80 / 189
Mission079
しおりを挟む
さてさて、アリスがギルソンの様子を見に部屋に赴くと、
「おう、アリスも来たか」
「これはイスヴァン殿下。どうしてこちらにいらっしゃるのですか?」
なんと、学園から戻ってきたばかりのイスヴァンが部屋の中に居た。よく見るとアワードも居る。一体どういう状況なのだろうか。
「なにって、学園での話をギルソンにしてやってるんだ。ギルソンだって来年から学園に通うんだろう? どんな場所か知っておくのは重要だと思うんだよな」
アリスの質問に、イスヴァンは何を言ってるんだという顔をしながら答えている。なんともお仕着せがましい答えである。その後ろでは、フラムが静かに立ってその様子を見守っている。
「余計なお世話でございます。マイマスターは現在、必要な勉学をなさっているところです。邪魔をするのはやめて頂きたく思います」
「だったら、僕は居ても構わないよね」
アリスの言葉に反応したのはアワードである。ギルソンの2つ上に当たる四男である。
確かに、アワードはギルソンの兄であり、同じような教育を受けてきた身である。となれば、今ギルソンが受けている教育に対しての知識があるために、対応が可能というわけなのである。
「くっ、なんて羨ましいんだ。俺にとってギルソンは大事な友人だからな。悪いが俺もこのまま居座らせてもらうぞ」
アワードに負けじと、イスヴァンもギルソンの側を離れようとしなかった。それでいいのか隣国の皇子様と思うアリスである。
その一方で、小説の展開を思うとギルソンが愛され王子になった事で、アリスはものすごく心の中が穏やかになっている。本当に、間に入った担当のせいで早期退場させられる悪役にさせられたのは、今思っても腹立たしい限りである。小説を書いてから転生後も含めて50年は警戒しているというのに、いまだにわだかまりとして残り続けているのだから、アリスの思い入れは相当なものと言う他なかった。
「そういえばギルソン」
「何でしょうか、イスヴァン殿下」
唐突にイスヴァンがギルソンに質問を振る。
「一緒に居た女は今日は居ないのか?」
「マリカでしたら、今日も孤児院に居ると思いますよ。それがどうかされたのですか?」
ギルソンは質問に答えながら、きょとんとした顔をしている。
「いや、散々一緒に見てきたから、てっきりいつも一緒に居るものだと思っていたからな。城ではまったく見ないから気になっていたんだ」
質問した理由を、イスヴァンはそのように答えていた。
「いや、一緒はさすがに無理ですよ。マリカは騎士爵の娘です。騎士爵はほぼ平民ですから、城に入ろうと思うのなら、せめて騎士団に入団しなければなりません」
「はー、そんなもんなのか」
それに対してギルソンはまともな理論を付け足していたが、イスヴァンにはどうにも理解できていないようだった。
「俺の国では実力主義だからな。身分なんてあってないようなものだ。マリカほどの功績があれば、城には平然と入れるぞ」
どうやらマスカード帝国ではそのような状況らしい。さすが一般的には野蛮な国と言われているだけの事はある。
だが、このイスヴァンの言葉にも、一部頷ける点はある。それは言わずと知れた功績の部分だ。
マリカはオートマタを作る能力が優れている。オートマタを作るようになってからそんなに年月が経っていないのに、大人の職人顔負けレベルのオートマタを作ってしまっているのだから。ファルーダンではオートマタは無くてはならない存在であるがために、その功績は確かに大きすぎるのだ。
「確かにそうですね。いずれマリカにはそれ相応の報酬を出すように、父上に掛け合う事にしましょう」
イスヴァンの話を聞いたギルソンはそう呟いていた。
「お話は終わりましたか、殿下」
話が一度落ち着いたところで、部屋に居た眼鏡を掛けた人物がギルソンたちを睨み付けていた。ギルソンの勉強を見ている家庭教師の男性である。
「はい、終わりましたので大丈夫です。授業を再開して下さい」
ものすごく落ち着いて言うギルソンだが、家庭教師は顔が引きつっている。
それもそうだろう。ファルーダンの話をするというのに、マスカード帝国の皇子であるイスヴァンが部屋の中に居るのだ。これでは機密漏洩になるかも知れないと家庭教師は気が気でないのである。
「おい、俺を甘く見るなよ。友人であるギルソンの国を裏切ると思うか?」
家庭教師の態度を察したイスヴァンは、半ば脅し気味に言う。だが、この家庭教師の警戒はその言葉でさらに高まってしまう。顔を強張らせる家庭教師に向けて、ギルソンが声を掛ける。
「まあまあ、イスヴァン殿下も3年間はこちらで暮らすわけですから、隠す事もないでしょう。彼には構わず始めて下さい」
「か、畏まりました。ギルソン殿下がそう仰るのでしたら、そうさせて頂きます」
ギルソンの言葉によって改めて授業が再開されたのだった。
「どうやら、私の出る幕はなさそうですね。それでは、鉄道事業の管理の作業に戻りますので、これにて失礼致します」
「うむ、そちらは頼んだよ、アリス」
「畏まりました、マイマスター」
アリスはギルソンと言葉を交わすと、ギルソンの私室を出ていったのだった。
「おう、アリスも来たか」
「これはイスヴァン殿下。どうしてこちらにいらっしゃるのですか?」
なんと、学園から戻ってきたばかりのイスヴァンが部屋の中に居た。よく見るとアワードも居る。一体どういう状況なのだろうか。
「なにって、学園での話をギルソンにしてやってるんだ。ギルソンだって来年から学園に通うんだろう? どんな場所か知っておくのは重要だと思うんだよな」
アリスの質問に、イスヴァンは何を言ってるんだという顔をしながら答えている。なんともお仕着せがましい答えである。その後ろでは、フラムが静かに立ってその様子を見守っている。
「余計なお世話でございます。マイマスターは現在、必要な勉学をなさっているところです。邪魔をするのはやめて頂きたく思います」
「だったら、僕は居ても構わないよね」
アリスの言葉に反応したのはアワードである。ギルソンの2つ上に当たる四男である。
確かに、アワードはギルソンの兄であり、同じような教育を受けてきた身である。となれば、今ギルソンが受けている教育に対しての知識があるために、対応が可能というわけなのである。
「くっ、なんて羨ましいんだ。俺にとってギルソンは大事な友人だからな。悪いが俺もこのまま居座らせてもらうぞ」
アワードに負けじと、イスヴァンもギルソンの側を離れようとしなかった。それでいいのか隣国の皇子様と思うアリスである。
その一方で、小説の展開を思うとギルソンが愛され王子になった事で、アリスはものすごく心の中が穏やかになっている。本当に、間に入った担当のせいで早期退場させられる悪役にさせられたのは、今思っても腹立たしい限りである。小説を書いてから転生後も含めて50年は警戒しているというのに、いまだにわだかまりとして残り続けているのだから、アリスの思い入れは相当なものと言う他なかった。
「そういえばギルソン」
「何でしょうか、イスヴァン殿下」
唐突にイスヴァンがギルソンに質問を振る。
「一緒に居た女は今日は居ないのか?」
「マリカでしたら、今日も孤児院に居ると思いますよ。それがどうかされたのですか?」
ギルソンは質問に答えながら、きょとんとした顔をしている。
「いや、散々一緒に見てきたから、てっきりいつも一緒に居るものだと思っていたからな。城ではまったく見ないから気になっていたんだ」
質問した理由を、イスヴァンはそのように答えていた。
「いや、一緒はさすがに無理ですよ。マリカは騎士爵の娘です。騎士爵はほぼ平民ですから、城に入ろうと思うのなら、せめて騎士団に入団しなければなりません」
「はー、そんなもんなのか」
それに対してギルソンはまともな理論を付け足していたが、イスヴァンにはどうにも理解できていないようだった。
「俺の国では実力主義だからな。身分なんてあってないようなものだ。マリカほどの功績があれば、城には平然と入れるぞ」
どうやらマスカード帝国ではそのような状況らしい。さすが一般的には野蛮な国と言われているだけの事はある。
だが、このイスヴァンの言葉にも、一部頷ける点はある。それは言わずと知れた功績の部分だ。
マリカはオートマタを作る能力が優れている。オートマタを作るようになってからそんなに年月が経っていないのに、大人の職人顔負けレベルのオートマタを作ってしまっているのだから。ファルーダンではオートマタは無くてはならない存在であるがために、その功績は確かに大きすぎるのだ。
「確かにそうですね。いずれマリカにはそれ相応の報酬を出すように、父上に掛け合う事にしましょう」
イスヴァンの話を聞いたギルソンはそう呟いていた。
「お話は終わりましたか、殿下」
話が一度落ち着いたところで、部屋に居た眼鏡を掛けた人物がギルソンたちを睨み付けていた。ギルソンの勉強を見ている家庭教師の男性である。
「はい、終わりましたので大丈夫です。授業を再開して下さい」
ものすごく落ち着いて言うギルソンだが、家庭教師は顔が引きつっている。
それもそうだろう。ファルーダンの話をするというのに、マスカード帝国の皇子であるイスヴァンが部屋の中に居るのだ。これでは機密漏洩になるかも知れないと家庭教師は気が気でないのである。
「おい、俺を甘く見るなよ。友人であるギルソンの国を裏切ると思うか?」
家庭教師の態度を察したイスヴァンは、半ば脅し気味に言う。だが、この家庭教師の警戒はその言葉でさらに高まってしまう。顔を強張らせる家庭教師に向けて、ギルソンが声を掛ける。
「まあまあ、イスヴァン殿下も3年間はこちらで暮らすわけですから、隠す事もないでしょう。彼には構わず始めて下さい」
「か、畏まりました。ギルソン殿下がそう仰るのでしたら、そうさせて頂きます」
ギルソンの言葉によって改めて授業が再開されたのだった。
「どうやら、私の出る幕はなさそうですね。それでは、鉄道事業の管理の作業に戻りますので、これにて失礼致します」
「うむ、そちらは頼んだよ、アリス」
「畏まりました、マイマスター」
アリスはギルソンと言葉を交わすと、ギルソンの私室を出ていったのだった。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

親切なミザリー
みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。
ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。
ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。
こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。
‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。
※不定期更新です。

追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

王太子妃が我慢しなさい ~姉妹差別を受けていた姉がもっとひどい兄弟差別を受けていた王太子に嫁ぎました~
玄未マオ
ファンタジー
メディア王家に伝わる古い呪いで第一王子は家族からも畏怖されていた。
その王子の元に姉妹差別を受けていたメルが嫁ぐことになるが、その事情とは?
ヒロインは姉妹差別され育っていますが、言いたいことはきっちりいう子です。

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる