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Mission080
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ファルーダン王国の学園。
それはあらゆる国民に対して門戸が開かれている王国が作った学園である。
だが、平民たちには学園に子どもを行かせる余裕などなく、そのほとんどは貴族か商人の子女が通うというのが現状だった。まあ、教養のない平民が入ったところで、学園の授業について来れるかというのが実際だし、貴族の中には平民への当たりのきつい者だって存在する。ゆえに、現時点では平民の学生は商人の子どもくらいしか居ないのだった。
ファルーダン王国の王族で、現在学園に在籍するのは四男のアワードだけである。学園は3年制であるので、15歳となった年末の時点で学園は卒業となるのである。つまり、アワードの2歳年上の三男のスーリガンも去年卒業したところなのである。
さて、そんなファルーダン王国の学園はみんな制服に身を包んで勉強をしている。男子は騎士服をイメージしたもので、女子はドレスを意識したものとなっている。こういった世界では男女ではっきりと役割の意識が分かれているので、この服装の違いには違和感を持っていないのである。
「それじゃ、行ってくるぞ」
「行ってらっしゃいませ、殿下」
学園の門までイスヴァンを送り届けるフラム。無事にイスヴァンを学園まで送り届けると、城へと引き返して様々な仕事を行う事になる。一つとしては、マスカードへと報告する文書の作成。将来的に和平と戦争のどちらに転ぶとしても、内情を報告するのは当然である。それを元にどういった方針でファルーダンと付き合うのかを決めるのだ。実に真剣に悩んだ様子でぶつぶつと独り言を言いながら、フラムは馬車に揺られながら城へと戻っていった。
学園に登校したイスヴァンは、同い年のファルーダンの学生たちと実に打ち解けた様子で過ごしている。最初の俺様主義の事を思うと、なかなかに想像できない姿である。しかし、俺様主義を改めたとはいえどもまだまだ勝ち気な性格が他の学生たちには憧れとして映っているようで、男子学生からも女子学生からもそれなりに人気を集めていた。ただ、女子学生たちはそんなイスヴァンにリリアン王女という婚約者が居る事を知って、ものすごくショックを受けていた。さすがに王女相手では勝ち目がない。学園に入学してから1週間もしないうちに、イスヴァンは知らず知らずに多くの女子学生を涙に沈めていた。
「まったく、この学園は平和なものだな。数年前まで食糧事情で苦しんでいたとは思えないくらいだ」
イスヴァンもしっかりとファルーダンの国内事情は押さえていた。ファルーダンで見せられた鉄道という技術のせいで、すっかり謙虚さを身に付けたイスヴァンである。ファルーダンに留学するにあたって、ファルーダンの事を徹底的に調べ上げていたようだった。暴君予定だった人物がここまで変わるとは、一体誰が予想できただろうか。
ちなみに、出版社の介入で話を捻じ曲げられたアリスの小説は、ギルソンとの一件の後の出来事としてマスカード帝国との戦争が描かれてる。その戦争での中心人物こそ、今話題に出ているイスヴァンなのである。
小説の中でのイスヴァンは、それこそ残虐の限りを尽くすラスボスじみた描かれ方をしたものだが、その作者たるアリスが関わったこの世界では、どちらかといえば聖人のような立ち位置になってしまっている。こうやって思うと、アリスのチートのような魔法で鉄道を造ったというのは、相当に大きな影響を与えたという事なのだ。
「これはこれは、イスヴァン殿下。こんな所においでだったのですね」
「おお、アワードか。俺の事は呼び捨てで構わないのに、他人行儀にしないでくれないか?」
「いえ、僕にはとてもできませんね」
昼休みに中庭で出会うイスヴァンとアワードである。
「まったく、ギルソンもそうだが、俺に対してちょっとよそよそしくはないか? 確かに俺は他国の皇子だが、年自体は近いんだ。もっと普通の友人のように接してもらってまったく構わないんだぞ?」
笑いながらも不満気に言うイスヴァン。だけども、アワードはそれに対して首を横に振っていた。
「いえいえ、やはり互いに適切な距離は取っておいた方がいいかと思いますよ。ここは貴族が多く通う学園です。貴族というのは結構油断ならない人たちですから、やはり適度な距離を取っておいた方がいいと思うのですよ」
親しき仲にも礼儀あり、というわけではないものの、このアワードの言い分にも一理あるというものである。
ファルーダン王国とマスカード帝国との間に鉄道が敷かれる事で、両国の関係は良好ではあろうと思われるが、やはりファルーダン王国の貴族の間には、マスカード帝国に対する疑いの目というものがまだまだ根強いのだ。その疑いを持たれた中で両国の王子と皇子が仲良くするという事は、変に誤解をする貴族を少なからず生み出す可能性があるのである。
一応、国王からの発表で両国の関係は良いという事は伝えられているのだが、そういう斜に構えた考え方をする貴族というのは無くならないのだった。そういう連中は、国王と皇帝が仲良くしている場面でも見せつけない事には、きっと納得してくれないだろう。アワードはそういう風に考えているのである。
何にせよ、ファルーダンとマスカードの関係における考えを正すというのはなかなかに難しい問題のようである。
それはあらゆる国民に対して門戸が開かれている王国が作った学園である。
だが、平民たちには学園に子どもを行かせる余裕などなく、そのほとんどは貴族か商人の子女が通うというのが現状だった。まあ、教養のない平民が入ったところで、学園の授業について来れるかというのが実際だし、貴族の中には平民への当たりのきつい者だって存在する。ゆえに、現時点では平民の学生は商人の子どもくらいしか居ないのだった。
ファルーダン王国の王族で、現在学園に在籍するのは四男のアワードだけである。学園は3年制であるので、15歳となった年末の時点で学園は卒業となるのである。つまり、アワードの2歳年上の三男のスーリガンも去年卒業したところなのである。
さて、そんなファルーダン王国の学園はみんな制服に身を包んで勉強をしている。男子は騎士服をイメージしたもので、女子はドレスを意識したものとなっている。こういった世界では男女ではっきりと役割の意識が分かれているので、この服装の違いには違和感を持っていないのである。
「それじゃ、行ってくるぞ」
「行ってらっしゃいませ、殿下」
学園の門までイスヴァンを送り届けるフラム。無事にイスヴァンを学園まで送り届けると、城へと引き返して様々な仕事を行う事になる。一つとしては、マスカードへと報告する文書の作成。将来的に和平と戦争のどちらに転ぶとしても、内情を報告するのは当然である。それを元にどういった方針でファルーダンと付き合うのかを決めるのだ。実に真剣に悩んだ様子でぶつぶつと独り言を言いながら、フラムは馬車に揺られながら城へと戻っていった。
学園に登校したイスヴァンは、同い年のファルーダンの学生たちと実に打ち解けた様子で過ごしている。最初の俺様主義の事を思うと、なかなかに想像できない姿である。しかし、俺様主義を改めたとはいえどもまだまだ勝ち気な性格が他の学生たちには憧れとして映っているようで、男子学生からも女子学生からもそれなりに人気を集めていた。ただ、女子学生たちはそんなイスヴァンにリリアン王女という婚約者が居る事を知って、ものすごくショックを受けていた。さすがに王女相手では勝ち目がない。学園に入学してから1週間もしないうちに、イスヴァンは知らず知らずに多くの女子学生を涙に沈めていた。
「まったく、この学園は平和なものだな。数年前まで食糧事情で苦しんでいたとは思えないくらいだ」
イスヴァンもしっかりとファルーダンの国内事情は押さえていた。ファルーダンで見せられた鉄道という技術のせいで、すっかり謙虚さを身に付けたイスヴァンである。ファルーダンに留学するにあたって、ファルーダンの事を徹底的に調べ上げていたようだった。暴君予定だった人物がここまで変わるとは、一体誰が予想できただろうか。
ちなみに、出版社の介入で話を捻じ曲げられたアリスの小説は、ギルソンとの一件の後の出来事としてマスカード帝国との戦争が描かれてる。その戦争での中心人物こそ、今話題に出ているイスヴァンなのである。
小説の中でのイスヴァンは、それこそ残虐の限りを尽くすラスボスじみた描かれ方をしたものだが、その作者たるアリスが関わったこの世界では、どちらかといえば聖人のような立ち位置になってしまっている。こうやって思うと、アリスのチートのような魔法で鉄道を造ったというのは、相当に大きな影響を与えたという事なのだ。
「これはこれは、イスヴァン殿下。こんな所においでだったのですね」
「おお、アワードか。俺の事は呼び捨てで構わないのに、他人行儀にしないでくれないか?」
「いえ、僕にはとてもできませんね」
昼休みに中庭で出会うイスヴァンとアワードである。
「まったく、ギルソンもそうだが、俺に対してちょっとよそよそしくはないか? 確かに俺は他国の皇子だが、年自体は近いんだ。もっと普通の友人のように接してもらってまったく構わないんだぞ?」
笑いながらも不満気に言うイスヴァン。だけども、アワードはそれに対して首を横に振っていた。
「いえいえ、やはり互いに適切な距離は取っておいた方がいいかと思いますよ。ここは貴族が多く通う学園です。貴族というのは結構油断ならない人たちですから、やはり適度な距離を取っておいた方がいいと思うのですよ」
親しき仲にも礼儀あり、というわけではないものの、このアワードの言い分にも一理あるというものである。
ファルーダン王国とマスカード帝国との間に鉄道が敷かれる事で、両国の関係は良好ではあろうと思われるが、やはりファルーダン王国の貴族の間には、マスカード帝国に対する疑いの目というものがまだまだ根強いのだ。その疑いを持たれた中で両国の王子と皇子が仲良くするという事は、変に誤解をする貴族を少なからず生み出す可能性があるのである。
一応、国王からの発表で両国の関係は良いという事は伝えられているのだが、そういう斜に構えた考え方をする貴族というのは無くならないのだった。そういう連中は、国王と皇帝が仲良くしている場面でも見せつけない事には、きっと納得してくれないだろう。アワードはそういう風に考えているのである。
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