転生オートマタ

未羊

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Mission079

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 さてさて、アリスがギルソンの様子を見に部屋に赴くと、
「おう、アリスも来たか」
「これはイスヴァン殿下。どうしてこちらにいらっしゃるのですか?」
 なんと、学園から戻ってきたばかりのイスヴァンが部屋の中に居た。よく見るとアワードも居る。一体どういう状況なのだろうか。
「なにって、学園での話をギルソンにしてやってるんだ。ギルソンだって来年から学園に通うんだろう? どんな場所か知っておくのは重要だと思うんだよな」
 アリスの質問に、イスヴァンは何を言ってるんだという顔をしながら答えている。なんともお仕着せがましい答えである。その後ろでは、フラムが静かに立ってその様子を見守っている。
「余計なお世話でございます。マイマスターは現在、必要な勉学をなさっているところです。邪魔をするのはやめて頂きたく思います」
「だったら、僕は居ても構わないよね」
 アリスの言葉に反応したのはアワードである。ギルソンの2つ上に当たる四男である。
 確かに、アワードはギルソンの兄であり、同じような教育を受けてきた身である。となれば、今ギルソンが受けている教育に対しての知識があるために、対応が可能というわけなのである。
「くっ、なんて羨ましいんだ。俺にとってギルソンは大事な友人だからな。悪いが俺もこのまま居座らせてもらうぞ」
 アワードに負けじと、イスヴァンもギルソンの側を離れようとしなかった。それでいいのか隣国の皇子様と思うアリスである。
 その一方で、小説の展開を思うとギルソンが愛され王子になった事で、アリスはものすごく心の中が穏やかになっている。本当に、間に入った担当のせいで早期退場させられる悪役にさせられたのは、今思っても腹立たしい限りである。小説を書いてから転生後も含めて50年は警戒しているというのに、いまだにわだかまりとして残り続けているのだから、アリスの思い入れは相当なものと言う他なかった。
「そういえばギルソン」
「何でしょうか、イスヴァン殿下」
 唐突にイスヴァンがギルソンに質問を振る。
「一緒に居た女は今日は居ないのか?」
「マリカでしたら、今日も孤児院に居ると思いますよ。それがどうかされたのですか?」
 ギルソンは質問に答えながら、きょとんとした顔をしている。
「いや、散々一緒に見てきたから、てっきりいつも一緒に居るものだと思っていたからな。城ではまったく見ないから気になっていたんだ」
 質問した理由を、イスヴァンはそのように答えていた。
「いや、一緒はさすがに無理ですよ。マリカは騎士爵の娘です。騎士爵はほぼ平民ですから、城に入ろうと思うのなら、せめて騎士団に入団しなければなりません」
「はー、そんなもんなのか」
 それに対してギルソンはまともな理論を付け足していたが、イスヴァンにはどうにも理解できていないようだった。
「俺の国では実力主義だからな。身分なんてあってないようなものだ。マリカほどの功績があれば、城には平然と入れるぞ」
 どうやらマスカード帝国ではそのような状況らしい。さすが一般的には野蛮な国と言われているだけの事はある。
 だが、このイスヴァンの言葉にも、一部頷ける点はある。それは言わずと知れた功績の部分だ。
 マリカはオートマタを作る能力が優れている。オートマタを作るようになってからそんなに年月が経っていないのに、大人の職人顔負けレベルのオートマタを作ってしまっているのだから。ファルーダンではオートマタは無くてはならない存在であるがために、その功績は確かに大きすぎるのだ。
「確かにそうですね。いずれマリカにはそれ相応の報酬を出すように、父上に掛け合う事にしましょう」
 イスヴァンの話を聞いたギルソンはそう呟いていた。
「お話は終わりましたか、殿下」
 話が一度落ち着いたところで、部屋に居た眼鏡を掛けた人物がギルソンたちを睨み付けていた。ギルソンの勉強を見ている家庭教師の男性である。
「はい、終わりましたので大丈夫です。授業を再開して下さい」
 ものすごく落ち着いて言うギルソンだが、家庭教師は顔が引きつっている。
 それもそうだろう。ファルーダンの話をするというのに、マスカード帝国の皇子であるイスヴァンが部屋の中に居るのだ。これでは機密漏洩になるかも知れないと家庭教師は気が気でないのである。
「おい、俺を甘く見るなよ。友人であるギルソンの国を裏切ると思うか?」
 家庭教師の態度を察したイスヴァンは、半ば脅し気味に言う。だが、この家庭教師の警戒はその言葉でさらに高まってしまう。顔を強張らせる家庭教師に向けて、ギルソンが声を掛ける。
「まあまあ、イスヴァン殿下も3年間はこちらで暮らすわけですから、隠す事もないでしょう。彼には構わず始めて下さい」
「か、畏まりました。ギルソン殿下がそう仰るのでしたら、そうさせて頂きます」
 ギルソンの言葉によって改めて授業が再開されたのだった。
「どうやら、私の出る幕はなさそうですね。それでは、鉄道事業の管理の作業に戻りますので、これにて失礼致します」
「うむ、そちらは頼んだよ、アリス」
「畏まりました、マイマスター」
 アリスはギルソンと言葉を交わすと、ギルソンの私室を出ていったのだった。
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