転生オートマタ

未羊

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Mission082

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 アリスとフラム、不安な表情のアワード、多くの兵士たちが見守る中、ギルソンとイスヴァンによる模擬戦が始まる。ギルソンは普段から兵士たちの訓練に参加しているので、それなりの実力はアリスも把握している。だが、相手のイスヴァンはまったくの未知数だ。自信たっぷりなところを見ると、それなりに訓練はやり込んでいるものと思われる。あの威圧感のすごい皇帝クリム・ゾ・マスカードの一人息子なのだ。実力は相当に期待できるだろう。
 木剣を手にじりじりと相手をしっかりと見て牽制し合うギルソンとイスヴァン。兵士たちの注目は、どちらが先に動きを見せるかというところに集中している。
「どうした、来ないのか?」
「そちらこそ来ないのですか?」
 じりじりと睨み合う二人は口でもお互いを挑発する。
 二人の間だけにとどまらず、訓練場全体にその緊張が広がった時、いよいよ二人に動きが見られた。
「やああああっ!!」
「はああああっ!!」
 二人同時に動いたのである。
 二人とも振り上げた状態で接近し、そして、剣を振り下ろす。
 カキーンという木剣らしからぬ音が響き渡ると、剣を合わせてギリギリと睨み合う二人の姿があった。
 力も速さも互角。どちらかが振り遅れていたり力が足りなければ打ち込まれていただろう。それがきっちりと真ん中で均衡している。これは二人がほぼ互角である事を示していると言っていいだろう。
「はっ、なかなかやるな。文官タイプかと思って甘く見ていたぞ」
「これでも五男とはいえど国の王子ですからね。いざという時には民を守るために立ち上がらなければならないのです。剣術にも手は抜けませんよ」
 そう言いながら、お互いに笑みが浮かんでいる。そして、少し押し込んだかと思うと、剣を弾いてお互いに距離を取る。たった一撃ずつだったというのに、兵士たちはすでにその戦いに飲まれかかっている。その一撃が素晴らしすぎたのである。
 だが、この二人の戦いがそれだけで終わるわけがない。
 距離を取ると同時に、再び互いに向けて飛び込む二人。だが、今度は木剣の動きが違った。ギルソンは横向きに、イスヴァンは袈裟斬りの動きである。
「ちぃ、薙ぎ斬りか」
 短くそうとだけ言うと、イスヴァンはすぐさま回避行動を取る。自分の袈裟斬りの方が遅かったのである。ギルソンに一撃を叩き込む前に、自分の脇腹に木剣が命中してしまうとなれば、そうならざるを得ないのだ。
 回避行動として剣を止めてバックステップを踏むイスヴァン。だが、これもギルソンは読んでいた。空振った木剣を止めて、踏み込んですぐさま反対方向に斬りつけようとしている。それなりに鍛えていないとこういう事はできない。アリスもさすがにこれには驚いていた。
「甘いわっ!」
 一方のイスヴァンだって負けてはいない。しっかりとそれにも対応している。
 カーンという甲高い音が響き渡る。ギルソンの返した薙ぎ払いを、イスヴァンが木剣の腹で防いでいるのだ。ちゃんと手を切らないように剣を面を押さえているあたりポイントが高い。
「さすがイスヴァン殿下。そう簡単には一撃を入れられませんね」
「そういうギルソンこそ、ここまでやるとは思っていなかったぞ」
 そう言った二人は、再び互いに距離を取った。
「受け止めてばかりも面白くはないな。打ち合いというのはどうだろうかな」
「それも悪くありませんね」
 二人にはまだまだ余裕がありそうである。お互いに笑みを浮かべると、三度目の突進が行われる。
 今度は話していた通りに木剣による打ち合いが繰り広げられる。カンカンと木剣がぶつかり合う音が訓練場に響き渡る。二人はいたって真剣で激しい打ち合いになっているはずなのに、どういうわけか顔が笑っている。こうして剣を打ち合っている事を楽しんでいるようだった。まだ11歳と13歳の子どもの戦いだというのに、それより年上の兵士たちが息を飲んで観戦している。それくらいには二人の戦いは目が離せないものとなっていたのだ。
「さすがはマスカード帝国の皇子ですね。正確な打ち筋です」
「ふむ。だが、ファルーダンの小僧も負けてはいないな。マスターの動きについて来れられるなど、思ってもみなかったぞ」
 オートマタ二人からの評価も高い。そのくらいには見ごたえのある戦いだったのだ。
 しかし、それも長くは続かなかった。
「くっ」
 徐々にギルソンが押され始めたのだ。その原因は体力だ。どちらかというと文官の体力よりましな程度のギルソンでは、これだけ長引く打ち合いには耐えられなかったのである。
「あっ!」
 やがて、イスヴァンの攻撃によって木剣が弾き飛ばされてしまった。
「勝負あったな、ギルソン」
 さすがに剣が弾き飛ばされてしまえば、これ以上の続行は不可能である。
「ボクの負けですね。さすがはイスヴァン殿下です」
 ギルソンは素直に負けを認めたのである。
「はっはっはっ、結果として俺が勝ったが、ここまで打ち合えた奴はそうそう居ない。誇っていいぞ、ギルソン」
 笑いながら拳を前に突き出してくるイスヴァン。それを見たギルソンは、真似て拳を握ると、イスヴァンの拳にこつんと当てていた。
 この男同士の友情を見た兵士たちは、惜しみない拍手を二人に送っていたのである。
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