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Mission074
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オートマタを手に入れてご機嫌なイスヴァン。彼は自分のオートマタに『フラム』と名付けていた。フランス語などで炎を意味する言葉であり、アリスは実に彼らしい名付けだと感心していた。
そして、イスヴァンは上機嫌の内に年末パーティーが始まり、無事に年が明けたのだった。
年が明けると、イスヴァンもいよいよ学園に通い始める。これで作中で学園に通った事のない主要人物はギルソンとマリカの12歳コンビだけとなった。いろいろと感覚が狂いそうになるけれども、二人はまだ12歳なのである。
ファルーダン王国とマスカード帝国内には鉄道開業以降、平穏な空気が流れている。なにせ今まで簡単に取引できなかったようなものが、鉄道のおかげでスムーズに取引できるようになったのだから、特に商人たちが歓迎していた。
だが、ファルーダンの国内の方は、逆に水面下でくすぶる様子を見せていた。さすがに五人も王子が居るとなると、それぞれに派閥が出てきてしまうのだ。長男であるアインダードが王位継承権を放棄したというのに、まだそのアインダードを王位に推す勢力だって存在しているのだ。イスヴァンしか皇子の居ないマスカード帝国に対して、ファルーダン王国は国内情勢がとても不安定でなのである。
「ところでギルソン」
「何でしょうか、イスヴァン殿下」
学園が始まったその日のお昼、ギルソンとイスヴァンが仲良く話をしている。
「お前は王位を継ぐつもりはないのか?」
学園に通う事になって城に滞在する事になったイスヴァンには、ファルーダン王国の内情がよく見えているようだ。
「城を歩いていると、王子の誰を次期国王に推すのかという話がよく聞こえてくる。正直このままでは、内戦だって起こりうるだろう? そうなってしまえば、それこそマスカード帝国に攻め入れられるぞ。親父はそういうのを見逃さないからな」
「そうですね……」
イスヴァンに言われて、ギルソンは考え込んで俯いてしまう。
「正直、ボクは国王に向いていないと思うんですよね。正直言いまして、アリスが居なければ何もできなかったと思いますから」
「ああ、あのオートマタか。確かに不思議なオートマタだな」
イスヴァンはアリスの事を思い出しながら、唸って考え込んだ。
「あの鉄道だって、元はといえばそのアリスとかいうオートマタの発案なのだろう? 聞いた話じゃ、オートマタは自分で考え動く事もできるが、基本は主の命令優先だそうじゃないか」
イスヴァンはギルソンを問い詰めている。
「そうですね。ただ、オートマタの動力である魔法石には分からない事が多いですので、例外的な存在が居てもおかしくはないでしょう」
ギルソンはイスヴァンが確認してきた事を肯定しつつも、正直なところは分からないといったような返答をしていた。
「魔法石か。オートマタたちの動力である命の石の事だな。傷付くだけで致命傷にもなるという不思議な石か……」
イスヴァンはまた考え込む。
最初の印象では暴君属性が見て取れたイスヴァンだが、鉄道というものを見せられてからというもの、ものすごく落ち着いた少年へと変わっていた。少々直情的なところも見られるが、落ち着いて物事を見られるようになっていたのである。人というのは、こうも変われるものなのだろうか。
「そんなわけなので、ボクは人脈の方を重視して、外交官にでもなろうかと考えています」
「そうか。俺はお前を気に入っているから、国王にでもなれば気軽に話ができると思ったんだがな……。まっ、よその国の事はあまり口出す事じゃねえか」
ギルソンが自分の考えを話すと、イスヴァンも納得したようだった。
「ボクとしては、シュヴァリエ兄様とスーリガン兄様よりは、落ち着いたアワード兄様がいいとは思います。上の兄様二人はボクの事をかなり敵視していますので、今のままではとても任せられませんからね」
「うっは、それは大変だな。俺は一人っ子だから、そういうのはよく分からないぜ」
落ち着いた様子で話すギルソンに、事情を聞いたイスヴァンは驚きを隠せなかった。
「だがよ、ギルソン」
「何でしょうか」
「そういった事は、よそ者には話さない方がいいぜ。俺にはリリアンっていう婚約者が居るから、ファルーダンに対しては静観するつもりでいる。だが、もし野心の強い奴の耳に入ってみろ、あっという間に切り崩されちまうぞ」
あまり包み隠さず話してくるギルソンに、イスヴァンは鋭く釘を刺してきた。そもそも野心の強いマスカード帝国の皇子だからこそ、こういった忠告ができるのである。今のような関係になっていなければ、間違いなくイスヴァンはその情報を悪用したはずである。思いつくからこそ、こうやって忠告ができるのだ。
「分かりました。ご忠告ありがたく思います」
ギルソンはイスヴァンの忠告を素直に聞き入れた。
「基本的に周りは敵だと思っておけ。無条件に信用するのは、足元をすくわれるからな?」
「はい、肝に銘じておきます」
イスヴァンが強く言い切ると、ギルソンもまた、力強く返事をしていた。
「まあさて、学園も始まって今日は初日で疲れたよ。俺はそろそろ休ませてもらうからな」
「はい」
「それじゃあな」
「ゆっくり休んで下さいね」
挨拶を交わすと、イスヴァンはプラプラと左右に手を振りながら、自室となった客室へと帰っていった。
実に有意義な話ができたと、ギルソンは椅子にもたれながら紅茶を飲んでいる。
やはり当面はファルーダン王家における、王位継承の問題に立ち向かわなければいかないようだった
そして、イスヴァンは上機嫌の内に年末パーティーが始まり、無事に年が明けたのだった。
年が明けると、イスヴァンもいよいよ学園に通い始める。これで作中で学園に通った事のない主要人物はギルソンとマリカの12歳コンビだけとなった。いろいろと感覚が狂いそうになるけれども、二人はまだ12歳なのである。
ファルーダン王国とマスカード帝国内には鉄道開業以降、平穏な空気が流れている。なにせ今まで簡単に取引できなかったようなものが、鉄道のおかげでスムーズに取引できるようになったのだから、特に商人たちが歓迎していた。
だが、ファルーダンの国内の方は、逆に水面下でくすぶる様子を見せていた。さすがに五人も王子が居るとなると、それぞれに派閥が出てきてしまうのだ。長男であるアインダードが王位継承権を放棄したというのに、まだそのアインダードを王位に推す勢力だって存在しているのだ。イスヴァンしか皇子の居ないマスカード帝国に対して、ファルーダン王国は国内情勢がとても不安定でなのである。
「ところでギルソン」
「何でしょうか、イスヴァン殿下」
学園が始まったその日のお昼、ギルソンとイスヴァンが仲良く話をしている。
「お前は王位を継ぐつもりはないのか?」
学園に通う事になって城に滞在する事になったイスヴァンには、ファルーダン王国の内情がよく見えているようだ。
「城を歩いていると、王子の誰を次期国王に推すのかという話がよく聞こえてくる。正直このままでは、内戦だって起こりうるだろう? そうなってしまえば、それこそマスカード帝国に攻め入れられるぞ。親父はそういうのを見逃さないからな」
「そうですね……」
イスヴァンに言われて、ギルソンは考え込んで俯いてしまう。
「正直、ボクは国王に向いていないと思うんですよね。正直言いまして、アリスが居なければ何もできなかったと思いますから」
「ああ、あのオートマタか。確かに不思議なオートマタだな」
イスヴァンはアリスの事を思い出しながら、唸って考え込んだ。
「あの鉄道だって、元はといえばそのアリスとかいうオートマタの発案なのだろう? 聞いた話じゃ、オートマタは自分で考え動く事もできるが、基本は主の命令優先だそうじゃないか」
イスヴァンはギルソンを問い詰めている。
「そうですね。ただ、オートマタの動力である魔法石には分からない事が多いですので、例外的な存在が居てもおかしくはないでしょう」
ギルソンはイスヴァンが確認してきた事を肯定しつつも、正直なところは分からないといったような返答をしていた。
「魔法石か。オートマタたちの動力である命の石の事だな。傷付くだけで致命傷にもなるという不思議な石か……」
イスヴァンはまた考え込む。
最初の印象では暴君属性が見て取れたイスヴァンだが、鉄道というものを見せられてからというもの、ものすごく落ち着いた少年へと変わっていた。少々直情的なところも見られるが、落ち着いて物事を見られるようになっていたのである。人というのは、こうも変われるものなのだろうか。
「そんなわけなので、ボクは人脈の方を重視して、外交官にでもなろうかと考えています」
「そうか。俺はお前を気に入っているから、国王にでもなれば気軽に話ができると思ったんだがな……。まっ、よその国の事はあまり口出す事じゃねえか」
ギルソンが自分の考えを話すと、イスヴァンも納得したようだった。
「ボクとしては、シュヴァリエ兄様とスーリガン兄様よりは、落ち着いたアワード兄様がいいとは思います。上の兄様二人はボクの事をかなり敵視していますので、今のままではとても任せられませんからね」
「うっは、それは大変だな。俺は一人っ子だから、そういうのはよく分からないぜ」
落ち着いた様子で話すギルソンに、事情を聞いたイスヴァンは驚きを隠せなかった。
「だがよ、ギルソン」
「何でしょうか」
「そういった事は、よそ者には話さない方がいいぜ。俺にはリリアンっていう婚約者が居るから、ファルーダンに対しては静観するつもりでいる。だが、もし野心の強い奴の耳に入ってみろ、あっという間に切り崩されちまうぞ」
あまり包み隠さず話してくるギルソンに、イスヴァンは鋭く釘を刺してきた。そもそも野心の強いマスカード帝国の皇子だからこそ、こういった忠告ができるのである。今のような関係になっていなければ、間違いなくイスヴァンはその情報を悪用したはずである。思いつくからこそ、こうやって忠告ができるのだ。
「分かりました。ご忠告ありがたく思います」
ギルソンはイスヴァンの忠告を素直に聞き入れた。
「基本的に周りは敵だと思っておけ。無条件に信用するのは、足元をすくわれるからな?」
「はい、肝に銘じておきます」
イスヴァンが強く言い切ると、ギルソンもまた、力強く返事をしていた。
「まあさて、学園も始まって今日は初日で疲れたよ。俺はそろそろ休ませてもらうからな」
「はい」
「それじゃあな」
「ゆっくり休んで下さいね」
挨拶を交わすと、イスヴァンはプラプラと左右に手を振りながら、自室となった客室へと帰っていった。
実に有意義な話ができたと、ギルソンは椅子にもたれながら紅茶を飲んでいる。
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