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Mission076
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マスカード帝国から到着した文官たちは、早速イスヴァンの元を訪れる。今日の学園の授業は終わっていたので、無事にすんなりと面会ができた。
「殿下の命に従い馳せ参りました。文官のシャルツでございます」
「同じくドゥレッサでございます」
マスカード帝国から到着した文官は、男性二人だった。いかにも真面目そうなタイプで、シャルツは眼鏡を掛けていた。
「うむ、ご苦労。早速だが、ファルーダン鉄道の金銭関連を扱う仕事についてくれ。一部は我が国の中を走っているのでな、我がマスカード帝国にも税金を納める義務が発生している。なのでその収支の管理には我々が関わる権利があるのだ」
「なるほど、そういう事でしたか」
「ですが、なぜファルーダンの文官が関わらないのでしょうか。ほぼ自国の話ではないですか」
ドゥレッサの言い分はもっともである。しかし、そうは簡単にいかない事情があるのである。
「これは父上たちに内密に頼むが、ちょっとファルーダンの国内事情というのが絡んでいる。それで、文官を回してもらえなかったようなのだ」
「左様でございましたか。それでしたら、しっかりと管理してみせましょう」
「うむ、頼むぞ」
イスヴァンとの話が終わると、イスヴァンは二人の文官を連れてギルソンの部屋へと向かった。
「入るぞ、ギルソン」
ノックも無しに扉を開けるイスヴァン。中ではギルソンは勉強の真っ最中だった。
「イスヴァン殿下、いくらなんでもノックも無しに入るのはやめて頂きたく存じます」
アリスから抗議が飛ぶ。
「はっはっはっ、そう固い事を言うな。マスカードから文官を呼んだから、会わせに来たんだ。なあ、フラム」
「はい、殿下」
そう言って、フラムが手を二度叩くと、扉の外から男性が二名部屋の中に入ってきた。
「失礼致します、ファルーダン王国ギルソン第五王子殿下。私、マスカードの文官でシャルツと申します」
「ご機嫌麗しく存じます。同じくドゥレッサと申します」
入ってきてご丁寧に頭を下げながら挨拶をする文官二人。帝国というと野蛮なイメージがあったものの、なかなかに普通に礼節を弁えている印象である。
「イスヴァン殿下より、ファルーダン鉄道の事業、特に金銭周りの仕事を手伝うようにと仰せつかりました。早速ですが、ご用命頂けるますでしょうか」
「他国の者として信用できぬのは理解できます。ですが、実際に鉄道に乗ってみた感想を申しますと、この事業にどのような形であれ携われるのは名誉な事と感じました」
どうやらかなり鉄道の魅力に取りつかれた様子である。なんだか鼻息が荒いようだった。
「現状の鉄道路線は、ファルーダン王都から鉱山の街ツェンとマスカード帝国帝都を結ぶ路線だけなのですね」
早速収支の取りまとめに入ろうとした時、ドゥレッサはそのように確認をしてきた。
「そうですね。取り急ぎの路線という事で建設させて頂きました。需要が見込めるようなら、他の路線も可能ではあります」
「ふむふむ……」
アリスが答えると、ドゥレッサは考え始めていた。
「ですが、この鉄道の建設が行えるのは、現在はアリスだけです。いくらオートマタとはいえども、あまり無理を申し入れる事はお勧め致しません。なにせボクのオートマタですからね」
何かを思いついたような文官たちに、ギルソンは一応釘を刺しておく。アリスはあくまでもギルソンのオートマタなのだ。この前提を崩してもらっては困るわけである。
「という事は、現状のところ、新規建設の予定はないという事でございますね。承知致しました」
ドゥレッサはファルーダン側の事情を受け入れた。
だが、このファルーダン鉄道は延伸の可能性がまったくないわけではなかった。ただ、来年からはギルソンもついに学園に通う事になる。そうなるとアリスはますますギルソンの側から離れられなくなる。実行するというなら今年中という事になるだろう。だけれども、それはルート選定など手間のかかる事が多く、現実的な問題ではないのだった。
そんなわけで、シャルツとドゥレッサは早速収支の取りまとめに取り掛かる。各駅に務めるオートマタたちから提出された情報を見ながら、それを一つ一つ手作業でまとめていく。
さすがは文官といったところだろうか、もの凄い速さで各データをまとめ上げていく。
正直言って、しょぼい文官を回されてくる心配もあったというものだ。ところが、仕事の様子を見る限り、かなりの熟練の文官だという事が分かって驚かされる。
「ふふん、どうだ。俺様がいろいろと注文を付けておいたからな。これでも中堅クラスの文官たちだが、甘く見てもらっては困るぞ」
イスヴァンがもの凄く自慢げである。実際のところはイスヴァンの侍従がかなり気を利かせてくれたのだろうが、あくまでイスヴァンの侍従なのだから、その手柄はイスヴァンになるというわけである。
こうして、二人の文官が頑張ってくれた事もあって、結構スムーズにファルーダン鉄道の収支が出揃ったのだった。
「ずいぶんと儲かっていますね。支出の小ささが特に目立ちます」
「動力はオートマタの魔法石、建設もアリスの魔法で終わりましたからね。その辺りが大幅に浮いているのが大きいのでしょう」
「なるほど、確かにそうですね。あれだけのものを動かすとなれば、その燃料がいかほど要るのか、まったく計算できませんものね」
ギルソンの言葉に、シャルツも納得がいったようである。
「さて、夜も遅くなりましたので、続きの作業はまた明日にでも行いましょう」
「畏まりました。それで、私たちはどの部屋を利用すればよろしいのでしょうか」
ギルソンが作業の打ち切りを宣言したのだが、そういえば文官二人の泊まる部屋の用意をしていなかった。
「イスヴァン殿下の隣の部屋が空いてましたね。そこを使って頂きましょう。アリス、案内して部屋の中を掃除してあげて下さい」
「畏まりました、マイマスター」
というわけで、文官の二人はアリスに案内されて、空いている客間を利用する事になった。その部屋の中はだいぶ埃っぽかったのだが、アリスの魔法で一瞬にきれいになると、文官二人はぽかんと立ち尽くしてしまうのだった。
「それではごゆっくりお休み下さいませ」
アリスは淡々と言って部屋を後にしたのだが、文官の二人はしばらく興奮のために眠りに就く事ができなかったのであった。
「殿下の命に従い馳せ参りました。文官のシャルツでございます」
「同じくドゥレッサでございます」
マスカード帝国から到着した文官は、男性二人だった。いかにも真面目そうなタイプで、シャルツは眼鏡を掛けていた。
「うむ、ご苦労。早速だが、ファルーダン鉄道の金銭関連を扱う仕事についてくれ。一部は我が国の中を走っているのでな、我がマスカード帝国にも税金を納める義務が発生している。なのでその収支の管理には我々が関わる権利があるのだ」
「なるほど、そういう事でしたか」
「ですが、なぜファルーダンの文官が関わらないのでしょうか。ほぼ自国の話ではないですか」
ドゥレッサの言い分はもっともである。しかし、そうは簡単にいかない事情があるのである。
「これは父上たちに内密に頼むが、ちょっとファルーダンの国内事情というのが絡んでいる。それで、文官を回してもらえなかったようなのだ」
「左様でございましたか。それでしたら、しっかりと管理してみせましょう」
「うむ、頼むぞ」
イスヴァンとの話が終わると、イスヴァンは二人の文官を連れてギルソンの部屋へと向かった。
「入るぞ、ギルソン」
ノックも無しに扉を開けるイスヴァン。中ではギルソンは勉強の真っ最中だった。
「イスヴァン殿下、いくらなんでもノックも無しに入るのはやめて頂きたく存じます」
アリスから抗議が飛ぶ。
「はっはっはっ、そう固い事を言うな。マスカードから文官を呼んだから、会わせに来たんだ。なあ、フラム」
「はい、殿下」
そう言って、フラムが手を二度叩くと、扉の外から男性が二名部屋の中に入ってきた。
「失礼致します、ファルーダン王国ギルソン第五王子殿下。私、マスカードの文官でシャルツと申します」
「ご機嫌麗しく存じます。同じくドゥレッサと申します」
入ってきてご丁寧に頭を下げながら挨拶をする文官二人。帝国というと野蛮なイメージがあったものの、なかなかに普通に礼節を弁えている印象である。
「イスヴァン殿下より、ファルーダン鉄道の事業、特に金銭周りの仕事を手伝うようにと仰せつかりました。早速ですが、ご用命頂けるますでしょうか」
「他国の者として信用できぬのは理解できます。ですが、実際に鉄道に乗ってみた感想を申しますと、この事業にどのような形であれ携われるのは名誉な事と感じました」
どうやらかなり鉄道の魅力に取りつかれた様子である。なんだか鼻息が荒いようだった。
「現状の鉄道路線は、ファルーダン王都から鉱山の街ツェンとマスカード帝国帝都を結ぶ路線だけなのですね」
早速収支の取りまとめに入ろうとした時、ドゥレッサはそのように確認をしてきた。
「そうですね。取り急ぎの路線という事で建設させて頂きました。需要が見込めるようなら、他の路線も可能ではあります」
「ふむふむ……」
アリスが答えると、ドゥレッサは考え始めていた。
「ですが、この鉄道の建設が行えるのは、現在はアリスだけです。いくらオートマタとはいえども、あまり無理を申し入れる事はお勧め致しません。なにせボクのオートマタですからね」
何かを思いついたような文官たちに、ギルソンは一応釘を刺しておく。アリスはあくまでもギルソンのオートマタなのだ。この前提を崩してもらっては困るわけである。
「という事は、現状のところ、新規建設の予定はないという事でございますね。承知致しました」
ドゥレッサはファルーダン側の事情を受け入れた。
だが、このファルーダン鉄道は延伸の可能性がまったくないわけではなかった。ただ、来年からはギルソンもついに学園に通う事になる。そうなるとアリスはますますギルソンの側から離れられなくなる。実行するというなら今年中という事になるだろう。だけれども、それはルート選定など手間のかかる事が多く、現実的な問題ではないのだった。
そんなわけで、シャルツとドゥレッサは早速収支の取りまとめに取り掛かる。各駅に務めるオートマタたちから提出された情報を見ながら、それを一つ一つ手作業でまとめていく。
さすがは文官といったところだろうか、もの凄い速さで各データをまとめ上げていく。
正直言って、しょぼい文官を回されてくる心配もあったというものだ。ところが、仕事の様子を見る限り、かなりの熟練の文官だという事が分かって驚かされる。
「ふふん、どうだ。俺様がいろいろと注文を付けておいたからな。これでも中堅クラスの文官たちだが、甘く見てもらっては困るぞ」
イスヴァンがもの凄く自慢げである。実際のところはイスヴァンの侍従がかなり気を利かせてくれたのだろうが、あくまでイスヴァンの侍従なのだから、その手柄はイスヴァンになるというわけである。
こうして、二人の文官が頑張ってくれた事もあって、結構スムーズにファルーダン鉄道の収支が出揃ったのだった。
「ずいぶんと儲かっていますね。支出の小ささが特に目立ちます」
「動力はオートマタの魔法石、建設もアリスの魔法で終わりましたからね。その辺りが大幅に浮いているのが大きいのでしょう」
「なるほど、確かにそうですね。あれだけのものを動かすとなれば、その燃料がいかほど要るのか、まったく計算できませんものね」
ギルソンの言葉に、シャルツも納得がいったようである。
「さて、夜も遅くなりましたので、続きの作業はまた明日にでも行いましょう」
「畏まりました。それで、私たちはどの部屋を利用すればよろしいのでしょうか」
ギルソンが作業の打ち切りを宣言したのだが、そういえば文官二人の泊まる部屋の用意をしていなかった。
「イスヴァン殿下の隣の部屋が空いてましたね。そこを使って頂きましょう。アリス、案内して部屋の中を掃除してあげて下さい」
「畏まりました、マイマスター」
というわけで、文官の二人はアリスに案内されて、空いている客間を利用する事になった。その部屋の中はだいぶ埃っぽかったのだが、アリスの魔法で一瞬にきれいになると、文官二人はぽかんと立ち尽くしてしまうのだった。
「それではごゆっくりお休み下さいませ」
アリスは淡々と言って部屋を後にしたのだが、文官の二人はしばらく興奮のために眠りに就く事ができなかったのであった。
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