も登場している北側に広がるマスカード帝国である。山向こうの国は険しい山を越えなければならないのでさほど警戒されていないが、ファルーダンで気にしなければならないのはマスカードとは反対側で接している南側の2国である。
海に近い方がソルティエ公国、山に近い方がソリエア王国である。
ソルティエ公国は、公爵がトップとなる国で、海洋技術の高い国である。ファルーダンとは停戦協定と友好国協定を結んでいるために、比較的関係は良好な国である。
一方のソリエア王国は、ファルーダンと並ぶ鉱物資源の多い国で、この地では温泉も湧き出ているらしい。その関係で鉱物を扱う技術に関してはファルーダン王国とは常に敵対関係にあり、自分の方が上だとして虎視眈々と攻め入る隙を窺っているようだった。
アインダードがこの時受けていた報告は、その2国との国境沿いの警備からの報告だった。
「ふむ、ソルティエの方は問題がないような感じだな。しかし、マスカードとの関係が築かれた今、どういう反応を示すかは読めん。引き続き注視するように伝えておけ」
「はっ!」
アインダードの言葉に、元気よく返事をする兵士である。
「ソリエアの方は……、文面から見るに強い警戒を示しているようだな。こっちは恐らく鉄道をかなり脅威だと見ている感じか。まあ、大々的に宣伝していたしな、俺も相手国ならそういう反応をしただろう。実物を見て警戒しない方がおかしいというものだ」
アインダードはそんな事を言っている。
実際、あの鉄道の高速移動はアインダードも衝撃を受けたものだ。馬車で10日も掛かっていたような場所に、たった1日で行けてしまうのだから。あの技術で兵士を送り込まれたら、迎撃態勢ができる前に壊滅させられて終わってしまうだろう。ましてやファルーダンには兵士以外にもオートマタという脅威が存在している。ソリエア王国の反応は、当然だと考えているのだ。
「こうなると、ソリエアの方は何かしら交渉をしておくべきかも知れんな。父上に伝えておくとするか」
アインダードは椅子から立ち上がる。
「国境の兵士たちには、引き続き警戒を継続するように伝えておけ。具体的な対策が国王と宰相、それと騎士団長の間で決める。それまでは待つようにもな」
「承知致しました。では、私はこれにて失礼致します」
それぞれから状況を報告に来た兵士はアインダードの命令を受けて、再び国境へと戻っていった。
「はてさて、これを聞いた弟たちは、一体どういう反応を示すのだろうな」
アインダードは父親である国王の元へと歩いていく。
(それにしても、ギルソンのオートマタ、確かアリスといったか。あれが来てからいうもの、国の中が大きく変わったな。だからこそ俺は安心して王位継承権を捨てられた。そもそも血が上りやすい俺は為政者に向いていないからな)
歩きながら、アインダードはいろいろと過去を思い出しながら思いを巡らせている。
(しかし、おかしなものだ。王位継承権を捨てたら、頭がすっきりしたかのように冷静に考えられるようになった。王位継承権を捨てる事で、弟たちの事もしっかりと見れるようになるとは、まったく面白いものだな……)
アインダードから自然と笑みがこぼれていた。自分の身に起きた皮肉を笑っているのだ。
(あいつらがどんな選択肢を選ぶか分からないが、兄としてしっかりと支えてやらねばな)
そう思ったアインダードは、足取りを速めて国王の元へと向かったのだった。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

王太子妃が我慢しなさい ~姉妹差別を受けていた姉がもっとひどい兄弟差別を受けていた王太子に嫁ぎました~
玄未マオ
ファンタジー
メディア王家に伝わる古い呪いで第一王子は家族からも畏怖されていた。
その王子の元に姉妹差別を受けていたメルが嫁ぐことになるが、その事情とは?
ヒロインは姉妹差別され育っていますが、言いたいことはきっちりいう子です。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる